DX人材としてのデザイナーとは？仕事内容と必須スキルを解説

DX（デジタルトランスフォーメーション）が多くの企業で経営課題となる中、その推進力として「デザイナー」の存在がこれまで以上に重要視されています。これまでのデザイナーの役割は、製品やサービスの見た目を美しく仕上げることが中心でした。

DX時代に求められるデザイナーは、単なる見た目の美しさだけでなく、ビジネスと顧客・ユーザーの視点を深く理解し、事業の新たな価値創造や課題解決をデザインする役割を担います。

本記事では、DXを牽引する人材としてのデザイナーに焦点を当て、その具体的な仕事内容と、活躍するために求められる必須スキルを国内大手企業の先進事例も交えながら詳しく解説していきます。デザイナー目線でも市場価値を高めるヒントが満載です。

DX人材の基本を理解する

DX（デジタルトランスフォーメーション）とは、デジタル技術でビジネスを変革し、企業の競争力を高める取り組みです。この推進役が「DX人材」であり、単なる技術知識だけでなく、ビジネスへの深い理解とリーダーシップが求められます。

多くの企業で専門人材が不足する中、変化の激しい市場で勝ち抜くためDX人材デザイナーのように顧客視点でビジネス課題を捉え、解決に導く人材の重要性が高まっています。

DX人材の定義と求められる背景

DX（デジタルトランスフォーメーション）人材とは、デジタル技術やデータを駆使して、ビジネスモデルの変革を主導する専門家です。市場の変化が激しく、顧客ニーズが多様化する現代では、企業が競争優位性を保つために迅速な価値創造が不可欠となります。

しかし、多くの企業ではDX推進を担う人材が不足しており、顧客視点で課題を解決し、新たな体験価値を創出できるDX人材の確保が急務となっています。

DX人材と従来のIT人材との違い

従来のIT人材が、システムの運用・保守などの「守りのIT」を担うのに対し、DX（デジタルトランスフォーメーション）人材には異なる役割が求められます。DX人材にはビジネス自体を変革し、新たな価値を創造する「攻めのIT」の役割が期待されています。

技術を手段として活用し「どう事業を成長させるか」を考えるビジネス視点が不可欠です。そのため、顧客視点で課題を発見し、解決策を具体化できる人材が、変革をリードするDX人材として重要視されます。

なぜ今、DX推進にデザイナーの力が必要なのか？

DX（デジタルトランスフォーメーション）の成功は、単なる技術導入ではなく、優れた「顧客体験」の提供にかかっています。そこで不可欠となるのが、DX人材としてのデザイナーです。

デザイナーは、顧客の視点で本質的な課題を発見し、アイデアをプロトタイプなどで可視化することで、チーム内の円滑な合意形成を促進します。

見た目を整えるだけでなく、事業価値そのものをデザインする役割を担うため、DX推進の要となります。

顧客体験（CX）の向上がビジネスの成功を左右する

モノやサービスが溢れる現代市場では、機能的価値だけでの差別化は困難です。そこで企業の成長を左右するのがCX（顧客体験）です。

優れたCXは顧客満足度を高め、継続利用を促し、企業の収益向上に直結します。このCXを戦略的に設計し向上させるプロセスで、顧客視点を持つデザイナーの専門性が不可欠となります。

顧客を深く理解し、サービス全体をデザインするデザイナーは、DX（デジタルトランスフォーメーション）を成功に導く上で中核を担うDX人材です。

複雑な課題を可視化し、チームの共通認識を作る

DX（デジタルトランスフォーメーション）プロジェクトはさまざまな専門家で構成されるため、メンバー間の認識のズレが大きな課題です。そこでDX人材としてのデザイナーは、複雑なビジネス要件やユーザーの課題を、プロトタイプや図解で「可視化」します。

この可視化されたアウトプットはチームの共通言語となり、具体的な議論を促進します。円滑な合意形成を導き、迅速な意思決定と手戻り削減を実現するこの能力は、DXを推進するデザイナーに不可欠です。

新たな価値を創造する「デザイン思考」が不可欠

DX（デジタルトランスフォーメーション）が目指すのは、単なる業務のデジタル化ではなく、新たなビジネス価値の創造です。この実現に不可欠なのが、デザイナーが実践する問題解決プロセス「デザイン思考」です。

常に顧客視点で本質的な課題を発見し、試作と検証を繰り返すことで、作り手の思い込みを排し、顧客が本当に求める価値を見つけ出します。DX人材としてのデザイナーは、この思考法をチームに浸透させ、イノベーション創出を牽引する重要な役割を担います。

DX推進におけるデザイナーの3つの主要な役割

DX（デジタルトランスフォーメーション）推進でのデザイナーは、ビジネス変革をリードする「DX人材」として、その役割を大きく広げています。

単に見た目をデザインするだけでなく、顧客の潜在ニーズとビジネス課題を結び、新たな事業価値を創造することがミッションです。事業、技術、顧客理解のハブとなり、組織の変革を力強く牽引するでしょう。

ここでは、DXプロジェクトの成功に不可欠な、デザイナーの3つの主要な役割を解説します。

役割1：サービスデザイナー

DX（デジタルトランスフォーメーション）推進デザイナーの役割の1つが「サービスデザイナー」です。

特定のWebサイトやアプリの使いやすさを追求するだけでなく、顧客がサービスに触れる全ての接点を俯瞰し、一貫した質の高い顧客体験を設計します。例えば、SNSでの認知から店舗訪問、購入、アフターサポートに至る一連のプロセス全体がデザインの対象です。

事業全体の構造を顧客視点でデザインする役割は、DXプロジェクトを成功に導く上で重要なDX人材といえます。

役割2：UX/UIデザイナー

DX（デジタルトランスフォーメーション）が生み出すデジタルサービスは、ユーザーとの重要な接点です。その体験の質を設計するのが「UX/UIデザイナー」の役割です。

UX（ユーザー・エクスペリエンス）デザイナーは、ユーザー調査や分析から課題を理解し、「使いやすい」「心地よい」といった満足度の高い体験を設計します。一方、UI（ユーザー・インターフェース）デザイナーは、そのUX設計に基づき、直感的な画面レイアウトや美しいビジュアルを作り上げます。

サービスの価値をユーザーに確実に届けるUX/UIデザイナーは、DXの成果を形にする上で欠かせないDX人材です。

役割3：ビジネスと開発の「架け橋」

DX（デジタルトランスフォーメーション）プロジェクトでは、ビジネスサイドと開発サイドの連携が成功の鍵ですが、専門性の違いから認識のズレも生まれがちです。ここで両者をつなぐ架け橋となるのが、DX人材としてのデザイナーです。

デザイナーは事業目標を深く理解し、それを具体的な顧客体験やUIデザイン、プロトタイプへと可視化します。これにより、ビジネスの要求が開発チームに明確に伝わり、手戻りの削減と開発の迅速化が実現します。

専門家をつなぎ、円滑な共創を促進するデザイナーは、チームに不可欠な存在です。

DX人材としてのデザイナーの具体的な仕事内容

DX（デジタルトランスフォーメーション）人材としてのデザイナーの仕事は、従来の制作業務にとどまりません。事業の課題発見から関わり、ユーザー調査やサービスコンセプトの立案、体験設計を行います。

さらに重要なのが、プロトタイピングと仮説検証を繰り返し、具体的なUIデザインを構築することです。リリース後も効果測定と改善を主導するなど、ビジネスの上流から下流まで一気通貫でプロジェクトに関わり、新たな価値創造を目指します。

顧客・ユーザーの課題発見とニーズ分析

DX（デジタルトランスフォーメーション）プロジェクトの成功には、顧客への深い理解が不可欠です。DX人材としてのデザイナーは、インタビューなどの調査を通じて、顧客の言葉の裏にある潜在的なニーズや本質的な課題を探り出さなければなりません。

その結果をペルソナやジャーニーマップで可視化し、「誰の、何を解決するのか」というチームの共通認識を育むことが、価値あるDXの土台へとつながるでしょう。

新規事業やサービスのコンセプト設計

顧客課題の解決策として、新規事業やサービスの具体的なコンセプト設計は重要です。ここでもデザイナーが中心となり「どのような価値を、誰に、どうやって届け、ビジネスとして成立させるか」という事業の根幹を定義します。

このコンセプト設計はプロジェクト全体の「羅針盤」となり、関係者の目線を統一させる役割を果たすでしょう。

ビジネスの根幹から関わり、ビジネスの成功確率を高めることこそ、DXデザイナーの仕事と言えます。

ワイヤーフレームとプロトタイプの作成

サービスのアイデアを具体的な形にするのが、ワイヤーフレームとプロトタイプの作成です。デザイナーは、これらのツールでコンセプトを可視化し、チームの共通認識を築くことが重要です。

ワイヤーフレームは、画面の骨格を示す「設計図」として情報設計の合意形成を促します。一方、プロトタイプは、実際に操作できる「試作品」としてユーザーテストや技術検証に用います。

早期にアイデアを形にし、低コストで仮説検証を繰り返すこの仕事は、開発の手戻りを減らし、プロジェクトの成功確率を大きく高めるプロセスです。

ユーザーテストと改善サイクルの実行

デザイナーは、プロトタイプが本当に価値を持つか検証する「ユーザーテスト」を主導します。ユーザーに実際に操作してもらい、使いにくい点やニーズとのズレを客観的に洗い出し、作り手の思い込みを排除します。

「プロトタイピング→テスト→改善」のサイクルを高速で回すことで、開発の手戻りリスクを抑え、リリース前にプロダクトの質を高めることが可能です。

ユーザーの声に基づき粘り強くプロダクトを磨き上げる継続的な改善活動こそ、DXデザイナーの重要な仕事です。

開発チームや事業部との連携・調整

DX（デジタルトランスフォーメーション）プロジェクトの成功は、事業部や開発チームなど多様な専門家との連携にかかっています。

デザイナーは、その「ハブ」となり円滑なコミュニケーションを促進する仕事です。ビジネス要求を深く理解し、デザインとして可視化して開発チームに正確に伝えます。

技術的な制約も踏まえ、関係者の意見を調整し、プロジェクトを共通のゴールへ導くファシリテーション能力は不可欠です。円滑な共創の場を創ることこそ、DXデザイナーの重要な仕事です。

DX人材としてのデザイナーに求められる必須スキル

デザイナーには、見た目の美しさを追求するスキルに加え、事業課題の解決に貢献するビジネス視点が不可欠です。

ビジネスの上流から専門家と連携し、プロジェクトを推進するため、従来のスキルだけでは対応しきれません。デザインを軸に、ビジネス、テクノロジー、そして人を繋ぐ共創力を掛け合わせ、組織の壁を越えて変革をリードする力が重要になります。

ここではDXデザイナーに求められる必須スキルを詳しく解説します。

【デザイン専門スキル】人間中心設計とUX/UIデザイン能力

デザイナーの核となるのが、常に利用者を中心に考える人間中心設計と、それを実践するUX/UIデザインの専門スキルです。

UXデザインでユーザー調査から本質的な課題を発見し、価値ある体験を設計し、UIデザインでその体験を、直感的に操作できる快適な画面へと具体化します。どのような高度な技術も、最終的にユーザーに受け入れられなければ意味がありません。

ユーザーに寄り添い価値を届けるこれらの専門スキルは、DXを推進するデザイナーにとって重要な必須スキルです。

【ビジネススキル】事業戦略の理解とマーケティング知識

デザイナーは、単に優れたアウトプットを作るだけでなく、それが事業の成長にどう貢献するかを説明できなければなりません。自社のビジネスモデルや重要業績評価指標（KPI）などの事業戦略を深く理解することで、自身のデザインが目標達成に直結する一手だと論理的に示せます。

また、マーケティング知識は市場や競合を分析し、提供価値を定義する上で不可欠です。このビジネス視点こそ、デザイナーが課題解決をリードする真のDX人材として価値を発揮するための鍵となります。

【テクノロジースキル】基本的なIT・Web技術やデータリテラシー

デザイナーには、エンジニアと円滑に連携し、実現性の高いデザインを生み出すためのテクノロジー理解が不可欠です。

HTML/CSSやAPIなどのWeb技術の基本を理解していれば、技術的制約を踏まえた現実的な提案が可能となり、開発チームとの対話もスムーズになります。

また、DXではデータに基づいた意思決定が重視されるため「データリテラシー」も必須です。アクセス解析などの客観的なデータを用いてデザインの有効性を示せる力は、提案の説得力を飛躍的に高めます。

テクノロジーを理解し使いこなすことは、デザイナーがDXを牽引する人材となるための重要なスキルです。

【ソフトスキル】円滑な共創を促すファシリテーション能力

DX（デジタルトランスフォーメーション）プロジェクトは事業部やエンジニアなど多様な専門家で構成され、円滑な共創には壁が伴います。ここでデザイナーに強く求められるのが、チームをまとめる「ファシリテーション能力」です。

これは会議などで中立的な立場から議論を促し、参加者の意見を引き出しながら合意形成を導くスキルを指します。デザイナーはプロトタイプなどの可視化されたアウトプットを共通言語とし、専門家同士のハブとなって議論を活性化させます。

チームの創造性を増大しプロジェクトを円滑に推進するこのスキルは、DXを成功に導くデザイナーにとって不可欠です。

【大手企業の先進事例】デザインの力でDXを推進する3つのアプローチ

DX（デジタルトランスフォーメーション）推進でのデザイナーの役割を解説しましたが、理論だけではイメージしにくいでしょう。国内の先進企業では、DX人材としてのデザイナーが事業変革をリードする事例が生まれています。

ここでは3社の事例から、デザインの力でDXを推進する具体的なアプローチを紹介し、自社で活かすヒントを探ります。各社がいかに経営とデザインを結びつけ、成果を上げているか見ていきましょう。

事例1：富士通株式会社｜DX企業への変革を牽引する「デザイン経営」の実践

大手IT企業の富士通は、自らをDX（デジタルトランスフォーメーション）企業へと変革させるため、「デザイン経営」を強力に推進しています。これは、デザイナーが持つ顧客視点や課題発見能力を事業戦略の中核に据え、新たな価値創造を目指す経営アプローチです。

経営層直下にデザインセンターを設置し、DX人材としてのデザイナーがビジネスの根幹から深く関与しています。経営と一体で変革を進めるとともに、デザインが生む価値を「デザイン白書」で可視化し、社内外に示す先進的な取り組みを行いました。

企業文化の変革までを目指す、DX時代でのデザイナーの役割を示した好事例です。

出典参照：特集 富士通のデザイン経営｜富士通株式会社

事例2：日本電気株式会社｜事業変革を加速させる「デザインケイパビリティ」の強化

日本電気株式会社（NEC）では、専門家だけでなく組織全体の「デザインケイパビリティ（デザインの実践能力）」を強化することで、全社的なDX（デジタルトランスフォーメーション）を加速させています。

この取り組みでは、デザイナーはもちろん、営業やエンジニアなど多様な職種の社員がデザイン思考を学び、実践しました。これにより全社員が顧客視点で価値を創造できるDX人材となることを目指しており、専門デザイナーは活動をリードする教育者・推進役を担います。

個人のスキルに頼らず、組織全体の能力としてデザインを位置づける、DX時代の人材育成の先進事例といえるでしょう。

出典参照：「NECのデザイン思考」で新事業創造と事業改革を加速｜日本電気株式会社（NEC）

事例3：株式会社日立製作所｜顧客との「協創」で未来を描くビジョンデザイン

株式会社日立製作所は、顧客やパートナーと未来を共に創る「協創」をDX（デジタルトランスフォーメーション）推進の核に据えています。その特徴的な取り組みが、社会課題や未来の兆しを起点に、あるべき社会の姿や事業のビジョンを構想する「ビジョンデザイン」です。

デザイナーは、答えを提示するのではなく、専門家が集うワークショップなどで議論を活性化させるファシリテーターとしての役割を担います。

個別製品の開発にとどまらず、事業の未来そのものを顧客と共にデザインするこのアプローチは、不確実性の高い時代に価値を創造する、DXデザイナーの先進的な役割を示しました。

出典参照：日立のデザイン思考｜株式会社日立製作所

まとめ｜ビジネスの未来を創造する、DX人材デザイナーを目指そう

本記事では、DX（デジタルトランスフォーメーション）時代でのデザイナーの役割が、単に見た目を美しくするだけでなく、事業の成功そのものを左右する重要なものであることを解説しました。彼らは、ビジネスとユーザーを深く理解し、課題解決と新たな価値創造をリードする「DX人材」です。

求められるスキルは、デザインの専門性に加えて、ビジネス、テクノロジー、そして多様なチームの共創を促すソフトスキルまで多岐にわたります。本記事で紹介した仕事内容や必須スキル、先進企業の事例が、自身のキャリアを考える上での、また自社のDX推進のヒントとして、お役立ていただければ幸いです。