店舗DXにおけるダイナミックプライシングとは?メリットやポイントを解説

店舗DXを推進する中で、ダイナミックプライシングは重要な施策の1つです。本記事では、需要の変動に応じてリアルタイムで価格を調整するダイナミックプライシングについて具体的な推進施策を交えながら詳しく解説しています。

日々変化する市場環境のなかで、価格戦略は店舗経営において重要な課題の1つです。売上や利益を伸ばすには単に商品を販売するだけではなく、顧客の動向や需要の変化に合わせて価格を柔軟に調整する視点が求められます。こうした背景のなか注目されているのが、ダイナミックプライシングと呼ばれる価格戦略です。

特に近年ではデジタル技術を活用して業務効率化や顧客体験の向上を図る「店舗DX」が加速しており、その一環としてダイナミックプライシングを取り入れる企業も増えてきました。

本記事では、ダイナミックプライシングの基本から店舗DXにおける実践的な導入方法、データ活用や価格決定の仕組みまでを具体的に解説します。読み終える頃には、自社の店舗運営にどのように応用できるかのヒントを得られる内容になっています。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、需要や供給、天候、在庫状況、競合価格、時間帯などの複数の要因を基に商品の価格をリアルタイムまたは定期的に変動させる価格戦略の1つです。航空業界やホテル業界などで以前から用いられていましたが、近年は小売や飲食など幅広い業種に広がりました。

この手法では顧客の購買意欲や行動パターンを読み取りながら、最適な価格を算出するため、一定の売上を維持しながら利益の最大化を目指すことが期待されます。また、価格調整を人の手で行うのではなくあらかじめ設定されたロジックやAIによって自動で実行する仕組みが中心となるため、業務効率の向上にもつながります。

店舗DXにおけるダイナミックプライシングの方法

店舗DXを推進する中で、ダイナミックプライシングを実現するにはデータの活用を軸にした段階的な仕組みづくりが必要です。まずは販売実績や在庫、外部環境などのデータを収集し、AIや機械学習を用いて分析・予測します。その後、得られたインサイトを基に価格設定のルールやロジックを構築し、価格変更を自動的に反映させるフローを整備するのがポイントです。

ここでは、4つの方法に分けて解説します。

データ収集・分析・予測

ダイナミックプライシングを支える基盤として、データの収集と分析、将来予測のプロセスは欠かせません。まず、POSシステムやECプラットフォームから取得できる販売データ、来店客数、在庫状況、さらには天候、曜日、イベント情報などの外部データも収集対象となります。

これらの情報をリアルタイムで取り込み、機械学習アルゴリズムを活用して需要の変動を可視化するのがポイントです。過去の傾向に基づく予測モデルを構築することで売れ行きのピークや売れ残りリスクの高いタイミングを把握でき、適切な価格変更のタイミングを見極める判断材料になります。このステップの精度が後工程に影響するため、信頼性の高いデータ基盤を整備しておくことが必要です。

価格決定ロジックの設計

収集・分析されたデータを基に価格決定ロジックを設計する際は、単なる売上最大化ではなく利益率や在庫回転率、ブランドイメージなども考慮した多面的な視点が求められます。基本的な考え方としては、需要が高まるタイミングには価格を引き上げ、需要が落ち込む時間帯や天候状況では価格を下げるといった戦略が代表的です。

ただし、こうした変動が消費者に与える印象や価格変更による購入行動への影響も踏まえる必要があります。AIを活用することで複雑な条件を統合しながら最適な価格を自動で算出することが可能になりますが、その判断基準となるロジックをしっかりと定義しておくことが運用の安定性を支えます。

価格の自動反映

価格が決定された後迅速かつ正確に販売チャネルに反映する仕組みも、ダイナミックプライシングを成功させる上で不可欠です。具体的には、POSやECサイトなどにリアルタイムで新価格を反映できるようAPI連携を通じたシステム構築が求められます。この段階で重要なのは更新のタイミングと頻度、既存の業務オペレーションへの影響の最小化です。

また、店舗スタッフが新しい価格情報を即座に把握できるインターフェースも必要です。急激な価格変動が混乱を招かないよう、通知機能や承認フローを取り入れることで現場との連携を維持したまま価格戦略を柔軟に展開できます。これにより機会損失を抑え、販売の最適化が期待されます。

運用・検証

ダイナミックプライシングは導入して終わりではなく、継続的な運用と検証によって精度を高めていくことが大切です。価格変更が売上や来店数にどう影響したか、どのような条件で効果が高かったかといった点を定期的に分析し、価格ロジックやデータ収集方法の見直しを行うことが求められます。特に小売業では季節性やトレンドの影響が大きいため、常に最新の環境に対応できるよう予測モデルをアップデートする体制を整えることが必要です。

また、価格変更に対する消費者の反応やスタッフの現場負担にも目を向け、バランスのとれた運用を意識することが継続的な効果の実現につながります。検証の質が次の価格戦略の精度を左右するといえます。

店舗DXの推進においてダイナミックプライシングを活用するメリット

店舗DXを推進する上で、ダイナミックプライシングは極めて有効な手段の1つです。価格を固定せず状況に応じて柔軟に変更する仕組みは、売上管理、在庫の最適化、業務効率の向上といった複数の観点で効果を発揮します。特にリアルタイムデータを活用することで従来の手動による価格変更とは比較にならない精度とスピードを実現しやすくなるのでチェックしておきましょう。

ここからは、店舗DXにおけるダイナミックプライシングの具体的なメリットについて詳しく解説します。

売上と利益を最大化できる

ダイナミックプライシングを導入する主な目的の1つは、売上と利益の最適化です。需要が高まる時間帯や曜日、天候やイベントなどの外部要因に応じて価格を調整することで利益率の向上が期待できます。

過去の販売実績やリアルタイムの購買行動から得られるデータを基に適切な価格帯を設定すれば、過剰な値引きを避けながらも顧客の購入意欲を高められるのがポイントです。これにより、従来の一律価格では得られなかった収益機会の取りこぼしを減らす工夫となります。

在庫の最適化と廃棄ロス削減につながる

在庫管理と価格設定は密接に関係しています。特に生鮮食品や季節商品などの販売においては、販売期限が近づくにつれて価格を調整することで廃棄ロスの抑制につながります。ダイナミックプライシングでは在庫状況をリアルタイムで把握し、それに応じて価格を変更できるため、商品が売れ残るリスクを減らす施策として機能するのがポイントです。

また、売れ筋商品の在庫が減少した際には価格を少し引き上げることで需要をコントロールすることも視野に入れられます。こうした動的な在庫管理は、効率的な資源活用にも貢献します。

需要の変動に即応できる柔軟な価格戦略になる

需要は日々変動し、固定価格ではその変化に対応しきれない場面も多く見受けられます。ダイナミックプライシングの特長は、外部環境の変化に即応できる柔軟性です。例えば急な天候変化や近隣店舗の価格変動などにも対応した価格調整が可能になれば、競合優位性を確保しやすくなります。

特に店舗DXを推進する企業にとっては、価格を経営戦略の一環として位置づけ、スピーディな調整を実現することで売り逃しのリスクを減らしながら利益の確保につなげやすくなります。

タイムセールや特売を自動化できる

これまでタイムセールや特売は人手による準備と対応が必要で、業務負荷や対応ミスのリスクが伴っていました。ダイナミックプライシングを活用すれば特定の条件に応じて自動的に価格が変更されるため手動対応が不要になり、スタッフの業務負担軽減にも寄与します。

例えば平日の午後に来店が減少しやすい場合には、その時間帯に合わせて価格を下げて来店を促す仕組みを整えることも視野に入れられます。こうした仕組み化によって、価格施策を戦略的かつ効率的に運用できるでしょう。

ECサイトとの差別化がしやすい

実店舗とECの間には、営業時間やリアルタイム対応の可否などさまざまな違いがあります。ダイナミックプライシングはこうした違いを逆手に取って実店舗ならではの価値を演出しやすい手法です。

例えば、来店者の行動データを活用した個別対応型の価格設定やその場限りの特別価格などはECでは再現しにくい体験価値となります。また、リアルタイムで店舗の混雑状況や売れ行きに応じて価格を調整する仕組みを取り入れることで、来店促進と顧客満足度の向上を同時に図りやすくなります。

ダイナミックプライシングを活用した店舗DX推進のポイント

店舗DXを推進する中でダイナミックプライシングを有効に機能させるには、価格戦略の整備とその運用体制の確立が重要になります。アルゴリズム任せの価格変更ではなく店舗ごとの事情や顧客理解を踏まえた設計が求められます。そのためには価格設定の基準を明確にし、顧客目線での納得感や利便性を意識した施策が欠かせません。

ここでは、現場で実践するための具体的なポイントを紹介します。

価格変更のルールを明確に設定する

まず重要になるのが、価格を変更する際の基準やルールを明文化することです。これを行わないままAIやアルゴリズムに任せると、現場において混乱が生じる可能性があるだけでなく顧客からの信頼を損ねる要因にもなります。

例えば需要が急増したタイミングで価格を引き上げる場合、その根拠が明確でないと、値上げ自体に不満を持たれる恐れがあります。設定ルールとしては時間帯や在庫数、販売実績、競合価格、イベント開催の有無などを変数とし、店舗ごとの状況に応じた適応力をもたせることが大切です。

これにより、価格戦略が一過性の仕組みで終わらず継続的に最適化される仕組みが形成されます。

顧客に納得感を与える価格戦略を設計する

ダイナミックプライシングは価格が変動する仕組みである以上、顧客にとって不公平感や疑問を抱かせるリスクがあります。そのため、価格戦略の設計では変動の根拠が顧客にも自然に理解されることを意識することが大切です。

また、価格変動のルールを事前に周知しておくことで心理的な納得感が得られるようになります。具体的には、POPやアプリ通知を活用し、価格変更の意図を簡潔に伝えるなどの工夫が有効です。顧客視点での受け入れやすさを常に意識することで、価格変動が顧客離れを引き起こすリスクを軽減できるでしょう。

AIやアルゴリズムの判断根拠を定期的に見直す

ダイナミックプライシングにおいて、価格設定の判断はAIやアルゴリズムに基づくことが一般的ですが、そのまま放置して運用すると、不自然な価格変動や市場との乖離が生まれるかもしれません。定期的なレビューと調整が必要です。判断根拠となるロジックには、販売実績や在庫数、競合動向などが含まれますが、それらの重みづけや変数の取り扱い方は、時間の経過や季節要因によって変化します。

例えば、繁忙期に強調すべき変数と閑散期に見るべき指標は異なるため、適宜アルゴリズムを再学習させるかパラメーターを手動で調整することが必要です。

キャンペーンや値引きとのバランスを考慮する

既存のセールやキャンペーン施策とダイナミックプライシングの両立も重要な課題です。これらの施策が重なることで価格の一貫性が失われたり、値引き額が過剰になったりする可能性があるため、全体のバランスを見ながら設計することが必要です。

例えば事前に設定されたタイムセール中にAIによって追加値引きが発生した場合、利益率が低下しかねないため同時適用の制限を設けるなどの対策が求められます。運用担当者がこれらの施策を一覧で管理できるよう、管理画面やダッシュボードの整備を進めることで価格施策の衝突や混乱を回避しやすくなります。

顧客フィードバックを継続的に取り入れる

ダイナミックプライシングの運用は、技術的な仕組みの整備だけでなく顧客の反応を的確に把握しながら改善していく姿勢も不可欠です。価格変動に対して顧客がどう感じているのか、どのタイミングで離脱しているのかといった情報を取得することでより洗練された価格戦略へと進化させられます。

収集したデータは単なる感想として終わらせるのではなく、価格変更のロジックや運用ルールの見直しに活用することで顧客満足度と業績の両立を実現できることがポイントです。こうしたPDCAサイクルを回すことで、ダイナミックプライシングは単なるシステムではなく価値提供の仕組みとして定着します。

ダイナミックプライシングを活用している企業事例

店舗DXを推進する際、ダイナミックプライシングの理論的な理解だけでなく実際に導入している企業の事例を参照することが有効です。価格変動の仕組みを現場でどのように活用しているかを知ることで、具体的な活用方法や成功要因、また課題への対処法まで把握できます。こうした先行企業の取り組みから得られる学びは、自社のDX戦略を設計する上で有益な指針となるでしょう。

ここでは代表的な事例を3つ紹介します。

事例①株式会社ローソン|売場活躍ロボットによる売値変更表示を実施

株式会社ローソンでは次世代型の店舗運営を目指し、売場活躍ロボットを活用した売値の自動変更を行っています。この取り組みは陳列棚に配置されたロボットが価格表示を行うもので、時間帯や在庫状況に応じて商品価格を調整できる仕組みです。

従来、手作業で行っていた価格の張り替え作業は時間と労力がかかっていましたが、自動化によって業務負荷の軽減と人的ミスの防止が実現されました。また、価格の調整タイミングも柔軟になり、特定の時間帯や需要の変化に応じた戦略的な価格設定がしやすくなっています。

このように、デジタル技術とロボティクスを掛け合わせたダイナミックプライシングの活用は、店舗DX推進における新しい可能性を示しています。

出典参照:ローソンの目指す未来|株式会社ローソン

事例②株式会社トライアルホールディングス|カメラと連動したダイナミックプライシング

株式会社トライアルホールディングスは、実店舗にAIカメラを設置し、リアルタイムで来店客数や商品棚の状況を把握する仕組みを構築しています。このシステムと連携してダイナミックプライシングを実施しており、需要の高まりに応じて価格を変更するという戦略的なアプローチが特徴です。

具体的には、店舗内の混雑状況や在庫の動きをカメラで取得し、それに応じて商品価格を最適化します。

このようなカメラ連動型の価格戦略は、店舗の現場データをリアルタイムで活かす点において、先進的な取り組みといえるでしょう。AIとIoTを活用することで、これまで感覚的に行われていた価格変更がデータドリブンな判断に基づくものに変わりつつあります。

出典参照:世界初、店内カメラと連動したダイナミックプライシング技術|株式会社トライアルホールディングス

事例③株式会社イトーヨーカ堂|購買データを活用したダイナミックプライシング

株式会社イトーヨーカ堂では、購買データを活用した詳細な価格戦略の一環としてダイナミックプライシングを試験導入しています。POSレジで蓄積された購買履歴や特定商品の売上推移といった膨大なデータを解析し、時間帯や曜日別に最適な価格を設定する仕組みを構築しています。

この取り組みのポイントは単に価格を変動させるのではなく、顧客の購買行動を深く理解した上で価格設定を行う点です。例えば、平日昼間は高齢層の来店が多いため低価格に設定し、週末の夕方はまとめ買い需要を見越して別の価格設定を行うなど需要予測と価格施策を連動させた柔軟な運用が進められています。

このように、イトーヨーカ堂ではデータ活用と現場の価格運用を密接に連携させ、店舗DXの推進において先進的な取り組みを展開しています。

出典参照:フードチェーン 3 領域における食品ロス削減の実証実験について|株式会社イトーヨーカ堂

まとめ|ダイナミックプライシングを活用して利益アップを目指そう

店舗DXの推進は業務効率や顧客体験の向上だけでなく売上や利益の改善にも直結します。その中で、ダイナミックプライシングは需要と在庫状況を的確に捉えた戦略的な価格運用を実現する手段として注目されました。

実際に複数の企業がロボットやカメラ、購買データなどを活用してリアルタイムで価格変更を行う仕組みを導入しています。これらの事例からわかるように、ダイナミックプライシングは一過性の取り組みではなく、データを基盤にした継続的な改善のためのアプローチです。

まずは、自社の業態や顧客特性に合った仕組みの構築に向けて、これらの事例を参考にしながら店舗運営の可能性を広げてみるとよいでしょう。