建設DXにはSaaSの活用が効果的!提供・利用している企業事例も紹介

建設DXを成功させるために、SaaS導入時のポイントを詳しく解説します。現場の実態に合った機能選定や通信環境の整備、充実したサポート体制の確認が欠かせません。これらを踏まえた活用法により、業務効率化や安全性の向上を実現できます。

建設業界は近年、デジタルトランスフォーメーションの波に乗り、業務効率化や品質向上を目指しています。その中で、クラウドサービスの一種であるSaaS(Software as a Service)が注目されています。SaaSの導入によって現場の情報共有や管理が改善され、多様な現場環境に柔軟に対応できるようになりました。

この記事では、SaaSの基本的な仕組みやIaaS・PaaSとの違いをわかりやすく解説し、なぜ建設業界で特にSaaSが必要とされているのかを詳しく紹介します。この記事を読むことで建設DX推進におけるSaaSの役割と導入のメリットを理解でき、自社の業務改善に向けた具体的なヒントを得られるでしょう。

建設業におけるSaaSの役割とは

デジタル技術の浸透により、建設業界は変革の時を迎えています。その中でも、SaaSは現場での情報管理やコミュニケーションの効率化に大きな役割を果たすようになりました。

ここでは、SaaSの基礎知識と他のクラウドサービスとの違い、そして建設業での活用が注目される背景について詳しく解説します。

SaaSとは

SaaSはインターネット経由でソフトウェアを利用する形態で、ユーザーは自社でソフトウェアをインストールせずクラウド上にあるサービスをブラウザや専用アプリで利用できます。例えば、建設現場で使う工程管理ツールや設計データの共有プラットフォームもSaaSの一例です。

この方式のメリットは、初期導入費用を抑えられることに加えてシステムのアップデートやメンテナンスが提供側で自動的に行われる点にあります。また、複数の拠点や現場で同時にデータを共有できるため、コミュニケーションの迅速化と情報の一元管理が可能になります。

IaaSやPaaSとの違い

クラウドサービスにはSaaS以外に、IaaS(Infrastructure as a Service)とPaaS(Platform as a Service)なども有名です。IaaSはサーバーやストレージといった基盤設備を提供し、利用者はその上に自分でソフトウェアを構築して使います。PaaSはアプリケーション開発のための環境を提供し、開発者が効率的にサービスを作成できるよう支援します。

一方、SaaSは完成されたソフトウェアをそのまま利用する形態であり、専門的な知識がなくても導入しやすいのが特徴です。例えば、小規模な建設会社でも複雑なIT管理なしに利用できるため導入のハードルが低く、多くの企業で採用されています。

なぜ建設業界でSaaSの活用が注目されているのか

建設業界では現場ごとに業務内容が異なり、多様な手法や道具が混在しています。従来のパッケージ型システムは導入やカスタマイズが難しく、現場の実情に合わせた運用が困難でした。

実際に施工管理や安全管理に関する情報をリアルタイムに共有できなければ、作業効率は低下しミスや事故のリスクも高まるでしょう。ここでSaaSを活用すれば、現場間で同じプラットフォームを使い、情報の更新や連絡を即時に反映できます。また、クラウドサービスであるためスマートフォンやタブレットからでもアクセスが可能で、外出先や移動中でも情報確認や入力が行える点は現場のニーズに合致しているといえるでしょう。

さらに、人手不足や働き方改革の影響で現場の効率化が急務となっている中、SaaSは業務のデジタル化を進める上で不可欠なツールとして期待されています。新しい技術に対応した管理体制の構築や情報の標準化にも貢献できるため、業界全体の生産性向上につながるでしょう。

参考:国土交通省|働き方改革について

建設DXに役立つSaaSのタイプ一例

SaaSには、建設業務のさまざまな課題を解決するために特化したツールが多くあります。これらはクラウド上でサービスが提供され、インターネット環境があればどこからでもアクセスできるため、現場とオフィス間の連携が円滑になるのがポイントです。導入に際しては、自社の業務フローに合わせたツール選定が重要となります。

「SpiderPlus(スパイダープラス)」現場管理・施工管理ツール

SpiderPlusは現場管理や施工管理に特化したSaaSで、主に工事現場の進捗や品質・安全性の管理を効率化します。例えば、現場写真の撮影・共有や指摘事項の記録をリアルタイムで行える機能があります。SaaSは現場の状況を正確に把握できるだけでなく、関係者間で情報を素早く共有し、問題の早期解決に役立つのです。

また、タブレットやスマートフォンからも利用でき、現場の担当者が直接入力や確認を行えるため情報の伝達遅延が減少します。作業指示の履歴管理も充実しているため、トラブル発生時の原因追及や対応履歴の追跡が容易です。

参考:SpiderPlus(スパイダープラス)|スパイダープラス株式会社

「工事原価Pro(Cloud対応)」原価・予算・受発注管理ツール

工事原価Proは、建設プロジェクトにおける原価管理や予算管理・受発注管理をクラウドで一元的に管理できるツールです。このツールを活用すれば現場ごとのコスト管理や契約書類の管理がデジタル化され、従来の紙ベースの管理に比べて効率化が図れます。

さらに、予算の進捗状況がリアルタイムに把握できるため、コスト超過のリスクを早期に発見して適切な対策を講じることが可能です。発注情報や請求書の電子管理にも対応しており、経理担当者の負担を軽減しながら社内全体での情報共有を促進します。

参考:工事原価Pro(Cloud対応)|株式会社ミツモア

「CheX(チェクロス)」図面・写真・ドキュメント共有ツール

CheXは図面や写真・工事に関連するドキュメントを効率よく共有・管理するためのSaaSです。建設現場では多くの図面や資料が必要とされますが、これらのファイルを現場と事務所間でスムーズに共有することが課題となっています。

CheXを利用すれば最新版の図面がクラウド上で管理され、関係者は常に最新の資料にアクセスできます。過去の写真や検査記録も一括管理されるため、現場の進捗確認や品質管理が容易です。ユーザーインターフェースも直感的で、ITに不慣れな作業員でも操作しやすい設計となっています。

参考:CheX(チェクロス)|株式会社 YSLソリューション

「Site‑PRESS」安全・品質・検査管理ツール

Site‑PRESSは、現場の安全管理や品質管理・検査業務に特化したツールです。安全パトロールの記録や不安全行動の指摘事項をデジタルで管理し、改善策の共有やフォローアップが簡単にできるのがポイントです。

このツールを活用して現場の安全データが蓄積されることで、過去のトラブルの傾向分析やリスク予測が可能になって安全対策の質向上につながります。また、検査結果をリアルタイムで関係者に共有するため、品質問題の早期発見と迅速な対応が期待できます。これにより、工期遅延の防止や顧客満足度の向上も図れるのです。

参考:Site‑PRESS|協栄産業株式会社

「One人事」勤怠・人材・スキル管理ツール

One人事は、建設業における勤怠管理や人材管理・スキル管理を一元化できるツールです。このツールを活用すれば、現場作業員の勤務状況をクラウドで管理し、時間外労働や休暇申請の管理も自動化されます。

例えば、各作業員の資格や経験・技能レベルをデータベース化し、プロジェクトごとに最適な人員配置が可能です。これにより、作業効率の向上と人材育成の促進が実現します。また、労働時間の見える化により法令遵守が容易になり、働き方改革にも対応しやすくなるのもメリットです。

参考:One人事|One人事株式会社

建設DX向けSaaSを選ぶ5つのポイント

建設業界は現場ごとに状況が異なり、作業環境や管理体制も多様です。そのため、導入するSaaSは柔軟性と現場対応力が求められます。

ここで紹介するポイントを基準に選ぶと、実際の運用で効果が出やすくなります。

①現場での使いやすさ(UI/UX)

SaaSの操作性は現場での活用度を大きく左右します。例えば、画面が見やすく直感的に操作できるかどうかは重要な要素の1つです。現場作業員は必ずしもITスキルが高いわけではないため、複雑すぎる画面や操作は使いこなせず、結局導入が形骸化するリスクがあるためです。

シンプルで必要な機能に絞ったインターフェースは、初めて使うユーザーでも短期間で習得でき、導入効果を最大限に引き出せます。また、現場で使う頻度の高い機能にすぐアクセスできる設計であることも業務効率化のカギです。

②オフライン対応 or モバイルアプリ対応

建設現場ではインターネット環境が不安定な場所も多く、オンライン環境に依存しすぎると作業に支障が出るので注意しましょう。例えば、地下作業や山間部の工事現場などは通信が途切れやすいため、オフラインでも作業データを入力・保存できる機能が重宝されます。

また、スマートフォンやタブレットのモバイルアプリ対応は、現場でのリアルタイム入力や確認を容易にします。作業員がその場で情報を更新できるため、情報共有の遅れを防止しつつ現場の意思決定を迅速化できるのがポイントです。オフライン時のデータは通信回復後に自動で同期される仕組みが望ましいでしょう。

③他のSaaSとの連携(API連携・CSV出力)

建設業務は多岐にわたり、1つのSaaSですべてを賄うのは難しい場合が多いです。そのため、導入予定のSaaSが他のツールと連携できるかどうかも重要です。例えば、経理ソフトや勤怠管理システム・CADソフトなどとデータ連携が可能であれば、手作業の入力ミスや二重作業を減らせるでしょう。

API連携やCSV出力に対応しているサービスでは、他システムとのデータ交換がスムーズに行えます。全社的なデジタル化や業務の一元管理が促進され、現場から管理部門までの情報共有が可能です。

④公共事業や協力会社との相性

公共工事では契約書類や報告書のフォーマットなどが細かく規定されているため、SaaSがこれらの要件に対応している必要があります。そこで公共事業に対応した帳票の自動作成機能や電子申請対応があると、手続きの負担が軽減されるでしょう。

また、協力会社や下請け業者との連携も重要です。SaaS上で情報共有ができ、かつ外部業者も使いやすい設計であれば全体の工程管理や安全管理が円滑になります。特に多人数が関わる大規模工事では、相互のシステム互換性が工事の成功に直結します。

⑤法令対応(建設業法・労務・安全書類など)

建設業は法令遵守が厳しく求められ、書類の管理や労務安全の記録が必須です。例えば、建設業法に基づく各種報告書・安全衛生管理書類・労働時間管理などに対応しているSaaSは、業務効率化だけでなくコンプライアンス強化にも寄与します。

特に国土交通省が定める「建設業法の概要」では、請負契約の適正な締結、施工体制台帳や再下請通知書の作成・保存義務、建設業許可更新時の書類提出などが明文化されており、これらを漏れなく電子的に処理できる仕組みが求められています。また、厚生労働省の「労働安全衛生法のあらまし」では、作業員の健康診断記録、安全衛生教育の実施記録、労働災害の報告義務といった労務管理上の項目が明示されており、これらも適正に管理・保存する必要があります。

これらの書類や記録の電子化に対応していて、かつ自動生成や更新通知機能があるツールを選ぶことで監督官庁からの指導や検査に備えやすくなります。法令変更に対するアップデート体制がしっかりしているかも確認しましょう。

参考:国土交通省|建設業法の概要と建設業の現状について
参考:生労働省|労働安全衛生法のあらまし

建設DXに役立つSaaSを提供・利用している企業事例

多くの建設企業は、SaaSを活用して現場管理や品質保証・人材育成などさまざまな課題を解決しています。各社が独自の技術や外部サービスと連携しながら、業務のデジタル化と効率化を進めている点が特徴です。

ここでは代表的な3社の取り組みを詳しく見ていきましょう。

事例①大成建設株式会社|SaaS型クラウドサービス「LifeCycleOS®︎(LCOS)」を提供

大成建設は建設業向けに特化したSaaS型クラウドサービス「LifeCycleOS®︎(LCOS)」を自社開発し、提供しています。LCOSは建設プロジェクトのライフサイクル全体を管理するためのプラットフォームであり、設計・施工・維持管理までの各工程を一元的に可視化できるのがポイントです。

LCOSの特徴的な機能として、現場で撮影した写真や図面、検査データをクラウド上で共有してリアルタイムに情報を確認・更新する機能が挙げられます。このツールを活用すると従来の紙ベースやローカル管理にありがちな情報の断絶や伝達ミスが減少し、プロジェクト全体の透明性が向上します。

また、プロジェクトの進捗管理や工程表の自動生成なども可能で、業務の効率化に直結するのもメリットです。工程の遅延が発生しそうな箇所を事前に検知し、適切な対策を取ることで手戻りを減らす効果も期待できます。こうした機能は公共工事や大規模プロジェクトでの活用に最適化されており、建設DX推進のモデルケースとして注目されています。

参考:LifeCycleOS®︎(LCOS)|大成建設株式会社

事例②株式会社大林組|パナソニックコネクトの技術を応用した顔認証をシステムを本格導入

大林組はパナソニックコネクトの顔認証技術を活用したシステムを導入し、現場の入退場管理や労務管理をデジタル化しています。従来は紙の出入管理簿や手動での確認が主流でしたが、この顔認証システムにより作業員が現場に入る際にスマートに本人認証が完了します。

この仕組みのメリットは単なる入退場管理に留まらず、労務時間の正確な記録や安全管理の強化につながる点です。例えば、不正入場や無許可の立ち入りを防止できるため、現場のセキュリティレベルが向上します。また、管理者がリアルタイムで現場の人員状況を把握できるため、急な作業変更や災害時の安否確認も迅速に対応可能です。

さらに、このシステムはSaaS型サービスとしてクラウドを介して複数の現場を一元管理できるため、大林組の多拠点展開においても高い効果を発揮しています。人手不足が叫ばれる建設業界において、こうした先端技術の導入は作業効率と安全性の両面で大きな価値をもたらしています。

参考:株式会社大林組

事例③株式会社竹中工務店|写真を整理・共有するサービス「HoloBuilder」を活用

竹中工務店は、工事現場で撮影した写真や動画を効率よく管理・共有するためにクラウドベースのサービス「HoloBuilder」を活用しています。このツールであれば現場の360度画像や時系列の写真をクラウドにアップロードし、プロジェクトメンバー全員がどこからでもアクセス可能です。

現場監督が遠隔地からでも工事の進捗や施工状況を確認できるため、現地への移動時間を削減しつつ、的確な指示を出せます。これができるようになることで作業の手戻りや誤解を減らし、品質管理の精度が向上するでしょう。また、完成後の報告書作成や維持管理の資料としても活用でき、長期的な資産管理に役立つのです。

さらにHoloBuilderは他のSaaSやプロジェクト管理ツールとの連携も可能で、工事の全体工程に情報を統合する役割も果たしています。現場作業とオフィス業務の連携がスムーズになり、社内外のコミュニケーションが活性化しています。

参考:株式会社竹中工務店

建設業界においてSaaSを導入する際の注意点

建設現場は屋外での作業が多く、通信環境が不安定なケースも珍しくありません。また、多様な関係者が関わるため、業務フローに合ったツール選定や運用体制の整備が求められます。

ここで紹介する3つのポイントを意識して、SaaSの導入を検討しましょう。

①現場業務に適合する機能を見極める

SaaSの導入において重要なのは、現場の実態に即した機能が備わっているかを見極めることです。例えば、図面の確認や進捗報告が簡単にできる操作性は不可欠です。操作が複雑だと、現場の作業員が使いこなせずかえって業務の効率を下げるので注意しましょう。

また、プロジェクトの規模や作業内容によって必要な機能は異なります。小規模工事であればシンプルな管理ツールで十分ですが、大規模プロジェクトでは多機能で複雑な管理が可能なサービスが求められます。例えば、写真管理・検査結果の記録・報告書作成など多様な業務を1つのツールで行えるかを確認しましょう。

さらに、現場の安全管理や労務管理の機能が充実しているかもチェックポイントです。安全チェックリストのカスタマイズやリアルタイムの異常検知機能などは、現場の安全性向上に貢献します。こうした機能が標準搭載されているサービスは、導入後の現場運用において効果を発揮します。

②通信環境や端末との相性を確認する

建設現場では、Wi-FiやLTEなどの通信環境が安定しない場合があります。SaaSがクラウド上で動作するため、通信障害が起きると業務に支障をきたします。山間部や地下トンネル内などでは通信が途切れがちなので、オフライン時でも最低限の操作が可能か、データ同期がスムーズに行われるかを確認しましょう。

また、利用端末との相性も重要です。現場ではスマートフォンやタブレットの使用が一般的ですが、機種やOSによって動作に差が出る場合があります。例えば、Android端末とiOS端末の両方に対応しているか、画面サイズに応じてUIの最適化がされているかは利用者の使いやすさに直結します。

さらに、耐久性や防塵・防水性能が求められる現場環境においては、推奨端末の確認も必要です。例えば、厳しい環境で使う場合は rugged端末や現場用の保護ケースを用意し、SaaSの活用効果を最大化しましょう。

③サポート体制や継続的なアップデートを確認する

SaaSの導入後は、運用面での支援が欠かせません。導入直後は操作に不慣れな社員も多く、トラブルや質問に迅速に対応できるサポート体制があるかを確認しましょう。例えば、電話やチャットでの問い合わせ対応や現場研修の実施が可能かも重要です。

加えて、建設業界は法令や規制の改正が頻繁に行われるため、SaaSがこれらに適応した継続的なアップデートを行っているかもチェックポイントです。例えば、建設業法の改正や安全基準の強化に対応した機能追加が定期的に提供されていると、運用の安心感が増します。

さらに、現場からのフィードバックを基に機能改善を行う開発体制も大切です。例えば、現場での使い勝手を向上させるためにユーザーの要望を反映し、アップデートの頻度が高いサービスは利用者の満足度が高い傾向にあります。こうした点を比較検討し、長期的に利用できるサービスを選びましょう。

まとめ|建設DXを成功させるためにSaaSの導入を検討しよう

建設業界でのDX推進において、SaaSは業務効率化や情報共有の基盤となる重要なツールです。導入時には現場に適した機能や使いやすさを重視し、通信環境や端末との相性・サポート体制をしっかり確認することが不可欠です。これにより、現場の課題を的確に解決し、工期短縮や品質向上・安全管理の強化につなげられます。

例えば、現場での迅速な情報共有や進捗管理はプロジェクトの遅延を防ぎ、コスト削減にも寄与します。また、労務や安全管理機能が充実したSaaSを活用することで、作業員の負担軽減と安全性向上を同時に実現できるのです。

この記事を参考に建設DXを成功させるために自社の業務内容や環境を分析し、最適なSaaSサービスを積極的に検討してみてはいかがでしょうか。適切な選択と運用によって、現場の生産性向上と品質確保を両立できる未来が開けます。