バックオフィスDXにセキュリティは必要?基本の対策やステップを解説
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経理DXの悩みは、AI活用で解決しましょう!インボイス制度対応や請求書処理の自動化、人件費削減など、AI活用のメリットを解説。具体的なツール比較から、失敗しない導入4ステップ、注意点まで網羅。経理管理職の方必見です。
経理DXを進めたいが「何から手をつければ良いか分からない」「AIが経理業務をどう変えるのか、具体的なイメージが湧かない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
少子高齢化による人材不足や、複雑化する法改正への対応など、経理部門が抱える課題は年々深刻になっています。こうした課題を解決する鍵として注目されているのが、AI(人工知能)を活用した経理DXです。
この記事では、経理部門の管理職の方に向けて、AIを活用した経理DXのメリットから具体的な活用事例、おすすめのAIツールまでを分かりやすく解説します。AI導入を成功させるためのステップや注意点も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

AIを経理業務に導入することで、単なる効率化に留まらない、多くのメリットが期待できます。このセクションでは、代表的な4つのメリットをご紹介します。
請求書処理や仕訳入力の自動化は、AI導入による最も分かりやすく、効果の大きいメリットの一つです。
従来、これらの業務は時間と集中力を要する作業でした。紙の請求書を見ながら会計システムに一件ずつ手で入力し、取引内容に応じて適切な勘定科目を選択する必要があったのです。
しかし、AI-OCR技術を活用すれば、この作業は大きく変わります。請求書をスキャンまたは写真で撮るだけで、取引先、日付、金額、さらにはインボイス制度に対応した事業者登録番号まで、AIが自動で読み取りデータ化するのです。
さらにAIは、過去の膨大な仕訳データを学習します。これにより、取り込まれた取引データに対して最適な勘定科目を高い精度で提案できるのです。
この結果、担当者は入力作業から解放され、内容の確認・承認作業に集中できます。月間で数十時間から数百時間もの作業時間削減が期待できるでしょう。
出典参照:適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き|国税庁
経理業務において、手入力によるヒューマンエラーは常に付きまとう課題です。そして、その影響は決して小さくありません。
例えば、金額の桁を一つ間違える、勘定科目を誤って選択するといった単純なミス。これが月次決算の数字にズレを生じさせ、原因究明のために膨大な時間を費やすことになります。
最悪の場合、誤った財務諸表を作成してしまい、経営判断の誤りや税務申告の誤りにつながるリスクさえあります。AIを導入すれば、こうした手入力作業そのものを大幅に削減できます。
そのため、ヒューマンエラーが発生する余地を根本から断つことが可能です。AIは設定されたルールや学習したパターンに基づき、常に一貫した品質で処理を実行します。
これにより、データの正確性が飛躍的に向上します。決算の早期化や監査対応の効率化にもつながるなど、業務品質全体の底上げが実現するのです。
AIによる業務自動化は、人件費や採用コストといった直接的なコスト削減に大きく貢献します。
請求書処理や経費精算などの定型業務をAIに任せましょう。そうすることで、これまで作業に費やされていた従業員の時間を大幅に削減できます。また、残業時間の圧縮や、繁忙期に必要だった派遣社員の依頼なども不要になります。
結果として、人件費を直接的に抑えることが可能です。さらに、中長期的な視点で見れば、採用コストの削減にもつながります。少子高齢化による経理人材の採用競争が激化している中でも、AIの活用で一人あたりの生産性が向上すれば、最小限の人数で質の高い業務を維持できるのです。
また、退職者が出た場合でも、AIが業務を標準化しているため、急いで後任者を採用する必要がなくなります。創出されたコストと時間は、従業員の研修や、より戦略的な業務への投資に振り分けることができます。
AIを搭載したクラウド会計システムなどを導入する最大のメリットの一つが、経営状況のリアルタイムな可視化です。
従来の経理業務では、月末にまとめてデータを処理するのが一般的でした。そのため、月次決算が締まるのは翌月の中旬以降になってしまいます。これでは、経営者が自社の正確な財務状況を把握するまでにタイムラグが生じます。これが迅速な意思決定の妨げとなっていました。
しかし、AIを活用すれば状況は一変します。日々の銀行取引や請求書のデータが即座に会計システムに反映され、仕訳も自動で実行されるのです。これにより、売上や利益、資金繰りの状況などを、いつでも最新の状態でダッシュボードなどから確認できるようになります。
例えば、特定の事業部門の収益性悪化を早期に察知して対策を講じる。あるいは、予期せぬ大口の入金遅延をいち早く把握して資金繰りに手を打つ。このように、データに基づいた迅速かつ的確な経営判断が可能になるのです。
AIは具体的にどのように経理業務を変えるのでしょうか。このセクションでは、業務別の活用事例を見ていきましょう。
AI-OCRによる請求書・領収書の読み取りは、経理DXの入り口として最もポピュラーな活用事例です。
従来のOCR技術には、決められたフォーマットの帳票しか読み取れないという課題がありました。少しでも形式が異なると誤認識が多かったのです。
しかし、AI-OCRはAIの画像認識技術と機械学習を組み合わせています。これにより、取引先ごとに異なる多種多様なフォーマットの請求書や手書きの領収書でも、項目を高精度で認識します。例えば、「請求金額」という文字が「合計」や「Amount」と記載されていても問題ありません。AIがその位置や文脈から判断し、正しくデータ化します。
特にインボイス制度への対応では大きなメリットがあります。適格請求書発行事業者の登録番号の有無や、税率ごとの合計金額といった複雑な要件を自動で読み取り、確認できるのです。
銀行の入出金明細などから勘定科目を自動提案する機能は、仕訳業務を劇的に効率化します。
多くのAI搭載型会計ソフトでは、金融機関のオンラインバンキングと連携し、取引データを自動で取得します。AIは、取り込まれたデータに含まれる取引先の名称や摘要欄の文言などを分析します。そして、過去の仕訳履歴と照合するのです。
その上で、「この取引は過去に95%の確率で『売掛金』として処理されている」といったように、最も可能性の高い勘定科目を自動で提案します。担当者は提案された内容を確認し、ワンクリックで承認するだけで仕訳が完了します。
AIは使い込むほどに学習が進み、自社の取引パターンを覚えていくため、提案の精度はさらに向上します。これにより、勘定科目の選択に迷う時間がなくなります。結果として、経理初心者でも熟練者並みのスピードと正確性で作業を進めることが可能です。
従業員からの経費精算申請のチェックは、経理担当者にとって大きな負担です。件数が多く、内容も細かいため、多くの時間がかかります。
AIを活用した経費精算システムは、このチェック業務を自動化し、担当者の負担を大幅に軽減します。例えば、従業員がスマホアプリで領収書を撮影し、金額や用途を入力して申請したとします。すると、AIがその内容を瞬時にチェックします。具体的には、「1回の飲食費の上限は5,000円」といった社内規定と照合して上限超過を確認します。
また、深夜のタクシー利用申請に添付された領収書の日付が、申請日と一致しているかなども確認可能です。もし規定違反や不備があれば、AIが自動で検知します。そして、経理担当者に届く前に申請者本人へ修正を促す通知を送るのです。
これにより、担当者は不備のある申請の差し戻しや問い合わせ対応から解放されます。そして、承認業務そのものに集中できるようになるのです。
決算や内部監査、税務調査の際には、膨大な量の会計データの中から不正や誤りがないかを確認する作業が求められます。
人間の目ですべての取引をチェックするのは事実上不可能です。そのため、これまではサンプリング(抜き打ち検査)に頼らざるを得ませんでした。
しかし、AIを活用すれば、全件データを対象とした網羅的なチェックが可能です。AIは、過去の正常な取引パターンを学習します。そして、それとは異なる動きをする「異常なデータ」を検出するのです。
例えば、「通常は発生しない勘定科目の組み合わせでの仕訳」や「休日に計上されている経費」などを瞬時にリストアップします。また、「過去の取引と比較して突出して金額が大きい取引(外れ値)」なども検出可能です。
これにより、意図的な不正の早期発見はもちろん、入力ミスなどの意図しない誤りも見つけ出すことができます。これは、監査業務の精度と効率を飛躍的に高めます。同時に、企業の内部統制を強化し、ガバナンス向上にも大きく貢献するのです。

このセクションでは、経理DXを力強く推進する、AI機能を搭載した代表的な会計ソフト・サービスをご紹介します。
freee会計は、複雑で煩雑になりがちな経理業務をシンプル化し、日々の負担を軽減するクラウド会計ソフトです。AIを駆使することで、企業の経理DXを強力に推進します。
主要機能として、銀行・クレジットカードの自動連携、AI-OCRによる書類からの自動仕訳、使えば使うほど精度が向上する仕訳学習機能などがあり、AIが経理業務全般を効率化します。これにより、データの手入力作業を大幅に削減し、決算書の自動作成までサポート。属人化しがちな経理業務の自動化を実現します。
その他、請求管理、経費精算、支出管理といった幅広い機能や、人事労務、Salesforceなど他システムとの豊富な連携機能も備え、電子帳簿保存法やインボイス制度にも自動対応しています。
出典参照:freee会計の機能一覧|フリー株式会社
マネーフォワードクラウド会計は、企業の経理業務の自動化・効率化と経営状況の見える化をサポートするクラウド会計ソフトです。
AI活用に積極的に取り組んでおり、ファイルをアップロードするだけでAIが仕訳を作成するAI-OCR機能を搭載、仕訳の自動提案は利用するほど精度が向上します。
また、ChatGPTと連携した「マネーフォワード クラウド 会計 for GPT」を提供しており、会計データに基づいた財務状況の分析や、税理士への相談時に役立つレポートの生成、簡単な財務アドバイスが可能です。
その他、銀行やクレジットカードなど2,300社以上の金融機関と自動連携し、決算書や残高試算表などの各種帳票を自動作成します。電子帳簿保存法やインボイス制度にも自動対応し、強固なセキュリティ対策も施されています。
出典参照:マネーフォワード クラウド会計の機能|株式会社マネーフォワード
勘定奉行クラウドは、40年以上の実績を持つ『奉行シリーズ』の機能性・操作性を継承したクラウド会計ソフトです。導入によって経理DX化を確実に支援し、業務精度向上と業務時間9割削減を可能にします。
AIがアップロードされた証憑を95%以上の精度で自動読み取り、仕訳を自動起票するため、入力業務の工数を大幅に削減可能です。また、起票済みの仕訳と証憑の自動マッチング機能も備わっています。
さらに、『奉行クラウド』に新搭載された「奉行AIチャット」は、生成AIを用いた対話形式で、制度情報、業務のやり方、処理手順など「知りたいこと」に的確に回答し、日々の業務をアシストします。
API連携により、POSシステムや自社の基幹システムなどあらゆるシステムと自動でつながり、二重入力を削減し生産性を高めます。顧問税理士向けの無償専門家ライセンスも付属し、データ共有も容易です。
出典参照:勘定奉行クラウド|株式会社オービックオフィスオートメーション
TOKIUMインボイスは、企業の支払い業務を完全ペーパーレス化し、経理DXを推進する請求書受領クラウドです。
AI-OCRを活用しており、データ入力時にオペレーターの補助としてAI-OCRを組み合わせることで、請求書のデータ化速度の向上を図ります。AI-OCRは、人が見落としやすい入力ミスの軽減にも貢献すると期待されています。
TOKIUMインボイスは、紙の請求書原本の代行受領や保管まで対応し、経理現場に残る手作業をなくします。累計導入社数は1,200社以上に上り、規模や業種を問わず幅広く利用されています。
出典参照:TOKIUMインボイス、AI-OCRを活用しデータ化速度を向上~オペレーターとAI-OCRの組み合わせにより請求書確認がさらにスムーズになります~|株式会社TOKIUM
AIツールの導入は、やみくもに進めても成功しません。このセクションでは、導入を成功に導くための4つのステップを解説します。
AI導入プロジェクトの成否は、この最初のステップで9割が決まると言っても過言ではありません。まずは、経済産業省の「DX推進指標」を参考に、自社の現状と課題を客観的に把握することから始めましょう。
その上で現場の担当者を集めてヒアリングを実施し、「月末の残業が常態化している」「インボイス制度対応で確認作業が倍増し、差し戻しが多い」といった具体的な課題をすべて洗い出します。
次に、それらの課題を解決した先の「あるべき姿」を定義します。これが導入目的です。その際、「業務を効率化する」といった漠然としたものではなく、「請求書処理にかかる時間を月間100時間から50時間に削減する」「手入力によるエラー率を0.1%以下にする」のように、誰が見ても達成度が判断できる定量的で具体的な目標(KPI)を設定することが極めて重要です。
この目的が明確であればあるほど、後のツール選定の軸がブレず、導入後の効果測定も正確に行えるようになります。
出典参照:DX推進指標(サマリー)|経済産業省
明確な目的が定まったら、次はその目的を達成するための最適なAIツールを選定するフェーズです。ここでの判断ミスは、後の工程すべてに影響を及ぼすため慎重に進めましょう。
まずは、ステップ1で設定した目標を達成するために「絶対に譲れない機能(Must-have)」と「あれば嬉しい機能(Nice-to-have)」をリストアップし、評価基準を明確にします。その上で、各ツールの公式サイトや第三者の比較サイトで情報を収集し、機能、料金体系、サポート体制、セキュリティ、そして既存の会計システムとの連携性などを多角的に比較検討します。
特に費用対効果(ROI)の試算は、経営層の承認を得るための重要な根拠となります。 例えば、「削減できる人件費(削減見込み時間 × 平均時給)」と「ツールの年間コスト(初期費用 + 月額費用 × 12ヶ月)」を比較し、何年で投資を回収できるかを具体的に示しましょう。
多くのツールには無料トライアル期間やデモが用意されています。実際に操作して、現場の担当者が直感的に使えるかどうかを確認することも、失敗しないツール選びの重要なポイントです。
どんなに優れたツールでも、いきなり全社的に導入するのは大きなリスクを伴います。現場の混乱や想定外のトラブルを招き、プロジェクト自体が頓挫しかねません。
そこで強く推奨されるのが、特定の部門や業務範囲に限定して試験的に導入する「スモールスタート(PoC:概念実証)」です。
例えば、「経理部の中でも特に請求書の処理件数が多いチーム」や、「ITリテラシーが高く、新しいことへの挑戦に前向きなメンバーがいる部署」などを対象に選びます。この試験期間を通じて、ツールの実際の使い勝手や、既存の業務フローとの間に生じる摩擦などを洗い出します。
そして最も重要なのが、効果検証です。ステップ1で設定したKPI(処理時間、エラー率など)が、導入前後でどう変化したかを定量的に測定します。同時に、「操作は分かりやすいか」「本当に楽になったか」といった担当者の生の声もアンケートなどで収集しましょう。
このスモールスタートで得られた小さな成功体験と改善点は、後の全社展開をスムーズに進めるための、何物にも代えがたい貴重な財産となるのです。
スモールスタートで有効性が確認でき、改善点も洗い出せたら、いよいよ全社展開のフェーズです。
ここでの目標は、AIツールを誰もが迷わず使える状態を構築することです。まずは、スモールスタートで見つかった課題を反映させ、新しい業務フローを正式に定義します。そして、誰が作業しても同じ品質が保てるように、具体的な運用ルールをマニュアルに落とし込みましょう。
例えば、「請求書ファイル名は『取引日_取引先名_金額』とする」「AIが提案した仕訳で確信が持てない場合は、必ず上長にエスカレーションする」といった、詳細なルールを定めます。
次に、全従業員を対象とした研修会を実施します。ここではツールの操作説明だけでなく、「なぜこのツールを導入するのか」「これによって私たちの働き方はどう変わるのか」という目的やビジョンを丁寧に共有し、変革への当事者意識を高めることが成功の鍵です。
導入後も、定期的に現場の利用状況を確認し、フィードバックを収集してルールを改善していくPDCAサイクルを回し続けること。この地道な活動が、AI活用の効果を最大化させ、組織文化として定着させていくのです。

AI導入には多くのメリットがある一方、事前に知っておくべき注意点も存在します。
AIツールは、導入と運用に相応の「投資」が必要であることを正しく認識しなければなりません。
多くの人が最初に目にするのは、月額や年額のライセンス料ですが、コストはそれだけではありません。初期設定や既存システムとのデータ連携を外部の専門家に依頼すれば、数十万から数百万円の導入支援費用が発生することもあります。
また、従業員が新しいツールを習熟するための研修費用や、導入プロジェクトを推進する担当者の人件費といった「見えないコスト」も決して無視できません。さらに、導入後もシステムのアップデート対応や保守費用が継続的にかかります。
これらのトータルコストを事前に詳細に見積もり、「コスト(費用)」としてではなく、「将来のリターン(生産性向上、エラー削減、従業員満足度向上)を生むための戦略的投資」として経営層に説明し、理解を得ることが不可欠です。
予算計画を立てる際には、想定外の事態に備えて10~20%程度の予備費を確保しておくことも、プロジェクトを安定的に進める上で賢明な判断と言えるでしょう。
経理部門が扱うデータは、企業の財務状況、取引先の与信情報、従業員の給与情報など、極めて機密性の高い情報の集合体です。
これらの情報をクラウドベースのAIツールで扱う以上、セキュリティ対策は最優先で取り組むべき最重要課題となります。万が一、情報漏洩が発生すれば、金銭的な損害だけでなく、企業の社会的信用を失墜させる深刻な事態を招きかねません。
ツール選定時には、そのサービス提供者がどのようなセキュリティ体制を敷いているかを徹底的に確認しましょう。具体的には、通信やデータの暗号化、不正アクセス検知システム(IDS/IPS)といった技術的対策に加え、第三者機関による客観的な証明である「ISMS(ISO27001)認証」や「プライバシーマーク」を取得しているかは、信頼性を判断する上での必須条件です。
しかし、ツール側の対策だけに依存するのは危険です。自社内でも、「アクセス権限は必要最小限の原則を徹底する」「退職者のアカウントは即日削除する」といった厳格なルールを定め、全従業員に対して定期的なセキュリティ教育を実施することが、堅牢な防御壁を築く上で不可欠となります。
どんなに高性能なAIツールも従業員が使いこなせなければ、「宝の持ち腐れ」に終わってしまいます。 新しいツールの導入は、長年慣れ親しんだ業務フローの変更を伴うため、現場からは「覚えるのが面倒」「今のやり方で十分」といった抵抗感が生まれるのは自然なことです。
この変化へのハードルを乗り越えるためには、トップダウンで導入を推し進めるだけでは不十分です。操作方法を教えるテクニカルな研修はもちろん重要ですが、それ以上に「このツールは私たちの仕事を奪うものではなく、面倒な作業から解放してくれるパートナーである」というメッセージを伝え、導入後のポジティブな未来像を共有することが不可欠です。
また、各部署にツールの活用を推進するキーパーソンを任命し、その人を中心に成功事例を横展開していくのも効果的です。最終的な目標は、AIに代替される単純作業から解放された時間を、データ分析や業務改善提案といった、人間にしかできない高付加価値な業務に振り向けること。そのための継続的な学習機会(リスキリング)を提供し、組織全体のスキルアップを支援する視点が、AI導入を真の成功へと導きます。
「AIに仕事は奪われるのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、AIの役割はあくまで人間のサポートです。AI時代には、むしろ経理担当者の専門性がより重要になります。
これからの経理担当者にとって、Excelの関数やピボットテーブルを使いこなす能力は、もはや「できて当たり前」の基礎となります。
その上で、AI搭載のクラウド会計ソフト、RPAツール、BIツールといった、次世代のテクノロジーを自在に操るデジタルリテラシーが不可欠です。これは単にツールのボタン操作を覚えることではありません。
例えば、「会計ソフトのAPIを使って、販売管理システムから売上データを自動で取り込めないか」「毎月手作業で行っているこのレポート作成は、RPAで自動化できるのではないか」といったように、テクノロジーの可能性を理解し、自らの業務課題と結びつけて解決策を構想する能力を指します。
そのためには、クラウドやAPIといった技術の基本概念を理解し、常に最新のITトレンドにアンテナを張っておく知的好奇心が求められます。新しいツールが登場した際に、「難しそう」と敬遠するのではなく、まずは無料版を試してみるような積極性。この姿勢の違いが、5年後、10年後の市場価値を大きく左右することになるでしょう。
AIがデータ入力や集計といった「作業」を代行してくれる時代、経理担当者の真価が問われるのは、そのAIが生み出したデータをどう判断するかにかかっています。
これまでは、財務諸表を正確に作成することが主な役割でしたが、これからはそのデータから未来のビジネスチャンスやリスクを読み解き、経営の舵取りを支援することがミッションとなります。
例えば、BIツールを使って売上データを可視化し、「どの顧客セグメントの収益性が高いか」「どの製品の利益率が低下傾向にあるか」を分析します。その結果に基づき、「利益率の高い顧客層へのアプローチ強化」や「不採算製品の価格改定」といった具体的なアクションを経営陣に提言する。まさに「社内の経営コンサルタント」としての役割です。
そのためには、財務三表の深い知識はもちろん、損益分岐点分析やキャッシュフロー分析といった管理会計のフレームワークを駆使し、数字の裏側にあるビジネスの物語を読み解く会計データを経営に活かす分析力が、これまで以上に強く求められるのです。
AI導入は、単なる業務効率化に留まりません。既存の業務プロセスをゼロベースで見直し、会社全体の生産性を飛躍させることができます。
この変革に不可欠なのが、現状に疑問を持ち、あるべき業務プロセスを再構築するデザイン力です。「なぜこの申請書には、3つもハンコが必要なのか」「このデータは、なぜわざわざ手作業でシステムから転記しているのか」といったように、長年の慣習や「当たり前」を疑い、メスを入れる勇気が求められます。
そして、経理部門という枠にとらわれないことも重要です。営業部門の請求プロセスや購買部門の支払プロセスといった、会社全体のお金の流れを俯瞰し、部門間の壁を取り払った最適な業務フローを設計するのです。
これには、現状を正確に分析する論理的思考力、関係者を巻き込みながら合意形成を図るコミュニケーション能力、そしてプロジェクトを最後までやり遂げる実行力が必要となります。
経理DXとAI活用は、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。人材不足や業務の高度化といった課題を抱えるすべての企業にとって、避けては通れないテーマです。
AIは、経理担当者を単純作業から解放し、より創造的で付加価値の高い業務へとシフトさせるための強力なパートナーです。AIを使いこなし、データに基づいた的確な分析や提言を行うことで、経理部門は企業の成長を牽引する戦略的な部署へと進化できるのです。
まずは、チームメンバーと一緒に、現場の具体的な課題を書き出すことから始めてみてください。「日々の業務の中で、どんなことに一番時間がかかっているか?」「どんな作業を面倒だと感じているか?」といった生の声です。その一つひとつの課題こそが、会社の経理DXを成功に導く、最も確実で価値のある出発点となるはずです