調達DXの進め方！失敗しないための4ステップ

会社のDX推進が求められる中で、「調達部門として何から始めればいいのだろう」と悩んでいませんか。調達DXは、ただパソコンやシステムを新しくすることではありません。コストを削減したり、日々の仕事を効率化したりと、会社の経営に直接関わる大切な取り組みです。

この記事では、調達の仕事はベテランでもDXはこれからという方に向けて、調達DXの基本から具体的な進め方、そして成功の秘訣までを、分かりやすく丁寧にご紹介します。

調達DXとは？目的と基本

調達DXを成功させるには、まず「DXって何？」という基本をしっかり理解することが大切です。ここでは調達DXが具体的に何を指していて、なぜ今多くの会社で重要視されているのか、その基本から解説していきます。

調達DXの定義と対象業務領域

調達DXとは、デジタル技術やデータを上手に使って、調達や購買の仕事全体を見直し、会社をさらに良くしていく活動のことです。これまで紙や個人の経験に頼っていた仕事のやり方を変えて、データに基づいた賢い調達部門に生まれ変わることを目指します。

対象となる仕事は新しい取引先を探すことから、見積もりの比較、価格の交渉、発注や契約、そして支払いの管理まで、非常に幅広いです。これらの仕事の流れをデジタル化し、情報を一つにまとめることで、業務は大きく変わっていくでしょう。

調達DXが求められる社会的背景

なぜ今、こんなにも調達DXが必要とされているのでしょうか。その背景には、私たちの周りで起きている社会の変化があります。

一つは働き手が少なくなっていることです。総務省の統計では、女性や高齢者の就労が進んだことにより、生産人口は2024年には6,957万人と増加傾向にあります。しかしこれは一時的な効果であり、2040年には約6,000万人台前半まで減少すると見込まれています。

少ない人数でもこれまで以上の成果を出すためには、仕事の自動化や効率アップが欠かせません。また、海外との取引では、災害や国際情勢など予測できないリスクが増えています。いざという時に困らないよう、取引先の情報をしっかり管理し、リスクに備える体制づくりが急務です。

出典参照：労働力調査（基本集計）2024年（令和６年）平均結果の概要(p.1-60)｜総務省

出典参照：平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容（p.2-12）｜厚生労働省

調達DXで実現する3つの目的

では調達DXを進めると、会社にとってどんないいことがあるのでしょうか。主な目的は、大きく分けて3つあります。

まずコストの削減です。過去の購買データを分析することで、より安く、賢くモノを買えるようになります。次に、仕事の効率アップと属人化の解消です。これまでベテラン社員の経験に頼っていた仕事も、仕組み化することで誰でも高いレベルでこなせるようになります。

最後に、リスクに強い体制づくりです。取引先の情報をデータで管理することで、万が一の時でも安定して調達を続けられるようになり、会社全体の安定経営に繋がります。

調達DX導入のメリット・デメリット

調達DXには多くの良い点がありますが、一方で気をつけておきたい点やリスクもあります。導入を成功させるためには、良い面と注意すべき面の両方をきちんと理解して、事前に対策を考えておくことが非常に大切です。

導入で得られる5つのメリット

調達DXには、主に以下の5つの大きなメリットが期待できます。

• コストの直接的な削減
• 業務の効率化
• 属人化の解消
• コンプライアンスの強化
• データに基づく意思決定

これらは単に個別の効果をもたらすだけではありません。購買データを可視化してコストを削減し、定型業務を自動化して生まれた時間をより戦略的な業務に充てることができます。さらに、業務の属人化を防ぎ、プロセスを透明化してガバナンスを強化することで、最終的にはデータに基づいた的確な経営判断へと繋がっていくのです。

このように、個々のメリットが連鎖的に効果を生み出し、調達部門をコストセンターから企業の利益に貢献する戦略的部門へと変革させます。最終的には、これが企業全体の競争力強化に直結するのです。

事前に知るべきデメリットとリスク

良いことばかりに見える調達DXですが、始める前にはいくつかの注意点も知っておく必要があります。これらをあらかじめ理解しておけば、落ち着いて対応できるはずです。

まず、新しいシステムを導入するには、初期費用や月々の利用料がかかります。どれくらいの費用で、どれくらいの効果が見込めるのか、事前にしっかり計算しておくことが大切です。

また、仕事のやり方が変わるため、現場の社員が戸惑ったり、慣れるまで時間がかかったりするかもしれません。丁寧に説明会を開いたり、相談窓口を設けたりといった配慮が求められます。情報の漏洩などを防ぐための、セキュリティ対策も万全にしておく必要があります。

調達DXの進め方4ステップ

調達DXを成功させるためには、思いつきで進めるのではなく、計画を立てて順番に進めていくことが大切です。ここでは、具体的な進め方を4つのステップに分けて解説します。この手順に沿って進めれば、失敗のリスクをぐっと減らせるでしょう。

ステップ1:現状分析と目標設定

まず、今の調達業務がどうなっているのかを正確に知ることから始めます。誰がどんな作業にどれくらい時間をかけているのか、どんな書類を使っているのかをすべて洗い出し、課題を見つけ出します。

次に、その課題を解決した「あるべき姿」を想像し、具体的な目標を立てます。この時、「コストを10%削減する」のように、誰が見ても達成できたかどうかが分かる数字の目標（KPI）にすることが、非常に重要です。ここでの分析が曖昧だと、後々の計画全体がずれてしまうため、時間をかけて丁寧に行いましょう。

ステップ2:推進体制の構築と業務設計

目標が決まったら、プロジェクトを推進するためのチームを作ります。調達部門だけでなく、経営層や情報システム部門、そして実際にシステムを使う現場の担当者など、いろいろな部署の人を巻き込むことが成功の秘訣です。

そして、設定した目標を達成するために、新しい仕事の進め方をデザインします。今のやり方にこだわらず、どうすれば一番効率的かを考え、現場の意見も聞きながら、みんなが納得できる新しい業務フローを作り上げていきましょう。関係者全員が「自分ごと」としてプロジェクトを捉えられるような体制づくりが、成功への近道です。

ステップ3:ツールの選定と導入

新しい仕事の進め方が決まったら、それを実現するためのITツールを選びます。ここで大切なのは、ツールを導入すること自体が目的にならないようにすることです。あくまで、自分たちの課題を解決するための道具として、最適なものを選びます。

複数のツールを比較して、操作のしやすさやサポート体制、費用などを総合的に判断しましょう。導入する際は、まずは一部の部署で試してみて、効果を確認しながら少しずつ広げていくのが安全で確実な方法です。焦って多機能なツールを選んでしまうのではなく、自社の課題解決に本当に必要な機能を見極めることが肝心です。

ステップ4:効果測定と継続的な改善

システムを入れたら終わり、ではありません。ここからが本当のスタートです。導入後は、最初に立てたKPIをもとに、定期的に効果が出ているかをチェックします。もし思ったような効果が出ていなければ、その原因を探して改善策を考えます。例えば、システムの使い方が難しいなら研修会を開くなど、状況に応じて対応します。

このように、計画、実行、評価、改善のサイクルを回し続けることで、調達DXの効果をどんどん高めていくことができます。DXは一度導入して終わりではなく、育てていくものだと考えることが、成功を持続させる秘訣です。

調達DXでよくある失敗と対策

多くの会社が調達DXに挑戦していますが、残念ながら期待した成果が出ずに終わってしまうこともあります。成功するためには、他の会社がどのような失敗をしたのかを知り、同じ間違いを繰り返さないようにすることが大切です。

失敗例1:目的の形骸化

一番よくある失敗は、「DXをやること」そのものがゴールになってしまうことです。上から「DXを進めなさい」と言われ、何のためにやるのかを深く考えないまま、とりあえずシステム導入に走ってしまうと、現場の実態に合わず、結局は使われないシステムだけが残ってしまいます。明確なゴールがなければ、そもそもプロジェクトが成功したのか失敗したのかさえ判断できなくなってしまいます。

これを防ぐには、プロジェクトの最初に「なぜDXをやるのか」という目的を、関係者全員でしっかり共有することが何よりも重要です。

失敗例2:現場部門の反発

仕事のやり方が変わることに対して、現場の社員から「今のままで十分だ」「新しいことを覚えるのは大変だ」といった声が出るのは、ごく自然な反応です。推進チームにとってはメリットに見えても、現場の担当者にとっては日々の負担が増えるだけだと感じられてしまうのです。

この気持ちを無視して無理やり進めると、現場が協力的でなくなり、せっかくのシステムが使われない原因になります。計画の段階から現場の意見をよく聞き、DXによって仕事がどう楽になるのかを丁寧に説明して、仲間になってもらう努力が欠かせません。

失敗例3:ツール導入が目的化

「このすごいツールを入れれば、うちの会社も変わるはずだ」と、ツールに期待しすぎてしまうのも、よくある失敗パターンです。しかし、どんなに優れたツールでも、会社の課題や仕事のやり方に合っていなければ、その力は発揮されません。高価で多機能なシステムを導入したものの、実際に使う機能はごく一部で、ほとんどの機能が無駄になってしまうケースが後を絶ちません。

大切なのは、まず「自分たちの仕事のやり方をどう変えたいか」を先に考え、それを実現するための手段としてツールを選ぶ、という順番を守ることです。

調達DXツールの種類と選び方

調達DXを進める上で、自分たちの会社にぴったりのITツールを選ぶことは非常に大切です。ここでは、代表的なツールの種類と、どうやって選べば良いのか、そのポイントを分かりやすく解説します。

購買管理システム

購買管理システムは、主に文房具や備品といった、製品の材料ではない「間接材」を買う時の手続きを、まとめて管理してくれるツールです。各部署からの購入依頼や上司の承認、発注から支払いまでを、すべてシステム上で行えるようになります。

これを導入すると、誰がいつ何を買ったのかがはっきり分かり、無駄な買い物を防ぐことができます。会社のルールを守ることにも繋がり、経営の透明性を高める効果も期待できるでしょう。

見積もり査定システム

見積もり査定システムは、特に製造業などで使う部品や材料、専門的な工事などの見積もりを、効率良く、そして適正に行うためのツールです。複数の会社にまとめて見積もりを依頼し、集まった見積もりを同じ条件で比べることができます。

これまでは担当者の経験に頼りがちだった価格の判断を、データに基づいて客観的に行えるようになるため、より有利な条件で取引を進められるようになります。コスト削減に直接繋がる、非常に強力なツールです。

サプライヤー管理システム

サプライヤー管理システムは、取引のある会社（サプライヤー）に関する情報を、一つにまとめて管理するためのツールです。会社の基本情報や契約内容、これまでの取引実績や評価などを、いつでも誰でも見られるようにします。

これにより、新しいプロジェクトに最適な取引先をすぐに見つけたり、特定の会社に頼りすぎていないかチェックしたりすることができます。安定した取引関係を築き、リスクに強い会社になるために役立ちます。

自社に合うツールの選定ポイント

たくさんのツールの中から、本当に自社に合うものを選ぶには、いくつかの視点からチェックすることが大切です。

まず、自分たちが一番解決したい課題を解決できる機能があるかどうか。次に、今使っている会計システムなどと、うまく連携できるかも重要です。また、パソコンが苦手な人でも使いやすいか、困った時に助けてくれるサポート体制はしっかりしているかも確認しましょう。そしてもちろん、費用と効果が見合っているかも、慎重に判断する必要があります。

調達DXの成功事例

ここでは、実際に調達DXに挑戦し、素晴らしい成果を上げている会社の事例を見ていきましょう。他の会社がどのように成功したかを知ることで、自社で取り組む際の具体的なヒントが見つかるはずです。

株式会社イワサキ｜調達DXで年間100万円の在庫コスト削減

プラスチック製品メーカーの株式会社イワサキは、在庫管理の課題を解決するために、クラウド型生産管理システム「L-DX」を導入しました。以前は必要な部品の数が正確に分からず、在庫が多すぎたり、逆に足りなくなったりすることが問題でした。

システム導入後は正確な需要予測ができるようになり、無駄な在庫を持つ必要がなくなりました。その結果、在庫を保管・管理するためのコストを年間で100万円も削減することに成功したのです。さらに、欠品を防ぐことで、お客様を待たせることなく製品を届けられるようにもなりました。

出典参照：株式会社イワサキ　生産管理SaaS導入で100万円の在庫コスト削減や業務時間の削減に成功｜株式会社イワサキ

名古屋鉄道｜購買システムDXで取引の90%以上を電子化し業務効率化

大手私鉄の名古屋鉄道株式会社は、間接材の購買業務を効率化するため、JFEシステムズが提供する購買システム「SIDEROS-EC」を導入しました。これまでは紙の伝票を使ったやり取りが中心で、承認や支払い処理に多くの手間と時間がかかっていました。

このシステムによって、購買に関する一連の手続きがデジタル化され、取引の90%以上がペーパーレスになりました。これにより、伝票の処理や保管といった作業がなくなり、調達部門だけでなく、各現場の業務負担も大幅に軽くなったのです。購買データが見える化されたことで、会社全体のコスト意識も高まりました。

出典参照：名古屋鉄道の工事・購買在庫管理システム構築事例を公開｜名古屋鉄道株式会社

明日から始める調達DX成功への第一歩

この記事では、調達DXの進め方を基本から解説しました。調達DXは、企業の競争力を高め、成長を続けるために不可欠な経営戦略です。壮大な計画に感じるかもしれませんが、大切なのは完璧を目指すのではなく、まずは小さな一歩を踏み出すことです。

明日からできることは、まずあなたの部署の業務を見渡し、「この作業は非効率ではないか？」と同僚と話し合ってみること。その小さな課題認識こそが、大きな変革を生む始まりとなります。この記事が、あなたの会社が成功への第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。