ERPの運用を成功させるコツは?導入から活用までのステップを解説

ERPの運用を効果的に進めるには、まず明確な目的設定が欠かせません。加えて継続的なトレーニングによるスキル向上や業務プロセスの定期的な見直し、データ品質の管理が必要です。本記事では、これらのポイントを踏まえた具体的な活用方法を解説します。

企業の競争環境が激しさを増す中、業務の効率化や情報の一元管理を目指してERPを導入する動きが広がっています。

しかし実際に導入した後に思ったような成果が得られない、と感じるケースも少なくありません。原因の多くはシステムそのものの性能ではなく、日々の運用方法や活用度にあります。

ERPは導入して終わりではなくデータの正確な入力・更新、業務プロセスの見直し、定期的なアップデート、そして利用する人材の育成といった継続的な取り組みが必要です。

本記事では運用段階で特に重要となるポイントを、4つの理由から整理します。これらの理解によって自社のERP活用の課題や改善の方向性を明確にし、より有効な運用体制を構築するためのヒントを得られるでしょう。

ERPの運用が注目されている4つの理由

ERPは企業の基幹業務を統合管理するシステムとして、広く認知されています。しかしその真価を発揮させるのは、運用フェーズです。経営環境が変化し続ける中で、正確で鮮度の高いデータ維持や最適な業務プロセスの常態化が求められます。

またシステムの安全性を保つため、メンテナンスや利用者のスキル維持・向上も不可欠です。こうした背景からERP運用の質が企業の競争力に直結する、という認識が広がっています。ここからは、その注目の背景を4つの観点から詳しく見ていきましょう。

①継続的なデータ入力と更新が必要

ERPは在庫や販売、購買、財務、人事など多岐にわたる情報の一元管理のためのシステムです。その効果を引き出すには、常に最新で正確なデータ登録の必要があります。

例えば入庫や出庫の情報が遅れて登録されると在庫数が実態と合わなくなり、欠品や余剰在庫のリスクが高まるでしょう。財務管理においても取引データが滞ればキャッシュフローの予測精度が低下し、経営判断が遅れかねません。

入力作業は担当者任せにせず業務フローに組み込み、データ登録の日時や担当者の明確化が必要です。定期的な確認や承認プロセスを設けることで、データの信頼性を維持できます。

②業務プロセスの改善と最適化につながる

ERP運用の過程では、従来の業務手順や情報の流れに無駄が見つかることもあるでしょう。例えば受発注管理をERPに統合すれば、営業部門と生産部門が同じデータをリアルタイムで共有でき、出荷までのリードタイム短縮や在庫削減につながります。

また複数部門で行っていた二重入力や重複確認の作業が削減され、業務負荷の軽減も見込めるでしょう。このような最適化は単にシステムを使いこなすこと以上に、企業全体の業務品質を向上させる効果を持ちます。

改善点を見つけるためには定期的な業務プロセスの棚卸しや、現場担当者からのフィードバック収集が欠かせません。

③システムのアップデートとメンテナンスが欠かせない

ERPは長期間使用されることを前提としています。しかしその間にも変化を続ける法制度や市場動向、セキュリティの要件は枚挙にいとまがありません。ベンダーから提供されるアップデートには、法改正の対応や新機能の追加、セキュリティ強化などが含まれます。

これらを反映せずに運用を続けると最新の要件に対応できないばかりか、外部からの不正アクセスやシステム障害のリスクも増大するでしょう。特にクラウド型ERPでは、定期的なメンテナンスやバージョン更新がスムーズに行える体制を整えることが大切です。

更新作業計画は事前に関係部門と共有し、業務への影響を抑える工夫が求められます。加えて、更新内容の事前テストや影響分析を行い、必要に応じてマニュアルや操作手順を改訂することで、ユーザーの混乱を防ぎ安定した運用を維持できるでしょう。

出典参照:SBOM 導入・運用の手引き|独立行政法人情報処理推進機構

④従業員のトレーニングとサポートを継続する必要がある

ERPは多機能なシステムであるため、使いこなすには一定の知識と経験が必要です。導入直後に研修を実施しても時間経過によって操作方法を忘れてしまうケースや、新機能に対応しきれないケースなどが起こり得ます。

また異動や新入社員の配属により利用者が入れ替わるため、常に教育機会の用意が欠かせません。さらに日常的な業務で発生する疑問やトラブルに対応する、ヘルプデスクやマニュアルの整備も大切です。加えて、定期的な操作スキルの評価やeラーニングの活用により、社員ごとの習熟度を把握し必要に応じた追加研修を行うことで、継続的なスキル向上が図れます。

トレーニングとサポートの継続によって利用者のスキルレベルを一定に保ち、ERPの効果を持続的に引き出せます。

ERPの運用を後回しにするデメリット

ERPは企業の基幹業務を支える重要なシステムです。しかし日常業務の多忙さを理由に、運用の見直しや改善を後回しにしてしまう場合もあるでしょう。とはいえこの状況が続くと業務効率の低下やデータ品質の劣化、システム上の不具合放置といったリスクが積み重なります。運用の優先度を下げることでシステムが本来持つ統合管理機能や分析力が十分に発揮されず、意思決定の質やスピードへの影響も懸念されるでしょう。

ここでは運用後回しによる具体的なデメリットを、3つの視点から整理します。

業務の効率が下がる

ERPが担うのは企業のさまざまな部門の業務を一元管理し、情報共有やプロセスの自動化を促進する役割です。しかし運用を後回しにすると最新データがシステムに反映されず、業務間の連携が滞りやすくなります。例えば在庫情報が正確でなければ、誤配送や欠品による顧客クレームにつながることでしょう。

さらに受注情報の更新が遅れれば生産計画も乱れ、無駄な作業や残業が増加します。また担当者が重複入力や手作業で補う場面が多くなると、ミスの発生率も高まるでしょう。こうした状況は結果的に業務全体の効率を低下させ、時間やコストのロスを招きかねません。

そのため、ERP運用においては定期的なデータ更新ルールの策定や自動連携設定を徹底し、常に正確な情報が各部門で利用できる体制を構築することが大切です。

データの不整合や誤入力が生じる

ERPを適切に運用しない場合にはシステムに登録されるデータの鮮度や正確性が保てなくなり、結果としてデータの不整合や誤入力が増加します。販売部門が登録する受注データと倉庫管理部門の在庫データが一致しなければ、注文数と実際の在庫数がかみ合わず欠品や余剰の原因となり得るでしょう。

こうした矛盾が業務の信頼性を低下させるほか、経理部門が扱う売上や支払いデータにミスが混入すると決算処理に時間がかかり、財務報告の正確性にも影響を及ぼします。さらに入力者が慌ただしい状況で数字や日付の入力を誤るケースも増え、これが積み重なると経営判断に用いるデータ自体が不正確となり、適切な意思決定の阻害リスクは増大するでしょう。

したがってデータの管理体制を強化し、入力プロセスの見直しや定期的なデータ監査を行うことが大切です。

システム上の課題が解決されないままになる

ERPの長期利用においては、システムの処理性能の低下や利用者の要望に合わない部分が明確になるケースも少なくありません。こうした課題を放置すると現場の業務効率が落ち、利用者の不満が蓄積します。

例えば処理速度が遅いままでは日々の業務が滞り、ユーザーの作業ストレスは増加する一方です。また法律や業界ルールの変更に対応した機能追加が遅れると、コンプライアンス違反のリスクが高まります。

これらの問題は早期に対応しない限り障害や重大トラブルにつながり、復旧に多大な時間やコストを要する要因となりかねません。定期的なメンテナンスやユーザーからのフィードバックを基に改善策を講じることが、安定したERP運用の継続には不可欠です。

ERPを導入してから活用するまでの4ステップ

ERPは導入しただけでは十分な効果を発揮しません。自社の業務に適合させ、従業員が使いこなせるようになるまでのプロセスを踏むことが大切です。そのためには、計画段階から本番運用までを段階的に進めるアプローチが有効でしょう。

ここではERPを導入してから安定的に活用するまでの流れを、4つのステップに分けて解説します。それぞれの段階で押さえるべきポイントの理解により、スムーズな稼働と運用の定着が見込めるでしょう。

ステップ1:要件定義とシステム選定

ERP活用の土台となるのが、明確な要件定義と適切なシステム選定です。まずは現状の業務内容や課題、将来的な事業計画を詳細に洗い出して必要な機能を具体的にまとめます。

この段階が不十分だと導入後に必要機能の不足や不要機能による運用の複雑化といった事態に陥りかねません。また自社の業務フローに適したERP製品を複数比較し、標準機能の充実度やカスタマイズの自由度、ベンダーのサポート体制も十分に検討しましょう。

関係者全員が要件を共有して合意形成を図ることが、スムーズな推進と安定運用への第一歩となります。こうして慎重に選定したシステムを基に、その後の業務改善や運用体制構築に取り組むことが望ましいでしょう。

ステップ2:業務プロセスの最適化とカスタマイズ

ERPを導入する際、既存の業務フローをそのままシステムに当てはめるだけでは、十分な効果は期待しにくいです。そこでまず業務の全体像を整理し、どのプロセスに無駄や重複があるのかを洗い出す必要があります。

その上でERPの標準機能が対応できる範囲を効率的に活用しつつ、必要な部分だけを自社仕様にカスタマイズしましょう。過剰なカスタマイズはメンテナンスコストを増やすため、なるべく控えることが大切です。

また部門間の業務連携を強化するため、プロセス全体の最適化を進めることで作業効率や情報共有のスピードを上げることにもつながります。この段階での取り組みがERP活用の質を決めるといえるでしょう。

ステップ3:ユーザートレーニングとテスト運用

新しいERPシステムを導入しても、実際に使いこなせなければ効果は半減します。そこで業務ごとに担当者に必要な操作スキルを身につけてもらうための体系的なトレーニング計画が欠かせません。

基本操作だけでなく日常業務での応用方法やトラブルシューティングまで、幅広いカバーが望ましいです。さらにテスト運用を一定期間設け、実務に近い環境で操作やデータ連携の問題の早期発見が可能な体制を整備しましょう。

この段階での修正や改善は本番稼働後のトラブルを減らし、業務の混乱を防ぐ効果が期待されます。またトレーニング参加者からのフィードバックを取り入れ、マニュアルを充実させることも大切です。

ステップ4:本番稼働と運用サポート

ERPの本番稼働開始後はシステムの安定性を確保しつつ、利用者が日常的にスムーズに活用できる環境を維持する必要があります。まずは稼働状況の継続的なモニタリングを行い、システムの動作やパフォーマンスに異常がないかをチェックしましょう。トラブルや疑問が発生した際には、速やかに対応できるサポート体制を整えておくことが必要です。

また事業環境の変化や法令改正に応じたシステムのアップデートや機能追加も計画的に行い、常に最新の状態を保ちましょう。加えて新たに参加する利用者に向けた定期的な教育や既存ユーザーのスキル向上支援も続けることで、ERPの効果維持につながります。

自社の環境に合わせてERPを運用している企業事例

ERPは企業の規模や業種、業務内容によって求められる機能や運用方法が異なるため、企業ごとに自社環境に最適化した形の活用法はさまざまです。

ここでは人事管理やワークフローの改善、サプライチェーンの効率化など実際にERPを活用して課題解決に取り組む3社の事例を紹介します。企業ごとの自社ニーズに応じたシステム選定や運用体制の工夫、業務効率化や品質向上に結びつけている点に注目しましょう。

事例①サントリーホールディングス株式会社|「COMPANY」を使ってHR部門を一元管理

サントリーホールディングス株式会社では人事・労務管理を効率化するため「COMPANY」というERPシステムを採用し、HR部門の一元管理を実現しています。

従来では各事業部で個別に管理されていた人事データの統合により、情報の整合性を保ちつつ業務効率の向上に成功しました。特に社員の勤怠や評価、育成に関する情報のリアルタイム共有によって迅速な意思決定や適切な人材配置が進んでいます。

また従業員の自己申告や申請もオンライン化し、ペーパーレス化による業務負荷の軽減にもつながりました。こうした取り組みは、組織全体の人材マネジメントを高度化する上で効果的な一例といえるでしょう。

出典参照:サントリー、統合人事システム「COMPANY」で全社員型タレントマネジメントを推進|株式会社Works Human Intelligence

事例②株式会社トヨタIT開発センター|申請の電子化によりワークフローを改善

株式会社トヨタIT開発センターは社内の申請業務を電子化し、ワークフローを見直す目的でERPを活用しています。従来の紙ベースの申請フローは承認に時間がかかり、業務の停滞や情報の遅れが課題でした。

ERPシステム導入後は各種申請や承認がオンライン上で完結する仕組みを整え、業務プロセスの透明性とスピードアップを図っています。これによって担当者の業務負担が軽減され、承認の遅れによるトラブルやコミュニケーション不足が減少しました。

さらに過去の申請履歴が一元管理されるため、監査対応や情報分析にも役立っています。こうした改革は、働き方改革にも寄与している点が特徴です。

出典参照:稟議をリアルタイムに把握、予算執行を見える化研究者、技術者の業務負担を軽減|株式会社NTTデータビジネスシステムズ

事例③ナイキジャパン|サプライチェーン全体のスピードを高めるERPを検討

ナイキジャパンではサプライチェーン全体の効率化を目的に、新しいERPシステムの検討を進めています。商品の企画から製造や物流、販売まで複雑なプロセスを持つナイキにとって、情報のリアルタイム共有とプロセスの統合は競争力強化に直結する課題です。

最新のERPを活用し各工程のデータを連携させることで、在庫の適正化や納期短縮を目指しています。またサプライチェーンの可視化によってボトルネックの早期発見やリスク管理が可能になるため、より柔軟な対応が可能となりました。加えて、ERP導入に伴うデータ分析やダッシュボード活用により、経営層がリアルタイムで状況を把握できる体制が整い、意思決定のスピードと精度の向上にも寄与しています。

こうした動きはグローバル規模での業務効率化を見据えた、戦略的なERP運用の一環です。

出典参照:ナイキ、サプライチェーンのスピードと俊敏性の向上を目指してERPを全面的に見直す|Informa TechTarget

ERPの運用を成功させるコツ

ERPの運用を成功に導くには単にシステムを使うだけでなく、組織全体で活用の方針を明確にして継続的に改善していく姿勢が求められます。具体的には目的や目標の設定、社員の教育、業務プロセスの見直し、そしてデータの品質管理といった複数の工程にバランスよく取り組むことが大切です。

これらのポイントを押さえることでERPの効果を安定して引き出し、長期的に経営改善に結びつけられるでしょう。

目的と目標を明確に設定する

ERP運用を成功に導くためには、最初にシステムを使う目的と目標の具体的な設定が必要です。目的が曖昧なままでは注力すべき機能の判断が難しく、運用効率も落ちかねません。

例えば業務効率化やコスト削減、情報の一元管理、迅速な経営判断など何を重視するかによって使い方や重点ポイントが変わってきます。そのためこれらを具体的に言語化し、関係者間での共有が大切です。

目標は数値化や期限設定を行い定期的に進捗を評価しながら軌道修正を図ることで、問題点の早期発見や改善策の検討がしやすくなります。こうした計画的な運用はERPの効果を持続的に高める上で、欠かせない土台となるでしょう。

定期的なトレーニングとサポートを継続する

ERPは多機能で複雑なため、利用者がしっかりと使いこなせなければシステムの効果が十分に発揮されません。そのため定期的なトレーニングを実施し、社員一人ひとりのスキルアップの促進が必要です。

特に新機能の追加や業務フローの変更があった場合は、速やかに周知して操作方法を指導し、利用者の混乱を防ぐ必要があります。加えて、運用中に生じる疑問やトラブルに迅速に対応できるサポート体制も必要です。

こうした継続的な教育と支援によって社員が安心してシステムを活用でき、運用の安定と継続的な改善につながっていきます。教育とサポートは運用成功の両輪といえるでしょう。

業務プロセスの見直しと並行させる

ERP導入を効果的にするためには、システム運用と同時に業務プロセスの見直しを進めることが不可欠です。既存の業務フローをそのまま新しいシステムに乗せるだけでは、効率化の効果が薄れかねません。

作業の重複や無駄な手順を洗い出し、ERPの標準機能を活かしたシンプルなフローへの再設計が必要です。これによって過剰なカスタマイズを避け、システムの保守や運用が楽になるメリットもあります。

また業務改善による作業効率の向上やコミュニケーションの円滑化が期待でき、組織全体の生産性向上も見込めるでしょう。ERP運用成功のためには、この業務プロセスの最適化と連携した運用が大切です。

データの品質管理に重点をおく

ERPが提供する情報の信頼性は、日々入力されるデータの品質に左右されます。誤ったデータや不整合が多いと業務の信頼性が損なわれ、経営判断にも悪影響を与えかねません。

したがって入力ルールの徹底や定期的なデータ監査を行い、誤入力や重複データの発生を抑制する仕組みが必要です。またデータ更新の頻度やアクセス権限の管理も適切に行うことで、情報の一貫性と安全性を維持します。

さらにデータ品質向上を目指し、社員教育や意識向上も継続的に図る必要があるでしょう。こうした取り組みがERP運用を安定させ、信頼性の高い経営情報の提供につながっていきます。

まとめ|ERPの活用方針を見極めて、長期的な経営改善につなげよう

ERPの運用には明確な目的設定や継続的な教育、業務プロセスの改善、そしてデータ品質の管理が欠かせません。これらのポイントのバランスの良い実践により、システムが企業の経営基盤として機能しやすくなります。

運用方針をしっかりと見極めることでERPは単なるITツールではなく、長期的な経営改善の推進力に変わっていくでしょう。日々の業務の中で、今回の内容を意識しながら活用を進めてみてください。