DX人材にリーダーシップは必要？求められるマインドセットを解説

企業の成長と競争力強化に不可欠なDX（デジタルトランスフォーメーション）を成功に導くには、技術的な知識だけでなく、強力なリーダーシップが不可欠です。DXを推進するリーダーは単に指示を出すだけではありません。変化する市場環境や多様化する顧客ニーズに対応するため、組織全体を巻き込み、変革の旗振り役を担う存在です。

さらに、リーダーは従業員の不安を和らげ、挑戦を後押しするコミュニケーション力や、部門横断的に意思決定をまとめる調整力を持った存在です。ビジョンを具体的な行動計画に落とし込むため、現場と経営層をつないでくれるでしょう。

この記事では、DX人材にリーダーシップが必要な理由や、その育成に必要なマインドセットなどを詳しく解説します。

DX人材にリーダーシップが必要な理由

企業がDXを成功させるためには、リーダーシップを持つ人材の確保が不可欠です。リーダーは単にチームを統率するだけではなく、企業の戦略を実行する力強い推進役となります。

DX人材にリーダーシップが必要な理由として以下の3つが挙げられます。

• 顧客ニーズの多様化と競争激化への対応
• 人手不足による生産性低下の防止
• 急速な技術革新への対応と事業成長への貢献

それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。

顧客ニーズの多様化と競争激化への対応

現在、企業は業種を問わず、急速に変化する市場において競争を強いられています。顧客ニーズの多様化が進む中、単に製品やサービスを提供するだけでは競争を勝ち抜けない恐れがあります。他社と差別化を図るためには、顧客ニーズを迅速に把握、反映できるかがポイントです。

リーダーは、デジタル技術を駆使し、新しい価値を生み出す手法を積極的に導入し、顧客の期待を上回るサービスを提供する必要があります。顧客中心の考え方を浸透させ、柔軟かつ迅速な対応を実現するために、リーダーが率先して変革を推進していく取り組みが求められるでしょう。

人手不足による生産性低下の防止

近年、多くの業界で人手不足が顕著になっています。DXは、生産性を向上させ、限られた人材でより多くの業務をこなすための強力な手段です。しかし、単に新しいシステムを導入するだけでは、業務の効率化は実現しません。

リーダーは、テクノロジーを戦略的に活用し、組織全体で生産性を向上させる方法を見出す必要があります。また、人材の育成と同時に、自動化やデジタルツールを活用して業務負担の軽減も求められるでしょう。これにより、リーダーは人手不足による生産性低下を防ぎ、より効率的に業務を推進できるようになります。

急速な技術革新への対応と事業成長への貢献

技術革新は年々加速しており、企業はその変化に素早く対応しなければなりません。新しい技術を迅速に取り入れ、それを事業の成長にどう活かすかを戦略的に考えることがリーダーには求められます。

リーダーは、どの技術を導入するかを判断し、それを組織全体で効果的に運用するための手順を確立する必要があります。これにより、企業は変化する市場環境に適応し、持続可能な成長を実現できるでしょう。

また、リーダーは技術の専門家とビジネス部門の橋渡し役となり、全員が同じ目標に向かって進めるよう、共通の言葉でコミュニケーションを促す重要な役割を担うのも特徴です。

DXを推進するリーダーに求められる5つのマインドセット

DXは、企業にとって競争力を高め、持続的な成長を支えるために必要不可欠です。しかし、DXを成功に導くためには、具体的なビジョンを描くリーダーシップが欠かせません。

特に、DXを推進するリーダーに求められるマインドセットは、技術的な知識だけでなく、以下のように戦略的な思考と柔軟な対応力が必要です。

• ビジョン思考
• 顧客中心思考
• データドリブン思考
• アジャイル志向
• 越境協働志向

ここでは、DXを推進するためにリーダーが持つべき5つのマインドセットを紹介します。

1.ビジョン思考｜未来に対する道筋を論理的に立てる

リーダーに求められるマインドセットのひとつが、ビジョン思考です。DXの成功には、明確な未来像を描き、その実現に向けた道筋を論理的に立てることが不可欠です。リーダーは、単に現在の課題を解決するのではなく、未来に向けた大きな目標を持ち、その目標に向けて組織を引っ張る役割を担います。

ビジョン思考を持つリーダーは、組織がどの方向に進むべきかを示し、チーム全員をその方向に向かわせる力を持っています。企業のDXを推進するためには、リーダーがその未来像をしっかりと描き、チームが向かうべき目標を設定しましょう。

2.顧客中心思考｜顧客のニーズから価値を逆算する

顧客中心思考は、DXを推進するリーダーに欠かせないマインドセットです。デジタル化が進む中で、企業はますます顧客のニーズに迅速に対応する必要があります。リーダーは顧客の視点に立ち、顧客が本当に求めている価値を理解し、その価値を提供するためにどのような手段を講じるべきかを逆算して考えます。

顧客中心思考を持つことで、リーダーは顧客の期待を超えるサービスや製品を提供し、競争優位を確立できるでしょう。この思考を組織に浸透させることで、全員が顧客志向で行動し、DXの進展を加速させることが可能になります。

3.データドリブン思考｜データを軸に意思決定を下す

データドリブン思考は、現代のビジネス環境において求められるマインドセットです。リーダーは、直感や過去の経験だけでなく、データに基づいて意思決定を行う必要があります。データ活用によって、より精度の高い戦略を立て、事業運営を効率的に進められるでしょう。データに基づく意思決定は他の従業員の同意も得やすい傾向にあります。

リーダーは、データの収集・分析を通じて、より明確なビジネス課題を浮き彫りにし、具体的なアクションプランを導き出します。データドリブン思考を持つことで、企業は競争の中で有利な立場に立つことができ、効果的にDXを推進できるでしょう。

4.アジャイル志向｜小規模実験を反復し学び続ける

アジャイル志向は、特に変化の速い市場環境において有効な思考法です。DXを進める中で、リーダーは大規模な計画を一度に実行するのではなく、小規模な実験を繰り返し、その結果を学びに変える必要があります。アジャイル志向を持つリーダーは、迅速にフィードバックを得て、改善を繰り返しながら進めていける存在です。

これにより、失敗を最小限に抑えつつ、新しいアイデアや戦略を実行に移しやすくなります。アジャイルなアプローチを取り入れることで、リーダーは柔軟に変化に対応し、進行中のプロジェクトを効率よく改善できるでしょう。

5.越境協働志向｜部門を超えた協力で複雑な課題に挑む

DXを推進するためには、部門を超えた協力が必要です。部門ごとに連携できていないとデータを活用しきれないなど、DX推進が妨げられかねません。

リーダーは、部門間の壁を取り払い、異なる部署のメンバーと連携して複雑な課題に取り組む必要があります。越境協働志向を持つことで、リーダーは組織全体を巻き込み、さまざまな視点や知識を集結させて課題解決に臨めるでしょう。

DXは単一の部署だけでなく、企業全体を巻き込むプロジェクトであるため、リーダーは部門を超えた協力を推進し、複雑な問題に挑戦する姿勢が求められます。

DX人材のリーダーシップ育成ロードマップ

DXを推進するためには、リーダーシップを持つ人材が必要不可欠です。リーダーは企業全体を導き、DX戦略を実行に移すための重要な役割を果たします。しかし、リーダーシップを発揮できる人材を育成するには、段階的なアプローチが必要です。

ここでは、DX人材のリーダーシップを育成するためのロードマップを3つのフェーズに分けて解説します。このロードマップの実践によって、企業は持続的な成長を実現し、競争力の向上につながるでしょう。

0〜6カ月｜リーダーとしての考え方やDX基礎知識を学ぶ

リーダーシップを育成する最初のステップは、リーダーとしての基礎を築くことです。この段階では、リーダーシップに必要な基本的な考え方を学び、DXに関する基礎知識を深めていきましょう。

リーダー候補者は、DXの基本的な概念や戦略を理解し、デジタル化の重要性やその影響を把握する必要があります。また、リーダーとして必要なコミュニケーションスキルや意思決定能力もこの段階で磨いていきます。具体的なトレーニングを通じて、リーダーシップの基本となる考え方や態度を身につけることが求められるでしょう。

6〜18カ月｜データを活用しながら小規模な改善プロジェクトに着手する

次のフェーズでは、リーダーはデータを活用して実際の業務改善に取り組みます。この期間は、データ分析を活用して小規模な改善プロジェクトを推進していくフェーズです。データドリブンの意思決定を行うことを学び、実際にその方法を実践する機会を得ることが求められます。リーダー候補者は、実際の業務にどのようにデータを適用するかを学び、問題解決に活用するスキルを高めるのが一般的です。

例えば、業務の効率化やプロセス改善のために、業務のデータを集めて分析し、得られた結果を基に改善案を導き出します。

18〜36カ月｜他部署を巻き込みDXの横展開を進める

18カ月目から36カ月目にかけては、他部署との連携を強化し、DXの横展開を進める段階です。このフェーズでは、リーダーは部間横断的な協力を推進し、DXを企業全体に広げることを目指します。DXの成功には部門間での連携が欠かせません。リーダーは、部門ごとの違いを理解し、それぞれの部門がどのようにDXに貢献できるかを考え、協力体制を築きます。

具体的には、複数の部署が関与するプロジェクトをリードし、協力し合いながらDXを推進しましょう。例えば、IT部門と営業部門などが連携して、DXを企業全体に浸透させていきます。

DX人材のリーダーシップを引き上げる3つのポイント

DX人材のリーダーシップをさらに引き上げるためには、以下のとおり3つのポイントを押さえておきましょう。

• 心理的安全性の確保
• 評価制度の確立
• トップの後押し

これらを実践することで、リーダーは自らの成長を促進し、DX推進をさらに加速させられるでしょう。ここではそれぞれのポイントについて詳しく解説します。こうした取り組みは、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながり、組織全体のDXを成功へと導く鍵として機能するでしょう。

1.心理的安全性の確保

リーダーは、他の従業員が安心して意見を述べ、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作り出すことが求められます。心理的安全性の確保によって、従業員は自分の考えを自由に表現し、イノベーションを生み出すことができます。

具体的には、リーダー自身が率先して自身の失敗談を共有したり、「正解がない問い」を投げかけたりといった取り組みによって、メンバーが発言しやすい雰囲気を作り出すことが効果的です。

また、反対意見が出た場合でも、その意見を否定せずに対話することで、多様な視点を取り入れた意思決定が可能となります。

2.評価制度の確立

効果的な評価制度を確立することは、DX人材の成長を促すために欠かせません。評価は、個々のパフォーマンスや成果だけでなく、DX推進に対する貢献度も含めた評価制度の確立がポイントです。リーダーは、公平で透明性のある評価制度を整備し、メンバーが自分の成長を実感できるようにサポートします。

この制度によってメンバーはより積極的に取り組み、目標に向かって努力するモチベーションを高められるでしょう。例えば、新技術の学習や、部門横断的なプロジェクトへの参加、新たなアイデアを提案したプロセス自体を評価項目に加えるといった工夫が考えられます。

3.トップの後押し

DX推進を成功させる要素のひとつは、経営陣のサポートです。リーダーは、トップダウンのサポートを得ることで、より多くのリソースやサポートを確保し、DXを加速させることができます。

トップからの後押しは、企業全体の文化や価値観にも影響を与えるでしょう。経営陣がDXは自社にどれだけ有益か、具体的なメッセージを全社に発信すれば、従業員はDXを「自分ごと」として捉えるようになります。

リーダーは、DXの進捗状況や成果を定期的に経営陣に報告し、その効果を数字で示すことで、さらなる投資や協力を引き出せるでしょう。

DX人材のリーダーシップ育成に取り組んでいる事例

リーダーシップを発揮できる人材の育成は、企業がDXを進めるうえでのカギです。ここでは、実際にDX人材のリーダーシップ育成に取り組んでいる企業の事例として、以下の2社を紹介します。

• 第一三共株式会社
• マルハニチロ株式会社

これらの事例は、DX推進に必要なリーダーシップをどのように育成しているのかを示しており、他の企業でも参考になるポイントが多く含まれているので、参考にしてみましょう。

事例1.第一三共株式会社｜創薬DXリーダーの育成

第一三共株式会社は、創薬分野でのDXを進めるため、リーダーシップ育成に積極的に取り組んでいます。

創薬のデジタル化においては、単に技術を導入するだけではなく、DXを推進するためのリーダーが必要です。同社では、特にリーダー層に対して、データ解析やAI技術を活用した創薬プロセスの改善に関する研修を実施し、実務を通じてリーダーとしてのスキルを身につけさせています。

また、創薬に関わる部門間の連携を強化し、DXを活用した新しい治療法の開発を加速させているのも、第一三共株式会社の取り組みです。このような取り組みを通じて、リーダーシップを発揮できる人材を育成し、企業全体のDX推進につなげています。

出典参照：DX – データと先進デジタル技術の活用｜第一三共株式会社

事例2.マルハニチロ株式会社｜ターゲットとなる従業員の育成

マルハニチロ株式会社は、DX推進に向けたリーダーシップ育成を、従業員層全体に広げています。特に注目すべきは、DXを推進するための「ターゲットとなる従業員」の選定と育成です。

マルハニチロ株式会社では、リーダー層だけでなく、業務の中核を担う中堅従業員や若手従業員にもDXの基本的な考え方を浸透させ、リーダーシップを発揮できる人材を多角的に育てています。

具体的には以下のような取り組みで従業員一人ひとりの成長を支援しています。

• デジタルスキルを向上させるための研修プログラム
• DXを担当する専門部署との協力

また、部門ごとのDX推進計画を立て、実践的な改善活動を行いながら、リーダーシップを養っていく取り組みも特徴です。

出典参照：イノベーションエコシステムの構築｜マルハニチロ株式会社

まとめ｜組織文化を整えてDX人材のリーダーシップを引き上げよう

DX人材のリーダーシップを育成するためには、組織文化の整備が欠かせません。企業がDXを進めるためには、リーダーだけでなく、全従業員が変革に対して積極的に関与することがポイントです。例えば、経営陣がDXについての具体的なメッセージを全社に発信すれば、社内の意識改革が期待できます。

第一三共株式会社やマルハニチロ株式会社のように、リーダーシップの育成に注力し、デジタルスキルを高めることは、企業全体の成長につながります。さらに、企業文化として「デジタル化は全従業員の責任である」という意識を醸成すれば、DX成功に近づけるでしょう。