医療DXで業務をクラウド化するメリットとデメリットを紹介

「医療DXの促進においてクラウド型電子カルテや予約管理システムの導入を検討している」

「医療DXで院内サーバーの運用負担やコストを軽減したい」

「医療DXを進めるにあたり、クラウドを活用する具体的な方法や事例を知りたい」

医療DXを促進し、院内をクラウド化したいと考えている方のなかには上記のようなお悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。

医療DXのクラウド化できるシステムは、電子カルテや医事会計システム、オンライン予約などさまざまです。この記事では、医療DXの促進で院内のシステムをクラウド化するメリットや、導入する際のステップを解説します。

医療DXでクラウド化に成功した事例や、クラウドを導入する前に知っておきたいガイドラインもご紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

医療DXにおけるクラウド化について

以下で、医療DXにおけるクラウド化の基礎知識を解説します。

医療DXにおけるクラウド活用とは

医療DXでのクラウド活用とは、電子カルテなどの情報を院内ではなく、インターネット上の安全な場所で管理・共有する仕組みです。院内に高価なサーバーを置く必要がないため、初期費用や保守の手間を抑えられます。災害時でもデータが安全に保たれ、ほかの病院や介護施設との情報連携もスムーズにおこなえるのがメリットです。

医療DXにおけるクラウド化は、国の進める医療情報プラットフォームの基盤となる技術です。

クラウドと院内サーバー(オンプレミス)との違い

クラウドと院内サーバー(オンプレミス)の違いは、サーバーを「自前で持つか、レンタルするか」に例えられます。オンプレミスは、院内にサーバー機器を設置・管理する方法で、自由に設定変更できますが、導入費用や維持費が高額です。

一方のクラウドは、専門業者が管理するサーバーをインターネット経由で利用する仕組みのため、初期費用を抑えられます。クラウドは院内サーバーとは異なり、専門家に保守を任せられるのが特長です。

クラウドの3つの提供形態(SaaS・PaaS・IaaS)

クラウドの提供形態は、以下の3種類に分類されます。

  • 完成品のソフトウェアを利用するSaaS(サース)
  • アプリを開発するための土台を提供するPaaS(パース)
  • サーバーのITインフラそのものを借りるサービスのIaaS(イアース)

例として、SaaSはクラウド版の電子カルテで活用されています。PaaSは、AI診断アプリの開発基盤に使われ、IaaSは、医療データの保管場所として利用可能です。

医療業界が抱える従来の院内サーバー(オンプレミス)の課題

医療業界における従来の院内サーバーが抱える課題は、以下の3つです。

  • IT専門家の人材不足と情報システム部門の負担が増加する
  • 地震や水害による「データ消失」のリスクがある
  • 院内や他院との情報連携が困難である

それぞれご紹介します。

IT専門家の人材不足と情報システム部門の負担が増加する

院内サーバー(オンプレミス)は、維持管理に専門知識が必要なため、IT人材の不足が深刻な医療機関では担当者の負担が増え続けているのが課題です。院内サーバーの場合、日々のセキュリティ対策や、システムに不具合が起きた際の対応など、すべてを院内スタッフだけでおこなわなければなりません。

医療とITの両方に詳しい人材は限られており、結果として少数の担当者に業務が集中してしまいます。

地震や水害による「データ消失」のリスクがある

院内サーバーは、建物が地震や水害などの被害を受けると、機器ごと破損して大切な医療データがすべて失われるリスクがあります。日本はとくに自然災害が多いため、物理的なデータ消失のリスクは、常に考慮しなければならない課題です。

もし電子カルテの情報がなくなった場合、患者さんの治療を継続するのが困難になりかねません。そのため、院内サーバーを利用する場合は、BCP(事業継続計画)の観点でも対策が求められます。

院内や他院との情報連携が困難である

院内サーバーは、外部と遮断された閉じた環境で運用されるため、ほかの病院や介護施設とのスムーズな情報連携が困難なのが課題です。国が推進する、地域全体で患者さんの情報を共有する「地域医療連携」の実現において、ほかの病院との情報連携が困難な状態は目標達成の障壁となります。

在宅医療やオンライン診療など、院外との連携が重要になるなかで、院内サーバーといった院内だけで情報が完結する仕組みでは対応が困難です。

医療DXでクラウドを活用する5つのメリット

医療DXでクラウドを活用するメリットは、以下の5つです。

  • 情報へのアクセス・共有がしやすくなる
  • サーバー管理費をはじめとするコストを削減できる
  • スタッフの業務負担を減らして効率化できる
  • セキュリティを強化できる
  • 災害時にも診療を継続できるBCP強化につながる

1つずつ見ていきましょう。

情報へのアクセス・共有がしやすくなる

クラウドの活用において、場所を選ばずに必要な医療情報へアクセスし、共有しやすくなるのがメリットです。場所を選ばず情報へのアクセス・共有が可能になると、医師は訪問診療先でも院内の電子カルテを確認できます。また、地域の病院や介護施設と患者さんの情報をスムーズに共有できるため、より質の高いチーム医療の実現につながります。

医療DXによるシステムのクラウド化は、国の進める医療情報プラットフォームの考え方を支える重要な技術です。

サーバー管理費をはじめとするコストを削減できる

クラウドを活用すると、院内に高価なサーバー機器を設置する必要がなくなり、導入時の初期費用や管理コストを削減できます。サーバーの購入費だけでなく、日々の保守や定期的な機器更新にかかる費用も不要です。

また、専門のIT担当者を自院で雇用する必要がなくなるため、人件費の抑制にもつながります。医療DXにおけるクラウド化は、とくにIT人材の確保が困難な中小規模のクリニックにとってメリットです。

スタッフの業務負担を減らして効率化できる

クラウドサービスは、院内の情報共有をスムーズにし、スタッフの業務負担を軽減してくれます。結果、伝達ミスや確認作業の手間が減り、スタッフは患者さんのケアといった業務に集中できます。

予約情報や電子カルテがクラウド上で一元管理されると、どの部署のどの端末からでも常に最新の情報を確認可能です。医療DXにおけるクラウド化は、組織全体の生産性を高めるのに効果的な取り組みです。

セキュリティを強化できる

専門業者が提供する医療向けクラウドは、高度なセキュリティ対策が施されており、自院で管理するより安全性を高められる場合があります。クラウド事業者によっては、24時間365日の監視体制や最新の不正アクセス対策など、莫大な投資をおこなっています。

厚生労働省が定めるガイドラインに準拠したサービスを選んだ場合、安心して大切な患者さんの情報を預けられるでしょう。

災害時にも診療を継続できるBCP強化につながる

医療データをクラウド上に保管しておくと、災害時の事業継続計画(BCP)の強化につながります。院内のサーバーが地震や火災で破損しても、クラウドの場合、データは遠隔地の安全なデータセンターで守られています。

そのため、別の場所からでも患者さんのカルテ情報にアクセスし、診療の再開が可能です。医療DXにおけるクラウド化は、災害時でも地域医療を止めないための重要な備えです。

医療DXでクラウドを導入する際のデメリット

医療DXでクラウドを導入する際のデメリットは、以下の4つです。

  • 情報漏洩を防ぐセキュリティとプライバシー保護を徹底する
  • 悪意のあるサイバー攻撃への対策が必要になる
  • 継続的な運用コストと技術的な問題がある
  • 全スタッフのITスキル不足とデジタルへの抵抗感がある

それぞれ解説します。

情報漏洩を防ぐセキュリティとプライバシー保護を徹底する

クラウド活用では、患者さんの大切な医療情報を外部のサーバーに預けるため、情報漏洩を防ぐための徹底したセキュリティ対策が課題です。医療情報は命に関わる個人情報であり、外部へ流出してしまった場合、患者さんとの信頼関係を揺るがしかねません。

国が定めるガイドラインに準拠した信頼できるクラウドサービスを選び、院内でもアクセス権限を厳しく管理するといった対策を講じましょう。

悪意のあるサイバー攻撃への対策が必要になる

クラウド利用でとくに注意するのが、医療機関を標的とした悪意のあるサイバー攻撃への対策です。

以下は、2021年から2022年の医療・福祉分野におけるランサムウェア被害件数です。

出典参照:サイバー事案の被害の潜在化防止に向けた検討会 報告書 2023 1.2 医療分野におけるサイバー事案被害|警察庁

上記のグラフから、近年、病院のシステムを暗号化して使えなくし、もとに戻すために金銭を要求する「ランサムウェア」の被害が増えているのが分かります。

ランサムウェアによって電子カルテが利用できなくなった場合、診療そのものが停止してしまうリスクもあるため、不正なアクセスを常時監視し、侵入を防ぐセキュリティ体制を構築しましょう。

継続的な運用コストと技術的な問題がある

クラウドは、月額利用料といった運用コストが継続的にかかる点と、技術的な障害リスクがデメリットです。初期費用が安くても、長期的に見ると総支払額が高くなるリスクも考慮しなければなりません。

また、インターネット経由で利用するため、院内の通信環境や事業者側で障害が発生すると、システムが使えなくなるリスクもあります。クラウドの安定した運用のために、信頼できる事業者を選ぶのが重要です。

全スタッフのITスキル不足とデジタルへの抵抗感がある

クラウド導入を阻む壁として、スタッフ全員のITスキル不足と、新しいものへの抵抗感が挙げられます。とくに長年、紙の業務に慣れてきた職員にとっては、すべての操作をパソコンでおこなうのに不安を感じる方も少なくありません。

一部の人しか使いこなせない状態では、院内全体の業務効率は向上しないため、全員が安心してシステムを使えるよう、クラウドを導入する前に研修や導入後の手厚いサポート体制を整えましょう。

クラウド導入の前に知っておきたい医療情報ガイドライン

医療DXでクラウドを導入する際は、国が定めた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を守るのが絶対条件です。このルールでは、データの暗号化や、患者さんの情報を守るための決まりが細かく示されています。

基準を満たさないサービスを選ぶと、万が一の際に法的な責任を問われるリスクがあります。契約前には、事業者がガイドラインに準拠しているかを必ず確認しましょう。

出典参照:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)|厚生労働省

医療DXでクラウド化できる主なシステム

医療DXでクラウド化できるシステムは、以下の5つです。

  • 電子カルテ
  • 医療用画像管理システム(PACS)
  • オーダリングシステム
  • 医事会計システム(レセコン)
  • オンライン予約・問診システム

それぞれ詳しく見ていきましょう。

電子カルテ

医療DXの中核である電子カルテをクラウド化すると、場所を問わず診療情報へのアクセスが可能です。訪問診療先でも患者さんの情報を確認できるため、在宅医療の質向上につながります。

また、電子カルテシステムのアップデートや保守は事業者がおこなうため、院内のIT管理の負担を減らせます。電子カルテは、複数の場所で診療をおこなう医療法人にとっても便利な仕組みです。

医療用画像管理システム(PACS)

CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの検査画像をクラウドで一元管理する医療用画像管理システム(PACS)は、大容量データの保管と共有におすすめです。医療用画像管理システムを活用すると、院内にサーバーを置く必要がなく、膨大な画像データを安全かつ効率的に保管できます。

また、地域の連携病院の専門医に、遠隔で画像を見てもらい意見を聞くといった活用も可能です。災害時にもデータが守られるため、医療用画像管理システムは事業継続性の観点でも重要なシステムといえます。

オーダリングシステム

検査や処方といった指示を電子化するオーダリングシステムも、クラウド化できる業務です。医師が診察室の端末で入力した指示が、瞬時に院内の各部署へ正確に伝わります。口頭や紙での伝達に比べて、聞き間違いや転記ミスといったヒューマンエラーを減らせるのがメリットです。

オーダリングシステムをクラウド化し、電子カルテやほかのシステムと連携すると、診療から会計までをスムーズにできます。

医事会計システム(レセコン)

診療報酬の計算と請求書作成をおこなう医事会計システム(レセコン)も、クラウド化のメリットがあるシステムです。2年ごとの診療報酬改定といった複雑な制度変更の際も、ベンダー側でシステムが自動更新されるため、院内の作業負担がありません。

また、日々の請求業務も自動化できる部分が多く、スタッフの作業時間短縮にもつながります。医事会計システムをクラウド化し、法改正に迅速かつ正確に対応できる体制をつくるのは、安定した経営において重要です。

オンライン予約・問診システム

クラウドを活用したオンライン予約・問診システムは、患者さんの利便性向上と、受付業務の効率化を同時に実現可能です。患者さんはスマートフォンで24時間いつでも予約や変更ができるようになり、クリニックの電話対応の負担を減らせます。

また、来院前に問診を済ませてもらうと、受付での待ち時間や記入の手間が省けます。オンライン予約・問診システムは患者満足度を高め、選ばれるクリニックになるための重要なツールです。

医療DXのクラウド活用に成功した事例

医療DXのクラウド活用に成功した事例は、以下の3つです。

  • デバイスを選ばずシームレスに使える電子カルテで患者受診前の情報収集能力が高める|あや内科クリニック
  • オンライン予約とWeb問診で予約の一元化と電話応対削減|波乗りクリニック
  • 電子カルテ化で職場環境の改善|宇都宮病院

1つずつご紹介します。

デバイスを選ばずシームレスに使える電子カルテで患者受診前の情報収集能力が高める|あや内科クリニック

あや内科クリニックは、どのパソコンからでも使えるクラウド型電子カルテを導入し、診療の効率化に成功しています。クラウド型電子カルテとWeb問診を連携させ、患者さんが来院する前に医師が症状を詳しく把握できるようになりました。

結果的に、診察がスムーズに進むだけでなく、より丁寧なヒアリングが可能になっています。クラウドの柔軟性を活かし、事前の情報収集能力を高めて医療の質向上につなげた好事例です。

出典参照:あや内科クリニック|クラウド型電子カルテCLIUS|株式会社DONUTS

オンライン予約とWeb問診で予約の一元化と電話応対削減|波乗りクリニック

波乗りクリニックは、オンライン予約システムを導入し、予約の90%以上をLINE経由に切り替えて電話応対の時間を削減しました。その結果、受付スタッフはほかの業務に集中できるようになり、院内全体の生産性が向上しました。

また、オンライン予約システムによって予約の一元管理が可能になったため、ダブルブッキングの防止も実現しています。クラウドサービスを活用し、業務効率化と患者さんの利便性向上を両立させた成功事例です。

出典参照:心療内科でのサポートチャットによる適切な継続通院の促しや90%以上の予約をLINE経由にする業務効率化を実現波乗りクリニック 様内科・心療内科 | 診療予約システム「メディカル革命 byGMO」でクリニック経営に革命を|GMOリザーブプラス株式会社

電子カルテ化で職場環境の改善|宇都宮病院

宇都宮病院は、電子カルテをクラウド化し、院内の情報共有のスピードを上げて職場環境を改善しました。以前は部署間の情報伝達に時間がかかっていましたが、クラウド上で常に最新情報が共有されるようになり、確認作業が不要になりました。

これにより、スタッフのストレスが軽減され、より患者さん中心のケアに集中できる体制が整いました。職員の働きやすさが、医療の質の向上にもつながるのを示す良い事例です。

出典参照:宇都宮病院様 | 導入事例「病院編」| メディコム | ウィーメックス株式会社(旧PHC株式会社)

医療DXでクラウドを導入する4つのステップ

医療DXでクラウドを導入するステップは、以下の4つです。

  • ステップ1:自院のワークフローを可視化し課題を把握する
  • ステップ2:院内で目的とビジョンを共有する
  • ステップ3:複数のベンダーから提案・見積もりを比較検討する
  • ステップ4:既存システムからのデータ移行計画を立てる

それぞれ解説します。

ステップ1:自院のワークフローを可視化し課題を把握する

クラウド導入を成功させるには、まず現在の業務フローを洗い出し、どこに無駄や課題があるかを可視化するのが大切です。受付や診療、会計といった一連の流れを分析し、時間がかかっているボトルネックを見つけ出しましょう。

現状を正確に把握すると、どの業務にクラウドを導入するのが効果的か明確にできます。

ステップ2:院内で目的とビジョンを共有する

クラウド導入をスムーズに進めるには、「何のために導入するのか」といった目的を、院内全体で共有しておくのが重要です。トップだけでなく現場のスタッフ全員が、導入の意義や目指す姿を理解していると、改革への協力が得られやすいです。

医療DXは単なるシステム変更ではなく、組織全体の意識改革でもあるため、目的やビジョンを共有するのは、全員が同じ方向を向いて取り組むための、大切なプロセスといえます。

ステップ3:複数のベンダーから提案・見積もりを比較検討する

クラウドサービスを選ぶ際は、複数の事業者(ベンダー)から提案と見積もりを取り、客観的に比較検討するのが失敗しないコツです。料金や機能だけでなく、導入後のサポート体制が手厚いか、将来的に機能を追加できるか(拡張性)といった点も確認しましょう。

複数のベンダーの提案・見積もりから、それぞれの長所と短所をしっかり比較し、自院の規模や目的に合ったサービスを見極めるのがポイントです。

ステップ4:既存システムからのデータ移行計画を立てる

クラウド導入の最終段階では、既存システムからのデータを新しい環境へ安全に移動させる、綿密な移行計画を立てるのが大切です。電子カルテの患者情報や会計データなどを、1つも漏らさず正確に移すのは重要な作業であり、診療を止めずにスムーズに移行するには、専門的な知識と技術が求められます。

データ移行の実績が豊富なベンダーの支援を受けながら、慎重に進めるのが安心です。

【まとめ】クラウド活用で医療DXを加速させよう

医療業界でのクラウドの活用は、医療DXを加速させ、より柔軟で安全な医療提供体制を築くための重要な取り組みです。クラウドの活用では、初期コストを抑えつつ、業務効率化や災害対策強化といったメリットが期待できます。

もちろんセキュリティ対策において注意点はありますが、自院の課題を明確にして計画的に導入した場合、クラウド活用の効果を最大化できます。

クラウドを基盤に、これからの時代に求められる持続可能な医療を実現しましょう。