【総合推進室からヒントを得る】インフラDX専属チームの役割

インフラ分野のDX（デジタル・トランスフォーメーション）は、急速に社会や産業の基盤を変えつつあります。しかし、単に最新技術を導入するだけでは効果的な推進は望めません。組織横断的にDXを計画し、現場から行政・社会全体を巻き込むための体制づくりが不可欠です。そこで注目されるのが「総合推進室」です。

この記事では、インフラDXにおける総合推進室の役割と、その活用により成功を収めている国土交通省の具体的なプロジェクト例を紹介します。インフラDX推進の組織運営のポイントが理解でき、自社や関係機関での効果的なDX推進体制の構築に役立てられます。

インフラDXにおいて総合推進室が果たす役割

インフラ分野でのDX推進は、技術面だけでなく組織や人材・制度の面からも多角的に取り組むことが欠かせません。総合推進室はこれらの課題を横断的にマネジメントし、スムーズなDX実現を支える存在として重要な役割を担います。

ここでは総合推進室が特に果たすべき3つの役割について解説します。

①デジタル技術が効果的に活用できる

総合推進室ではさまざまな最新技術を単に導入するだけでなく、現場の課題に応じた最適な活用方法を検討し、技術と業務の連携を図ります。例えば、AI解析やIoTセンサーの導入によって収集される膨大なデータをどのように業務改善や予防保全に活かすか、の計画も総合推進室の役割です。

技術の選定や運用は現場の声を取り入れながら行い、現実的かつ効率的なDX推進を実現します。こうした取り組みは単独の部署では難しいため、総合推進室が横断的な調整役として機能しています。

②現場と行政の連携強化が図れる

インフラDXは現場での具体的な課題解決と、行政による政策・制度整備の両輪が必要です。総合推進室は、この二者間の情報共有や連携を促進します。実際に総合推進室は、現場で発見された問題点や改善案を行政に伝え、必要な支援や制度改正を働きかける役割を担います。

また、行政側も総合推進室を通じて現場の実情やニーズを把握しやすくなり、現場に適した政策策定ができます。結果的に、効率的で実効性の高いDX推進を支える環境が整います。

③社会全体の課題解決に役立つ

インフラは社会全体の安全や利便性に直結するため、DX推進は単なる技術刷新にとどまらず広範な社会課題の解決にも貢献します。総合推進室は災害対応の強化や環境負荷低減・地域活性化など、多様な社会的課題に対してデジタル技術を活用した包括的な戦略を策定します。

例えば、災害時の迅速な情報収集と共有を可能にするシステムの開発や、省エネ運用を推進するためのデータ分析体制の整備などが特徴的です。社会全体の持続可能性向上に寄与する役割も、総合推進室に求められています。

総合推進室の活用で成功した国土交通省のプロジェクト例

総合推進室の設置と運営はすでに国土交通省の複数の地方整備局や研究所で実践され、効果を上げています。

ここでは代表的な3つのプロジェクトを取り上げ、その具体的な取り組み内容と成果を紹介します。

国土交通省 関東地方整備局｜インフラDXルームの設置

関東地方整備局は、インフラDX推進のために専用のインフラDXルームを設置しました。この部署はデジタル技術の導入支援や企画調整を担い、地域インフラの効率的な維持管理を支えています。

実際に同局は、土木構造物の維持管理にAIを活用し、老朽化の兆候を早期に検知するシステムの開発を推進しています。データ解析と現場作業の連携強化により、保全作業の最適化を実現しました。また、社内外の関係者と連携しながらDXの普及啓発活動も展開しています。

この取り組みは、地域のインフラを安全かつ効率的に管理する体制づくりのモデルケースとして注目されています。

参考：国土交通省 関東地方整備局

国土交通省 九州地方整備局｜人材育成・研修プログラムの実施

九州地方整備局ではDX推進の要となる人材育成を重視し、専属の総合推進室が中心となって研修プログラムを充実させています。最新技術の理解だけでなく、デジタルツールの活用スキルやプロジェクトマネジメント能力を高めるための講座を提供しています。

同局ではドローンや3D測量技術の実地研修を行い、現場担当者の即戦力化を図っているのがポイントです。また、社内外の専門家による講演やワークショップも積極的に開催するようになりました。こうした教育施策により、DXに対応できる多様な人材を育成しています。

これにより、地域のインフラ整備の効率化と品質向上に貢献しています。

参考：国土交通省 九州地方整備局

国土交通省 国土技術政策総合研究所｜実験フィールドやDXデータセンターを整備

国土技術政策総合研究所は、実験フィールドやDXデータセンターを設けてインフラDXの技術検証やデータ利活用を推進しています。総合推進室はこれらの環境を活用し、最新技術の実証実験や研究開発を支援しています。

この研究所では、IoT機器を用いたリアルタイム監視システムの検証やビッグデータ解析による耐震評価モデルの開発を実施しました。技術の実用化を加速し、行政や事業者に有益な情報を提供しています。

また、DXデータセンターが複数のプロジェクトで収集された膨大なデータを一元管理し、高度な分析基盤として機能しているのもポイントです。インフラの維持管理や政策立案に役立てられています。

参考：国土交通省 国土技術政策総合研究所

総合推進室のあり方を活かした企業内DX推進室の役割

インフラDXの成功事例で示された総合推進室の役割は、企業内に設置されるDX推進室にも多くの示唆を与えています。企業が持続的な成長と競争力強化を目指す上で、単なる技術導入に留まらず組織横断的な取り組みが必要不可欠です。企業内DX推進室は、社内の各部門を結びつけ、効果的にDXを推進する司令塔の役割を担います。

DX推進室は経営層と現場の橋渡し役として重要です。トップの戦略を具体的な施策に落とし込み、部署間の調整やリソース配分を円滑に行うことで全社的なDX推進を加速させるためです。IT部門が最新システムを導入したとしても、現場の業務フローに合致しなければ成果は得られません。推進室はこうした調整を行い、技術活用を最大化させる役割を果たします。

総じて、企業内DX推進室は技術・組織・人材・外部連携を一体的にマネジメントすることでDXの効果を最大化する組織体制となります。成功しているインフラの総合推進室のあり方を参考に、自社の環境に応じた最適なDX推進体制を設計しましょう。

企業内でDX推進室を設置する際の注意点

企業においてDX推進室を設置し、効果的に機能させるためには幾つかの注意点が存在します。これらを理解して準備することでDX施策の失敗を防ぎ、確実な成果につなげられます。

ここでは、特に重要な3つのポイントについて解説します。

人材育成とセキュリティ対策を徹底する

DXを推進するには専門的な知識を持つ人材の確保が不可欠ですが、同時に社内の幅広い層の理解とスキル向上も求められます。実際に新たなクラウドシステム導入時には、IT部門だけでなく営業や製造など現場担当者も操作に慣れる必要があります。推進室はこうした社内教育を体系的に実施し、人材育成に注力しましょう。

加えて、デジタル化が進むほどサイバーセキュリティの重要性が増します。情報漏えいや不正アクセスのリスクを低減するために、アクセス管理や通信暗号化・定期的な脆弱性診断を導入し、セキュリティ意識の徹底を図ることが重要です。そのために、全社員を対象にセキュリティ研修を行い、不審メールの対処法やパスワード管理のルールを周知徹底しましょう。

こうした人材育成とセキュリティ対策はDX推進の土台を築くものであり、推進室の責務として優先度高く取り組むべき課題です。

段階的な導入と効果検証を実施する

DXの推進は、一度に全社規模で進めるよりも段階的な導入が望ましいです。新しいシステムやプロセスを試験的に一部部署で導入し、実際の効果を検証しながら改善を繰り返す手法が有効です。例えば営業支援ツールを最初に営業部門で導入し、利用状況や業績への影響を分析した上で全社展開を検討しましょう。

こうした段階的アプローチは導入リスクを低減し、現場の抵抗感を和らげる効果もあります。また、得られたデータやノウハウを基に次の施策を調整することで、最終的なDX効果の最大化につながります。推進室は計画的に導入ステップを設計し、成果測定のための指標設定や報告体制も整備しましょう。

官民連携の推進が求められる

DXは単独企業内の取り組みだけではなく、広く社会や産業全体との連携が成功のカギを握ります。特にインフラや公共性の高い分野では、行政機関や他企業・ベンダーとの協働が不可欠です。推進室はこうした官民連携の推進役として、情報交換や共同プロジェクトの推進に努めるべきです。

例えば、自治体のスマートシティ構想に参加し、インフラデータの相互利用や共同研究に参画することなどが考えられます。また、業界団体のDX推進委員会にメンバーを派遣し、最新技術や政策動向を共有する場に積極的に参加することも効果的です。

このような連携により自社のDX施策が社会のニーズや規制に合致したものとなり、また補助金や助成金の活用機会も広がります。推進室は外部とのネットワーク構築にも注力し、幅広い関係者との協力関係を築きましょう。

参考：経済産業省｜産業界のデジタルトランスフォーメーション（DX）

DX推進室を設置してインフラDX推進を行う企業の事例

インフラ分野におけるDX推進は、専属のDX推進室を設置する企業が増えました。こうした組織は技術導入や業務改善の司令塔として機能し、効率化や安全性向上に貢献しています。

ここでは具体的な企業の取り組み事例を紹介し、DX推進室の役割と効果を掘り下げます。

事例①東日本旅客鉄道株式会社｜デジタル推進委員の設置で駅設備点検にAI画像解析を導入

東日本旅客鉄道では、デジタル推進委員を設置して駅設備の点検作業にAIを活用した画像解析を導入しました。従来は人手による目視点検が主でしたが、AI技術を活用することで微細な劣化や異常をより早期に発見できるようになりました。

実際に同社では、カメラで撮影した駅ホームの設備写真をAIが解析し、亀裂や腐食の兆候を検出しています。これにより点検作業の効率化だけでなく、安全性の向上にもつながっています。デジタル推進委員は技術選定や現場の導入支援・運用ルールの策定を担い、スムーズなデジタル化を推進します。

この取り組みはデータの蓄積と解析を活用した予防保全の一例として注目されており、今後の鉄道インフラ管理のモデルケースといえます。

参考：東日本旅客鉄道株式会社｜線路設備モニタリング装置のAI（ディープラーニングモデル）導入について

参考：東日本旅客鉄道株式会社｜DX推進に向けた多様なデジタル人材を育成します

事例②東京電力ホールディングス株式会社｜DX推進室の設置で送電線のドローン点検を標準化

東京電力ホールディングスはDX推進室を設置し、送電線の点検業務にドローンを活用する体制を整えました。これにより、従来の人力点検に比べて作業時間の短縮とリスク低減が実現されました。

実際に同社では、ドローン搭載の高解像度カメラを用いて送電線や鉄塔の状態を詳細に撮影できるようになっています。撮影データは自動解析システムにかけられ、異常箇所の検出を効率化しました。この過程でDX推進室は、導入計画の立案からパイロット運用・標準作業手順の策定まで一貫して担当し、全社への展開を進めています。

こうした体制構築により、従業員の安全確保と作業の精度向上が実現しました。業界内での先進的なDX実践例として高く評価されています。

参考：東京電力ホールディングス株式会社｜DXプロジェクト推進室発足！

参考：東京電力ホールディングス株式会社｜送電線点検用ドローン自律飛行システム

事例③メタウォーター株式会社｜DX推進室でIoT・AIによる設備監視基盤構築

メタウォーターは、DX推進室が主導してIoTセンサーとAI解析を組み合わせた設備監視基盤を構築しました。これにより水処理プラントや関連インフラのリアルタイム監視が可能となり、保守管理の高度化を実現しています。

実際に同社では、プラント内の各種機器に設置されたセンサーから取得されるデータをAIが分析し、異常の兆候を早期に検知する仕組みが整っています。メンテナンスのタイミングを最適化し、稼働率の向上とコスト削減に寄与しました。この過程でDX推進室は、技術選定・データ管理体制の構築・社員教育まで一貫して推進し、現場との連携も強化しました。

このような基盤整備により、同社は持続可能なインフラ運用を支える先進企業の一角を占めています。

参考：メタウォーター株式会社

まとめ｜インフラDXを推進するために推進室設置のメリットを把握しよう

インフラDXを成功させるには単なる技術導入に留まらず、組織的な推進体制の整備が不可欠です。DX推進室の設置は、計画策定から技術選定・導入支援・効果検証まで一元的に管理できる強力な組織基盤となります。

推進室の設置によって得られる最大のメリットは、DX推進の加速と質の向上です。組織横断的な調整役がいることで技術導入の失敗リスクを減らし、現場ニーズを反映した柔軟な対応が可能となります。また、社員のスキルアップや外部との連携も促進され、持続可能なDX体制が築けます。

これからインフラDXを推進しようとする企業は、まず推進室設置のメリットを理解し、自社に適した組織体制の構築を検討することが重要です。この記事を参考に制度活用や専門機関の支援を受けながら、計画的かつ効果的なDX推進を目指しましょう。