バックオフィスDXにセキュリティは必要?基本の対策やステップを解説
バックオフィス
経理DXのセキュリティに不安を抱える担当者様へ。不正アクセスやマルウェアといった具体的なリスクから、アクセス管理や暗号化などの実践的な対策、ISMS認証など失敗しないツールの選び方までを専門家が解説。安全なDX推進のヒントが見つかります。
企業のデジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXが叫ばれる中、経理部門の変革である「経理DX」は多くの企業にとって喫緊の課題となっています。
法改正への対応や深刻化する人手不足を背景に、業務効率化の切り札として期待される一方、企業の根幹をなす財務情報という極めて機密性の高いデータを取り扱うため、セキュリティに対する漠然とした、しかし根深い不安から導入に踏み切れない経営者や経理責任者の方も少なくありません。
本記事では、そうした不安を解消し、経理DXを安全かつ確実に推進するための知識を網羅的に提供します。経理DXに潜む具体的なセキュリティリスクから、それを防ぐための実践的な対策、そして信頼できるツールを選び抜くための着眼点まで、専門的な知識がない方にも分かりやすく、順を追って丁寧に解説していきます。

経理DXを推進する上で、セキュリティ対策は単なる付加機能ではなく、事業継続性を左右する生命線とも言える最重要課題です。
その理由は、単にデジタル化に伴う漠然としたリスクという話に留まりません。遵守すべき法律の要請、金銭に直結する情報を虎視眈々と狙うサイバー攻撃の脅威、そして私たちが慣れ親しんだ従来のアナログな管理手法そのものが内包する脆弱性という、避けては通れない3つの大きな要因が複雑に絡み合っているのです。
これらの背景を正しく理解することこそ、安全な経理DXを実現するための第一歩となります。
近年の法改正、特に電子帳簿保存法とインボイス制度の施行は、経理業務のデジタル化を強力に後押しする一方で、企業に対して新たなセキュリティ上の責任を課しています。
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿書類を電子データで保存する際に「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの大きな要件を満たすことが義務付けられました。これは、保存されたデータが改ざんされておらず、かつ誰もが必要な時に速やかに内容を確認できる状態を維持することを意味します。この要件を満たすためには、訂正や削除の履歴が残るシステムや、タイムスタンプが付与されるシステムを導入する必要があり、これらは不正なデータ操作を防ぐというセキュリティ対策そのものと直結します。
同様にインボイス制度への対応においても、適格請求書を電子データでやり取りするケースが増加しており、送受信されるデータが本物であり、改ざんされていないことを保証する仕組みが不可欠です。もし、これらの法的要件を満たさない杜撰なデータ管理を行っていた場合、青色申告の承認が取り消されるといった追徴課税のリスクだけでなく、取引先からの信用を失うことにも繋がりかねません。したがって、法改正への対応は、業務プロセスの変更とセキュリティ強化を一体で進める必要があるのです。
企業が保有する数多の情報の中でも、経理部門が管理するデータは、サイバー犯罪者にとって最も価値のある標的の一つです。なぜなら、そこには取引先の口座情報、従業員の給与情報、そして企業の財務状況といった、直接的・間接的に金銭を窃取することに繋がる情報が凝縮されているからです。
サイバー攻撃の手口は年々巧妙化しており、経理担当者を名指しで狙う「標的型攻撃メール」は典型的な例です。取引先や金融機関を装った巧妙な文面で偽の請求書ファイルを開かせ、PCをマルウェアに感染させます。感染したPCは、攻撃者によって遠隔操作され、オンラインバンキングのIDやパスワードが盗み取られ、気づかぬうちに不正送金が行われるといった被害が発生します。
また、企業の機密情報を暗号化して使用不能にし、その復旧と引き換えに高額な身代金を要求する「ランサムウェア」攻撃も深刻です。経理データが人質に取られれば、決算業務が完全に停止し、事業継続に致命的な影響を及ぼします。これらの攻撃はもはや対岸の火事ではなく、自社の経理部門が常に狙われているという強い危機意識を持つことが、現代の企業経営には不可欠と言えるでしょう。
「うちはクラウドのような新しいものは使わず、昔ながらの紙とExcelで管理しているから安全だ」という考えは、残念ながら現代においては通用しない、むしろ危険な誤解であると言わざるを得ません。
長年慣れ親しんだアナログな管理方法は、一見すると安全に思えるかもしれませんが、実際には数多くの看過できないリスクを内包しています。まず、紙の書類は物理的な脆弱性から逃れられません。火災や地震、水害といった災害によって一瞬にして失われる可能性がありますし、オフィスへの侵入者による盗難や、従業員による安易な持ち出しによる紛失のリスクも常に付きまといます。
一方、Excelによる管理も決して万全ではありません。ファイルが特定の担当者のPC内にしか保存されていない「属人化」の状態は、その担当者が退職したり、急に休んだりした場合に業務が完全に停止するリスクを招きます。また、Excelファイルは簡単にコピーできるため、悪意を持った従業員がUSBメモリなどで機密情報を容易に持ち出すことが可能です。
さらに、手作業による入力ミスや計算式の誤りといったヒューマンエラーも発生しやすく、データの正確性を損なう原因となります。適切なセキュリティ対策が講じられた経理DXツールを導入することは、これらの旧来のリスクをまとめて解決し、結果として企業のセキュリティレベルを飛躍的に向上させるための、最も効果的な手段なのです。

経理DXという変革には、効率化や生産性向上といった成果がある一方で、様々なセキュリティ上の落とし穴が潜んでいます。これらのリスクを事前に特定し、その性質を深く理解しておくことは、安全に経理DXを進めるために不可欠です。
ここでは、経理DXを推進する上で特に注意すべき4つの代表的なセキュリティリスクについて、その手口や影響を具体的に掘り下げて解説します。これらの脅威が、いかにして自社の経営に深刻なダメージを与えうるかを現実的に認識することが、効果的な対策を講じるための第一歩となるでしょう。
不正アクセスとは、本来アクセスする権限を持たない第三者が、何らかの手段を用いてIDやパスワードといった認証情報を窃取し、企業のシステム内部へ不正に侵入する行為を指します。
この手口は多岐にわたりますが、代表的なものに、他のサービスから漏洩したIDとパスワードのリストを使ってログインを試みる「パスワードリスト攻撃」や、単純なパスワードを狙ってあらゆる組み合わせを機械的に試行する「ブルートフォース攻撃」などがあります。
特に、従業員が複数のWebサービスで同じパスワードを使い回していたり、「password」や「123456」といった安易な文字列を設定していたりする場合、これらの攻撃の成功率は飛躍的に高まります。一度システムへの侵入を許してしまうと、攻撃者は経理システムに格納されている顧客台帳や取引先情報、財務諸表、従業員の給与データといった機密情報を根こそぎ盗み出します。そして、盗み出された情報は、ダークウェブと呼ばれるインターネットの闇市場で売買され、他のサイバー犯罪者による更なる攻撃に悪用されたり、あるいは情報を人質に取って企業を脅迫する材料として使われたりします。
不正アクセスによる情報漏洩は、金銭的な被害だけでなく、企業の社会的信用を根底から覆す、極めて深刻な事態を引き起こすのです。
マルウェアとは、利用者の意図に反してPCやシステムに侵入し、有害な動作を行うために作られた悪意のあるソフトウェアやプログラムの総称です。
その種類は様々ですが、経理業務において特に警戒すべきものとして、まず「ランサムウェア」が挙げられます。これは、PCやサーバー上のファイルを勝手に暗号化して使用不能にし、元に戻すことと引き換えに高額な身代金を要求する極めて悪質なマルウェアです。経理データが暗号化されれば、月次の締め作業や決算業務が完全に停止し、事業活動に致命的な打撃を与えます。
また、キーボードの入力情報を盗み取り、オンラインバンキングのIDやパスワードを窃取する「キーロガー」や、PC内部に潜伏して機密情報を継続的に外部へ送信し続ける「スパイウェア」も大きな脅威です。
これらのマルウェアの主な感染経路は、取引先や金融機関を装ったメールの添付ファイルや、悪意のあるWebサイトの閲覧、あるいはウイルスが仕込まれたUSBメモリの使用など、日常業務の中に潜んでいます。たった一人の従業員のPCがマルウェアに感染しただけで、会計データが改ざん・破壊されたり、会社の預金が不正に送金されたりするなど、組織全体を揺るがす甚大な被害に発展する危険性を常にはらんでいるのです。
セキュリティ上の脅威は、必ずしも企業の外部からのみもたらされるわけではありません。時として、最も大きなダメージを与えるのは、組織の内部、すなわち従業員や元従業員といった内部関係者による不正行為です。
内部不正とは、正当なアクセス権限を持つ人物が、その権限を悪用して企業の機密情報を意図的に外部へ持ち出したり、漏洩させたりする行為を指します。その動機は、会社への不満や処遇への恨みといった私的な感情から、競合他社への転職時の手土産や、情報を売却することによる金銭目的まで様々です。
手口としては、経理システムからダウンロードした顧客リストや財務データをUSBメモリにコピーして持ち出す、個人のメールアドレスやプライベートで利用しているクラウドストレージに送信するといった古典的なものが依然として多く見られます。
特に、退職間際の従業員は、会社の監視が甘くなることを見越して、在職中に得た重要情報をまとめて持ち出すケースが後を絶ちません。外部からの攻撃と異なり、正規の権限を持ったユーザーによる操作であるため検知が難しく、気づいた時には既に手遅れとなっていることが多いのが、内部不正の最も恐ろしい点です。
クラウド型の経理システムは、インターネット経由で手軽に利用できるという大きなメリットがある一方で、その手軽さが故の新たなリスクも生み出しています。それが、担当者の知識不足や単純な操作ミスによって引き起こされる「設定ミス」です。
多くのクラウドサービスでは、データの公開範囲やアクセスできるユーザーを柔軟に設定できますが、この設定を誤ると、本来は一部の役員や経理担当者しか閲覧できないはずの機密情報が、意図せず全従業員や、最悪の場合にはインターネットに接続できる誰もがアクセスできる状態になってしまう可能性があります。
例えば、来期の予算計画や役員報酬のデータが含まれるファイルを、誤って「全員に共有」の設定でクラウドストレージにアップロードしてしまうといったケースが考えられます。これは、クラウドサービスの「責任共有モデル」という考え方に起因します。
サービス提供事業者はインフラの安全性を担保しますが、その上で利用者がどのようなデータを置き、どのようなアクセス設定を行うかという「データと設定の管理責任」は、あくまで利用者側にあるのです。
悪意が全くないヒューマンエラーであったとしても、たった一つのクリックミスが、外部からのサイバー攻撃と同等、あるいはそれ以上の深刻な情報漏洩事故を引き起こす引き金になりうるということを、強く認識しておく必要があります。
経理DXに潜む多様な脅威には、有効な対抗策が存在します。安全な経理DXを実現するためには、最新のテクノロジーを駆使した「技術的対策」と、組織全体のセキュリティ意識と規律を醸成する「管理的対策」を、車の両輪のようにバランス良く組み合わせて推進することが不可欠です。
ここでは、鉄壁のセキュリティ体制を構築するために講じるべき具体的な3つの対策について、その重要性と実践方法を深く掘り下げて解説します。これらの対策を組織的に実践することで、脅威に対する防御壁を格段に高めることができるでしょう。
セキュリティ対策の根幹をなすのが、「誰が」「どの情報に」「どこまでアクセスできるか」を定めるアクセス権限の管理です。業務に必要最小限の権限のみを与える「最小権限の原則」を徹底することで、万が一アカウントが乗っ取られても被害を限定的にできます。
さらに、この権限を保護するために不可欠なのが多要素認証(MFA)です。これは、IDとパスワードに加え、スマートフォンに送られる確認コードなどを組み合わせる仕組みで、仮にパスワードが漏洩しても不正ログインを極めて効果的に防ぎます。これらは不正アクセスや内部不正に対する最も基本的かつ強力な防御策なのです。
万が一、データが流出したり通信が盗聴されたりした場合の最後の砦となるのが「暗号化」技術です。これはデータを意味のない文字列に変換し、解読できないようにする処理です。
経理DXでは、PCとサーバー間の通信を守る「通信の暗号化(SSL/TLS)」と、システム内に保存されているデータ自体を守る「データの暗号化」の2つが必須となります。通信の暗号化は公衆Wi-Fiなどでの盗聴を防ぎ、データの暗号化はサーバーから直接盗まれても中身を守ります。
この2つの暗号化を組み合わせることで、情報の送受信時と保管時の両方で機密性を確保し、情報漏洩のリスクを抜本的に低減させることが可能です。
どれほど高度なシステムを導入しても、それを使う従業員の意識が低ければ意味がありません。「セキュリティチェーンは最も弱い輪のところで切れる」と言われるように、最終的には「人」が重要な要素となります。
そのため、不審なメールを開かない、安全なパスワードを管理するといった内容の継続的なセキュリティ教育が不可欠です。さらに、情報機器の持ち出しルールや、インシデント発生時の報告フローなどを明確に定めたルールを策定し、全社で共有・徹底することも重要です。
技術的な対策を「盾」とするならば、従業員教育とルール策定は組織全体の防御意識を高める「鎧」であり、両方が揃って初めて堅牢な体制が完成します。

経理DXの成否は、その中核を担う会計システムや経費精算ツールといったITツールの選定に大きく左右されると言っても過言ではありません。特にセキュリティの観点では、一度導入したツールに脆弱性が見つかった場合、その影響は計り知れず、乗り換えには多大なコストと時間がかかります。
だからこそ、導入前の段階で、信頼に足るツールを慎重に見極めることが極めて重要になります。ここでは、数多あるツールの中から、自社の貴重な経理情報を安心して預けられる、セキュリティレベルの高いツールを選び抜くために、必ず確認すべき3つの重要なポイントを具体的に解説します。
自社だけでツールの安全性を完璧に評価するのは困難です。そこで重要になるのが、客観的な評価基準である第三者認証の取得状況です。
特に、情報セキュリティ管理体制の国際規格である「ISMS(ISO/IEC 27001)」や、クラウドサービスに特化した「ISMSクラウドセキュリティ認証(ISO/IEC 27017)」を取得しているかは、信頼性を測る上で重要な指標となります。
これらの認証は、組織が情報セキュリティに関する包括的な管理体制を構築し、適切に運用していることの証明です。公式サイトなどで取得状況を確認することは、そのベンダーがセキュリティ対策に真摯に向き合っているかを判断するための、最も手軽で確実な第一歩と言えるでしょう。
第三者認証がベンダーの「体制」のお墨付きなら、次はツール自体の個別の「機能」を確認します。まずは自社のセキュリティポリシーを満たす機能が備わっているかを確認しましょう。
例えば、不正ログインを防ぐ多要素認証(MFA)や、許可された場所からしかアクセスできないようにするIPアドレス制限は必須の機能です。また、万が一の際に原因を追跡するためのアクセスログ管理機能も重要です。「いつ、誰が、何をしたか」を記録し、不正の追跡や原因究明に役立ちます。
自社が重視するセキュリティ要件をリストアップし、それらをツールがどのレベルで満たしているかを丁寧に確認する作業が不可欠です。
どれだけ堅牢なシステムでも、障害発生の可能性をゼロにすることはできません。重要なのは、万が一の際にベンダーがどれだけ迅速かつ的確に対応してくれるか、すなわちサポート体制の充実度です。
サポートの受付時間や連絡手段はもちろん、サービスの品質を保証するSLA(サービスレベルアグリーメント)で、稼働率や復旧目標時間が定められているかを確認しましょう。また、過去の障害発生時の対応や復旧までの時間などを公開しているベンダーは、透明性が高く信頼できます。
日々の業務が完全に依存する経理システムだからこそ、ビジネスへの影響を最小限に食い止めてくれる、信頼性の高いサポート体制を持つベンダーを選ぶべきです。
経理DXにおけるセキュリティ対策は、DXを妨げる制約ではなく、企業の生命線である「信用」と「資産」を守り、事業を成長させるための重要な投資です。本記事で解説したリスクや対策を正しく理解し、自社の状況に合ったツールを慎重に選定することが成功の鍵となります。
技術的な対策と、従業員教育といった組織的な対策を両輪で着実に進めることで、DXがもたらす業務効率化や生産性向上といった恩恵を、安全に享受できるはずです。まずは自社の現状把握から始め、確実な経理DXへの第一歩を踏み出しましょう。