建設DX推進をICTで実現！メリットや代表的な活用例を紹介

建設業界は長年、労働集約的な作業や現場ごとの個別対応が中心であり、生産性の向上や品質確保に課題を抱えてきました。さらに、近年では人手不足や技術継承の難しさも加わっているため、業界全体での変革が急務となっています。こうした状況下で注目されているのが建設DX（デジタル・トランスフォーメーション）であり、その実現に不可欠な存在がICT（情報通信技術）です。

ICTを効果的に活用することで作業の効率化や情報共有の迅速化が可能になり、従来の問題を克服しやすくなります。本記事では、建設DXにおけるICTの活用とは何か、具体的にどのようなメリットが得られるのかを詳しく解説します。実際の活用例を通じて現場に役立つポイントも紹介しますので、建設業界でのDX推進に役立つヒントを掴んでいただけるでしょう。

建設DXにおけるICT活用とは

建設DXにおけるICT活用とは、建設プロジェクトの企画・設計・施工・維持管理までの全工程において、情報通信技術を導入して業務効率や品質の向上を目指すことを指します。

具体的には、BIM（ビルディング・インフォメーション・モデリング）・CIM（シビル・インフォメーション・モデリング）・IoTセンサー・ドローン・クラウドサービスなどの先端技術を駆使し、リアルタイムで情報を共有・分析しながら施工を進める仕組みです。

こうしたICT技術の導入により、従来の紙ベースや人手によるデータ管理から脱却し、デジタルデータを活用した合理的な工程管理や安全対策が可能です。現場作業者から管理者・設計者まで幅広い関係者が同じ情報に基づいて動くため、誤解や手戻りを減らしながらプロジェクト全体の品質と効率が向上します。

ICTは単なるツールの導入だけではなく、組織の業務プロセスや働き方の変革も促進します。建設現場の複雑さや多様な関係者の調整を支えるために、ICTは欠かせない存在となっています。

建設DXにICTを活用する6つのメリット

ICTを活用した建設DXには多くのメリットがあり、これらを理解することで導入の必要性や効果をより具体的にイメージできます。

ここでは主な6つのメリットを挙げ、それぞれ詳しく解説します。

①生産性の向上につながる

建設業界は工程ごとの情報伝達が手作業や紙媒体に頼っていたため、作業効率に大きなムダがありました。ICTの導入で情報共有がリアルタイムに行えるようになると、工程間の調整がスムーズになって無駄な待機時間や重複作業を削減できます。

例えばBIMを使った3Dモデルでは、設計図を視覚的に確認できるため施工段階での誤解や設計変更に伴う遅れが減少します。IoTセンサーで機材の稼働状況を監視し、最適なメンテナンスを実施すれば機械の停止時間も短縮可能です。

このように、ICTは全体の生産性向上に直結して工期短縮や労働時間削減に寄与します。

②品質と安全性の向上につながる

建設現場では安全管理が最優先であり、事故防止や品質保持に向けた取り組みが欠かせません。ICTの活用により現場の状況を正確かつ迅速に把握できるため、問題発生の早期発見や的確な対応が可能です。

実際にドローンによる空撮で広範囲の現場を定期的に監視し、危険箇所や進捗を把握する、といった技術が発展しています。AIによる画像解析で安全違反の兆候を検出すれば、事故の未然防止につながります。また、品質検査もデジタル化して設計通りの施工が行われているかを詳細に確認可能です。

こうしたICTによる品質・安全管理の強化は、顧客満足度の向上や作業員の安心感にも寄与する重要なメリットです。

③人手不足に対応できる

建設業界は慢性的な人手不足に悩まされており、若手技術者の確保や熟練者の技術継承が大きな課題です。ICTはこれらの問題に対し、有効なソリューションを提供します。

ICT技術によるロボットや自動化機械の導入で単純作業を省力化し、熟練技術者はより高度な作業に専念できます。VRやAR技術を活用した遠隔支援や研修により、若手のスキルアップも促進されるのがメリットです。

このようにICTは人手不足の緩和と技術継承を同時に支え、持続可能な建設現場の実現に貢献します。

④コストの最適化が実現する

ICTの活用は、資材や機材の無駄遣いを抑制して全体のコスト管理を最適化します。リアルタイムでの情報収集と分析により工程の遅延や手戻りを減らし、予算オーバーのリスクを軽減できます。

例えば、IoTセンサーで機材の使用状況を把握すれば、過剰な稼働や非効率な配置を改善します。BIMによる詳細な設計データは資材の過不足を防止し、発注ミスも減少させます。

結果として、コストの最適化ができて利益率向上につながります。

⑤情報共有・意思決定のスピード化が叶う

建設プロジェクトは多くの関係者が関与するため、情報共有と意思決定の遅れが工期やコストに直結します。ICTの導入によりリアルタイムでの情報共有が促進され、迅速かつ正確な意思決定が可能です。

例えばクラウド上で設計図や進捗状況を共有すると、現場担当者や管理者が同時に最新情報を確認可能です。オンライン会議やチャットツールを活用し、場所を問わず迅速なコミュニケーションが行われます。

これにより問題の早期発見と迅速な対応が可能となり、プロジェクトの円滑な進行を支えられるのがポイントです。

⑥サステナビリティと社会的価値が向上する

現代の建設業界は、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に向けた役割が求められています。ICTはこうしたサステナビリティの実現にも寄与します。

例えば、建材の使用量やエネルギー消費を正確に把握し、無駄を削減することで環境負荷を低減することはサステナビリティ実現の一例です。さらに、環境データの分析を通じてエコ設計の推進や省エネ施工が実現しやすくなります。

また、透明性の高い情報公開は社会的信用の向上にもつながり、企業のブランド価値向上に貢献します。

建設DXにおけるICT活用例

建設業界において、ICTの導入は単なる技術革新を超え、現場の作業方法や管理体制の根本的な変革を促しています。具体的な活用例を見ていくと多様性と効果が見えてきます。これらの事例は、今後の建設DX推進に向けたヒントとなるでしょう。

AI技術を活用したドローンによる3D測量

ドローンの導入は、建設現場の測量作業に大きな変革をもたらしました。特にAI技術を組み合わせることで、3D測量の精度と効率が向上しています。

従来の手作業による測量では、広大な敷地を詳細に測定するには多くの時間と労力がかかっていました。ドローンの場合、短時間で広範囲を空撮して画像データをAIが解析し、高精度な地形情報を3Dモデルとして作成できるのがポイントです。

この3Dモデルは設計段階でのシミュレーションや施工計画の立案に活用され、誤差を減らします。さらに、作業の安全性向上や人手不足対策にも寄与して現場の効率化に貢献しています。

ICT建機（自動制御重機）の導入

建設現場での重機は施工の中心的な役割を担いますが、その操作は熟練技術者に依存してきました。ICTを活用した自動制御重機は、この状況を大きく変えました。

例えばGPSやセンサーを用いたICT建機は、プログラムされた作業を自動的に正確に遂行できます。これにより人為的なミスが減り、作業効率が向上するでしょう。また、危険な作業環境でも遠隔操作が可能となって安全性が高まります。

加えてICT建機は、作業データを自動的に記録し作業履歴の管理やメンテナンス予測にも役立っています。これらは運用コストの削減や機械の長寿命化にもつながるため、経済的なメリットも見逃せません。

遠隔臨場（リモート検査・立会）

建設現場の検査や立会では多くの関係者が現地に集まる必要があり、時間やコストの負担が課題でした。遠隔臨場は、こうした課題をICTで解決する方法として注目されています。

例えば、現場に設置されたカメラやセンサーを通じてリアルタイム映像やデータを関係者がオンラインで共有できるようになります。これにより遠隔地から検査や立会が可能となり、移動時間やコストを削減可能です。

また、遠隔臨場は災害時や感染症拡大時の安全対策としても効果的です。現場への人員集中を避けながら高精度な検査や監督が実施できるため、事業の継続性と安全性を両立させます。

クラウド型施工管理ツールの活用

施工管理はプロジェクトの成功を左右する重要な工程であり、これまでは紙ベースやローカルサーバーのデータ管理が主流でした。クラウド型施工管理ツールは情報の一元管理とリアルタイム共有を実現し、管理業務を革新しています。

例えば、工事の進捗や資材発注状況・労務管理など多岐にわたる情報をクラウド上で管理し、関係者全員がいつでもどこでもアクセス可能です。これにより、現場の状況把握が迅速になって問題発生時の対応もスピーディに行えます。

さらに、データの蓄積によりプロジェクトの振り返りや分析が容易になり、次回以降の施工効率化や品質向上につながります。これらは、建設DX推進の中核を担うICT活用の1つです。

BIM/CIMによる3D設計・施工・維持管理

BIM（ビルディング・インフォメーション・モデリング）およびCIM（シビル・インフォメーション・モデリング）は、建物やインフラのライフサイクル全体を3Dモデルで管理する手法です。これにより、設計から施工・維持管理まで一貫した情報活用が可能になります。

例えば、設計段階では3Dモデル上で設計の整合性や干渉箇所を事前に検証でき、施工ミスの削減に貢献します。施工中は進捗状況や工事内容をモデルに反映させ、関係者間の情報共有を円滑にしてくれるのがポイントです。

さらに、維持管理フェーズでは設備の状況や更新履歴をモデルに蓄積し、効率的な保守点検や長期的な計画立案が可能です。BIM/CIMの活用は、建設DXの根幹として多くの現場で標準化が進んでいます。

ICTで建設DXに成功した企業事例

各社のICT活用は、それぞれの現場環境や課題に合わせた独自の工夫が見られます。これにより、安全性や効率性の向上に加えてプロジェクト全体の質が高まりました。

ここでは具体的な事例を解説します。

事例①株式会社大林組｜山岳トンネルの作業状況を把握するAIアプリケーションを活用

株式会社大林組は、複雑な地形条件が多い山岳トンネル工事の現場においてAIを活用したアプリケーションを導入しています。このシステムは現場作業者の動きや進捗をリアルタイムに把握することを目的に設計されました。

従来は作業状況の確認に多くの時間と人手が必要でしたが、このAIアプリは現場のカメラ映像やセンサー情報を解析して作業の進捗や安全状況を自動でモニタリングできます。これにより、現場管理者は即座に問題を察知して迅速な対応が可能となりました。

さらに、データの蓄積により作業効率の分析や改善点の抽出が容易になっています。AIの導入によって、山岳トンネルという特殊な環境でも安全性の確保と効率的な作業推進が両立されました。

参考：株式会社大林組

事例②鹿島建設株式会社｜AIを活用した危険予知活動支援システムを導入

鹿島建設は安全管理の高度化を目指し、AI技術を使った危険予知活動支援システムを現場に導入しました。このシステムは作業現場のデータをリアルタイムに解析し、潜在的なリスクを早期に警告する仕組みです。

このシステムではセンサー情報や作業員の動線データをAIが分析し、危険な動作やエリアを特定します。従来の手作業によるリスク評価では見逃されがちな細かな異常も把握できるため、事故の未然防止に寄与しています。

また、このシステムは危険予知の履歴を蓄積して現場ごとのリスク傾向を把握可能にしました。これを活用して安全教育や作業手順の改善に役立てており、安全意識の向上にもつながっています。

参考：鹿島建設株式会社

事例③株式会社竹中工務店｜携帯アプリで建設現場の人･モノ･進捗の管理業務の効率化に成功

竹中工務店は、携帯アプリを用いて建設現場の人員配置や資材管理・工事の進捗管理を一元化しました。現場の情報をリアルタイムで共有することで、作業効率とコミュニケーションが改善されました。

例えば、従来は紙ベースや電話連絡が中心だった人や物の管理がアプリ上で簡単に把握可能となりました。これにより、必要な資材の過不足を減らして工事スケジュールの遅延を防止しています。

さらに、アプリは作業の進捗データを自動で集約して管理者が現場の状況を即座に把握できるため、的確な指示や調整が実現しています。この取り組みは現場のデジタル化と業務の見える化を進める大きな一歩となりました。

参考：株式会社竹中工務店

建設DX推進時にICTを取り入れる際の注意点

ICT導入が成功するかどうかは、現場の実情に合った技術の選定や現場作業員の理解度、そして情報セキュリティ対策にかかっています。これらの観点から3つのポイントに分けて説明します。

①現場環境に適した技術を選定する

ICT技術は多様であり、選び方次第で効果が変わります。まずは導入を検討している技術が、対象となる建設現場の環境に適しているかを見極める必要があります。

例えば、山間部やトンネルのように電波環境が悪い現場であればクラウドベースのツールだけでは通信障害の影響を受けやすいため、オフラインで利用可能な機能を備えたシステムが望ましいです。また、重機の自動制御システムは複雑な地形や狭いスペースに対応できるものを選ぶべきです。

さらに、既存の設備や運用方法との連携も考慮に入れ、導入後にスムーズに運用できる技術かを検討しましょう。過剰な機能を持つシステムは現場の負担を増やすため、シンプルかつ必要な機能に絞った選択が効果的です。

②作業員への教育・研修体制を整える

新しいICT機器やソフトウェアの導入だけでなく、それを使いこなせる人材の育成が不可欠です。建設現場の作業員は従来の方法に慣れているため、新しい技術に対する抵抗感や習熟不足が障壁となることがあります。

例えば、ICT建機の操作やAI解析システムの活用には専門的な知識や操作スキルが必要です。導入後に現場全体で円滑に活用するため、段階的な研修プログラムを設けるべきでしょう。

また、操作マニュアルの整備やトラブル発生時の対応フローを明確にすることで現場の不安を軽減し、技術への信頼性を高められます。作業員からのフィードバックを受けて研修内容を改善する柔軟な体制も重要です。

③セキュリティ対策を強化する

ICTの導入により業務データや設計情報がデジタル化されるため、情報セキュリティリスクも高まります。機密情報の漏えいや不正アクセスが発生すると、企業の信用失墜や法的問題に発展する恐れがあります。

例えばクラウドサービスを利用する場合は、データの暗号化やアクセス権限の厳格管理が必須です。現場端末の紛失や盗難に備えたリモートワイプ機能も検討しましょう。

また、定期的なセキュリティ教育や社内ルールの整備も重要です。作業員一人ひとりがセキュリティ意識を持つことで、ヒューマンエラーによるリスクを減らせます。ICTシステムの運用にあたっては、専門のIT担当者や外部セキュリティ専門家との連携も必要です。

まとめ｜ICTを有効活用して効果的な設計や安全な施工を実現しよう

建設DXの推進にはICT技術の導入が不可欠ですが、単に最新技術を導入すれば成功するわけではありません。まずは現場環境に適した技術を慎重に選び、作業員への十分な教育・研修を実施しながら技術活用を進めることが欠かせません。

ICTの利点を活かした建設DXは、現場の効率化だけでなく働き方改革や環境負荷軽減といった社会的課題の解決にも寄与します。今後はこうした取り組みが業界全体で広がり、持続可能で競争力のある建設業界の構築が期待されます。

ぜひ本記事を参考に自社の課題に合ったICT導入計画を策定し、段階的かつ継続的に改善を重ねることで建設DXの成功を目指しましょう。