建設DXにはIoTが役立つ!具体的な手法と戦略事例を紹介

建設業界は慢性的な人手不足と現場の高齢化、厳しい納期や品質管理といった多くの課題に直面しています。こうした現場の実情を受け、今注目されているのがデジタル技術を活用した建設DXの推進です。その中でも、リアルタイムな情報取得と共有を可能にするIoTの導入は、業務の効率化や安全管理の強化に寄与する重要な施策といえます。

とはいえこれは、ただ技術を導入すれば良い、というわけではありません。実際にIoT導入で成功を収めた企業と、思うような成果を上げられなかった企業の間にはいくつかの共通した特徴があります。

本記事では、建設DXにおけるIoTの役割と活用方法を明らかにしながら、成功と失敗の分かれ道を読み解いていきます。現場改革のヒントを見つけたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

建設業界におけるIoT

IoT(Internet of Things)はあらゆるモノがインターネットにつながる技術であり、建設業界でもその活用が進んでいます。作業機械や重機、作業員の動線、現場環境などをセンサーで感知したリアルタイムでのデータの取得・分析によって作業の見える化や自動化、安全性の向上を実現可能です。

建設現場の効率や品質、安全性を支えるためにIoT技術は不可欠な存在となりつつあります。これからの建設DXでは、IoTを軸にした現場改革が成果のカギを握るといえるでしょう。

IoTとは

IoTとはセンサーや端末などのデバイスを用いて現場の情報を収集し、それをインターネット経由で送信・蓄積・分析する仕組みです。従来は人の手で行っていた確認作業や記録作業を、IoTによって自動化が可能になります。

建設現場では機材の稼働状況や温度・湿度、作業員の位置情報などをリアルタイムで把握するニーズが高まっており、IoTはその課題解決に適した手段です。収集したデータは、クラウドやAIと連携させることでリスクの早期発見や予防、スケジュールの最適化に活用されます。

IoTは単なる技術の導入ではなく、現場の意思決定を支えるための情報基盤として重要です。DXを成功させるには、このIoTの仕組みを現場に根づかせる工夫が求められます。

IoT技術の仕組み

IoTの仕組みは、センサーや端末で取得した情報をネットワークを通じてクラウドに送信し、AIや分析ツールで可視化・解析するという3つのステップで構成されます。それぞれの段階の連携により、建設現場におけるさまざまな意思決定を支援可能です。

ここではこの3つのステップについて詳しく解説し、建設業界での活用例も紹介します。どのように現場のDXを進めていくかを考える上で、具体的なイメージをつかむ手助けになるでしょう。

センサーや端末で現場の情報を取得する

IoT活用の第一段階は、現場に設置したセンサーや携帯端末を通じた多様な情報の取得です。温度や湿度、騒音、振動などの環境データに加えて作業員の位置情報や重機の稼働状況、資材の使用量などもリアルタイムで収集されます。これによって現場の状況を常に把握できるため、安全管理や効率的な作業指示が可能です。

また、こうしたデータの自動取得は作業日報や報告書の手書きや手入力を削減し、作業効率の向上に寄与します。人的ミスの減少で記録の正確性も高まり、事故やトラブルの予兆を早期に察知しやすくなるのもメリットです。現場の安全確保と生産性の向上の両立を実現するためには、センサー設置の計画と運用体制の構築が重要なポイントとなります。

ネットワークを通じてリアルタイムでデータを送る

収集した現場のデータはネットワークを介し、リアルタイムにクラウドサーバーや専用データベースに送信されます。この通信部分の安定性と速度が、IoT運用全体のパフォーマンスを左右する点です。建設現場は屋外や山間部、地下など通信環境が不安定な場所も多いためネットワーク環境の整備が不可欠といえます。

Wi-Fiや4G、5Gといった通信技術を活用して可能な限り安定した接続の確保が前提条件です。リアルタイムでのデータ送信によって現場の異常や進捗遅延を即時に把握でき、迅速な対応や意思決定が実現します。また遠隔地からも現場の状況を監視できるため、管理者の移動時間やコストを削減できる点も重要です。通信インフラの選定と運用設計を十分に検討しなければ、IoTの効果を最大化するのは難しいでしょう。

クラウドやAIで情報を分析・可視化する

現場から送信されたデータはクラウド上で安全に保存・管理された後、AIやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールによって分析や可視化が行われます。このプロセスを経ることで、単なる数値の羅列だった情報が現場運営や経営判断に活用できる価値ある情報へと変わります。

具体的には、気温と作業効率の相関、作業員の動線パターンと安全リスクの関連性などをグラフやダッシュボードでわかりやすく示すことで、現場の課題抽出や改善策の策定が可能です。さらにAIによる予測分析の活用で、潜在的なリスクの早期発見や工程の最適化を実現できます。こうしたデータの蓄積から分析、活用までを一貫して行う設計が、建設DX推進における重要なポイントです。

建設DXにおいてIoTを活用するメリット

建設DXの推進において、IoT技術の活用は多くのメリットをもたらします。まず、現場のリアルタイムな状況把握が可能になり、作業の進捗や資材の使用状況を即座に確認できる点が挙げられます。これによって現場と管理部門の情報共有が円滑になり、迅速な意思決定が可能です。

さらに、安全管理の強化や作業効率の向上にも直結します。IoTで取得したデータを活用して事故の未然防止や作業の無駄削減を図ることで、現場の生産性改善につながるでしょう。建設業界の人手不足解消や品質確保において、IoTは欠かせない存在となっています。

リアルタイムで作業状況を把握できる

IoTの導入によって、現場の作業進捗や重機の稼働状況をセンサーや各種端末を通じ、リアルタイムに監視できるようになりました。これにより、現場責任者は物理的に現場にいなくても最新状況を正確に把握して必要な指示や調整を即座に行えます。

従来は作業報告書や口頭での連絡を待つ必要があり、その間に対応が遅れるケースは少なくありませんでした。しかし、IoT活用により遅延や問題の早期発見が可能になり、対応スピードが向上しています。

さらに複数の現場を同時に管理できるため、資材や人員の配分を効率的に最適化できるようになりました。これらが積み重なることで全体の作業効率が上がり、プロジェクト管理の精度とスムーズさが向上します。

安全管理を強化して事故を未然に防ぐ

建設現場の安全管理分野でのIoT活用は、作業員の位置情報や周囲の環境データをリアルタイムで取得し、危険区域への誤った立ち入りや異常な環境変化を瞬時に察知可能です。

この迅速な情報把握によって潜在的な事故や災害のリスクを事前に察知し、即時に適切な対応がとれるため安全対策が強化されます。さらに、蓄積されたデータの分析で危険が起こりやすいパターンを特定し、効果的な予防策を講じることが可能です。

こうしたIoTの安全管理への応用は、労働災害の減少と労働環境の向上に貢献しており、建設現場の安全文化を底上げする重要な取り組みといえます。

施工効率を高めて無駄を削減する

IoTの活用により、施工効率の向上と無駄の削減の同時進行が可能です。資材の消費状況や機材の稼働状態のリアルタイムでの把握により、過剰発注や機材の遊休時間を減らせます。

また、作業員の動線や工程の進行状況を分析して作業手順のムダや非効率な動きを特定し、改善策を講じることも可能です。こうした取り組みは、工期の短縮だけでなくコスト削減にもつながり、プロジェクト全体の生産性を高めます。

結果としてIoTは現場の「見える化」を促進し、効率的かつ合理的な施工管理を実現するための欠かせないツールとしての役割を担っています。

建設DX推進時にIoTを使う6つの手法

建設DXの推進において貢献しているのが、現場の効率化と安全性向上を実現するIoT技術を活用した多彩な手法です。現場では資材や機械の稼働状況を正確に把握し、作業員の安全管理の強化が不可欠です。

また環境モニタリングや空撮による点検、資材のトレーサビリティ管理などさまざまな場面でIoTが役立ちます。これらの手法は、個別に導入するだけでなく連携させることで、総合的な現場管理の高度化につながります。

ここで解説するのは具体的な6つの活用手法です。

①資材・機械の稼働・状態モニタリング

資材や機械稼働状況のIoTセンサーによる常時監視で故障の予兆を早期に検知できるほか、稼働率の正確な把握も可能になります。これによって機械の無駄な稼働を抑えつつ、適切なタイミングでのメンテナンスの計画が可能です。

また機械の状態は遠隔からも確認できるため、現場にいなくても迅速に対応できる体制を整えられます。資材の消費量もリアルタイムで管理できるため、過剰発注や不足による工事遅延のリスクを軽減します。

こうした継続的なモニタリングは機械の長寿命化や運用コストの削減にもつながり、結果として現場全体の作業効率と生産性の向上が可能です。

②作業員の安全管理・位置把握

IoTを活用した作業員の安全管理では、リアルタイムで位置情報や作業状況を把握し、危険区域への立ち入りをすぐに検知できます。これにより事故を未然に防ぎ、安全対策の強化が可能です。

さらに作業員の体調や周囲の環境データも収集可能で、熱中症や過労の兆候を早期に察知して必要に応じた迅速な対応がとれます。緊急時には速やかな救助活動も実現できるため、労働災害の軽減に貢献します。

これらの取り組みが果たす重要な役割こそ、現場の安全意識向上と労働環境の改善を促進して従業員の安心感を高めることです。

③環境・作業状況のモニタリング

建設現場の環境モニタリングでは温度・湿度・粉塵・騒音などをIoTセンサーで計測し、リアルタイムに管理します。これによって作業環境の安全基準を守りやすくなり、労働者の健康を守る環境整備が可能になります。

同時に作業状況も監視できるため、工程の遅延や作業ミスの早期発見も可能です。蓄積したデータは品質管理やトレーサビリティの資料としても活用でき、現場全体の施工精度向上に貢献します。

環境データと作業状況の総合的な把握は安全で効率的な施工を支える重要な要素であり、建設DX推進に欠かせません。

④ローン+IoTによる現場の空撮・点検

ドローンとIoTを組み合わせた空撮や点検は、高所や広範囲の確認作業を安全かつ迅速に実施できる技術です。高解像度カメラや多種のセンサーを搭載し、3次元データの収集や異常検知も同時に行えます。

これによって人の手では難しい場所の詳細な点検や地形把握が可能となり、作業効率が向上します。収集したデータはクラウドに即時アップロードされ、関係者間でリアルタイムに共有できるため意思決定の迅速化にもつなげることが可能です。

ドローンとIoTの融合は現場の安全性向上と工期短縮を実現し、建設DXの推進において重要な役割を担っています。

⑤資材のトレーサビリティ管理

IoT技術を用いた資材のトレーサビリティ管理は、RFIDタグやバーコードで資材の入出庫や移動履歴を正確に追跡します。これによって資材の所在確認や使用状況をリアルタイムで把握でき、不正使用や紛失を防止します。

さらに使用期限や保管条件の管理が自動化されることで、資材の品質低下や劣化リスクを低減可能です。適切な管理は資材コストの削減につながり、現場の運営効率も向上します。

資材管理の透明性と正確性の向上はプロジェクト全体の品質管理にも寄与し、信頼性の高い施工を支える重要な基盤となっています。

⑥現場設備の遠隔監視・制御

IoTを活用した現場設備の遠隔監視と制御により、設備の稼働状態確認や異常検知を遠隔地からリアルタイムに実行可能です。これによって問題発生時に迅速な対応が可能となり、被害の拡大を防げるでしょう。

電源管理や温度調整などの制御も自動化されており、設備の安定稼働を支える体制が強化されます。特に夜間や無人時の監視に効果を発揮し、トラブル時の早期発見と対応が可能です。

また収集したデータはクラウドに集約され、多角的な分析や長期的なメンテナンス計画の策定に活用されます。遠隔監視と制御は、現場管理の省力化と安全性向上に欠かせない技術です。

IoTを活用して建設DX推進に成功した企業事例

建設DXの推進において、IoTを活用した具体的な成功事例は多くの企業にとって参考になります。現場の効率化や安全管理の強化を目指し、技術を積極的に取り入れた事例からは実践的なノウハウが学べるでしょう。

ここでは、重機の遠隔監視やロボット施工との連携、高性能カメラを用いた現場の一括監視など異なる技術を活用した3つの代表的な事例を紹介します。これらの取り組みは、建設現場のDX推進に有効なヒントを与えてくれるでしょう。

事例①日立建機株式会社|重機にIoTを搭載し稼働を遠隔監視

日立建機株式会社は建設現場における機械の稼働効率を高めるため、重機にIoTセンサーを取り付けて稼働状況をリアルタイムで遠隔監視しています。これによって、稼働率や使用時間の正確な把握で現場管理者は機械の稼働状態をいつでも確認でき、無駄な稼働の削減が実現しました。

さらにIoTが故障の予兆を検知する仕組みを構築しており、計画的なメンテナンスを可能にしているため突発的なトラブルを防止しています。これによって重機の稼働停止リスクを抑え、現場での迅速な対応も実現されました。

このシステムは機械管理の効率化と運用コストの削減に貢献し、建設現場のDX推進に向けた成功例として注目されています。今後もIoT活用の発展が期待されます。

出典参照:IoTとAIを活用し、鉱山現場の課題解決に貢献するサービスソリューションConSite Mineを提供開始 |日立建機株式会社

事例②鹿島建設株式会社|ロボット施工とIoT分野における技術を連携

鹿島建設株式会社が進めているのは、ロボットによる施工とIoT技術の連携です。ロボットが作業を行う際、IoTセンサーが現場の状況をリアルタイムで収集して作業効率と安全性の向上に役立てています。

IoTを通じて集積された機械の稼働状況や作業員の位置情報、環境データとロボット動作情報の連携で最適な施工計画が立てられます。この仕組みによって人手不足の課題解消や作業負担の軽減が実現し、現場の生産性も向上しました。

これらの技術の融合は建設業界における自動化と効率化のモデルケースとなっており、DX推進における革新的な取り組みとして評価されています。

出典参照:ロボット施工・IoT分野における技術連携について | 鹿島建設株式会社

事例③大成建設株式会社|現場に高性能Wi-Fiカメラを設置し現場状況を一括で遠隔監視

大成建設株式会社が建設現場の管理効率化を目指して多数設置したのは、高性能Wi-Fiカメラです。これらのカメラは現場の様子を高解像度で撮影し、映像はリアルタイムにクラウドへ送信されます。複数の現場や拠点から遠隔で状況を把握できるため、管理者は現場に足を運ばずとも工程や安全面の確認が可能です。

このシステムによって進捗管理や問題の早期発見がスムーズに行われ、必要に応じた迅速な指示や対応が実現されました。カメラ映像の共有は関係者間でのコミュニケーションを円滑にし、現場の安全性と生産性向上に寄与しています。

こうした技術活用は建設DX推進の成功例として広く注目されており、今後のさらなる発展が期待されています。

出典参照:施工管理業務の飛躍的な効率化を実現する情報収集WEBカメラシステムを開発 | 大成建設株式会社

建設DX推進時にIoTを導入する際のポイント

建設DXを推進する際にIoTを導入するには、現場の実情に即した準備が欠かせません。まずは現場の課題や改善点を正確に把握し、具体的な目的を明確にする必要があります。

次に使用するIoT機器が現場環境に適しているか、慎重に選定することが重要です。加えて、収集したデータを有効活用するための体制づくりも不可欠です。

これらのポイントを押さえることで、IoT活用による効果的なDX推進が可能になります。

課題を明確化する

建設現場に欠かせないのは、IoTを導入する際の現場の具体的な課題の正確な把握と明確化です。技術をただ導入して現場の実情に合わなければ効果が薄れ、かえって運用の混乱や非効率を招きかねません。

例えば資材の管理効率化や作業員の安全強化、工程管理の精度向上など現場で改善したいポイントを具体的に洗い出すことが必要です。こうした課題を明確にすれば導入すべきIoT機器やシステムも選びやすくなり、導入効果の測定や改善策の検討も的確に進められるでしょう。

さらに、課題整理を経て現場と経営層の共通理解を図ることで、スムーズな導入と定着を促します。明確な目的設定は、建設DX推進の土台として欠かせないプロセスです。

現場環境に適したIoT機器を選定する

IoT機器を建設現場に導入する際には、現場環境に適した製品を選ぶことが重要です。建設現場は埃や雨、温度変化など厳しい環境条件が多く耐久性や防塵・防水性能が求められます。適さない機器を使うと故障が多発し、運用の妨げになるリスクが高まるでしょう。

また通信環境の問題も見逃せません。地下や屋内の電波状況が悪い現場では通信の遅延や途切れが頻発し、リアルタイムデータの活用が難しくなります。適切な通信方式や補完システムの検討も不可欠です。

さらに、機器の設置の容易さやメンテナンスのしやすさも、長期的に運用する上で大切なポイントです。これらを総合的に考慮した、現場に最適なIoT機器の選定が建設DX推進を成功に導きます。

データの収集・蓄積・分析体制を構築する

IoTの導入により収集される膨大なデータを活用するためには、収集・蓄積・分析の体制についてしっかりした構築が必要です。データをただ集めるだけでは意味がなく、課題解決に直結する分析や可視化が重要になります。

クラウドサービスの活用でデータの集中管理を行い、AIや分析ツールを用いて現場の状況をリアルタイムで把握できる体制を整えましょう。現場担当者がわかりやすい形での情報提示により、迅速な意思決定や改善策の立案を支援します。

さらに分析結果を基にPDCAサイクルを継続的に回し、現場の課題に即した改善活動を続けることが建設DX推進の成功につながります。体制づくりは、長期的な視点で取り組むべき課題です。

まとめ|建設DX推進の成功のためにIoTの導入を検討しよう

建設DXを推進するには、IoTの活用が大きな力となります。現場課題を明確化して適切な機器を選定しながら、収集したデータを効果的に活用できる体制を整えることが成功のポイントです。

IoTの導入は単なる機器設置に留まらず、業務の効率化や安全性向上に直接つながる戦略的な取り組みとなります。現場の実態に即した計画と継続的な改善を心掛けることで建設DXを推進し、現場全体の生産性や品質向上を実現できます。

これらのポイントを参考にしながら、自社の現場に最適なIoT導入を検討するとよいでしょう。