DX人材に必要な情報処理スキルとは？求められる資格や知識を紹介

現代のビジネス環境において、DX（デジタルトランスフォーメーション）の推進は企業競争力の向上に欠かせない要素となっています。しかし、DXを成功させるためには、単なるデジタル化ではなく、情報処理技術を基盤とした体系的なアプローチが重要です。

DX人材には、従来のIT知識に加えて、システム設計・開発、データベース管理、クラウド環境構築、セキュリティ対策といった幅広い情報処理スキルが求められています。これらの技術力は、DXプロジェクトの企画から実装、運用まで一貫して支える基盤となるでしょう。

本記事では、DX人材に必要な情報処理技術の範囲と、それらを習得するための資格や学習方法について詳しく解説します。技術的な裏付けを持つDX人材の育成により、確実で効果的なDX推進を実現していきましょう。

DX人材における情報処理スキルの位置づけ

DX人材に求められるスキルは多岐にわたりますが、その中でも情報処理技術はすべての業務の基盤となる重要な位置を占めています。デジタル技術を活用したビジネス変革を実現するためには、システムの仕組みを理解し、適切な技術を選択できる能力が不可欠です。

従来のIT担当者が保守・運用を中心とした技術スキルを重視していたのに対し、DX人材には新たな価値創造に向けた技術活用力が求められます。

また、DXプロジェクトでは複数の技術分野を横断的に扱うため、個別の技術知識だけでなく、それらを統合して活用する能力が必要です。情報処理スキルは、ビジネス要求を技術的に実現するための橋渡し役として、DX人材の核となる能力といえるでしょう。

DX人材に必要な4つの情報処理分野

DX推進には技術的専門知識を持つ人材が不可欠です。現代のデジタル変革では、システム構築からデータ活用、インフラ管理、セキュリティ対策まで、多岐にわたる技術領域への対応が求められています。これらの技術分野を体系的に理解し活用できる人材こそが、企業のDX成功の鍵を握ります。

ここでは、DX人材が習得すべき4つの主要な情報処理分野について、それぞれの特徴と必要なスキルを詳しく見ていきましょう。

​​①システム設計・開発スキル

システム設計・開発スキルは、DXにおける「構想を現実に変える力」です。企業のデジタル変革ビジョンを実際に動作するシステムとして具現化する技術的基盤となります。

基礎となるのは、ビジネス要求を技術設計に翻訳する能力です。「顧客対応を効率化したい」という要求に対し、最適なシステム構成を判断し全体アーキテクチャを設計できることが求められます。これは建築家が設計図を描くのと同様に、後の開発工程すべての土台となります。

プログラミング技術では、Python、JavaScript、Javaの習得が基本です。ただし文法習得だけでなく、オブジェクト指向設計やデザインパターンという「良いコードを書くための考え方」の理解がより重視されます。

②データベースおよびデータ管理スキル

データベースおよびデータ管理スキルは、DXにおける「情報の宝庫を活用する力」と言えるでしょう。企業が蓄積する膨大なデータを整理し、必要な時に必要な形で取り出せるようにする技術的基盤となります。

まず基礎となるのは、SQLによるリレーショナルデータベースの操作です。これは図書館の分類システムのように、データを整然と管理し効率的に検索できるようにする技術です。さらに現代では、柔軟なデータ構造に対応するNoSQLデータベースの知識も求められます。

また、HadoopやSparkといった分散処理技術も重要になります。これらは巨大な工場の生産ラインのように、大量のデータを効率的に処理するための仕組みです。

③クラウド環境とインフラ構築スキル

クラウド環境とインフラ構築スキルは、柔軟で拡張性の高いDXシステムを実現するための必須技術です。従来のオンプレミス環境では対応が困難だった急激な需要変動や新サービスの迅速な展開が、クラウド技術により可能になります。

まず習得すべきは、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった主要クラウドプラットフォームの特徴と使い分けです。それぞれ得意分野や料金体系が異なるため、プロジェクトの要件に応じた最適な選択が求められます。また、マルチクラウド戦略やハイブリッドクラウド構成についての理解も必要です。

④セキュリティ対策と運用スキル

セキュリティ対策と運用スキルは、DXプロジェクトにおけるリスク管理と継続的なサービス提供を保証するための技術領域です。情報セキュリティの基本概念から、具体的な脅威対策まで体系的な知識が必要とされます。

具体的には、ネットワークセキュリティやアプリケーションセキュリティの実装技術に加え、暗号化技術や認証・認可システムの設計能力が求められます。また、脆弱性診断やペネトレーションテストといったセキュリティ評価手法の理解も必要です。

運用面では、監視システムの構築やインシデント対応プロセスの整備、セキュリティ監査への対応といった継続的なセキュリティ管理能力が求められます。

DX人材向け情報処理資格一覧

DX人材として必要な情報処理技術を体系的に習得し、客観的に証明するためには、適切な資格の取得が有効です。情報処理技術者試験をはじめとする各種資格は、レベル別・分野別に整備されており、段階的なスキルアップが可能です。

これらの資格は、技術知識の習得だけでなく、DXプロジェクトにおける技術的な信頼性の向上にも寄与します。ここでは、DX人材向け情報処理資格について、それぞれの特徴を紹介していきます。

基礎レベル｜ITパスポート・基本情報技術者試験など

基礎レベルの資格は、DX人材としての情報処理技術の土台を築くために有効です

例えばITパスポートは、ITに関する基礎的な知識を幅広くカバーしており、非技術系の職種からDX分野に参入する方にとって理想的な入門資格といえます。

また、基本情報技術者試験では、プログラミングやデータベース、ネットワークなど、より実践的な技術知識が問われます。システム開発の基本的な流れとIT技術の全体像を体系的に理解することが可能です。情報セキュリティマネジメント試験も基礎レベルに位置づけられます。

これらの資格取得により、DX人材として必要な基礎的な技術リテラシーを確実に身につけ、より高度な技術分野への発展的な学習に繋げられるでしょう。

応用レベル｜応用情報技術者・システムアーキテクトなど

応用レベルの資格を有することで、DX人材として高度な技術判断と実践的な問題解決能力の証明が可能です。

具体的には、応用情報技術者試験では、システム開発から運用まで一連のプロセスを統合的に理解し、技術的なリーダーシップを発揮できる能力が問われます。

また、システムアーキテクト試験は、DXプロジェクトにおけるシステム全体の設計責任者として必要な能力を評価します。業務要件を技術要件に変換し、最適なアーキテクチャを設計する高度なスキルが求められる資格です。

プロジェクトマネージャ試験やITサービスマネージャ試験も応用レベルに該当し、DXプロジェクトの管理・運営能力を証明できます。

専門分野別｜情報処理安全確保支援士など

専門分野別の資格は、DXプロジェクトの特定領域において高度な専門性を発揮するために重要な資格群です。

例えば、情報処理安全確保支援士は、サイバーセキュリティ分野の国家資格として、DXにおけるセキュリティリスクの評価と対策立案を行う専門家であることを証明します。

ITストラテジストは、DX戦略の策定から実行までを技術的な観点から支援する能力を評価する資格です。ビジネス要求と技術的実現性を両立させる戦略立案能力が求められます。

また、システム監査技術者は、DXシステムの品質評価と改善提案を行う専門性を証明する資格として位置づけられます。加えて、各クラウドベンダーが提供するMicrosoft Azure認定なども、実践的な技術力を示す資格です。

情報処理技術習得の段階的アプローチ

DX人材として必要な情報処理技術を効率的に習得するためには、体系的かつ段階的な学習アプローチが欠かせません。基礎理論から実践応用まで順序立てて進めることで、確実な技術力の向上を実現できます。

各ステップでは明確な学習目標を設定し、理論学習と実践演習を組み合わせることが効果的です。段階的な習得により、DXプロジェクトの多様な場面で活用できる実用的な技術力を身につけることができるでしょう。

ステップ1：基礎知識の体系的習得

ファーストステップでは、情報処理技術の土台となる理論と概念を確実に身につけることを目標とします。コンピュータサイエンスの基本原理から、データ構造・アルゴリズム、データベース理論、ネットワーク基礎まで幅広い分野を学習します。

この段階では、ITパスポートや基本情報技術者試験の学習を通じて、技術分野全体の関係性と基本概念を理解することが重要です。プログラミング言語の基礎文法や開発環境の使用方法も並行して習得しましょう。

また、情報セキュリティの基本概念やシステム開発ライフサイクルなど、DXプロジェクトで必要となる基礎的な知識も含めて学習します。この段階での確実な基礎固めにより、後続のステップでより高度な技術を効率的に習得する基盤が構築されます。

ステップ2：実践的技術スキルの習得

次は、基礎知識を実際の開発や運用に応用できる技術力を身につけることを目標とします。具体的なプログラミング言語による開発経験や、データベース操作、クラウド環境での作業など、実務に直結するスキルの習得に重点を置きます。

この段階では、個人プロジェクトや小規模なシステム開発を通じて、要件定義から設計、実装、テストまでの一連の開発プロセスを経験することが効果的です。GitやDockerなどの開発ツールの使用方法も並行して習得しましょう。

また、応用情報技術者試験などの資格取得により、より高度な技術知識の定着を図るのも良いでしょう。オンライン学習プラットフォームやハンズオン形式の研修を活用し、実際にコードを書きながらの学習により、理論と実践の橋渡しを効果的に行うことが可能です。

ステップ3：専門領域の応用学習

専門領域の応用学習では、DXプロジェクトの特定分野において深い専門性を身につけることを目標とします。データサイエンス、クラウドアーキテクチャ、セキュリティ、AI・機械学習など、自身の役割や組織のニーズに応じた専門分野を選択し、集中的に学習を進めましょう。

この段階では、システムアーキテクトや情報処理安全確保支援士といった高度な資格取得を目指し、専門分野での理論的な深化を図ります。また、AWSやAzureなどのクラウド認定資格や、データサイエンス関連の資格取得も効果的です。

また、専門書籍の精読、技術カンファレンスへの参加、専門コミュニティでの情報交換により、最新技術動向と実践的なノウハウを習得することも役立ちます。

ステップ4：実務プロジェクトでの実践

最後に、これまで習得した技術知識とスキルを実際のDXプロジェクトで活用し、実践的な経験を積んでいきましょう。プロジェクトの規模や複雑さに応じて、段階的に責任範囲を拡大していくことが肝心です。

初期段階では、既存プロジェクトのサブシステム開発や機能追加から始め、徐々にシステム全体の設計や技術選定に関わる機会を増やします。チームメンバーとの協働を通じて、技術的なコミュニケーション能力と問題解決能力を向上させましょう。

この段階を通じて、DX人材として組織の変革を技術的に支える実践力を確立し、より大規模で複雑なDXプロジェクトにおいても中核的な役割を担える能力を身につけられます。

企業における情報処理技術習得の事例3選

DX人材の情報処理技術習得において、先進企業では独自の取り組みを展開しています。従来の一般的な研修制度にとどまらず、実践的で効果的な人材育成手法を導入することで、高度な技術力を持つDX人材の輩出を実現しています。

ここでは、実際の企業で行われた3つの教育制度について紹介します。

これらの事例から、企業規模や業界特性に応じた技術習得アプローチの多様性と、継続的な学習環境の重要性を理解できるでしょう。

①株式会社NTTデータ｜従来のセミナーや研修とは異なる独自の人材育成

株式会社NTTデータでは、技術革新統括本部において「技統本塾」という独自の人材育成制度を2017年から運営しています。この取り組みは、従来の画一的なセミナーや研修では習得困難だった深い技術力と実践力の向上を目的として設計されています。

技統本塾の最大の特徴は、あらかじめ決められたカリキュラムを持たない点です。塾生が自ら設定した先進的なテーマを基に、社内を代表するトップエンジニアが塾長として直接指導します。AWS AmbassadorsやMicrosoft MVPに選出された技術者が塾長を務め、少人数制での濃密な学習環境を提供しています。

2023年現在で累計300人以上の卒塾生を輩出し、塾生同士のコミュニティ強化や、卒塾生が次世代の塾長を務める良好なサイクルの構築も進めており、継続的な技術力向上の仕組みとして機能している好例です。

出典参照：NTTデータなら、伸ばしたい技術を極めることができる。｜株式会社NTTデータ

②三和事務機販売株式会社｜情報セキュリティマネジメント試験の積極活用

三和事務機販売株式会社は、福島県中通り地域を中心に複合機・PC設置、ネットワーク構築・運用支援、IT全般の情報セキュリティサポート業務を展開する企業です。同社では、DX人材の情報処理技術習得において情報セキュリティマネジメント試験を戦略的に活用し、顧客の安全・安心に貢献する体制を構築しています。

同社の取り組みの特徴は、全社員による情報セキュリティマネジメント試験の受験推進です。第1回試験から継続的に受験を奨励し、現在約半数の社員が合格を達成しており、情報セキュリティの専門家として顧客からの評価向上を実現しています。

結果として、保守業務においてもより安全なネットワーク環境を構築できるようになり、顧客との深い信頼関係の構築につながっています。

出典参照：情報セキュリティマネジメント試験の積極活用で顧客の安全・安心に貢献｜独立行政法人情報処理推進機構（IPA）

③株式会社日立製作所｜JP1技術者資格認定制度

株式会社日立製作所では、DX人材の情報処理技術習得において「JP1技術者資格認定制度」という独自の認定制度を運営しています。この制度は、日立の統合システム運用管理ソフトウェア「JP1」に関する一定以上のスキルを有する技術者を認定する専門性の高い資格制度です。

同制度の特徴は、以下のようにセールスからシステム構築・運用まで目的別、かつレベル別に細分化された資格体系にあります。

• JP1認定エンジニア
• JP1認定プロフェッショナル
• JP1認定コンサルタント
• JP1認定セールスコーディネーター

この制度により、JP1製品に関する深い専門知識と実践的なスキルの体系的な習得が可能です。

出典参照：JP1技術者資格認定制度（Version 13対応）｜株式会社日立製作所

情報処理スキル習得に向けた支援制度

DX人材の情報処理技術習得を効果的に進めるためには、個人の学習努力に加えて、国や自治体が提供する各種支援制度を活用するのがおすすめです。これらの制度は、技術習得にかかる費用負担の軽減や学習機会の拡充を目的として設計されています。

経済産業省や厚生労働省をはじめとする関係省庁では、デジタル人材の育成を国家戦略として位置づけ、包括的な支援制度を展開しています。これらの制度を適切に活用することで、効率的かつ経済的な技術習得が実現できるでしょう。

経済産業省｜デジタル人材育成プラットフォーム

経済産業省では、独立行政法人情報処理推進機構（IPA）と連携し、「マナビDX」というデジタル人材育成プラットフォームを運営しています。DX人材として必要な情報処理技術を含むデジタルスキルの習得を支援する包括的な学習環境を提供しています。

マナビDXの特徴は、デジタルスキル標準（DSS）への対応を経済産業省・IPAが審査し、合格した信頼性の高い講座のみを厳選して掲載している点です。多数のパートナー企業が提供するデジタルリテラシーから実践レベルまで幅広い講座を利用でき、リスキリングにも最適な初学者向けコンテンツも充実しています。

出典参照：マナビDXはデジタル知識・スキルが身につく”学びの場”｜独立行政法人情報処理推進機構（IPA）

厚生労働省｜人材開発支援助成金

厚生労働省では、DX人材の情報処理技術習得を支援するため「人材開発支援助成金」制度を運営しています。この制度は、事業主が雇用する労働者に対して職務関連の専門知識・技能習得のための職業訓練などを計画的に実施した場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。

同助成金は6つのコースで構成されており、DX人材育成に特に有効なのが「人への投資促進コース」です。このコースでは、デジタル人材・高度人材育成訓練、労働者の自発的訓練、定額制訓練（サブスクリプション型）等に対して助成を行います。

出典参照：人材開発支援助成金｜厚生労働省

まとめ｜情報処理技術を身につけたDX人材と共に推進を効果的に進めよう

DX人材にとって情報処理技術は、単なる技術スキルではなく、デジタル変革を実現するための基盤となる重要な能力です。主要分野を体系的に習得することで、DXプロジェクトの企画から運用まで一貫して技術的な判断と実践が可能になります。

また、情報処理技術者試験をはじめとする各種資格の取得は、技術力の客観的な証明と継続的なスキル向上の指標として機能します。基礎レベルから専門分野別まで段階的に取り組むことで、確実な技術力の向上を実現できるでしょう。

情報処理技術を基盤とした実践的なDX人材の育成により、持続可能なデジタル変革を実現していきましょう。