労務DXにおけるAI活用とは?メリットや業務効率化の方法まで解説

労務DXを進める上で、AIの活用が鍵を握る時代になっています。しかし、AIを活用して業務効率化を進める中で、どのツールを導入し、どのように運用していくかは、多くの企業にとって悩ましい課題です。

本記事では、労務DXにおけるAI活用の実際と、その導入によって得られるメリットや業務効率化の方法を詳しく解説します。AIを導入することで、企業の労務管理業務がどう変わり、どんな未来が開けるのかをご紹介します。

労務DXにおけるAI活用とは?

労務DXにおけるAI活用は、以下のとおりです。

  • 労務DXとは
  • 労務DXにおけるAI活用の位置づけと目的
  • 従来型AIと生成AIの違い
  • 従来の労務管理システムと何が違うのか

それぞれ解説します。

労務DXとは

労務DXとは、デジタル技術で従来の労務管理プロセスを根本から見直し、業務効率化と付加価値の創出を目指す経営戦略の一環です。単に書類を電子化する部分的な改善ではなく、ビジネスモデルや組織文化そのものの変革を意味します。

具体的には、クラウド型の労務管理システムやAIツールを導入して手作業の業務を自動化し、散在する人事データを一元管理・分析します。労務DXは、守りのイメージが強かった労務管理を、企業の成長を牽引する戦略的部門へと進化させる取り組みです。

労務DXにおけるAI活用の位置づけと目的

労務DXにおけるAI活用は、主に定型業務の自動化による生産性向上と、人事データの分析・予測による戦略的な意思決定の支援を目的とします。多くの企業では、人事担当者が給与計算や勤怠管理といった反復作業に多くの時間を費やしているのが現状です。

AIでこれらの業務を自動化することで、担当者はより創造的で付加価値の高いコア業務へシフトできます。AIは単なる効率化ツールではなく、人事部門の役割そのものを変革するエンジンとして位置づけられるのです。

従来型AIと生成AIの違い

従来型AIがデータ分析やパターン認識による「予測」を得意とするのに対し、生成AIは学習データから新しいコンテンツを「創造」することに特化しています。従来型AIは、過去の勤怠データから離職リスクの高い従業員を予測したり、膨大な応募書類から自社の要件に合う候補者を抽出したりするタスクで活用されます。

一方、生成AIは雇用契約書や社内規定のドラフトを作成したり、対話形式で質問に答えるチャットボットを構築したりすることが可能です。労務DXでは、それぞれのAIの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。

従来の労務管理システムと何が違うのか

従来の労務管理システムが定型業務の「効率化」を主目的とするのに対し、AI搭載型システムはデータの分析や予測に基づく「意思決定支援」や「業務の高度化」を実現する点で異なります。従来のシステムは、勤怠管理や給与計算をデジタル化することで、手作業のミスを減らし業務時間を短縮してきました。

AI搭載型システムはさらに一歩進んで、蓄積データを分析し、「どのような人材配置が組織のパフォーマンスを最大化するか」といった経営課題への示唆を与えます。AIの有無は、システムが単なる「作業の道具」か、「戦略的なパートナー」かの違いを生むのです。

労務DXのAI活用が求められる理由

労務DXのAI活用が求められる理由は、以下4つです。

  • 労働人口の減少で人手不足が深刻である
  • 法改正への対応で労務管理が複雑化している
  • 従業員エンゲージメント向上の重要性が高い
  • データにもとづく戦略的な人事・労務への変革が必要である

ひとつずつ解説します。

労働人口の減少で人手不足が深刻である

深刻化する人手不足を補い、限られた人材を付加価値の高いコア業務に集中させるため、AIによる業務自動化が重要です。日本の生産年齢人口は年々減少し、多くの企業で人材確保が大きな経営課題となっています。

出典参照:第2-(1)-1図 我が国の生産年齢人口の推移と将来推計|厚生労働省

この状況下で人事担当者が定型業務に追われていては、人材育成や組織開発といった企業の将来を左右する重要な業務に取り組む時間が確保できません。AIで単純作業を自動化することは、人手不足という課題を乗り越え、企業の持続的な成長を支える有効な一手となります。

法改正への対応で労務管理が複雑化している

複雑化・頻発化する法改正に迅速かつ正確に対応するには、人手だけに頼らず、AIを活用した情報収集やシステム更新が有効です。働き方改革関連法をはじめ、労働関連法規は毎年のように改正され、内容はますます複雑になっています。

これらの法改正の見落としや解釈の誤りは、企業に法的なリスクをもたらしかねません。AIツールの中には最新の法改正情報を自動で反映するものもあり、コンプライアンスを遵守した労務管理体制の構築に大きく貢献します。

出典参照:「働き方改革関連法」の概要|厚生労働省

従業員エンゲージメント向上の重要性が高い

人材の定着と企業の持続的成長には従業員エンゲージメントの向上が不可欠であり、AIによるデータ分析は個々の従業員に寄り添った施策の立案が可能です。従業員エンゲージメントとは、従業員が仕事へ抱く「熱意」や「貢献意欲」であり、これが高い組織は生産性も高い傾向にあります。

また、AIは従業員の勤怠データやコミュニケーション履歴などを分析し、エンゲージメントの低下や離職の兆候を早期に発見できます。この分析結果は、人事担当者が適切なタイミングで面談をおこなうなど、効果的な対策を講じるための重要な判断材料となるのです。

データにもとづく戦略的な人事・労務への変革が必要である

従来の勘や経験に依存した人事から脱却し、AIによる客観的なデータ分析に基づいた戦略的な人事・労務へと変革することが、企業の競争力を高めるうえで必須です。これまでの人事評価や人材配置は、評価者の主観や経験則に頼る部分が大きく、必ずしも最適とは限りませんでした。

AIを活用すれば、個人のスキル、実績、キャリア志向といった多様なデータを客観的に分析し、科学的根拠に基づいた人材配置や育成計画を策定できます。データドリブンな人事戦略への転換は、組織全体のパフォーマンスを最大化させるために不可欠な変革です。

労務DXでAIを活用する際の課題

労務DXでAIを活用する際の課題は、以下の5つです。

  • 導入時・運用時にコストがかかる
  • AIの判断プロセスが不透明な「ブラックボックス問題」がある
  • AIの誤判断や情報漏えいなどセキュリティリスクが高い
  • AIを使いこなす専門知識やスキルが不足している
  • 既存システムとの連携やデータ整備が難しい

それぞれ解説します。

導入時・運用時にコストがかかる

AIツールの導入には初期費用だけでなく、継続的な運用・保守コストも発生するため、費用対効果を慎重に見極める必要があります。高性能なAIツールはライセンス料が高額になる傾向があり、初期投資が大きな負担となることもあります。

また、システムのアップデートやメンテナンス、AIの学習データを管理する人件費といったランニングコストも考慮しなければなりません。導入によってどれだけの業務時間が削減され、どのような付加価値が生まれるのかを具体的に試算し、投資対効果を冷静に判断することが求められます。

AIの判断プロセスが不透明な「ブラックボックス問題」がある

AIの判断根拠が不明瞭な「ブラックボックス問題」は、結果の妥当性検証や説明責任を困難にするため、プロセスの透明性が確保されたツールの選定が求められます。たとえば、AIが特定の従業員を「離職リスクが高い」と判断しても、その理由が分からなければ人事担当者は具体的な対策を立てられません。

また、人事評価にAIを用いる場合、評価の根拠を従業員に説明できなければ、不信感や不満を生む原因にもなり得ます。そのためAIツール選定時には、なぜその結論に至ったのか、判断の根拠をある程度可視化できる機能があるかも重要なポイントです。

AIの誤判断や情報漏えいなどセキュリティリスクが高い

機密性の高い個人情報を扱う労務分野では、AIの誤判断やサイバー攻撃による情報漏えいが重大なリスクとなるため、万全なセキュリティ対策が不可欠です。AIは学習データに基づいて判断しますが、データに偏りがあったり質が低かったりすると、誤った結論を導き出す可能性があります。

さらに、従業員の個人情報や給与情報といった機密データはサイバー攻撃の標的になりやすく、一度漏えいすれば企業の社会的信用は大きく損なわれます。これらのリスクを回避するには、信頼性の高いAIツールを選び、厳格なセキュリティ体制を構築することが絶対条件です。

AIを使いこなす専門知識やスキルが不足している

AIの性能を最大限に引き出すには、データを適切に扱える専門知識やスキルを持つ人材の確保・育成が不可欠であり、多くの企業で課題となっています。AIツールを導入しただけでは、業務は自動的に効率化されません。

AIが出力した分析結果を正しく解釈し、具体的な人事施策に結びつけるには、データサイエンスや統計学に関する一定の知識が求められます。しかし、こうした専門スキルを持つ人材は市場全体で不足しており、多くの企業がAIを導入しても十分に活用しきれていないのが実情です。

既存システムとの連携やデータ整備が難しい

AIを効果的に活用するには、既存の人事・給与システムとのスムーズなデータ連携と、AIが学習するための質の高いデータ整備が前提となります。多くの企業では、勤怠管理、給与計算、人事評価など、目的ごとに異なるシステムが導入され、データが分散管理されているケースが少なくありません。

AIが正確な分析をおこなうには、散在したデータを集約・整形する作業が必要ですが、多大な時間と労力がかかります。このデータ連携と整備のハードルが、AI活用の大きな障壁となっているのです。

労務DXでAIを活用するメリット

労務DXでAIを活用するメリットは、以下の4つです。

  • 定型業務の自動化で生産性を向上させコア業務に集中できる
  • 客観的データに基づき公平な人事評価を実現できる
  • 従業員データを分析しエンゲージメント向上と離職率改善につながる
  • データドリブンな人材配置・育成計画を策定できる

ひとつずつ解説します。

定型業務の自動化で生産性を向上させコア業務に集中できる

給与計算や入退社手続きなどの定型業務をAIに任せることで、人事担当者は人材育成や制度設計といった、より付加価値の高いコア業務に専念できます。毎月の給与計算や社会保険の手続き、年末調整といった業務は、正確性が求められる一方で多くの時間を要する定型作業です。

AIはこれらの業務を高速かつ正確に処理できるため、人事担当者は単純作業から解放されます。結果的に、従業員のキャリア開発支援やエンゲージメント向上の施策立案など、企業の成長に直接貢献する戦略的な業務により多くの時間を割けるようになります。

客観的データに基づき公平な人事評価を実現できる

評価者の主観や偏りを排除し、実績やスキルといった客観的なデータに基づいてAIが評価を補助することで、従業員の納得度が高い公平な人事評価が実現できます。従来の人事評価では、「声の大きい人が評価されやすい」「上司との相性で評価が変わる」といった問題が起こりがちでした。

AIは、個人の業績データ、勤怠状況、保有スキルなどを多角的に分析し、評価の参考となる客観的な情報を提供してくれます。結果的に評価プロセス全体の透明性が高まり、従業員は自身の評価に対してより深く納得しやすくなります。

従業員データを分析しエンゲージメント向上と離職率改善につながる

AIが勤怠データやコミュニケーション履歴などを分析し、従業員のコンディション変化や離職の兆候を早期に検知することで、効果的なエンゲージメント向上策や離職防止策を講じられます。

従業員の離職は企業にとって大きな損失ですが、その兆候は日常の行動変化に現れることが多いとされています。AIは、人間では気づきにくい残業時間の急増や社内コミュニケーションの減少といった微細な変化を捉え、アラートを発することが可能です。

この情報を基に上司や人事が早期にフォローアップすることで、問題が深刻化する前に対処し、貴重な人材の流出を防止につながります。

データドリブンな人材配置・育成計画を策定できる

従業員一人ひとりのスキルやキャリア志向をAIが分析・可視化することで、個々の能力を最大限に活かすデータドリブンな人材配置や育成計画の策定が可能になります。社員の能力を最大限に引き出す「適材適所」の実現は、多くの企業にとって永遠のテーマです。

AIは、従業員が持つスキルや過去の経歴、本人のキャリア希望などをデータとして分析し、最も活躍が期待できるポジションや今後伸ばすべきスキルを提案します。このようなデータに基づいたアプローチは、従業員のモチベーション向上にもつながり、組織全体の生産性を高める効果が期待できます。

【ニーズ別】労務DXの具体的なAI活用シーン

ニーズ別の労務DXの具体的なAI活用シーンは、以下のとおりです。

  • 採用・入社手続きを自動化し効率を上げる
  • 問い合わせ対応をAIチャットボットに任せる
  • 契約書や社内規程のドラフトをAIで作成する
  • 勤怠管理・給与計算のミスを自動で防ぐ
  • 人事評価・タレントマネジメントを高度化する
  • 従業員のコンディションを把握し離職を防ぐ

それぞれ解説します。

採用・入社手続きを自動化し効率を上げる

履歴書の自動スクリーニングや面接の日程調整、入社書類の作成などをAIで自動化することで、採用担当者の負担を軽減し、選考プロセスの迅速化を図ります。人気の職種には多数の応募が殺到し、全ての履歴書に目を通すだけでも膨大な時間がかかります。

AIは、あらかじめ設定した要件に基づいて応募書類を自動で評価し、優先順位付けができます。採用担当者は有望な候補者とのコミュニケーションに集中できるため、採用の質とスピードの両方を向上させることが可能です。

問い合わせ対応をAIチャットボットに任せる

社内規定や福利厚生に関する頻繁な問い合わせに対し、AIチャットボットが24時間365日対応することで、人事担当者の対応工数を削減し、従業員の自己解決を促進します。従業員からの「有給休暇の残日数は?」「経費精算の方法は?」といった定型的な質問は、人事部門の業務を圧迫する一因です。

しかし、AIチャットボットを導入すれば、これらの質問にAIが即座に自動回答するため、従業員はいつでも気軽に疑問を解消できます。結果として人事担当者はより専門的な相談への対応に時間を割けるようになり、従業員満足度の向上にもつながります。

契約書や社内規程のドラフトをAIで作成する

AIを活用することで、雇用契約書や就業規則といった各種規程のドラフトを迅速に作成し、法務・人事担当者の業務を効率化できます。たとえば、契約書や規程の作成は、法的な専門知識が求められる手間のかかる作業です。

AIに必要な条件や盛り込みたい内容を指示するだけで、たたき台となるドラフトを数分で作成できます。もちろん最終的には専門家による確認が必要ですが、一から作成する手間が省けるため、業務時間を大幅に短縮できるでしょう。

勤怠管理・給与計算のミスを自動で防ぐ

AIが打刻漏れや残業時間の計算、社会保険料の改定などを自動でチェック・修正することで、人為的ミスを防ぎ、給与計算の正確性を向上させます。給与計算は1円の間違いも許されない、非常に神経を使う業務です。

しかし、AIは従業員の勤怠データと就業規則を照合し、残業代の計算ミスや各種手当の計上漏れなどを自動で検知してくれます。結果的に担当者の確認作業の負担が軽減されるだけでなく、給与の支払いミスといった重大なトラブルを未然に防ぐことにもつながります。

人事評価・タレントマネジメントを高度化する

AIが従業員のパフォーマンスデータやスキル情報を多角的に分析し、評価の客観性を高めるとともに、個々の才能を最大限に引き出すタレントマネジメントを支援します。そして、優れた人材を発掘し、その能力を最大限に引き出すことは企業の成長に不可欠です。

AIは、社内に埋もれている優秀な人材を発見したり、特定のスキルを持つ従業員をリストアップしたり、個々の従業員に最適な研修プログラムを推薦したりできます。AIは人事評価の高度化と、戦略的なタレントマネジメントの実現を力強くサポートしてくれます。

従業員のコンディションを把握し離職を防ぐ

勤怠データやPCの利用状況などから従業員の働き方の変化をAIが検知し、心身のコンディション不良や離職リスクの兆候を早期にアラートすることで、適切なケアを可能にします。

従業員のメンタルヘルス不調や突然の離職は、本人にとっても企業にとっても不幸な出来事です。AIは、深夜残業の増加やメール送信数の減少といった客観的なデータから、従業員のストレス状態やエンゲージメントの変化を捉えることができます。このアラートをきっかけに上司や人事が適切な声かけやサポートをおこなうことで、従業員が安心して働き続けられる環境づくりに貢献できます。

労務のAI活用における情報漏えいリスクと万全なセキュリティ対策

労務のAI活用における情報漏えいリスクと万全なセキュリティ対策は、以下の7つです。

  • 労務データの情報漏えいが企業に与えるダメージは大きい
  • AI利用時に起こりうる情報漏えいの具体的な手口を知る
  • AI利用に関する社内ガイドラインを策定する
  • 情報漏えいを防ぐ安全なAIツールの選定基準を知る
  • 役職や業務に応じたアクセス権限を管理する
  • 全従業員を対象にセキュリティ教育を徹底する
  • 利用状況を監視・監査する体制を構築する

ひとつずつ解説します。

労務データの情報漏えいが企業に与えるダメージは大きい

労務データの漏えいは、法的責任の追及や高額な損害賠償だけでなく、社会的信用の失墜や従業員の士気低下など、企業経営に計り知れないダメージを与えます。従業員の氏名、住所、給与、評価といった個人情報は、個人情報保護法によって厳格な管理が義務付けられています。

もし情報が漏えいした場合、企業は法律に基づく罰則を受ける可能性や、被害を受けた従業員から損害賠償請求訴訟を起こされるリスクがあります。何よりも、「従業員の情報を守れない会社」というレッテルは、顧客や取引先からの信頼を失い、事業の継続すら危うくしかねません。

AI利用時に起こりうる情報漏えいの具体的な手口を知る

不正アクセスやマルウェア感染といった外部からの攻撃だけでなく、従業員の誤操作や内部不正など、具体的な漏えいの手口を理解することが効果的な対策の第一歩です。情報漏えいの原因はサイバー攻撃だけではありません。

従業員が機密情報の入ったUSBメモリを紛失したり、悪意のあるメールの添付ファイルを開いたりといったヒューマンエラーも大きな原因です。また、退職者が顧客情報を持ち出すといった内部不正のリスクも常に存在します。どのような手口があるかを知ることで、初めて具体的な防御策を立てられるのです。

AI利用に関する社内ガイドラインを策定する

データの取り扱い範囲や利用目的、禁止事項などを明確にした社内ガイドラインを策定し、全従業員に周知徹底することがセキュリティガバナンスの基礎となります。AIツールを導入する際には、「どのようなデータをAIに学習させるか」「AIが生成した情報の取り扱いルール」などを明確に定めておく必要があります。

とくに、個人情報や機密情報をAIに入力することを原則禁止するなど、具体的な禁止事項を設けることが重要です。このガイドラインは、従業員が安心してAIを利用するための道しるべとなり、組織全体のセキュリティ意識を高めます。

情報漏えいを防ぐ安全なAIツールの選定基準を知る

ツールの選定においては、データの暗号化やアクセス制御機能、第三者機関によるセキュリティ認証の有無など、技術的な安全基準を満たしているかを確認することが極めて重要です。AIツールを提供する事業者がどのようなセキュリティ対策を講じているかは、必ず確認すべきポイントです。

具体的には、通信や保存データが暗号化されているか、IPアドレス制限などのアクセス制御が可能か、ISO27001(ISMS)のような国際的なセキュリティ認証を取得しているかなどが判断基準となります。自社のセキュリティポリシーと照らし合わせ、信頼できるツールを選ぶことが不可欠です。

役職や業務に応じたアクセス権限を管理する

「知る必要のある者だけが知る」という原則に基づき、従業員の役職や業務内容に応じてデータへのアクセス権限を最小限に設定することが、内部からの情報漏えいを防ぐ基本です。全従業員がすべての情報にアクセスできる状態は非常にリスクが高いです。

そのため、人事担当者であっても、担当業務に直接関係のない情報にはアクセスできないよう、権限を細かく設定する必要があります。「最小権限の原則」を徹底することが、内部不正や不注意による情報漏えいのリスクを大幅に低減させます。

全従業員を対象にセキュリティ教育を徹底する

ツールの安全性だけでなく、それを利用する従業員一人ひとりのセキュリティ意識が不可欠であり、定期的な教育を通じてリテラシーを向上させるのが重要です。どれだけ高機能なセキュリティシステムを導入しても、使う人間の意識が低ければ効果は半減してしまいます。

そのため、不審なメールの見分け方、安全なパスワードの設定方法、社内情報の取り扱いルールなどについて、全従業員を対象とした研修を定期的に実施することが求められます。従業員一人ひとりが「自分がセキュリティの最後の砦である」という自覚を持つことが、組織全体の防御力を高めるポイントです。

利用状況を監視・監査する体制を構築する

AIツールの利用ログを定期的に監視・監査し、不審なアクセスや不正な操作がないかをチェックする体制を構築することで、インシデントの早期発見と抑止につながります。具体的には、誰が、いつ、どの情報にアクセスしたかというログを記録・分析することは、不正行為の抑止力として機能します。

万が一インシデントが発生した場合にも、ログを追跡することで迅速な原因究明と被害拡大の防止が可能になります。このような監視・監査体制は、性善説に立つのではなく、リスクが常に存在するという前提で組織を守るために不可欠な仕組みです。

労務DXで自社に合うAIツールを見極める選定ポイント

労務DXで自社に合うAIツールを見極める選定ポイントは、以下の6つです。

  • 最優先で確認すべきセキュリティ要件を確認する
  • 自社の課題を解決できるか対応業務範囲を確認する
  • 既存システムと連携できるかAPI連携の重要性を把握する
  • 専門家でなくても使えるか操作性を確認する
  • 費用対効果は見合うか料金体系と総コストを考える
  • 導入後のサポート体制が充実している

それぞれ解説します。

最優先で確認すべきセキュリティ要件を確認する

ツール選定で最も優先すべきはセキュリティです。個人情報保護法などの法令を遵守しているか、また堅牢なセキュリティ対策が講じられているかを厳しく確認する必要があります。労務データは機密情報の塊であり、その保護は企業の法的・社会的責務です。

ツールの機能や価格を比較する前に、まずそのツールが信頼できるセキュリティ基盤の上に成り立っているかを確認しなければなりません。データの暗号化方式やサーバーの管理体制、プライバシーマークの取得状況などをチェックリスト化し、基準をクリアしたものだけを候補とすべきです。

自社の課題を解決できるか対応業務範囲を確認する

自社が抱える最も重要な課題を明確にし、その課題を直接的に解決できる機能を持つツールかどうか、対応業務範囲を詳細に確認します。たとえば、「給与計算のミスを減らしたい」という課題があるのに、採用管理に特化したツールを導入しても意味がありません。

まず自社の業務プロセスを棚卸しし、「どの業務に」「どのような課題があるのか」を具体化することが重要です。各ツールの機能と自社の課題リストを照らし合わせ、最もフィットするものを選び出すアプローチが効果的です。

既存システムと連携できるかAPI連携の重要性を把握する

既存の人事・給与システムなどとスムーズにデータ連携できるか(API連携の可否)は、導入後の業務効率を大きく左右する重要な確認ポイントです。新たに導入するAIツールが既存システムと連携できない場合、データを手作業で二重入力する手間が発生し、かえって業務が非効率になる恐れがあります。

そのため、API(Application Programming Interface)といったシステム同士がデータをやり取りする仕組みに対応したツールであれば、既存システムとの自動連携が可能です。このAPI連携の有無が、導入効果を最大化するポイントとなります。

専門家でなくても使えるか操作性を確認する

一部の専門家だけでなく、人事担当者をはじめとする多くの従業員が直感的に使える操作性(UI/UX)でなければ、社内に定着せず形骸化するリスクがあります。どれだけ高機能なツールでも、操作が複雑で分かりにくければ次第に使われなくなってしまいます。

とくに人事担当者は、必ずしもITの専門家ではありません。マニュアルを熟読しなくても、画面を見ただけで直感的に操作が分かるような、シンプルで分かりやすいデザインのツールを選ぶことが重要です。可能であれば導入前に無料トライアルなどを利用し、実際の操作感を試すのがおすすめです。

費用対効果は見合うか料金体系と総コストを考える

初期費用や月額料金だけでなく、導入後の運用コストまで含めた総コストを算出し、それによって得られる業務効率化や生産性向上の効果と見合うかを冷静に判断します。料金体系はツールによってさまざまで、従業員数に応じた課金モデルや利用機能に応じたプランなどがあります。

表面的な価格だけでなく、自社の利用規模や必要な機能を考慮して総コストを正確にシミュレーションすることが大切です。削減できる人件費や向上する生産性といった導入効果と比較し、投資に見合うリターンが得られるかを多角的に検討する必要があります。

導入後のサポート体制が充実している

導入後に発生する疑問やトラブルに迅速かつ的確に対応してくれる、充実したサポート体制が整っているかは、ツールを安定して活用し続けるためのコツとなります。AIツールを導入すると、「操作方法が分からない」「エラーが表示された」といった問題が必ず発生します。

そんな時に電話やメールですぐに相談できる窓口があるか、オンラインのマニュアルやFAQが整備されているかは重要です。とくに、導入初期のつまずきを解消してくれる手厚いオンボーディング支援の有無が、ツールの社内定着を左右する大きなポイントになります。

【企業別】労務DXにおけるAI活用・導入の成功事例

企業別の労務DXにおけるAI活用・導入の成功事例は、以下の7つです。

  • AI活用で公平性の高い人事評価制度を構築|明治安田生命
  • AIが新入社員の配属先をマッチングして適材適所を実現|サイバーエージェント
  • 従業員のスキルや経験を自然言語処理で分析し、最適な配置を提案|KPMG
  • AIが離職リスクを予測して戦略的な人材定着を支援|アッテル
  • AIチャットボットが人事に関する質問に24時間対応して75%を自動化|クスリのアオキ
  • 採用プロセスをAIで自動化して人事担当者の採用業務を約3割効率化|IBM
  • AIが新入社員の状況を分析して最適なオンボーディング施策を提案|HaKaSeOnboard

ひとつずつ解説します。

AI活用で公平性の高い人事評価制度を構築|明治安田生命

明治安田生命は、AIを用いて評価のばらつきを補正するシステムを導入し、評価の客観性と公平性を高めることで従業員の納得感を醸成させています。従来の人事評価では、評価者によって基準に甘辛の差が生じることが課題でした。

そこで同社は、過去の評価データをAIに学習させ、各評価者の傾向を分析・補正するシステムを開発し、評価者ごとの「クセ」が取り除かれ、全社で統一された基準に基づいた、より公平な評価が実現しました。この取り組みは従業員の評価への信頼を高め、モチベーション向上にもつながっています。

出典参照:鍵は規制対応、大和証券や明治安田生命が挑む金融機関の生成AI活用策 | 日経クロステック(xTECH)|株式会社 日経BP

AIが新入社員の配属先をマッチングして適材適所を実現|サイバーエージェント

サイバーエージェントは、新入社員の適性や能力をAIが分析し、最適な配属先を提案するシステムを活用することで、早期離職の防止と戦力化を促進しています。同社では、新入社員の研修期間中の成果や行動特性、自己申告などをデータとしてAIに入力します。

AIはこれらの膨大な情報を分析し、一人ひとりの個性が最も活かせる部署やチームを予測して、配属案を人事担当者に提案することが可能です。このAIによるマッチングは配属のミスマッチを減らし、新入社員が早期に活躍できる環境の提供に大きく貢献しています。

出典参照:サイバーエージェント、AIで新卒配属 170人と100部署を仲介 – 日本経済新聞|日本経済新聞

従業員のスキルや経験を自然言語処理で分析し、最適な配置を提案|KPMG

KPMGでは、AIの自然言語処理技術で従業員の職務経歴書を分析し、各プロジェクトの要件に最も合致する人材を迅速にアサインしています。コンサルティングファームである同社では、プロジェクトごとに求められる専門性やスキルが多岐にわたります。

AIは社内に蓄積された膨大な職務経歴書を解析し、キーワードや経験内容から各従業員のスキルをタグ付けしてデータベース化が可能です。これにより、プロジェクトの要件を入力するだけで最適なスキルを持つ候補者が瞬時にリストアップされ、迅速なチーム編成が可能になりました。

出典参照:KPMGコンサルティング、AIを活用した人事業務の高度化支援サービスの提供を開始|KPMGコンサルティング株式会社

AIが離職リスクを予測して戦略的な人材定着を支援|アッテル

HRテック企業のアッテルは、AIが従業員の離職リスクを予測するサービスを提供し、導入企業がデータに基づいた効果的なリテンション施策を講じることを支援しています。このサービスは、従業員の勤怠データや人事評価などをAIが分析し、個々の離職可能性をスコアとして算出できます。

人事担当者や上司は、このスコアが高い従業員に対し、早期に面談を設定するなどのフォローアップが可能です。勘や経験に頼らず、データに基づいて離職の兆候を捉えることで、より効果的な人材定着を実現しています。

出典参照:アッテル | データ×AIで人事課題を解決するピープルアナリティクスクラウド|株式会社アッテル

AIチャットボットが人事に関する質問に24時間対応して75%を自動化|クスリのアオキ

クスリのアオキは、人事関連の問い合わせにAIチャットボットが自動応答する仕組みを導入し、問い合わせの75%を自動化して担当者の業務負担を大幅に軽減しました。ドラッグストアを全国展開する同社では、従業員からの問い合わせが人事部門に集中し、業務を圧迫していました。

そこでAIチャットボットを導入し、よくある質問と回答を学習させたところ、全問い合わせの約4分の3を自動で解決できるようになったのです。これにより人事担当者は本来注力すべき企画業務などに時間を使えるようになり、生産性が大きく向上しました。

出典参照:クスリのアオキ様が15,000人以上の労務関連の社内問い合わせ対応にパナソニックの AI チャットボット「WisTalk」を導入|パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社

採用プロセスをAIで自動化して人事担当者の採用業務を約3割効率化|IBM

IBMは、AIを活用して膨大な応募書類のスクリーニングや面接調整を自動化し、人事担当者の採用関連業務を約3割削減することに成功しました。世界中で事業を展開する同社には、日々多数の応募があります。

同社が開発したAI「Watson」は、募集職種の要件と応募者の経歴を照合し、候補者をランク付けできます。また、候補者との面接日程の調整といったコミュニケーションもAIが代行しています。結果的に、採用担当者は煩雑な事務作業から解放され、候補者の能力をじっくりと見極めるという、採用活動の本質的な部分に集中できるようになりました。

出典参照:IBM Watson(ワトソン)のAI導入で何ができる?活用事例を紹介 | DXを推進するAIポータルメディア「AIsmiley」

AIが新入社員の状況を分析して最適なオンボーディング施策を提案|HaKaSeOnboard

HaKaSe Onboardは、AIが新入社員のエンゲージメント状態を分析し、個々の状況に応じた最適なフォローアップ施策を提案することで、早期定着を支援するサービスを展開しています。新入社員の早期離職は多くの企業が抱える課題ですが、その原因は一人ひとり異なります。

このサービスでは、新入社員が定期的に入力するサーベイ結果をAIが分析し、「人間関係に悩んでいる」「業務内容に不安を感じている」といった個別の課題を特定できます。そして、その課題を解決するために最も効果的と考えられるアクションを人事に提案し、効果的なオンボーディングを実現します。

出典参照:セプテーニグループ人的資産研究所がヒューマンロジック研究所開発協力のもと、 新入社員オンボーディングのDX支援サービス「HaKaSe Onboard」の提供を開始|プレスリリース|セプテーニ・ホールディングス

労務へのAI活用で業務効率化するための5ステップ

労務へのAI活用で業務効率化するための5ステップを紹介していきます。

  • ステップ1:課題を明確化し具体的な目標を設定する
  • ステップ2:スモールスタートで効果を検証する
  • ステップ3:自社に最適なAIツールを選定し導入計画を策定する
  • ステップ4:社内へ丁寧に周知し活用に向けた教育を行う
  • ステップ5:効果を測定し継続的な改善サイクルを確立する

それぞれ解説します。

ステップ1:課題を明確化し具体的な目標を設定する

自社の労務管理における課題を具体的に洗い出し、「何の業務を」「いつまでに」「どのレベルまで」効率化するのか、数値を含めた明確な目標を設定するのが大切です。なぜAIを導入するのか、その目的が曖昧では適切なツール選定も導入効果の測定もできません。

具体的に「人事担当者の残業時間を月20時間削減する」「問い合わせ対応の自動化率を80%にする」といった、誰が見ても達成度が分かる具体的な目標(KPI)を設定することがプロジェクトの第一歩です。

ステップ2:スモールスタートで効果を検証する

全社一斉導入のリスクを避けるため、まずは特定の部署や業務範囲に限定してAIツールを試験的に導入し、その効果や課題を検証するスモールスタートがおすすめです。いきなり大規模に導入すると、予期せぬトラブルが発生した場合の影響が大きくなり、投資コストもかさみます。

たとえば、本社の人事部だけでチャットボットを試す、あるいは特定の職種の採用プロセスにだけAIスクリーニングを導入するといった形です。このパイロット導入を通じて、本格導入に向けた課題の洗い出しや費用対効果の具体的なデータを収集できます。

ステップ3:自社に最適なAIツールを選定し導入計画を策定する

スモールスタートでの検証結果に基づき、自社の課題解決に最も貢献するツールを正式に選定し、具体的な導入スケジュール、体制、予算などを盛り込んだ詳細な計画を策定できます。ステップ2の検証で得られた知見は、最適なツールを選定するうえで非常に貴重な判断材料です。

ツールが決定後、いつまでに全社展開するのか、プロジェクトの責任者は誰か、必要な予算はいくらか、といった具体的な導入計画を文書にまとめ、経営層の承認を得ることが重要です。

ステップ4:社内へ丁寧に周知し活用に向けた教育を行う

AI導入に対する従業員の不安や抵抗を払拭するため、導入の目的やメリットを丁寧に説明するとともに、操作方法に関する研修などを実施し、円滑な活用を促進します。新しいツールの導入は、現場の従業員に「仕事のやり方が変わる」という不安や、「自分の仕事が奪われるのでは」という懸念を生むことがあります。

こうした不安を解消するためには、なぜAIを導入するのか、導入によって従業員にどのようなメリットがあるのかを、経営層や人事から繰り返し丁寧に説明することが不可欠です。スムーズな利用開始のため、分かりやすいマニュアルの配布や研修会の開催も合わせておこないましょう。

ステップ5:効果を測定し継続的な改善サイクルを確立する

ツール導入後も、設定した目標の達成度を定期的に測定し、その結果を分析して改善を繰り返す「PDCAサイクル」を確立することが、AI活用の効果を最大化させるうえで重要です。AIツールは導入して終わりではなく、そこからがスタートです。ステップ1で設定したKPIがどの程度達成できているかを定期的にモニタリングし、目標に達していない場合は原因を分析して改善策を講じる必要があります。

たとえば、チャットボットの回答精度が低いならFAQのデータを追加・修正するといった改善をおこないます。この継続的な改善サイクルを回し続けることが、AIを自社に合わせて最適化し、その価値を最大限に引き出すことにつながります。

まとめ|労務へのAI活用で業務効率化を実現しよう

労務DXでAIを活用することで、業務の効率化が実現し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できるようになります。さらに、AIが提供する客観的なデータに基づいて、公正な評価や戦略的な人材配置が可能となり、企業の成長を支えます。

AIツールを導入する際は、まずはスモールスタートで効果を確認し、最適な運用方法を見つけていきましょう。導入の目的と目標を明確にし、企業に最適なAIツールを選定して導入計画を策定することが重要です。