AIエージェントとReActの基本情報を解説!選び方やツールを紹介

AIエージェントは、目標達成に向けて自律的に考え、行動するAIシステムです。特に、大規模言語モデル(LLM)の能力を引き出すReActフレームワークと組み合わせることで、可能性の広がりが期待できます。

ReActは、LLMが推論と行動を繰り返し、行動結果を再評価する逐次処理を行うのが特徴です。これにより、製造業の異常検知から金融の投資判断、カスタマーサポート、マーケティング、人事、建設・不動産といった多様な業界・業務で、より高度な自動化と効率化を実現します。導入にあたっては、用途に合ったLLMの選定などのポイントを押さえておきましょう。

この記事では、AIエージェントとReActの基本から具体的な活用例、導入時の選び方、そして注意点までを網羅的に解説します。

AIエージェントとは

AIエージェントとは、与えられた目標を達成するために、自律的に思考し、行動するAIシステムです。AIエージェントは単に指示されたタスクを実行するだけではありません。状況を認識したうえで推論し、計画を立て、必要に応じて行動を修正しながら目標達成を目指します。

従来のAIが特定のタスクに特化していたのに対し、AIエージェントはより広範囲の問題解決能力を持つ点が違いです。例えば、ユーザーの複雑な要求を理解し以下のような解決策を提案してくれる存在です。

  • ウェブ検索
  • API呼び出し
  • 外部ツールとの連携

AIエージェントは、人間が思考し、行動するプロセスを模倣するように機能するため、生活やビジネスにおいて、より高度な自動化と効率化をもたらす可能性を秘めています。

ReActとは

ReActは、LLMの能力を最大限に引き出すための推論(Reasoning)と行動(Acting)を組み合わせたフレームワークです。このフレームワークの特徴は、LLMが単に回答を生成するだけではありません。考えながら行動し、その行動の結果を再評価する逐次処理を行う点にあります。

最初に実行するのが現在の状況に基づいた推論です。次にその推論に基づいて具体的な行動に移ります。そして、その行動の結果を観測し、再び推論を重ね、次の行動へとつなげていきます。

一連のプロセスを繰り返すことで、ReActは複雑な問題をより正確かつ効率的に解決できるでしょう。例えば、複雑な問いを与えられた場合、単一の回答を試みるのはもちろんのこと、必要な情報を段階的に収集します。収集した情報を基に思考を深めながら、最終的な結論にたどり着くことが可能です。

AIエージェント×ReActの主な活用例

AIエージェントとReActは、組み合わせによって以下のような業種、業務で活用されています。

業種・業務

活用例

製造業

異常検知後の自動対応フローの実行

金融業

複数条件の投資判断サポートやリスク分析

カスタマーサポート

FAQ回答+予約・変更などの具体的な行動実行

マーケティング

データ分析+改善施策の自動提案と実行

人事・採用

応募者対応+適性分析+面接スケジューリング

建設・不動産

図面データや規制情報をもとにした設計サポート

各業種、業務におけるAIエージェントとReActの活用例について解説します。

製造業|異常検知後の自動対応フローの実行

製造業において、AIエージェントとReActの組み合わせが活用される場面の例が、設備の異常検知から自動対応フローの実行です。

例えば、センサーデータから異常が検知された場合、AIエージェントはReActフレームワークに基づき、まず異常の原因を推論します。次に、その推論に基づいて、生産ラインの停止、関連部署への通知、保守チームの招集といった具体的な行動を計画・実行します。

これらの行動の結果をリアルタイムで評価し、必要に応じてさらなる対応を決定するなど、逐次的に処理を進められるのが特徴です。

金融業|複数条件の投資判断サポートやリスク分析

金融業界でAIエージェントとReActが活用されている場面が、複雑な投資判断のサポートや高度なリスク分析です。AIエージェントは、市場データ、企業情報、経済指標など、多岐にわたる情報をReActフレームワークで分析します。

例えば、特定の銘柄に関する投資判断を行う際、まず過去の株価変動や業績データを推論し、次にニュース記事やアナリストレポートを検索・分析する行動をとります。さらに、その結果を受けて、市場全体のトレンドや地政学的リスクといった外部要因も考慮に入れ、総合的なリスク評価や投資戦略を提案可能です。

カスタマーサポート|FAQ回答+予約・変更などの具体的な行動実行

AIエージェントとReActを組み合わせることで、単なるFAQ応答ではなく、具体的な行動の実行までを自動化可能です。

顧客からの問い合わせに対し、AIエージェントはReActを用いて、まず質問の意図を正確に推論します。次に、その推論に基づいてFAQデータベースから関連情報を検索し、回答を生成するだけでなく、予約や変更など必要に応じて具体的なシステム連携を伴う行動に移します。

行動の結果は顧客にその旨を通知するため、顧客は迅速かつパーソナライズされたサポートを受けられるでしょう。

マーケティング|データ分析+改善施策の自動提案と実行

マーケティング分野において、AIエージェントとReActの組み合わせは、データ分析から改善施策の自動提案、さらにはその実行までを可能にする取り組みです。

AIエージェントは、顧客の行動データ、キャンペーン効果、市場トレンドなどの膨大な情報をReActフレームワークで分析します。

例えば、ウェブサイトのコンバージョン率が低下している場合、まずその原因を推論します。次のステップとして実行されるのが、ユーザーの行動経路データの分析です。A/Bテストの実施やランディングページの最適化など、具体的な改善策を立案、実行します。

実行後にはその効果を評価し、さらなる改善が必要であれば、次の施策へとつなげます。

人事・採用|応募者対応+適性分析+面接スケジューリング

人事・採用の分野においてAIエージェントとReActの組み合わせが用いられる事例として挙げられるのが、応募者対応から適性分析、さらには面接スケジューリングまでのプロセス管理です。

AIエージェントは、応募者からの問い合わせにReActを活用して自動で対応し、求人情報に関する質問に答えたり、応募書類の提出を促したりします。次に、提出された応募書類を分析し、候補者のスキルや経験を評価・推論します。さらに、その推論に基づいて候補者の適性を判断し、適格な候補者には面接のスケジューリングを自動で実行可能です。

面接日時や場所の調整、採用担当者への通知もAIエージェントが実行します。これにより、採用担当者は応募者対応にかかる時間を削減し、より戦略的な業務に集中できます。

建設・不動産|図面データや規制情報をもとにした設計サポート

建設・不動産分野でのAIエージェントとReActの活用場面は、図面データや複雑な規制情報をもとにした設計サポートです。

AIエージェントは、ReActフレームワークを用いて、設計図面やBIMデータ、建築基準法、都市計画法などの膨大な規制情報を分析・推論します。例えば、新しい建物を設計する際、AIエージェントはまず設計コンセプトと敷地情報を推論し、関連する法規制や地域の条例をデータベースから検索して適合性を確認可能です。

さらに、耐震基準や環境性能などの設計要件を満たしているか評価し、問題があれば代替案を提案してくれます。これにより、設計者は法規制に準拠しつつ、より効率的かつ高品質な設計を行うことが可能になります。

ReActエージェントを選ぶ際のポイント

ReActエージェントにより従来の業務に革新が生まれるものの、導入にあたっては以下のようなポイントを押さえておきましょう。

  • 用途に合ったLLMを選定する
  • 連携可能な外部ツールやAPIの範囲を確認する
  • ノーコード/ローコードで構築可能かどうか
  • セキュリティや監査ログの確保機能

ここではReActエージェントを選ぶ際のポイントを解説します。ReActエージェント導入を検討している方はぜひ参考にしてください。

用途に合ったLLMを選定する

ReActエージェントを導入する際、最初に考慮すべきは用途に最適なLLMの選定です。LLMの種類によって、得意なタスクや処理能力、コストが異なります。

例えば、高度な専門知識を要する分析業務であれば、推論能力に優れた高性能なLLMが適しています。一方、シンプルな問い合わせ対応や定型業務の自動化であれば、処理速度とコスト効率を重視したLLMでも十分に対応できるでしょう。

また、日本語特化のLLMや、特定の業界データでファインチューニングされたLLMなど解決したい課題に特化したモデルを選ぶことで、ReActエージェントのパフォーマンスを最大限に引き出せます。

連携可能な外部ツールやAPIの範囲を確認する

ReActエージェントは外部ツールやAPIと連携可能かどうかもチェックしておきましょう。LLM単体ではできない具体的な行動を実現するために、どのような外部システムと連携できるかを確認しておくことが重要です。

例えば、情報収集のためのウェブ検索ツール、データ分析のためのスプレッドシートやデータベース、顧客対応のためのCRMシステム、業務自動化のためのRPAツールなど、連携先は多岐にわたります。

導入を検討する際は、現在利用しているシステムや今後連携を検討する可能性のあるツールとの互換性を事前に確認したうえで、ReActエージェントがスムーズに業務フローに組み込めるかを評価しましょう。

ノーコード/ローコードで構築可能かどうか

ReActエージェントの導入と運用において、ノーコードまたはローコードでの構築が可能かどうかは、特に開発リソースが限られている企業にとって押さえておきたいポイントです。

プログラミングの専門知識がなくても、直感的なインターフェースやドラッグ&ドロップ操作でエージェントの動作を設計できれば、開発期間を短縮し、導入コストを抑えられます。

また、現場の業務担当者が直接エージェントのカスタマイズや改善を行えるため、運用フェーズでの柔軟性も高まります。複雑なコーディングが不要であれば、AI導入のハードルを下げ、より多くの場面でReActエージェントを活用できるでしょう。

セキュリティや監査ログの確保機能

ReActエージェントをビジネスに導入する上で、セキュリティと監査ログの確保機能は欠かせません。エージェントが機密情報を取り扱ったり、重要な業務プロセスに関与したりする場合、データの漏洩リスクや不正利用のリスクを抑える必要があります。具体的には、アクセス制御、データ暗号化、定期的なセキュリティ監査機能などが求められます。

また、エージェントが行った推論や行動の履歴を詳細に記録する監査ログ機能は、トラブル発生時の原因究明やコンプライアンス遵守の証拠として重要です。

これらの機能が十分に備わっているかを確認することで、安心してReActエージェントを運用し、企業のリスク管理体制を強化できます。

AIエージェント×ReActのツール例

AIエージェントとReActを組み合わせたツールの例として挙げられるのは、以下のとおりです。

  • Nomatica
  • 議事録パックン
  • Fujitsu Kozuchi AI Agent

例えばNomatica業務課題を自律的に進めてくれるツールです。一方、議事録パックンは議事録を自動生成できます。

ここではそれぞれのツールの特徴を解説するので、導入を検討している方は、自社の業務や規模に合っているかを確認してみましょう。

ツール①Nomatica|AIエージェントが自律的に議論し、業務課題を解決

Nomaticaは、AIエージェントが自律的に議論し、業務課題の解決を目指す革新的なツールです。このツールはReActフレームワークを基盤としており、複数のAIエージェントがそれぞれ異なる役割を担い、まるで人間のように対話しながら問題解決に取り組む点が特徴です。

例えば、あるAIエージェントが課題を定義し、別のエージェントがデータ分析を担当、さらに別のエージェントが解決策を提案するといった連携もできます。

多角的な視点からの議論により、複雑な業務課題に対しても、より深く、多角的なアプローチで最適な解決策を導き出すことができます。人間の介在なしに、AIが自律的に思考し、行動して成果を生み出すプロセスは、業務の効率化と生産性向上に貢献してくれるでしょう。

出典参照:Nomatica|株式会社博報堂テクノロジーズ

ツール②議事録パックン|高精度かつ読みやすい議事録を自動的に作成

議事録パックンは、会議の音声を高精度で認識し、読みやすい議事録を自動的に作成するAIツールです。このツールも内部的にReActの考え方を取り入れることで、単なる音声認識に留まらないインテリジェントな議事録作成を実現しています。

具体的には、音声データから話者の特定や発言内容を推論し、次に重要なキーワードの抽出や要約といった処理へつなげます。さらに、文脈を考慮して冗長な部分を削ったり、論点を整理したりすることで、人間が手作業で作成したかのような自然で分かりやすい議事録を生成可能です。

これにより、会議後の議事録作成にかかる時間と労力を削減し、参加者が議論の内容に集中できる環境を提供します。

出典参照:生成AIで営業の工数削減!「議事録パックン」のアーキテクチャ紹介|KDDIアジャイル開発センター株式会社

ツール③Fujitsu Kozuchi AI Agent|AIが人と協調して自律的に高度な業務を推進

Fujitsu Kozuchi AI Agentは、AIが人間と協調しながら、自律的に高度な業務を推進することを目的としたツールです。このAIエージェントは、ReActフレームワークの活用によって、タスクの実行に加えて自らが状況を判断し最適な行動を選択できます。

例えば、膨大なデータの中から必要な情報を探索し、その結果をもとに複雑な分析を行い、さらにその分析結果に基づいた提案まで行うことが可能です。人間はAIエージェントによる判断の承認や最終的な意思決定を下すことで、AIの能力を引き出しつつも、人間の専門性を活かした協調作業を実現します。

これにより、これまで人間にしかできなかった高度な業務においても、AIの力を活用した効率化と品質向上が期待できます。

出典参照:AIが人と協調して自律的に高度な業務を推進する「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を提供開始|富士通株式会社

ReActエージェントを導入する際の注意点

ReActエージェントを導入する際は、以下のような点に注意しましょう。

  • ブラックボックス化による誤判断リスク
  • 想定外の行動実行によるシステムエラー・誤作動の可能性
  • 監視・制御の設計とガバナンス体制が不可欠

ReActエージェント導入は、企業にさまざまなメリットをもたらすものの、ブラックボックス化やシステムエラーなどによって、効果を引き出せない恐れがあります。

ここではReActエージェント導入にあたっての注意点を解説します。

ブラックボックス化による誤判断リスク

ReActエージェントは高度な自律性を持つため、推論プロセスがブラックボックス化し、誤判断につながりかねません。

内部でどのような思考を経て特定の結論に至ったのか、どのような情報に基づいて行動を決定したのかが不明瞭な場合、誤った判断を下しても原因特定が困難になる可能性があります。特に、重要な業務や意思決定に関わる場面では、このリスクは無視できないでしょう。

エージェントが提示する結果だけでなく、その過程も可視化できるような仕組みや、人間のオペレーターが介入して判断を修正できるような設計が求められます。透明性を確保するための監査機能や説明可能なAI(XAI)の導入も検討するとよいでしょう。

XAIであれば、下した判断や予測の理由を人間が理解できるように説明してくれます。

想定外の行動実行によるシステムエラー・誤作動の可能性

ReActエージェントは自律的に行動を計画・実行するため、想定外の行動がシステムエラーや誤作動を引き起こす可能性があります。特に、外部システムや実世界に影響を与えるツールと連携している場合、予期せぬ挙動が重大な問題に発展するリスクも考慮する必要があるでしょう。

例えば、誤ったデータを入力したり、不適切な操作を実行したりすることで、システム全体の停止やデータの破損、物理的な損害につながる恐れもあります。このようなリスクを防ぐためには、以下のような対策を検討しましょう。

  • エージェントが実行できる行動の範囲を厳密に制限する
  • ヒューマン・イン・ザ・ループの仕組みを導入する

ヒューマン・イン・ザ・ループとは、重要な行動については人間の承認を必須とする仕組みです。

監視・制御の設計とガバナンス体制が不可欠

ReActエージェントを安全かつ効果的に運用するためには、厳格な監視・制御の設計と適切なガバナンス体制の構築が欠かせません。エージェントの行動を常に監視し、異常を検知した際に即座に介入できるシステムを整える必要があります。

具体的には、パフォーマンスのモニタリング、エラーログの管理、アラート機能の実装などが挙げられます。また、以下のような明確なルールに基づくガバナンス体制構築と定期的な見直しも有効です。

  • 誰がどのような権限でエージェントの設定変更や停止を行えるのか
  • 問題発生時の対応フローはどうするのか

これにより、エージェントが適切に機能し、企業の業務目標に貢献できるようになります。

まとめ|ReActを搭載したAIエージェントの導入を検討しよう

ReActフレームワークを搭載したAIエージェントは、大規模言語モデルの能力を高め、自律的な思考と行動によって複雑な業務課題を解決する可能性を秘めています。例えば製造業での異常検知、金融業での投資判断サポートなど、多様な分野での活用が期待できるでしょう。

導入を検討する際は、用途に合ったLLMの選定、外部ツールとの連携範囲、ノーコード・ローコードでの構築可否、そしてセキュリティと監査ログ機能の有無を確認することが重要です。

ブラックボックス化のリスク、想定外の行動実行による誤作動の可能性などの注意点を押さえたうえで、ReActを搭載したAIエージェントの導入を検討しましょう。