DX人材におけるビジネスアーキテクトとは?育成方法を解説

DX人材であるビジネスアーキテクトの役割と育成方法を解説します。ビジネスアーキテクトは、企業のビジネス目標とデジタル技術のギャップを埋める存在です。ビジネスアーキテクトはOJTとメンター制度などに取り組めば自社で育成できます。

DXを成功させるには、単に新しいITツールを導入するだけでは不十分です。新しい技術が、どのように事業の成長に貢献し、業務を効率化するのかを明確に描き、関係者全員でのビジョン共有が不可欠です。

しかし、多くの企業では、技術的な専門家がビジネスの全体像を把握しきれず、逆にビジネス部門の担当者が最新の技術トレンドを理解できていないという課題に直面しています。

このようなギャップを埋める存在がビジネスアーキテクトです。ビジネスアーキテクトはギャップを埋めて、DXを加速させる存在で、今後も重要性が高まっていくでしょう。

この記事では、ビジネスアーキテクトがどのような役割を果たすのか、そしてその育成方法について詳しく解説していきます。

DX人材におけるビジネスアーキテクトとは?

ビジネスアーキテクトとは、企業のビジネス戦略とIT戦略を統合し、具体的なDX推進計画を設計する専門家のことです。ビジネスアーキテクトは、単にシステムを設計するだけでなく、ビジネスの視点から、どのような技術を導入すれば企業の競争力を高められるかを考えます。

この役割は企業の事業全体を俯瞰し、経営層が描くビジョンや目標の理解から始まります。そのうえで、現場の業務プロセスや課題を分析し、最新のデジタル技術がどのようにそれらを解決し、新たな価値を生み出せるかを構想するのがビジネスアーキテクトの役割です。

DXにおけるビジネスアーキテクトの役割

ビジネスアーキテクトの役割はDX推進におけるギャップを埋めるだけでなく、多岐にわたりますが、特にDX推進に求められる役割は以下の4つです。

  • DXビジョンにおける数字の言語化
  • 技術と業務を橋渡しする翻訳者
  • 部門サイロの橋渡し
  • ROIとセキュリティの両立

ここではDXにおけるビジネスアーキテクトの役割をそれぞれ解説します。自社でビジネスアーキテクトを採用したいという場合は参考にしておきましょう。

DXビジョンにおける数字の言語化

多くの企業が掲げるDXビジョンは、顧客体験の向上や業務効率化といった抽象的な目標にとどまりがちです。しかし、ビジネスアーキテクトは、これらの抽象的な目標を具体的な数値目標へと落とし込み、関係者全員が理解できる形に言語化します。

例えば、「業務効率化」という目標を「請求書処理にかかる時間を50%削減する」「顧客からの問い合わせ対応時間を20%短縮する」といった具体的な数字に変換します。このように、目標を明確なKPI(重要業績評価指標)として設定することで、プロジェクトの進捗を客観的に評価可能です。

技術と業務を橋渡しする翻訳者

ビジネスアーキテクトは、技術的な専門家と業務担当者との間に立って、「翻訳者」としての役割を果たす存在です。IT部門のエンジニアが話す専門用語や技術的な制約を、ビジネス部門の担当者が理解できる言葉に置き換え、逆にビジネス部門の要望や課題を、エンジニアが実装可能な要件へと変換します。

この翻訳能力は、DXプロジェクトをスムーズに進めるうえで不可欠です。お互いの言語や視点の違いから生じる誤解や認識のズレを防ぎ、円滑なコミュニケーションを促します。

ビジネスアーキテクトのような橋渡し役がいることで、双方の協力体制が強固なものになるでしょう。

部門サイロの橋渡し

多くの企業には、部署間の連携が不十分である部門サイロの問題があります。マーケティング部門、営業部門、製造部門などがそれぞれ独立したシステムやデータを持ち、情報が共有されないために、DXが全社的に進まないケースは少なくありません。

ビジネスアーキテクトは、この部門サイロを解消するために、横断的な視点から全体最適なシステムやプロセスを設計します。各部門の業務を深く理解し、共通の目標に向かって協力できるような仕組みを構築するのがビジネスアーキテクトです。

ビジネスアーキテクトが部門サイロを解消すれば、スムーズな情報共有が可能になります。

ROIとセキュリティの両立

DXプロジェクトは、多額の投資を伴うことが多く、投資対効果(ROI)を明確に示すことが求められます。ビジネスアーキテクトは、単に最新技術を導入するだけでなく、その技術が事業にどのような利益をもたらすかを具体的に分析し、経営層に説明する責任を担う存在です。

一方で、新しい技術の導入は、セキュリティリスクの増大につながる可能性もあります。情報漏えいやサイバー攻撃への対策は、企業の信頼を維持するうえで不可欠です。ビジネスアーキテクトは、新しいシステムの利便性やROIを追求しつつも、セキュリティ対策を怠らないバランス感覚が求められます。

ビジネスアーキテクトに必要な5つの力

ビジネスアーキテクトが活躍するためには単に技術に詳しいだけでなく、経営や組織運営に関する深い理解が必要です。ここでは、ビジネスアーキテクトがDXを推進するために不可欠な、以下の5つの力について解説します。

  • 1.ビジョン設計
  • 2.現状分析
  • 3.テクノロジー活用
  • 4.チェンジマネジメント
  • 5.ガバナンスとKPI管理

これらの力をバランス良く身につけることで、企業全体の変革を主導できる存在になるでしょう。

1.ビジョン設計

ビジネスアーキテクトにとって、ビジョン設計力はDX推進のために求められる能力のひとつです。これは、単に未来の理想像を描くことではなく、企業の経営戦略を深く理解し、それを具体的なデジタル技術の活用計画へと落とし込む力を指します。

例えば、経営層が「顧客体験を向上させたい」というビジョンを掲げた場合、ビジネスアーキテクトは「どのようなデータ活用で顧客ニーズを予測できるか」といった具体的な戦略を設計します。

ビジョン設計の能力は抽象的な目標と現実的な手段を結びつけ、関係者全員が目指すべき方向を共有できるようにするうえで不可欠です。

2.現状分析

ビジョン設計が「どこへ向かうか」を描く力である一方、現状分析力は「どこにいるか」を正確に把握する力です。

この分析では、現場の従業員へのヒアリングやデータの収集・解析を通じて、潜在的な問題点や改善の余地を見つけ出します。例えば、「手作業でのデータ入力が多くミスや非効率が発生している」といった課題を特定した場合、その原因が「部門間のシステムが分断されていること」にあると突き止めることで根本的な解決策も立案可能です。

現状を正確に把握することによって、理想と現実のギャップを認識し、より効果的で実現可能なDX戦略を立てることが可能になります。

3.テクノロジー活用

ビジネスアーキテクトは、必ずしもプログラミングの専門家である必要はありません。しかし、テクノロジーに関する幅広い知識と、それをビジネスにどう活かすかを考える力は不可欠です。AI、クラウド、IoT、ビッグデータなどの最新技術が、自社のビジネス課題をどのように解決できるかを理解する必要があります。

例えば、「顧客からの問い合わせ対応を効率化したい」という課題に対しての解決策は以下のとおりです。

  • どのようなチャットボット技術が適しているか
  • どのクラウドサービスを使えばコストを抑えつつ運用できるか

このようにビジネスアーキテクトは、課題に対して具体的な解決策を提案できます。

4.チェンジマネジメント

DXは、単なる技術導入ではなく、組織の働き方や文化そのものを変革するプロセスです。そのためチェンジマネジメント、組織の変革を円滑に進めるための管理能力が不可欠です。

新しいシステムやプロセスを導入する際、従業員は変化への抵抗を感じることがあります。ビジネスアーキテクトは、変革の必要性を分かりやすく伝え、関係者の不安を軽減し、前向きな参加を促す役割を担う存在です。

具体的には、新しいシステムがもたらすメリットの共有や、サポート体制の整備などです。この力によって、組織全体が一体となってDXに取り組むことができるようになるでしょう。

5.ガバナンスとKPI管理

DXへの取り組みは、多くの人や予算が関わるため、適切なガバナンス(統治)とKPI(重要業績評価指標)管理がポイントです。ビジネスアーキテクトは、プロジェクト全体の進捗を管理し、計画が逸脱していないかを常に監視します。

具体的には、事前に設定したKPIを定期的に測定し、目標達成に向けて軌道修正します。また、プロジェクトのリスクを早期に特定し、問題が発生する前に対応策を講じることもビジネスアーキテクトの役割です。

この力によって、プロジェクトは透明性を持って進められ、期待通りの成果を生み出すことができます。

社内でビジネスアーキテクトを育てる4つの方法

DXを成功させるためには、社内にビジネスアーキテクトを育成することが不可欠です。外部の専門家を招くだけでなく、自社について深く理解している人材を育てることで、より持続的な変革が可能になります。

ここでは、社内でビジネスアーキテクトを育成するための具体的な以下の方法を解説します。

  • OJTとメンター制度
  • 部門ローテーション
  • 外部講座と資格支援
  • 社内コミュニティと勉強会

自社での育成を検討している場合は参考にしてみましょう。

1.OJTとメンター制度

ビジネスアーキテクトの育成には、実践を通じた学習が効果的です。経験豊富な上司や先輩従業員がメンターとなり、OJT(On-the-Job Training)を通じて知識とスキルを伝えることが大切です。

例えば、実際のDXプロジェクトに若手従業員を参加させ、経営層との議論や、技術部門・業務部門間の調整を間近で経験させます。フィードバックをもらうことで、実践的な能力を効率的に身につけられるでしょう。メンターは、単に業務を教えるだけでなく、キャリア形成の相談役としても機能し、長期的な成長をサポートする存在です。

2.部門ローテーション

ビジネスアーキテクトの育成を効果的に進めるためには、特定の部門に留まらず、複数の部門を経験させる部門ローテーションが有効です。

例えば以下のような部門ローテーションが挙げられます。

  • IT部門から営業部門
  • マーケティング部門から製造部門

異なる職務の経験が、各部門の業務内容、文化、課題に対する理解の促進につながるでしょう。これにより、部門間の連携を促し、全体最適な視点を持った戦略を立案できるようになります。

また、ローテーションを通じて社内の人脈を広げることもでき、将来的なプロジェクト推進の際の調整役としての役割をスムーズに果たせるようになるでしょう。

3.外部講座と資格支援

社内での学習だけでなく、外部の専門的な講座やセミナーの活用も、体系的な知識を習得するために効果的です。最新のテクノロジー動向や、DXの成功事例、プロジェクトマネジメントの手法などを学ぶ機会を提供します。また、ビジネスアーキテクトに関連する資格取得を会社が支援することも効果的です。

例えば、プロジェクトマネジメントの資格や、特定のクラウド技術に関する資格取得を推奨し、その費用を補助します。このような支援は、従業員の学習意欲を高めるだけでなく、自身の専門性を証明する手助けにもなります。

4.社内コミュニティと勉強会

社内でビジネスアーキテクト候補の人材が自由に意見交換できるコミュニティや勉強会を立ち上げることも有効な方法です。異なる部門の従業員が集まり、互いの知識や経験を共有することで、新たなアイデアや解決策が生まれるきっかけとなります。

定期的に勉強会を開催し、最新の技術トレンドや、社内で抱えている課題について議論する場を設けましょう。このような活動は、自律的な学習文化を醸成するだけでなく、従業員間の横のつながりを強化し、部門サイロを越えた連携を自然に生み出します。将来のDXプロジェクトを牽引するリーダー候補の発掘にもつながるでしょう。

ビジネスアーキテクトが不在であることによって生じる3つのリスク

ビジネスアーキテクトが不在のままDXを進めようとすると、さまざまな問題が発生し、プロジェクトが失敗に終わるリスクが高まります。具体的には以下のようなリスクにつながりかねません。

  • DXのゴールが曖昧になる
  • レガシー刷新が遅れる
  • セキュリティリスクがある

いずれのリスクもDX促進を妨げる要因であるため、プロジェクトの頓挫につながる恐れがあります。

ここではビジネスアーキテクトが不在であることによるリスクを解説します。

1.DXのゴールが曖昧になる

ビジネスアーキテクトがいないと、DXの目的やゴールが不明確になりがちです。

DX促進においては、技術導入自体が目的化してしまうことがあります。そうなると、プロジェクトの進捗を測るための明確な指標(KPI)が設定できず、何をもって成功とするのかが分からなくなってしまいます。結果として、プロジェクトに対して多額の投資をしたにもかかわらず、期待した成果が出ないまま立ち消えになってしまうリスクがあるでしょう。

ビジネスアーキテクトは、DXのビジョンを具体化し、成功の道筋を明確にする役割を担っているため、ゴールの明確化に欠かせない存在です。

2.レガシー刷新が遅れる

多くの企業が抱える課題のひとつに、古く複雑化した既存システム(レガシーシステム)があります。しかし、ビジネスアーキテクトが不在だと、レガシーシステムをどう刷新すれば良いか、その全体像を描くことが難しくなります。

部門ごとにシステムが独立している場合、それぞれの部門の要望を調整し、全体最適な形で新しいシステムを設計する人がいないと、場当たり的な改修を繰り返すことになり、根本的な解決に至りません。レガシー刷新の機会を失うことで、ビジネスの変化に迅速に対応できず、企業の競争力が低下してしまう恐れがあります。

3.セキュリティリスクがある

ビジネスアーキテクトがいない場合、新しい技術やシステムを導入する際に、セキュリティ対策が後回しにされるリスクがあります。例えば、便利なクラウドサービスを導入したものの、アクセス権限やデータ管理のルールが曖昧なままだと、情報漏えいや不正アクセスなどの重大なセキュリティ事故につながりかねません。

ビジネスアーキテクトは、利便性とセキュリティのバランスを考慮し、リスクを事前に評価したうえで、適切な対策を講じます。彼らが不在だと、こうしたリスク管理がおろそかになり、企業の信頼を損なう可能性があります。

DX人材としてビジネスアーキテクトを育成した事例

DXを成功させるためには、社内でビジネスアーキテクトのような専門人材を育成することが不可欠です。ここでは、実際に企業がどのようにしてDX人材を育成し、成果を出したのか、以下の2つの事例をご紹介します。

  • キリンホールディングス株式会社
  • 中外製薬株式会社

どちらの企業もDX人材を育成するプログラムに注力しています。これらの事例を参考に、自社でのDX人材育成に注力しましょう。

事例1.キリンホールディングス株式会社|育成プログラムでDX人材を約8倍に増加

キリンホールディングス株式会社は、「従業員の創造性とITを掛け合わせる」という考えのもと、2019年から「キリンデジタルイノベーター」という独自のDX人材育成プログラムを実施しています。このプログラムは、DX人材を専門人材(ITスキルを深掘り)と変革推進人材(ビジネススキルを深掘り)の2種類に分け、それぞれのスキルセットに合わせて育成する取り組みです。

このプログラムを通じて、参加者は課題解決力やデータ分析スキルを身につけ、自律的にDXプロジェクトを推進できるようになりました。その結果、プログラム開始から約3年で、DX人材を当初の約8倍まで増やすことに成功しています。

出典参照:キリングループの DXに関する取り組み|キリンホールディングス株式会社

事例2.中外製薬株式会社|自律学習など包括的な育成プログラムの実施

中外製薬株式会社は、従業員一人ひとりが自律的に学ぶことを促す包括的な育成プログラムを導入した企業です。DX人材を「データサイエンス」「デジタルテクノロジー」「ビジネス・プロセス」の3つのスキル領域で定義し、従業員が自らのキャリアプランに合わせて必要なスキルを学べるように支援しています。

特に注目すべきは、eラーニングや外部講座の提供に加え、従業員が自ら興味のあるテーマで勉強会を立ち上げ、知識を共有できるような仕組みを構築したことです。

中外製薬株式会社の取り組みは、従業員が主体的に学び、実践する文化を築くことが、DX人材を継続的に生み出すうえでポイントであることを示しています。

出典参照:全社基盤の構築・全てのバリューチェーンにわたる生産性向上|中外製薬株式会社

まとめ|ビジネスアーキテクトを育成してDXを促進させよう

DXの成功は、単に最新のITツールを導入するだけでは実現できません。ビジネスの視点から技術をどう活用するかを考え、組織全体を巻き込んで変革を推進できるビジネスアーキテクトの存在です。ビジネスアーキテクトは、経営層のビジョンと現場の課題を受けて、具体的なアクションへと落とし込むことでDXの取り組みを具体的に進めていきます。ビジネスアーキテクトが不在の場合、DX促進は停滞する恐れがあります。

ビジネスアーキテクトは外部に依存せずとも、自社で育成可能です。自社の文化や課題に合わせた最適なDX戦略を継続的に実行していくための土台となります。