ERPは監査対応している?主な機能や導入時の注意点を解説

監査対応したERPの運用は、業務データの一元管理や承認プロセスの記録を通じて、監査対応や内部統制の強化に寄与します。これにより、業務の透明性を高めながら法令遵守も意識した運用体制を整えやすくなり、企業全体の信頼性向上にもつながります。

企業経営において、日々発生する膨大な業務データを適切に管理し、必要なタイミングで正確な情報を活用できる環境を整えることは、業績や信頼性に直結する重要な課題です。特に近年は、内部統制や監査対応への要求が高まり、経営判断の透明性や迅速性が求められています。

しかし、部門ごとに異なるシステムや管理方法を採用している場合、データの不一致や業務の重複が発生し、結果として非効率な運用に陥ることがあります。このような背景から、多くの企業が注目しているのがERPシステムです。

本記事では、ERPがもたらすメリットや、監査対応を意識した運用上のポイントを整理し、導入時に見落としやすい注意点まで掘り下げます。読むことで、自社の業務環境をどのように改善できるかの方向性が明確になります。

ERPシステムを企業に導入するメリット

ERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、財務、人事、販売、生産、在庫など複数の業務領域を統合的に管理するシステムです。

これにより、組織全体の情報を一元管理し、部門間の連携を円滑にする効果が期待されます。さらに、リアルタイムなデータ活用が可能となり、経営判断の精度向上や内部統制の強化にもつながるでしょう。

ここでは、ERP導入によって得られる代表的な利点を、業務効率化、データ管理、意思決定支援の3つの観点から整理します。

業務の効率化になる

ERPは複数の業務システムを統合し、同じデータベースを共有する仕組みを採用しています。そのため、従来は部門ごとに行っていたデータ入力や照合作業を減らし、二重入力や情報の不一致といったムダを抑えやすいでしょう。

例えば、販売部門で受注情報を登録すると、在庫管理や請求処理にも自動的に反映されるため、関連部署間での確認作業や書類のやり取りが不要になります。これにより、業務プロセス全体の流れがスムーズになり、担当者の負担軽減や作業時間の短縮につながります。

結果として、限られた人的リソースをより付加価値の高い業務に振り分けることができ、組織全体の生産性向上が期待できるでしょう。

データの一元管理がしやすい

ERPでは、財務データや人事情報、顧客情報などを単一のプラットフォーム上で管理します。これにより、異なる部門が同じデータをリアルタイムで参照でき、情報の整合性を維持しやすくなるでしょう。

監査対応の観点でも、履歴や取引の記録がシステム上に集約されるため、必要な情報を迅速に提示できる環境が整います。従来のように複数システムからデータを抽出して照合する手間が減ることで、情報収集のスピードが上がり、記録漏れや誤入力によるリスクも低減します。

さらに、アクセス権限の設定や変更履歴の追跡機能を組み合わせることで、内部統制の強化にもつながるでしょう。このように、ERPの一元管理機能は、日常業務の効率化だけでなく、監査や法令遵守の面でも有効に作用します。

経営の意思決定を支援する

ERPは、企業活動のあらゆるデータを集約し、分析ツールやレポート機能を通じて可視化が期待できるでしょう。経営層は、売上推移や在庫状況、コスト構造などの情報をタイムリーに把握でき、根拠に基づいた意思決定が行いやすくなります。

例えば、販売データと在庫データを組み合わせることで、需要予測の精度を高め、過剰在庫や欠品リスクを抑える施策を立案できます。また、部門ごとのパフォーマンスやKPIの達成状況を定量的に評価すると、改善が必要な領域を早期に特定しやすくなるでしょう。

さらに、監査や外部報告に必要な情報も迅速に抽出できるため、透明性の高い経営体制の構築に寄与します。ERPは、単なる業務システムではなく、戦略的な経営判断を支える基盤として機能しやすいでしょう。

ERPシステムが監査対応であるといえる4つの理由

ERPは、企業活動におけるデータや業務を統合的に管理する仕組みを持つため、監査業務との高い親和性が特徴です。

監査では、取引の正確性や証跡の確認、内部統制の有効性が求められるため、システムの構造や運用設計が影響します。ERPは、情報の一元管理や業務プロセスの標準化を通じ、監査に必要な情報を整理しやすい環境を作り出すでしょう。

ここからは、ERPが監査対応であるといえる理由を4つの視点から整理して解説します。

①データの一元管理と整合性の確保ができる

監査では、財務データや取引記録の正確性が重要な確認項目となります。

ERPは、財務会計、人事、在庫、購買などの情報を1つのデータベースに統合して扱うため、異なる部署やシステム間でデータが重複したり矛盾したりするリスクの低減を期待できるでしょう。

また、入力時点での検証機能や自動計算処理によって、記録の精度を高められる点も監査上の利点です。さらに、各部署が同じ基準のデータを参照すると、監査人が確認作業を行う際に必要な整合性の確認が容易になります。

こうした統合管理により、情報の分断を避け、正確で一貫性のある証跡を維持しやすい体制を構築できるでしょう。

②業務プロセスの自動化とトレーサビリティが実現する

ERPは、受注から出荷、請求、入金までの一連の業務プロセスを自動化する仕組みを持ちます。この自動化により、手作業による入力ミスや記録漏れが減少し、正確な業務履歴を保持しやすくなるでしょう。

システムには、取引発生から完了までの履歴を時系列で記録するトレーサビリティ機能が備わっており、いつ・誰が・どの取引に関与したかを明確に把握できます。監査では、特定の取引がどのように処理されたかを遡って確認する必要がありますが、この履歴情報があることで確認作業が効率化しやすいでしょう。

結果として、監査人が取引の正当性や処理の適切性を検証する際の負担軽減が期待できます。

③内部統制の強化につながる

内部統制とは、企業が適切な業務運営を行うために設ける仕組みであり、監査の際にも重視される要素です。ERPには、承認フローの設定や権限管理の機能が備わっており、取引や業務の処理が、適切な担当者によって行われているかを管理できます。

例えば、高額の支出には上長承認を必須とする設定や、財務データへのアクセスを経理部門の特定メンバーに限定するといった運用がしやすいです。これにより、不正や誤処理を未然に防ぐ効果が期待できるでしょう。また、承認や修正の履歴が自動的に記録されるため、監査時に内部統制が適切に機能している証拠として提示できます。

こうした仕組みは、業務の透明性向上にも寄与するでしょう。

④コンプライアンスと規制遵守のサポート機能がある

企業は、業種や地域によって異なる法規制や会計基準に従って、業務を行う必要があります。ERPには、最新の会計基準や税制に対応したモジュールが搭載されており、これらを反映した帳票や報告書の作成を可能にします。

また、個人情報保護法やGDPRなどのデータ保護規制に配慮したアクセス制御や暗号化機能も備えています。監査では、こうした規制遵守の取り組みが適切に実行されているかが確認されますが、ERPの機能によって遵守状況を記録・証明しやすくなるでしょう。

さらに、規制改正に合わせたシステム更新が可能であり、法令変更への対応が遅れるリスクを抑えやすいです。結果として、企業のコンプライアンス体制を維持しながら業務を進める環境を整えられるでしょう。

監査対応に役立つERPの主な機能

監査に耐える運用を目指すなら、システム選定だけでなく機能の使い方を意識する必要があるといえます。

ERPには、監査証跡やアクセス制御、暗号化、データインテグリティ維持といった要素が備わりやすく、証拠の提示や統制の検証を支えます。単に記録を残すだけでなく、誰がいつ何を行ったかを追跡し、正しい権限で正しい手順が踏まれているかを確認できる点が監査上のカギになるでしょう。

ここでは、それぞれの機能がどのように監査実務を助けるかを整理し、設定や運用で意識したい観点の参考にしてください。

監査証跡(Audit Trail)機能

監査証跡とは、誰がいつどのような操作を行ったのかを記録する仕組みです。

ERPにおける監査証跡機能は、取引データの入力や修正、削除などの履歴を時系列で記録し、改ざんや不正の兆候を検出しやすくします。この情報は、監査人が取引の正当性や整合性を検証する際の根拠として利用できます。

監査証跡は単に記録を残すだけでなく、後からの検索性やフィルタリング機能も重要といえるでしょう。必要な期間や取引種別を絞り込むことで、監査作業の効率が向上しやすいです。また、運用面では定期的なレビューを行い、記録内容が適切に保持されているかの確認が求められます。

このように監査証跡は、内部統制の維持や外部監査への対応を支える基盤となります。

アクセス制御とユーザー管理

アクセス制御は、利用者ごとにシステム上で実行できる操作や参照できる情報を制限する仕組みです。ERPのユーザー管理機能では、職務や役割に応じてアクセス権限を細かく設定できるため、不要な情報への接触や不正操作のリスクを減らせます。

例えば、経理担当者は仕訳入力や財務レポートの作成権限を持ちますが、システム管理者はデータベース構造の変更権限を持つなど、役割に応じた設定ができるでしょう。権限管理は一度設定して終わりではなく、組織変更や業務内容の変化に応じて定期的に見直すことが大切です。

また、アクセス履歴を監査証跡と連携させることで、不審なアクセスパターンを検知しやすくなります。このような管理体制は、情報セキュリティとコンプライアンスの両立に寄与するでしょう。

データ保護と暗号化

データ保護は、企業が保有する機密情報や個人情報を不正利用や外部からの攻撃から守るための取り組みです。

ERPには、保存データや通信データを暗号化する機能があり、第三者による不正な閲覧や改ざんを防ぎます。暗号化方式にはAESやRSAなどがあり、それぞれ用途や処理速度、セキュリティ強度が異なります。さらに、暗号キーの管理も重要で、適切に保護されない場合は暗号化の効果が薄れてしまうでしょう。

ERPのデータ保護機能は、アクセス制御や監査証跡と組み合わせることで、情報が漏れてしまうリスクを低減します。運用面では、暗号化設定の有効性を定期的に検証し、最新のセキュリティ基準に沿ったアップデートを行うことが望まれます。

データインテグリティの確保

データインテグリティは、情報が正確かつ一貫性を保っている状態を意味します。ERPでは、取引データや在庫情報、顧客情報などが多くのモジュール間で共有されるため、入力や更新時に整合性を維持する仕組みが必要です。

例えば、二重入力防止機能や必須項目の設定、整合性チェックルールなどが挙げられます。これらの機能によって、誤入力や欠落データが監査で指摘されるリスクの軽減が期待できるでしょう。また、データの変更履歴を残すことで、修正前後の内容を比較でき、監査人が正当性を判断しやすくなります。

データインテグリティが保たれていれば、ERPから出力されるレポートや財務諸表の信頼性も高まり、監査対応が円滑に進みます。運用では、定期的なデータクレンジングやチェックルールの見直しも欠かせません。

監査対応の体制を確立した上でERPを導入した企業事例

監査対応を見据えたERP活用は、内部統制の仕組みを整備し、業務の透明性を高める取り組みと密接に関係しています。

システムの導入だけではなく、経営層から現場まで一貫した理解と協力を得ることで、業務プロセスの標準化やデータの一元管理が進み、監査時の資料提出や確認作業が効率化されるでしょう。加えて、リアルタイムで正確な情報を共有する体制を構築できると、将来的なコンプライアンス強化やガバナンスの質の向上にもつながります。

各企業は、ERPを単なる業務支援ツールではなく、全社的な管理体制の強化や成長戦略と連動させて活用しています。

事例①日本コンベヤ株式会社|内部統制の強化を目的にERPを導入

日本コンベヤ株式会社は、内部統制の仕組みを強化する目的でERPを採用しました。従来は部門ごとに異なる管理方法が存在し、取引データの突合や集計に手間がかかる状況でした。

ERP導入後は販売管理や生産管理、会計システムを統合し、データを一元的に管理できるようになりました。これにより、監査時には取引記録や証憑データを迅速に提示でき、確認作業の負担を減らしています。

また、ワークフロー機能により承認ルートが明確化され、権限の逸脱や記録漏れのリスクを低減する運用体制が整いました。さらに、現場部門へのヒアリングを重ねた業務フロー再構築により、監査対応を日常業務の中で自然に行える環境が実現し、組織全体での内部統制意識も高まりました。

出典参照:大型コンベアと立体駐車装置のトップメーカーにふさわしい情報システム基盤を構築|インフォコム株式会社

事例②株式会社JMC|手集計での原価計算をシステム化して監査に対応

株式会社JMCは、従来の原価計算をExcelによる手集計で行っており、数値の正確性や証憑管理に課題を抱えていました。監査においては計算過程や根拠資料の提示が煩雑で、担当者の負担が大きい状況でした。

ERP導入後は、受注から生産、原価集計までのプロセスを自動化し、各工程のデータをリアルタイムで記録できる仕組みが整いました。これにより、監査時には必要なデータをシステムから即座に抽出でき、計算根拠や履歴を明確に示せるようになりました。

また、コスト管理に関するレポート機能の活用により、経営層が原価構造を迅速に把握でき、改善施策を早期に打ち出せる体制が整備されました。さらに、情報共有の効率化が進み、現場担当者と管理部門の連携が強化されたことで、監査対応だけでなく日常的な業務品質の向上にもつながっています。

出典参照:上場準備の取り組み事例4選。ERPの活用でIPOをスムーズに|株式会社 オロ

事例③株式会社大創産業|グローバル展開を視野に入れた内部統制を実現

株式会社大創産業は、海外拠点の拡大に伴い、国ごとに異なる業務プロセスや会計基準を統合する必要性が高まっていました。監査対応においても、多拠点間でのデータ整合性や証憑管理のばらつきが課題でした。

ERPの導入によって販売、在庫、会計の各データを共通基盤で管理し、全世界で統一された業務フローを確立しました。これにより、監査時には国や地域を問わず同じ形式でデータを取得でき、説明の一貫性が保たれるようになりました。また、権限設定や承認プロセスを標準化し、不正防止や記録の透明性が強化されました。

さらに、多言語・多通貨対応機能を活用できると、海外拠点でも本社と同等の内部統制基準を運用できる環境が整い、グローバル経営と監査対応を両立する基盤が構築されました。

出典参照:世界6,000店舗を展開する「ダイソー」の決算早期化、業務効率化、経営情報の可視化を実現するグループ会計基盤を構築|株式会社NTTデータ・ビズインテグラル

ERPを導入する際の注意点

ERPを導入する際は、単に機能やコスト面を比較するだけではなく、組織全体の業務プロセスや内部統制の観点から慎重に検討する必要があります。導入後に監査対応やコンプライアンス遵守を確保するためには、事前に要件を整理し、監査証跡機能やユーザーアクセス管理、業務フローの可視化といった機能を十分に備えているかの確認が必要です。

また、各部門間で情報共有を行い、全社的な理解を深めながら導入を進めることが成功につながります。

監査証跡機能を整備する

監査証跡機能は、ERPシステム内で行われるすべての操作や取引の履歴を詳細に記録し、必要なときに参照できる仕組みです。この機能が整備されていないと、監査時に操作の正当性やデータの変更履歴を示す資料を迅速に提供できず、対応に時間と労力を費やす恐れがあります。

導入段階では、入力者や承認者、変更者、削除者など操作主体が明確に記録される仕様になっているかの確認が重要といえます。さらに記録データが改ざん防止のために暗号化されていることや、アクセス制御で保護されているかも確認すると安心です。

これにより監査時の透明性が高まり、内部統制の信頼性向上にもつながるでしょう。

コンプライアンス要件を明確化しておく

ERPを導入する前に、自社が遵守すべき法令や規制、業界標準、社内ルールを明確化しておくことが大切です。要件が曖昧なままシステム構築を進めると、導入後に追加設定やカスタマイズが必要になり、コスト増や運用負荷が発生しかねません。

個人情報保護や、電子帳簿保存法の規定に沿ったデータ管理やアクセス権限の設定もあらかじめ整理する必要があります。海外拠点や複数事業部にまたがる場合は、それぞれの法規制も考慮してERPに反映できるルールを策定すると、導入後もコンプライアンスを維持しやすくなり、監査対応の効率化にもつながるでしょう。

ユーザーアクセス管理を万全にする

ユーザーアクセス管理は、ERPシステムの安全性と内部統制を維持する上で欠かせません。権限設定が不十分だと、機密情報への不正アクセスや誤操作によるデータ改ざんのリスクが高まります。

導入段階では、役職や業務内容に応じてアクセス権限を細かく設定し、原則に沿った管理が必要です。承認ワークフローと連携させれば、不正な取引や改変を防ぐ仕組みをつくりやすいでしょう。

さらにアクセスログを定期的に監視し、異常な操作や不審なアクセスが発生した場合には迅速に対応できる体制の整備を行うと、内部統制の信頼性や監査時の説明力を高めやすくなります。

業務フローの可視化を徹底する

ERPを有効活用するには、業務フローの可視化が欠かせません。業務プロセスが不透明なままだと、操作や承認の手順が属人的になり、監査時に正確な説明が困難になる場合があります。

導入前に、各業務の開始から完了までの手順、担当者、承認段階を洗い出し、ERP上で追跡可能な形の整備が重要といえます。さらに業務プロセスに変更が生じた場合はフロー図やマニュアルを速やかに更新し、全社的な共有が望ましいでしょう。

このように業務フローの可視化を徹底し、日常業務の改善や監査対応の効率化にもつながり、全体の透明性を維持しやすくなります。

まとめ|監査対応のERPを導入して業務の透明性を向上させよう

監査対応を視野に入れたERP活用は、内部統制の強化と業務の透明性の向上に直結します。監査証跡機能やコンプライアンス要件の明確化、ユーザーアクセス管理、業務フローの可視化といった要素を導入初期から計画的に組み込むことで、後々の監査や確認作業がスムーズになりやすいでしょう。

また、全社的な情報共有と継続的な改善によって、ERPは単なる管理ツールではなく、ガバナンスを支える基盤として機能します。こうした取り組みが、長期的な信頼性と効率性の向上につながります。