DX人材に必要な戦略的思考とは？マインドセットや育成方法を紹介

多くの企業がDX（デジタル・トランスフォーメーション）に取り組む中、単純な技術導入だけでは競合との差別化が困難になっています。真の成功を収めるために必要なのは、技術を戦略的に活用し、事業成長につなげられる「戦略的思考を持つDX人材」です。

本記事では、なぜ今戦略的思考を持つDX人材が求められるのか、戦略的思考を構成する4つの思考法、効果的な人材育成の5ステップ、そして成果を支える4つのマインドセットを詳しく解説します。

情報システム部門、経営企画、人事部門の担当者の方に向けて、自社のDX推進を成功に導く人材育成のヒントをお届けします。変化の激しいデジタル時代で、持続的な競争優位性を築くための人材戦略を一緒に考えていきましょう。

なぜ今、戦略的思考を持つDX人材が必要なのか？

企業のDX推進は、単にデジタルツールを導入すれば成功する時代ではありません。多くの企業が取り組む今こそ、技術の先を見据える戦略的視点を持つ人材が不可欠です。

単純な置き換えではなく、組織や業務の変革を設計し、成果へ導く力が求められます。DXが生存戦略となった現在、技術を事業成長や顧客価値創出へ結びつける人材こそが、企業の未来を左右します。それが真の競争優位につながるからです。

単純な技術導入では競合との差別化ができない

多くの企業が同様のデジタルツールを導入する今、技術そのものでの差別化は難しく、「導入しているか」ではなく「どう活用するか」が勝負を分ける要素です。RPA（ロボティック・プロセス・オートメーション）やAIチャットボット、クラウドも、運用方法や組み合わせ、業務プロセスへの組み込み方次第で成果は大きく変わります。

戦略的思考を持つDX人材は、導入目的を明確化し、自社の強みや市場環境に基づく独自活用を設計できます。

さらに競合動向を分析し、差別化戦略を描くことも不可欠です。技術トレンドに飛びつくのではなく、「何を実現し、どのような優位性を築くのか」を考え抜ける人材こそ、真のDX成功を導く存在です。

戦略的思考が変化への適応力を高める

デジタル技術の進歩は加速度的で、企業を取り巻く環境は刻々と変化しています。この中で求められるのは、目前の課題解決に加え、将来を見据えた柔軟かつ持続的な対応力です。

戦略的思考を備えたDX人材は、変化を予測し、対応可能な仕組みを全社的視点で構築できます。

新技術が登場した際には、それが自社にとって成長の機会か脅威かを迅速に見極め、適切な施策を打ち出します。また、市場動向や顧客ニーズの変化を敏感に察知し、状況に応じてDX戦略の修正が必要です。

部分改善にとどまらず、部門横断的な改革を推進し、企業全体の競争力と変化適応力を高め、激変する時代でも持続的な成長を実現可能です。

戦略的思考とは何か？4つの思考法

戦略的思考とは、単なる問題解決にとどまらず、長期的な視点から適切な解決方法を導き出し、組織全体の成果へと結びつける能力です。

特にDX人材には、技術知識に加えてビジネス全体を俯瞰し、変化する市場や複雑な課題に対して多角的にアプローチできる思考力が不可欠です。

この能力は、企業の競争力強化や持続的成長に直結します。ここでは、その戦略的思考を形づくる4つの重要な思考法を具体的に解説します。

1.論理的思考（ロジカルシンキング）

論理的思考とは、筋道を立てて物事を考え、根拠に基づいて結論を導き出す思考法です。DX推進で、感覚や経験だけに頼らず、データや事実に基づいて意思決定を行うための基盤です。

論理的思考を身につけることで、DX人材は関係者に対して説得力のある提案ができるようになり、プロジェクトの成功率も向上します。

また、問題の原因を正確に特定できるため、的確な解決策を選択できるようになります。

2.批判的思考（クリティカルシンキング）

批判的思考は、与えられた情報や既存の方法論に対して疑問を持ち、多角的に検証する思考法です。DXの現場では、「従来のやり方」や「業界の常識」を見直し、本当に適切な方法は何かを追求する姿勢が重要です。

この思考法により、DX人材は表面的な解決策に留まらず、本質的な課題解決につながる施策を立案できるようになります。また、リスクの早期発見や、想定外の問題への対応力も向上します。

3.ゼロベース思考

ゼロベース思考とは、既存の枠組みや制約を一旦取り払い、「もし一から始めるとしたら」という視点で物事を考える思考法です。

DXでは、既存システムや業務プロセスに縛られることなく、理想的な姿から逆算して施策を検討する際に威力を発揮します。

この思考により、従来の延長線上では生まれない革新的なアイデアや、効率化を実現する施策を発想できるようになります。特に、古いシステムからの脱却や業務の抜本的な見直しが必要な場面で重要な思考法です。

4.多面的思考

多面的思考とは、1つの物事をさまざまな角度から捉え、関係者それぞれの立場や影響を考慮して判断する思考法です。

DXプロジェクトには多くの部門や人が関わるため、技術的観点だけでなく、経営、現場、顧客など、あらゆる視点を統合して考える能力が必要です。

この思考法を身につけることで、DX人材は関係者全員が納得できる施策を立案でき、プロジェクト推進時の合意もスムーズに形成できるようになります。また、反対意見や課題を予測し、対策することも可能になります。

戦略的思考を持つDX人材を育成する5ステップ

戦略的思考を備えたDX人材の必要性は多くの企業が理解していますが、実際にどのような方法で育成すべきか悩むケースは少なくありません。

人材育成は短期間で完結するものではなく、継続的かつ計画的な取り組みが求められます。しかし、体系的なアプローチを取れば着実に成果を上げることが可能です。

ここでは、戦略的思考を持つDX人材を効果的に育成するための具体的な5つのステップを詳しく紹介します。

ステップ1：経営戦略に基づくDX人材像の明確化

DX人材育成の第一歩は、自社にとって必要なDX人材像を明確に定義することです。経営戦略や事業方針と連動したDX人材像を描くことで、育成の方向性がブレることなく、効果的な人材育成が可能になります。

製造業であればAIを活用した生産性向上に強いDX人材、小売業であればデジタルマーケティングや顧客体験向上に長けた人材というように、業界特性や自社の強みを活かせる人材像を設計することが重要です。

また、一般的なDX人材の定義をそのまま採用するのではなく、自社の文化や組織風土に適合する人材像を描くことで、実際の業務での活躍可能性が高まります。

ステップ2：全社員のDXリテラシー向上

戦略的思考を持つDX人材が力を発揮するためには、組織全体のDXリテラシーを一定水準以上に引き上げる必要があります。

DX人材だけが突出していても、周囲の理解や協力が得られなければ、せっかくの戦略も実行に移すことができません。

特に重要なのは、経営層を含めた管理職のDXリテラシーの向上です。一般的に、管理職の理解と支援がなければDXプロジェクトは成功しにくいというのが通説です。

管理職がDXの意義や可能性を理解し、適切な判断ができるようになることで、DX人材の提案に対する建設的な議論や迅速な意思決定が可能になります。

ステップ3：戦略的思考を育成する研修プログラム

戦略的思考は実践を通じて身につく能力ですが、基礎となる思考法やフレームワークを体系的に学ぶことで、習得を加速できます。座学だけでなく、ケーススタディやワークショップを組み合わせた実践的な研修プログラムを設計することが重要です。

研修の効果を高めるためには、参加者のレベルに応じたプログラム設計が必要です。例えば、新入社員向けには基礎的な思考法から始め、中堅社員向けには実際のプロジェクト運営を想定した演習を中心とするなど、段階的なプログラムを用意することで、着実なスキル向上を図れます。

ステップ4：実践機会の場を提供

研修で学んだ知識やスキルは、実際のビジネス現場で活用してこそ真の力です。戦略的思考を持つDX人材を育成するためには、学んだことを実践できる機会を意図的に創出し、経験を通じて成長を促すことが欠かせません。

実践機会を提供する際は、適切な難易度設定と伴走支援が重要です。いきなり大規模プロジェクトを任せるのではなく、成功体験を積めるレベルから始めて、徐々に難易度を上げていくことで、自信と実力の両方を育成できます。

また、失敗を恐れずチャレンジできる環境づくりも大切です。

ステップ5：DX人材の評価制度とキャリアパスの構築

戦略的思考を持つDX人材を継続的に育成し、組織内で活躍してもらうためには、適切な評価制度とキャリアパスの整備が不可欠です。

従来の評価制度では測りにくいDX人材の貢献を適正に評価し、成長意欲を維持できる仕組みを構築する必要があります。

キャリアパスでは、技術専門職としての道筋だけでなく、DX戦略企画や組織変革リーダーとしての道筋も用意することで、多様な志向を持つ人材の成長を支援できます。

また、社外での学習機会や他社との交流機会の提供なども、人材の成長とモチベーション維持に効果的です。

戦略的思考を支えるDX人材の4つのマインドセット

戦略的思考を身につけても、それを実際の業務で発揮し、継続的に成果を上げ続けるためには、適切なマインドセットが不可欠です。

技術的なスキルや思考法だけでなく、困難な状況でも前向きに取り組み、周囲を巻き込みながら変革を推進できる精神的な基盤が、真に価値あるDX人材を支えています。

ここでは、戦略的思考を持つDX人材が備えるべき4つの重要なマインドセットを解説します。

1.変化を恐れず、主体的に変革を推進するマインド

DXの本質は変革です。既存の業務プロセスやシステムを変え、新しい価値を創造することがDXの目的であるため、変化を恐れるマインドセットでは真のDX推進は不可能です。

戦略的思考を持つDX人材には、変化をチャンスと捉え、自ら率先して変革を推進する積極的な姿勢が求められます。

このマインドセットを持つDX人材は、単に上司から指示された業務をこなすだけでなく、自ら課題を発見し解決策を提案し、実行まで責任を持って推進することが可能です。

変革を恐れるのではなく、「変化こそが成長の機会」と捉えることで、持続的なイノベーションを生み出せる人材となります。

2.失敗から学び、次に活かす学習意欲と探求心

DXプロジェクトは当初の計画から変更が生じることが多くあります。市場の変化や新たな課題の発見により、計画の見直しが必要になることも一般的です。

新しい技術の導入や業務プロセスの変更では、予想外の問題や想定していた効果が得られないケースも珍しくありません。戦略的思考を持つDX人材には、失敗を恐れるのではなく、失敗から学び、次の成功につなげる学習意欲と探求心が不可欠です。

このマインドセットにより、DX人材は短期的な失敗に挫折することなく、中長期的な視点で価値ある成果を生み出すことが可能です。

学習意欲の高い人材は、急速に変化するデジタル技術のトレンドにも敏感で、常に新しい知識を組織に還元できる存在です。

3.壁を越えて周囲を巻き込むコラボレーション力

DXプロジェクトは1人で完結するものではありません。技術部門、事業部門、経営層、外部パートナーなど、さまざまな立場の関係者と連携し、それぞれの知見を統合することで初めて成功に導けます。

戦略的思考を持つDX人材には、部門の壁や立場の違いを越えて、周囲を巻き込みながらプロジェクトを推進するコラボレーション力が必要です。

このマインドセットを持つDX人材は、技術的な専門知識を持ちながらも、それを独り占めするのではなく、組織全体の成長のために積極的に共有し、活用できる環境を作ることができます。

4.常に顧客視点で本質的な課題を発見する姿勢

DXの終着点は、顧客により良い価値を提供することです。技術の導入や業務の効率化は手段であり、それ自体が目的ではありません。

戦略的思考を持つDX人材には、常に顧客の視点に立ち、本当に解決すべき課題は何かを見極める姿勢が重要です。

この姿勢により、DX人材は単なる技術導入に終わらない、真に価値のあるソリューションを企画・推進することが可能です。

顧客の本質的なニーズを理解することで、一時的な効果ではなく、持続的な競争優位性を築くDX施策を実現できる人材となります。

戦略的思考を持つDX人材の育成に取り組む企業事例

DXを全社的な変革活動として成功させるため、多くの企業が戦略的な人材育成に力を入れています。そのアプローチは単なる技術研修にとどまりません。

全社員のデジタルリテラシー向上を土台としつつ、事業部門のキーパーソンや高度な専門家を体系的に育成する階層的なプログラムが主流です。

各社に共通するのは、DXを「自分ごと」として捉え、自社の課題を自ら発見し、解決策を主導できる「自走する人材」を育てようという強い意志です。

ここでは、独自の育成プログラムによって企業変革を加速させている先進企業の事例を紹介します。

事例1：東京ガス株式会社｜3階層の育成プログラムで事業変革をリードするDX人材を育成

東京ガスは、事業変革をリードする人材の計画的な育成を目指し、「DX活用人材」「DX中核人材」「高度DX人材」という明確な3階層の育成プログラムを構築・実践しています。

まず、全社員を対象とする「DXリテラシー教育」で組織全体のデジタルに対する基礎体力と抵抗感のない文化を醸成しました。

その上で、各部門から選抜された社員は「DX中核人材」候補として、OJTを重視した実践的な「DX発展教育」に進みます。ここでは実際の業務課題をテーマに、データ分析やシステム開発に取り組み、「ビジネス変革人材」や「データサイエンティスト」としての能力を磨き上げます。

このプログラムの核心は、育成した人材を再び各職場に配置し、現場の課題を解決するDX推進の核として機能させる点です。これにより、単なるスキル習得に留まらず、現場起点で変革を自走させる組織的な仕組みを構築しています。

出典参照：実践を重視したDX人材育成｜東京ガス株式会社

事例2：株式会社ファミリーマート｜「DX人財育成プログラムの強化」による現場DX推進

ファミリーマートは、中期経営計画の基本方針である「『あなたと、コンビに、ファミリーマート』の実現に向けた再構築」をDXの側面から強力に推進するため、「DX人財育成プログラム」を整備・強化しています。

このプログラムは経済産業省のデジタルスキル標準に準拠して設計されており、全社員を対象としたDXリテラシー教育を土台としています。

まず実施するのは組織全体のデジタルに対する基礎知識とマインドセットの醸成です。

その上で選抜された社員に対しては、「ビジネスアーキテクト」「データ活用人財」「サイバーセキュリティ人財」などの、高度で専門的な役割を担う人材を育成する専門プログラムを提供しています。

この取り組みの大きな特徴は、ビジネスの前線である店舗の業務効率化や新たな顧客体験の創出などの現場DXの推進と、全社DXの加速を両輪で目指している点です。

従業員一人一人がDXの担い手となることを目指す、実践的なアプローチでしょう。

出典参照：人財育成の取り組み｜株式会社ファミリーマート

事例3：富士通株式会社｜DXを「自分ごと」として考え、自走する組織を実現する

富士通は、自社の変革プロジェクト「フジトラ」の知見を活かし、「DXを『自分ごと』として捉え、自走する組織」の実現を目指す人材育成に取り組んでいます。

その特徴は、デザイン思考をベースに「ありたい姿」から逆算して戦略を考える、バックキャストのアプローチを採用している点にあります。

加えて、eラーニングでの知識習得、ワークショップでの実践、事後課題による定着までを一貫して行うプログラム設計も強みです。

この研修を通じて、受講者はDX推進に必要な知識やスキルだけでなく、変革を自分自身の課題として捉えるマインドセットを醸成します。

出典参照：DXを「自分ごと」として捉えるためのアプローチ～現場変革のカギを握るDX推進責任者、リーダー向けDX人財育成～｜富士通株式会社

まとめ｜持続的な企業成長の鍵は、戦略的思考を持つDX人材の育成にあり

DXの成功には、技術を戦略的に活用できる「戦略的思考を持つDX人材」の育成が不可欠です。まず、論理的思考・批判的思考・ゼロベース思考・多面的思考の4つの思考法を習得し、経営戦略に基づく人材像の明確化から始めましょう。

全社員のDXリテラシー向上、実践的な研修プログラム、実践機会の提供、適切な評価制度の構築という5つのステップで体系的に育成を進めます。

さらに、変革推進マインド、学習意欲と探求心、コラボレーション力、顧客視点の4つのマインドセットを組織に浸透させることで、持続的な成果を生み出せる人材育成が可能です。

変化の激しい時代では、戦略的思考を持つDX人材が企業の競争優位性を築く重要な存在となります。