DX人材の要「データサイエンティスト」とは?DX成功に導く役割とスキルを解説

DX推進に欠かせないデータサイエンティストの職種と役割を徹底解説します。ビジネス戦略から分析、基盤構築まで担う3つの専門領域と、求められるスキルセットを詳しく紹介。自社のDX体制構築や個人のキャリア形成に活用できる実践的な情報です。

「DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進したいが、必要な人材がわからない」「データサイエンティストという職種は聞くが、具体的にどのような役割なのか」と悩んでいませんか。多くの企業が同様の課題を抱える中、その解決の鍵を握るのがDX人材です。

DX成功の中核を担うデータサイエンティストは、単なるデータ分析者ではありません。ビジネス戦略の立案から実際の分析、システム基盤の構築まで、企業に眠る膨大なデータを価値に変え、競争力を高める専門家です。

さらに、ビジネス力・データサイエンス力・データエンジニアリング力という3つのスキルを持ち合わせている必要があります。

本記事では、データサイエンティストの具体的な役割と必要スキルを、先進企業の事例も交えながら詳しく解説します。

DXを成功に導く専門家「DX人材」とは

企業が競争力を保つためには、デジタル技術を活用した変革が不可欠です。この変革を実現するための人材こそが「DX人材」です。

DX人材は経営課題の解決や新たな価値創出を担う、重要な存在として位置づけられています。なぜ今こうした専門人材が求められ、どのような職種がDXチームを構成するのでしょうか。そして、その中核を担うデータサイエンティストも詳しく見ていきましょう。

なぜ今、DXと専門人材(DX人材)が求められるのか

DXの目的は事業変革です。企業を取り巻く環境は急速に変化しており、従来の業務効率化だけでは対応できません。顧客ニーズの多様化やデジタル技術の進歩により、企業は根本的な変革を迫られています。

こうした背景から、単にシステムを導入するだけでなく、ビジネスモデル自体を変革できる人材が必要となりました。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024」によると、DXを推進する人材が「不足している」と回答した日本企業は62.1%となっています。この数値は調査開始以降初めて過半数を超えました。DX人材の増強が急務となっています。

出典参照:DX動向2024-深刻化するDXを推進する人材不足と課題(3/22)|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

DXを推進するチームの全体像:代表的な5つの職種

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が取りまとめた「DX推進スキル標準」では、DX人材を5つの類型に分類しています。それぞれの職種は異なる専門性を持ちながら、連携してDXを推進します。

役割

主な業務内容

ビジネスアーキテクト

目的設定から導入・効果検証までの一気通貫した推進

デザイナー

ビジネス・顧客・ユーザーの視点からの製品・サービス方針の策定

ソフトウェアエンジニア

システムやソフトウェアの設計・実装・運用

サイバーセキュリティ

デジタル環境におけるセキュリティリスクの影響抑制

データサイエンティスト

データ収集・解析する仕組みの設計・実装・運用

上記の5つの職種がそれぞれの役割を果たし、組織として協働することで、初めて一貫性のある強力なDXを実現することが可能です。

出典参照:DX推進スキル標準(DSS-P)概要|デジタル人材の育成|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

中核を担う「データサイエンティスト」の役割と定義

「データサイエンティスト」とは、企業や組織のDXで不可欠なデータの活用領域を中心にDXの推進を担う人材です。データ活用が中心となるDXの推進では、中核となる人材であると言われています。

デジタルスキル標準では、データサイエンティストを「DX推進で、データを活用した業務変革や新規ビジネスを実現するために、データ収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材」と定義しています。

単なるデータ分析者ではなく、データから価値を創出し、ビジネス変革を実現する専門家です。

データサイエンティストの3つの役割

データサイエンティストは、その業務内容によって大きく3つの役割に分類されます。戦略を策定するデータビジネスストラテジスト、実際の分析を担当するデータサイエンスプロフェッショナル、基盤整備を行うデータエンジニアです。

それぞれが異なる専門性を持ちながら、データ活用による価値の創出を支えている重要な存在です。まずは戦略立案を主導する役割から詳しく見ていきましょう。

1.データビジネスストラテジスト|ビジネス課題の解決を主導する

「データビジネスストラテジスト」は、事業戦略に基づきデータ活用の戦略を立て、プロジェクトを管理します。社会や市場の動向から事業課題を見つけ出し、AI(人工知能)などの先端技術で解決を主導したり、新ビジネスを創出したりする役割です。

また、DXを推進する他の専門家や現場部門とデータサイエンティストを繋ぐ架け橋となり、事業変革を実現します。ビジネス戦略やマネジメント能力に加え、プライバシー保護などの法制度に関する知識も不可欠です。

2.データサイエンスプロフェッショナル|データの分析とモデル構築を担う

「データサイエンスプロフェッショナル」は、データの処理・解析とその結果の評価を通じて、新規事業の創出や現場業務の変革・改善に繋がる有益な知見を生み出す重要な役割です。

中心業務は、統計学、機械学習、AI(人工知能)などの専門知識を駆使し、複雑なデータから意味のある洞察を導き出す高度な分析です。分析に留まらず、現場でのデータ活用を促進するための仕組み作りや利用者へのサポートも行います。

データの処理・解析から結果の具体的な活用場面に至るまで、一貫して責任を持つ専門職です。

3.データエンジニア|データ基盤を整備・運用する

データエンジニアは、データ分析を支えるIT(情報技術)インフラの設計、構築、運用を担う専門職です。主な役割は、データの収集・保存・処理などの一連の流れを管理し、膨大なデータを効率的に扱う技術基盤を整えることです。

具体的には、データベース管理やETL(エクストラクト・トランスフォーム・ロード)プロセスの構築、クラウドやビッグデータツールの運用を通じて、分析に必要なデータの質と可用性を確保します。

データエンジニアは、データ活用への深い理解はもちろん、システム開発やセキュリティに関する高度な専門スキルが不可欠です。

データサイエンティストに求められる3つのスキル

データサイエンティストが活躍するためには、幅広いスキルセットが必要です。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)・一般社団法人データサイエンティスト協会によると、データサイエンティストには「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つのスキルが求められています。

これらのスキルがどのような内容で、なぜ重要なのかを詳しく見ていきましょう。

出典参照:データサイエンティストのためのスキルチェックリスト/タスクリスト概説(16/78)|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

1.ビジネス課題を理解し解決する「ビジネス力」

データサイエンティストに不可欠なスキルの1つ目は「ビジネス力」です。「課題背景を理解して、ビジネス課題を整理・解決する力」とされ、技術スキル以上に重要視されることもあります。データ分析は、あくまでビジネス課題の解決と新たな価値を創出するためです。

業界知識やビジネスモデルを深く理解し、課題を的確に定義・仮説立てを行い、分析から解決策を導き出す能力が求められます。さらに、分析結果を関係者に分かりやすく伝え、行動を促す高いコミュニケーション能力も不可欠です。

2.データを解析し価値を見出す「データサイエンス力」

データサイエンティストに求められる2つ目のスキルが、中核となる「データサイエンス力」です。「情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力」と定義されています。

具体的には、統計学や機械学習、AI(人工知能)などのアルゴリズムを駆使してデータを科学的に分析し、課題を解決する力です。理論の理解以外にも、アルゴリズムを実装する技術が不可欠です。データクレンジングのスキルなども含んだ、幅広い専門性が求められます。

3.データを扱えるように実装する「データエンジニアリング力」

データサイエンティストの3つ目のスキルは「データエンジニアリング力」です。「データサイエンスを意味のある形にし、ビジネスの現場で実装・運用できるようにする力」と定義されています。分析から得た仮説を、実際のビジネス価値へと転換する能力です。

データエンジニアリング力は、分析に必要なデータを収集・加工し、利用可能な状態に整える技術基盤を構築することにあります。具体的には、プログラミング言語の習熟、データベースの設計・運用、クラウドの活用能力が求められます。

データパイプラインの構築など、継続的で安定したデータ活用を支えるインフラを整備する、実践的な技術力です。

【企業事例】データサイエンティストが導くDXと、人材育成の取り組み事例3選

DX推進でのデータサイエンティストの役割を理解するには、実際の企業事例に触れるのが効果的です。物流の効率化、人材育成基盤の構築、安全性の向上など、多様な分野でデータがどのようにビジネス課題を解決し、具体的な成果に繋がっているのでしょうか。

以下より3つの企業のデータサイエンティストによるDX人材育成の取り組みを見ていきましょう。

事例1:ヤマト運輸株式会社|AIによる配送予測で物流の最適化を実現

ヤマト運輸は、長距離ドライバー不足と医薬品配送でのCO₂(二酸化炭素)削減という重要な課題を抱えていました。解決策として、医薬品卸のアルフレッサ社と提携し、ビッグデータとAI(人工知能)を駆使した革新的な配送業務量予測システムを導入しました。

このシステムは、蓄積した膨大な受注データや過去の配送実績をAI(人工知能)で分析する仕組みです。顧客ごとの注文数、配送が発生する確率、納品先での滞在時間までを高精度で予測します。経験則ではなく、データに基づいた配車計画の立案を可能にしました。

結果、配送生産性は20%向上し、走行距離とCO₂排出量を25%削減するという大きな成果を達成しました。さらに、納品先である医療機関での対面作業時間も20%短縮され、多忙な医療従事者の負担軽減にも貢献しています。

出典参照:ビッグデータ・AIを活用した配送業務量予測および適正配車のシステム導入について|ヤマト運輸株式会社

事例2:株式会社大和総研|データサイエンティスト育成でDXの基盤を強化

株式会社大和総研では、一部署にAI(人工知能)・データサイエンスの知見が集中していた課題を受け、2021年4月から全社的な「データサイエンティスト育成プログラム」を開始しました。

このプログラムは、まず全社員を対象とした基礎的なリテラシー教育から始まります。その後、実際のプロジェクトを用いた高度な分析演習や研究開発部門での社内インターンシップへと進みます。段階的にスキルを高められる体系的なカリキュラムです。

その結果、開始から約3年間で社員の約6割がプログラムを受講し、100人を超える人材が社内認定データサイエンティストとして誕生。新入社員には受講を必須とすることで、組織全体のスキルを底上げすると同時に、将来有望な人材の発掘にも成功している好事例です。

出典参照:企業のDXやデータ活用を進めるデータサイエンティストの育成方法は?|株式会社大和総研

事例3:東京地下鉄株式会社|AI活用でトンネル検査を効率化し安全運行に貢献

東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、日々の安全運行に不可欠なトンネル点検の効率化と精度向上という課題を抱えていました。広大なトンネル内の目視での確認には限界があったため、AI(人工知能)技術を活用した「打音点検箇所抽出システム」を開発・導入しました。

このシステムは、高精度カメラで撮影したトンネル表面の膨大な画像データをAIが解析し、「ひび割れ」などの微細な変状を自動で検出します。剥落リスクが高い箇所を客観的データに基づいて特定し、点検リソースの集中が可能となりました。

2022年10月から東西線から導入が進められています。将来的には健全度判定や劣化予測の技術へと発展させ、地下鉄の安全運行をより高度に支える基盤技術とすることを目指しています。

出典参照:企業のDXやデータ活用を進めるデータサイエンティストの育成方法は?|東京地下鉄株式会社(東京メトロ)

データサイエンティストがDX成功の鍵となる2つの理由

市場や顧客ニーズが複雑化する現代、経験や勘に頼る経営では競争優位を保てません。DXを成功させる鍵は、データに基づく客観的な意思決定であり、その中核を担うのがデータサイエンティストです。データサイエンティストは専門的な知見でデータを価値に変え、企業の変革を推進します。

以下より、データサイエンティストがDXに貢献する2つの理由を見ていきましょう。

1.データに基づく客観的な意思決定の促進

これまでの経験や勘に頼るのではなく、データに基づいて意思決定を行う「データドリブン」な経営へと、ビジネスは大きく変化しています。この変革のまさに中心的な役割を担うのが、データサイエンティストです。

市場が激しく変化し、顧客ニーズも多様化する現代では、客観的で精度の高い判断が企業の生命線となります。データサイエンティストは、膨大な情報の中から統計的に意味のある傾向やパターンを発見し、確かな根拠に基づいた意思決定を可能にします。

これにより、市場動向の予測や顧客行動の分析、リスク評価の精度が向上し、企業の競争力を支える迅速で的確な判断が実現できるでしょう。

2.既存ビジネスの課題発見と新たな価値創出

データサイエンティストは、既存のビジネスプロセスに潜む課題を明らかにし、新たな事業機会を創出する重要な役割を担います。

データサイエンティストは、統計学やプログラミングなどの専門技術を駆使し、データから価値を最大化するスペシャリストです。これまで見過ごされてきた非効率な業務の改善点や、異なるデータを組み合わせることで生まれる新しいサービスの可能性を発見します。

実際に、製造業での品質向上や小売業での在庫最適化など、あらゆる業界で具体的な業務改善と持続的な価値創出に貢献し、企業の競争力を高めています。

まとめ|DX人材の中核「データサイエンティスト」と、データで踏み出すDX時代の新たな一歩

DX成功の鍵を握るデータサイエンティストは、ビジネス力・データサイエンス力・データエンジニアリング力という3つのスキルを軸に活躍します。

データビジネスストラテジスト、データサイエンスプロフェッショナル、データエンジニアという明確な役割分担により、データに基づく客観的な意思決定と新たな価値創出を実現しています。

データサイエンティストの具体的な役割とスキルを理解することで、自社のDX推進体制構築や個人のキャリア形成に活用できるでしょう。

データサイエンティストの専門性を活かし、企業の競争力向上と持続的成長を目指すDX戦略の実現に向けて取り組んでみませんか。