医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」の概要

「医療DXのロードマップや導入ステップを知りたい」

「国や自治体が示す医療DXの方針を理解したい」

「医療DXの推進に必要なシステムや技術を把握したい」

医療DXのロードマップを把握したいと考える方のなかには、上記のような考えをお持ちの方もいるのではないでしょうか。

医療DXのロードマップである「医療DX令和ビジョン2030」は厚生労働省を中心に進められています。この記事では、令和ビジョン2030の基本知識から具体的な取り組みを網羅的に解説します。

ロードマップに対応できる医療DXツールの選び方や、医療DXを成功させるための院内体制の作り方もご紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」とは？

医療DXのロードマップ「令和ビジョン2030」について解説します。

「医療DX令和ビジョン2030」の定義と目的

「医療DX令和ビジョン2030」とは、厚生労働省が日本の医療をデジタル技術でより良くするために作った計画です。この計画の目的は、国民一人ひとりが全国どこにいても質の高い医療を受けられる社会の実現です。

この目的を達成するために、マイナンバーカードを健康保険証として活用する、病院ごとにバラバラだった電子カルテの形式を全国で統一するなどの取り組みが進んでいます。

「医療DX令和ビジョン2030」は、患者さんの情報を安全に共有できる仕組みを整えるのと、医療従事者の働き方を効率化し、地域全体の医療サービスを強化する重要な取り組みです。

出典参照：「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム｜厚生労働省

医療DXのロードマップである「医療DX令和ビジョン2030」が提言された理由

「医療DX令和ビジョン2030」が提言された理由は、少子高齢化や医療情報の分断など、日本の医療が抱える課題を解決するためです。

現在、日本では高齢者の増加にともない医療費も増加している一方、社会を支える働き手が減少しています。

以下は、国民医療費・対国内総生産比率の年次推移です。

出典参照：令和４（2022）年度国民医療費の概況国民医療費の状況結果の概要｜厚生労働省

以下は、労働力人口・就業者数の推移です。

出典参照：第1章社会保障を支える人材を取り巻く状況　図表1-1-1労働力人口・就業者数の推移｜厚生労働省

また、従来は病院ごとに患者さんの情報がバラバラに管理されており、必要な情報がすぐに共有できないといった問題がありました。とくに新型コロナウイルスの流行は、医療現場のデジタル化の遅れを顕在化させました。

少子高齢化による働き手の不足や患者さんに関する情報の分散、デジタル化の遅れといった問題を乗り越えるため、「医療DX令和ビジョン2030」は国全体の設計図として必要です。

医療DXと医療ICTの違い

医療ICTと医療DXの違いは、ICTが個別のデジタル技術を指すのに対し、DXはその技術を使って医療全体の仕組みや体験を根本から変える点です。

具体例として、紙のカルテを電子カルテに置き換える、オンラインで診察をおこなうのが医療ICTにあたります。

一方の医療DXは、電子カルテやオンライン診療などの医療ICTツールを活用して集まった情報を分析し、新しい予防法の考案や医療スタッフの働き方改善につなげる取り組みです。

医療ICTが便利な道具そのものだとした場合、医療DXはその道具を使って社会の仕組みを変える活動全体を意味します。

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」を推進する「3つの柱」

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」を推進する柱は、以下の3つです。

1. 全国医療情報プラットフォームの創設
2. 電子カルテ情報の標準化
3. 診療報酬改定DX

1つずつ解説します。

①全国医療情報プラットフォームの創設

全国医療情報プラットフォームとは、全国の医療機関で必要な医療情報を、オンライン上で安全に共有するための仕組みです。全国医療情報プラットフォームの仕組みが創設された場合、患者さんの同意のもと、どの病院にかかっても過去の診療情報やアレルギー歴などを正確に確認できます。また、救急時や災害時でも迅速で安全な医療提供が可能です。

全国医療情報プラットフォームの創設は、いつでもどこでも国民1人ひとりに合った医療を届けるための取り組みといえます。

出典参照：全国医療情報プラットフォームの全体像（イメージ）｜厚生労働省

②電子カルテ情報の標準化

電子カルテ情報の標準化とは、現在病院ごとに形式が違う電子カルテの記録様式を、国が定めた共通のルールに統一していく取り組みです。従来のやり方は、医療機関ごとに違う言語で日記を書いているような状態であり、各医療機関での情報の交換が困難でした。

電子カルテ情報を標準化した場合、どの病院でも患者さんの過去の傷病名や服用薬剤、検査の項目などのデータを正確に読み取れます。

電子カルテ情報の標準化実現は、全国医療情報プラットフォームがしっかり機能し、安全で質の高い医療の提供につなげるうえで重要な取り組みです。

出典参照：電子カルテ情報共有サービスについて電子カルテ情報共有サービスの概要｜厚生労働省

③診療報酬改定DX

診療報酬改定DXとは、2年ごとにおこなわれる診療報酬の改定作業を、デジタル技術で効率化する取り組みです。これまでは改定のたびに、各病院やシステム会社が手作業で膨大な更新作業をおこなっており、医療従事者の負担になっていました。診療報酬改定DXでは、この負担を減らすため、国が提供する共通の計算ルールをもとに、システムの自動更新を目指します。

診療報酬改定DXは、医療機関の事務作業にかかる負担を軽減し、より安全で質の高い医療サービスの提供に集中できる体制を整えるのに役立ちます。

出典参照：令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】｜厚生労働省保険局医療課

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」がもたらすメリット

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」がもたらすメリットは、以下の9つです。

• 待ち時間が短縮されて通院しやすくなる
• 全国の医療機関で情報が共有されて医療提供の安全性が向上する
• オンライン診療でどこにいても専門医につながれる
• 事務作業の自動化でスタッフの負担が軽減できる
• データにもとづく質の高い医療で患者さんからの信頼が高まる
• コスト削減と診療報酬加算で経営が安定する
• 医療費の伸びを抑制し社会保障制度を維持できる
• 感染症危機への迅速な対応が可能になる
• 医療データの活用で新しい治療法や創薬を促進する

患者側のメリット

患者側のメリットは、以下の3つです。

• 待ち時間が短縮されて通院しやすくなる
• 全国の医療機関で情報が共有されて医療提供の安全性が向上する
• オンライン診療でどこにいても専門医につながれる

1つずつご紹介します。

待ち時間が短縮されて通院しやすくなる

待ち時間短縮は、患者さんの負担を軽減し、継続的な通院につながりやすいです。

医療DXの促進でWeb予約やマイナ保険証を活用し、オンラインで予約や会計を済ませられるようになると、待ち時間を短縮できます。

医療DXのWeb予約やWeb問診、マイナ保険証、自動精算機などを積極的に活用し、待ち時間短縮に役立てましょう。

全国の医療機関で情報が共有されて医療提供の安全性が向上する

全国の医療機関で電子カルテ情報が共有されると、重複した検査や、危険な薬の飲み合わせ防止になり、医療の安全性を向上できます。たとえば、救急搬送された際にも、医師が患者さんの過去の病歴やアレルギー情報を即座に把握可能です。

全国の医療機関で電子カルテ情報の共有ができると、迅速で的確な診断と治療が可能となり、医療ミスを減らす効果が期待できます。

自分の健康情報を専門家が正確に把握できる体制は、患者さんにとってメリットです。

オンライン診療でどこにいても専門医につながれる

オンライン診療が普及すると、都市部から離れた場所に住んでいても、自宅から専門医の診察を受けられます。また、医療へのアクセス改善は、地域による医療レベルの差をなくすのにも役立ちます。遠方の専門病院への通院が困難だった高齢者や、仕事で忙しい方でも質の高い医療を受けやすいです。

オンライン診療の普及は、誰もが地理的な制約を受けずに、必要な医療を受けられる社会実現に必要な取り組みです。

医療機関側のメリット

医療機関側のメリットは、以下の3つです。

• 事務作業の自動化でスタッフの負担が軽減できる
• データにもとづく質の高い医療で患者さんからの信頼が高まる
• コスト削減と診療報酬加算で経営が安定する

それぞれご紹介します。

事務作業の自動化でスタッフの負担が軽減できる

医療DXを進めると、これまで人の手でおこなっていた受付や会計、カルテ入力といった業務がシステムで効率化できるため、スタッフの負担軽減につながります。とくに、Web予約や自動受付精算機は、窓口業務の軽減に効果的です。

医療DXで業務が自動化すると、スタッフは患者さんのケアやサポートなど、専門的な仕事に集中できる時間が増えるため、スタッフの満足度向上にも結びつきます。

データにもとづく質の高い医療で患者さんからの信頼が高まる

医療DXによって、集まったデータを活用すると、より質の高い医療を提供できるのがメリットです。電子カルテに蓄積されたたくさんの診療情報をAIで分析し、1人ひとりの患者さんに合った治療法を見つけ出せます。

医師の経験だけに頼るのではなく、客観的なデータをもとにした診断をおこなえるため、治療の正確性を向上できます。

医療DXによる精度の高い医療は、患者さんの安心感につながり、病院への信頼を深めるうえで重要です。

コスト削減と診療報酬加算で経営が安定する

医療DXは、コスト削減と診療報酬加算の両面から病院の経営を安定させるのに役立ちます。紙のカルテやレントゲンフィルムを電子データとして管理すると、印刷代や保管スペースにかかっていた費用を削減可能です。

また、国は医療DXを積極的に後押ししており、オンライン資格確認システムの導入といった決められた条件を満たした医療機関には、診療報酬が上乗せされる仕組みがあります。

医療DXの促進によるデジタル化でコスト削減と、診療報酬加算の活用による収入で経営基盤を強化しましょう。

社会全体のメリット

社会全体にもたらされるメリットは、以下の3つです。

• 医療費の伸びを抑制し社会保障制度を維持できる
• 感染症危機への迅速な対応が可能になる
• 医療データの活用で新しい治療法や創薬を促進する

1つずつ見ていきましょう。

医療費の伸びを抑制し社会保障制度を維持できる

医療DXは、増え続ける国民医療費を抑え、日本の社会保障制度を守るのに役立ちます。病院の業務効率化や電子カルテの普及による重複した検査と投薬防止は、医療全体のコスト削減につながります。

少子高齢化が進む日本において、限られた医療資源を有効に使うのは重要な姿勢です。医療DXを促進し、誰もが安心して医療を受けられる国民皆保険制度を未来の世代に残しましょう。

感染症危機への迅速な対応が可能になる

医療DXを進めると、新たな感染症が流行した際に、国全体で素早く対応できます。医療DXの促進で、全国の医療機関の情報を連携させる仕組みを整えられるため、どこで感染が広がっているかや、どの病院に空きベッドがあるかをリアルタイムで把握可能です。この情報をもとに、新たな感染症の流行にも、対応・対策できる体制づくりができます。

医療DXの促進は、国民の命と健康を守るための強力な社会インフラといえます。

医療データの活用で新しい治療法や創薬を促進する

全国の医療機関から集めた医療データを活用し、新しい治療法や薬の開発を加速させられるのが医療DXのメリットです。

たとえば、患者さんの個人情報がわからないように情報を加工したうえで、研究機関がビッグデータとして利用するといった例が挙げられます。

医療DXの促進で集めたデータの活用で、国民の健康寿命を延ばし、難病に苦しむ人々を救う未来に役立てましょう。

出典参照：健康医療データの利活用について｜厚生労働省

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」で変わる具体的な医療サービス

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」で変わる具体的な医療サービスは、以下の3つです。

• 【オンライン資格確認マイナ保険証】受付がスムーズになる
• 【電子処方箋】薬の受け取りが便利で安全になる
• 【電子版お薬手帳】自分の薬をスマホで管理できる

1つずつご紹介します。

【オンライン資格確認マイナ保険証】受付がスムーズになる

オンライン資格確認は、マイナンバーカードを保険証として利用し、病院の受付をスムーズにする仕組みです。専用のカードリーダーでマイナンバーカードを読み取ると、健康保険の資格がその場ですぐに確認できます。

受付での本人確認の手間が省け、医療機関側の入力ミスも防げるのがメリットです。また、本人の同意があれば、過去のお薬の情報や健診結果などを医師と共有できます。

オンライン資格確認の導入により、より正確な情報をもとにした適切な診療につながります。

【電子処方箋】薬の受け取りが便利で安全になる

電子処方箋は、これまで紙で発行されていた処方箋をデジタルデータで管理し、薬の受け取りを便利で安全にする仕組みです。医療機関から薬局へ処方箋情報がオンラインで送られるため、薬局での待ち時間短縮や処方箋の紛失防止が期待できます。

また、電子処方箋では複数の病院や薬局で処方された薬の情報を一元管理できるため、同じ薬の重複や危険な飲み合わせ防止にも効果的です。

電子処方箋は、患者さんの利便性と医療の安全性を向上させる取り組みです。

【電子版お薬手帳】自分の薬をスマホで管理できる

電子版お薬手帳は、スマートフォンアプリを使い、自分が飲んでいる薬の情報を手軽に管理できるサービスです。電子版お薬手帳の情報を医師や薬剤師に見せると、薬の重複やアレルギー、副作用のリスクを避けるのに役立ちます。

また、電子版お薬手帳には、いつでもどこでも服薬履歴を確認でき、飲み忘れを防ぐアラーム機能も備わっています。

電子版お薬手帳の活用により、災害時や旅行先で急に体調を崩した際でも、正確な服薬情報をすぐに伝えられるため、いつでもどこでも精度の高い医療提供が可能です。

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」の推進スケジュール

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」の推進スケジュールは、以下の3つです。

• 電子処方箋を普及させる
• 電子カルテの情報共有サービスを拡大する
• 2030年までの電子カルテ普及目標

それぞれ詳しく見ていきましょう。

電子処方箋を普及させる

電子処方箋は、2025年を目安にほとんどの医療機関や薬局で使えるようにするのを目標に普及が進められています。2023年1月から本格的な運用が始まり、全国の病院や薬局で順次導入がおこなわれています。

国は補助金で電子処方箋の導入を後押ししているため、誰もが安心して利用できる環境づくりを進めるのに役立てましょう。

出典参照：電子処方箋の現況と令和７年度の対応｜厚生労働省

電子カルテの情報共有サービスを拡大する

電子カルテに記録された診療情報を、全国の医療機関で共有するためのサービス拡大が計画されています。2024年度以降、この「全国医療情報プラットフォーム」という仕組みの運用が本格化していく予定です。

電子カルテの情報共有サービスを全国に拡大し、迅速で質の高い医療提供を実現しましょう。

出典参照：電子カルテ情報共有サービスにおける運用について｜厚生労働省

2030年までの電子カルテ普及目標

政府は、2030年までに全国の医療機関の90%以上へ電子カルテを普及させるという高い目標を掲げています。とくに導入が遅れがちな中小規模の病院やクリニックへの支援を強化し、全国的なデジタル化を目指す計画です。

以下は、電子カルテ等の普及状況の推移です。

出典参照：電子カルテシステム等の普及状況の推移 ｜厚生労働省

また、電子カルテを導入するだけでなく、全国にある医療機関の60%以上が全国医療情報プラットフォームに参加し、データを共有する状態を目標としています。

医療DXロードマップの推進で活用できる費用支援制度

医療DXロードマップの推進で活用できる費用支援制度は、以下の3つです。

• 【医療DX推進体制整備加算】体制整備を評価する
• 【医療情報取得加算】情報活用を評価する
• 【国や自治体の補助金】導入コストを軽減する

1つずつご紹介します。

【医療DX推進体制整備加算】体制整備を評価する

医療DX推進体制整備加算は、オンライン資格確認や電子処方箋など、医療DXの基盤となる体制を整えた医療機関を評価する診療報酬です。この加算は、決められた条件を満たしたうえで、初診の患者さんに対して月に1回算定できます。

医療DX推進体制整備加算を受けるには、オンライン資格確認を導入し、その情報を活用する体制があることや、電子処方箋を発行する準備が整っていることが条件です。

医療DX推進体制整備加算は、医療機関がデジタル化へ積極的に取り組むのを促し、患者さんが質の高い医療を受けられる環境づくりを目指しています。

出典参照：医療DX推進体制整備加算及び在宅医療ＤＸ情報活用加算の見直し｜厚生労働省

出典参照：医療ＤＸ推進体制整備加算等の要件の見直しについて｜厚生労働省

【医療情報取得加算】情報活用を評価する

医療情報取得加算は、オンライン資格確認システムを使って患者さんの薬剤情報や特定健診情報を取得し、診療に活かした場合に算定できる診療報酬です。マイナンバーカードを保険証として利用した場合と、従来の保険証を使った場合で点数が異なります。

マイナ保険証のほうがより多くの情報を正確に取得できるため、医療情報取得加算において高く評価されるのを覚えておきましょう。

出典参照：医療DX推進体制整備加算医療情報取得加算の見直しについて｜厚生労働省保険局医療課

【国や自治体の補助金】導入コストを軽減する

国や自治体は、医療機関がDXを進める際の初期費用を軽減するため、さまざまな補助金制度を用意しています。オンライン資格確認システムの導入には、顔認証付きカードリーダーの購入費や、既存システムの改修費などが必要です。これらの費用の一部を国が補助する制度があり、社会保険診療報酬支払基金が窓口となっています。

国や自治体の支援を活用すると、中小規模のクリニックでも費用面の負担を抑えながらデジタル化を進められます。

出典参照：社会保険診療報酬支払基金医療機関等向け総合ポータルサイトはこちら

【お悩み別】ロードマップに対応できる医療DXツールの選び方

医療DXツールを選ぶ際に悩むケースは、以下の3つです。

• 受付の混雑と人手不足を解決したい場合
• 院内の情報共有を円滑にし医療の質を高めたい場合
• 国の施策に確実に対応し診療報酬も得たい場合

お悩み別に解説します。

受付の混雑と人手不足を解決したい場合

受付の混雑や人手不足を解決したいなら、Web予約システムやWeb問診、オンライン資格確認の導入が効果的です。これらのツールは、患者さんが来院する前に予約や問診入力を済ませられるため、受付窓口での業務を減らせます。

電話対応や保険証の確認・手入力といった時間がかかる作業も少なくなるため、少人数体制でもスムーズに対応でき、患者さんの待ち時間短縮にもつながります。

院内の情報共有を円滑にし医療の質を高めたい場合

院内の情報共有を円滑にして医療の質を高めたい場合は、クラウド型の電子カルテがおすすめです。従来の院内にサーバーを置くタイプと違い、クラウド型はインターネット経由でいつでもどこでも最新情報にアクセス可能です。

医師や看護師、事務スタッフなどがリアルタイムで情報を共有できるため、伝達ミスを防ぎ、質の高いチーム医療の実現に役立ちます。

国のロードマップでも、将来的な情報共有の基盤としてクラウド型の標準的な電子カルテが推進されています。

国の施策に確実に対応し診療報酬も得たい場合

国の施策へ確実に対応して診療報酬の加算も得たい場合、オンライン資格確認と電子処方箋に対応したシステムの導入が最優先です。オンライン資格確認と電子処方箋の普及は国の医療DXロードマップの中心となる施策であり、オンライン資格確認と電子処方箋を導入すると医療DX推進体制整備加の対象となります。

システムの導入には費用がかかりますが、医療情報化支援基金といった補助金も活用できるため、負担を抑えながら国の基準に対応が可能です。

出典参照：サービス等生産性向上IT導入支援事業『IT導入補助金2025』の概要｜経済産業省

医療DXを成功させるための院内体制の作り方

医療DXを成功させるための院内体制の作り方は、以下の3つです。

• 経営層が中心となり明確なビジョンを示す
• 部門横断的なDX推進チームを設置する
• 現場スタッフを巻き込み全院的な協力体制を築く

1つずつ解説します。

経営層が中心となり明確なビジョンを示す

医療DXを成功させるには、まず院長や経営層が中心となり、明確なビジョンを院内全体に示すのが重要です。経営層が本気で取り組む姿勢を見せると、組織全体の理解と協力が得やすいため、新しい取り組みもスムーズに進みます。

「なぜDXに取り組むのか」「どんな病院を目指すのか」といった目的をはっきりとさせ、全スタッフに共有しましょう。

部門横断的なDX推進チームを設置する

医療DXを効果的に進めるためには、医師や看護師、事務、IT担当者など、さまざまな部署のメンバーを集めた推進チームを設置するのが有効です。医療現場は専門性の高い部署が連携して動いているため、チームを部門横断的に編成すると、多角的な視点から課題を検討できます。

また、各部署の意見を集約しやすくなり、実際の業務に合わないツールを選んでしまう失敗も防げます。

現場の実情に合った医療DXの計画を立てて推進するのに、部門横断的なチームは重要な存在です。

現場スタッフを巻き込み全院的な協力体制を築く

医療DXを成功させる体制をつくるには、現場のスタッフを巻き込み、協力を得るのが大切です。医療DXの主役は、実際に現場でツールを使う医師や看護師、事務スタッフなどの職員であるため、現場の声を計画に反映させる姿勢は欠かせません。

新しいシステムを導入する前に説明会や意見交換の場を設け、「使い方が難しそう」といった不安や疑問に丁寧に答えると、職員の抵抗感を和らげられます。

医療DXを進める前に説明会や意見交換を通して、全員で取り組んでいくという意識が共有できた場合、システム導入後の定着もスムーズに進み、全院的な協力体制が築けます。

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」に沿った事例

医療DXのロードマップ「医療DX令和ビジョン2030」に沿った事例は、以下の3つです。

• 電子カルテの導入で業務負担を軽減｜児玉経堂病院
• 電子カルテシステムとオンライン資格確認の連携で患者さんにより良い医療を提供｜あかいしクリニック
• 電子処方箋の導入で重複投薬等チェックによる過剰投与のリスク軽減｜吉川クリニック

それぞれ詳しく見ていきましょう。

電子カルテの導入で業務負担を軽減｜児玉経堂病院

児玉経堂病院では、電子カルテの導入によってスタッフの業務負担を軽減しています。以前は紙カルテの保管や検索に多くの時間を費やしていましたが、電子化によってその手間がなくなりました。

電子カルテにより、医師や看護師などの専門スタッフがいつでも同じ情報を確認できるため、会議の準備時間が短縮され、チームでの医療もスムーズにおこなえるようになりました。

電子カルテを導入した結果、スタッフの残業時間も減り、働きやすい環境づくりにつながっています。

出典参照：児玉経堂病院様 | 導入事例「病院編」| メディコム | ウィーメックス株式会社（旧PHC株式会社）

電子カルテシステムとオンライン資格確認の連携で患者さんにより良い医療を提供｜あかいしクリニック

あかいしクリニックでは、オンライン資格確認システムを積極的に活用し、患者さんにより良い医療を提供しています。マイナンバーカードによる資格確認で受付業務を効率化するだけでなく、オンライン資格確認で得た情報を電子カルテと連携させ、より的確な診断や処方に役立てています。

その結果、患者さんとの対話や信頼関係の構築につながり、医療の質の向上を実現しました。

出典参照：医療機関等向け総合ポータルサイト導入事例紹介｜オンライン資格確認事例｜医科診療所｜あかいしクリニック様｜厚生労働省

電子処方箋の導入で重複投薬等チェックによる過剰投与のリスク軽減｜吉川クリニック

吉川クリニックでは、電子処方箋を導入し、薬の重複や飲み合わせによるリスクの軽減に役立てています。電子処方箋により、ほかの病院で処方された薬も含めて、患者さんが飲んでいる薬の情報を正確に把握することが可能です。これにより、重複服用や飲み合わせの悪い薬の処方を防いでいます。

患者さんの安全を守るための重要な取り組みであり、医療の安全性を高める医療DXの好事例です。

出典参照：医療機関等向け総合ポータルサイト導入事例紹介｜電子処方箋事例｜医科診療所｜吉川クリニック様｜厚生労働省

【まとめ】医療DXのロードマップで未来へ向けた準備を始めよう

医療DXは、今後の医療機関の運営に欠かせない重要な取り組みであり、国のロードマップを理解して準備を始めるのが大切です。

医療DXは患者さんだけでなく医療機関や社会全体にさまざまなメリットをもたらします。具体的には、待ち時間の短縮や業務の効率化、医療格差の是正が挙げられます。

医療DXを推進するうえで大切なのは、まず自分たちのクリニックの課題を整理し、何から始めるべきかを見極める姿勢です。国の支援制度を上手に活用しながら、段階的に進めていきましょう。