ERPのバックアップ体制の構築|障害・災害・不正リスクに備える最適解

ERPの安定稼働を維持するためには、単なるシステム運用だけでなく、災害や障害、内部不正に備えたバックアップ体制の整備が欠かせません。業務継続性を維持しつつ、企業や組織の信頼性を高める運用方法について詳しく解説します。

企業の基幹業務を支えるERPシステムは、財務・販売・在庫・人事など多岐にわたる重要なデータを扱います。そのため、システム障害や災害、ランサムウェアなどによるデータ消失リスクに備えたバックアップ体制の整備は欠かせません。

万が一データが失われると、業務が停止し取引先や顧客の信頼を損なうだけでなく、法令遵守や会計処理にも影響が出かねません。

本記事では、ERPにおけるバックアップの重要性を踏まえつつ、設計の基本や考慮すべき要素、クラウドとオンプレミスの違い、そして災害や不正リスクに対応する具体的な手法を整理しています。

読者はこの記事を参考に、ERP運用における安全性と業務継続性を高める考え方を把握し、より信頼性の高いバックアップ体制を検討できるようになるでしょう。

ERPにバックアップが不可欠な理由

ERPは、企業の中心的な業務データを統合管理するため、障害や災害によるデータ損失が業務全体に大きな影響を与えます。単にシステムを稼働させるだけでなく、万一の障害時に迅速に復旧できる体制を整えることは、企業の信頼性や法令遵守の観点でも大切です。

バックアップ設計は業務継続計画と連動し、災害時やサイバー攻撃への備えとしても機能するため、ERP運用において不可欠な要素となります。

基幹業務の停止は企業の信頼を失いかねない

ERPの停止は単なるシステム障害に留まらず、受注処理、在庫管理、会計処理、人事給与など、企業の基幹業務全体に深刻な影響を与えます。受注データや納品スケジュールの確認が遅延すると、顧客満足度の低下や販売機会の損失につながり、取引先との信頼関係にも悪影響を与えるでしょう。

会計処理や税務申告が滞る場合、法令違反や罰則リスクが発生し、監査対応も複雑化します。このようなリスクを回避するため、システム障害や災害時に迅速な業務復旧が可能なバックアップ体制の構築が、企業の信頼性維持や事業継続性の確保に直結するでしょう。

クラウド移行が進む中でのデータ所在の不透明化

クラウドERPの導入が進む中で、データの物理的な保管場所やサーバーの管理状況がユーザー側では把握しにくくなるケースが見受けられます。障害や災害発生時に誰がどの手順で復旧を行うのか、責任範囲が不明確になりやすく、運用上のリスクが潜在化しやすいです。

クラウド環境におけるバックアップ体制では、データ保管場所の明確化や契約条件に基づく復旧方針の確認、さらに復旧手順の標準化が求められます。これにより、クラウドERPでも業務継続性を確保しつつ、リスクを低減する運用が実現できるでしょう。

ランサムウェアや内部不正など新たなリスク

近年、ランサムウェア攻撃や内部不正によるデータ破壊や改ざんが増加しており、ERPに保存される財務データ、販売情報、人事情報なども攻撃対象になりやすくなっています。こうした攻撃や不正により重要データが失われると、業務全体の停止や取引先との信頼低下につながり、企業活動に深刻な影響を及ぼします。

バックアップ体制は、単に定期的なコピー保存に留まりません。

データ暗号化、複数拠点での保管、アクセス権限管理、復旧手順の標準化など多角的な対策を組み込み、内部不正や外部攻撃に対しても安全性を確保し、業務継続性を支える仕組みとして機能させる必要があるでしょう。

ERPバックアップ設計の基本と考慮すべき要素

ERPのバックアップ設計では、データの重要性や業務影響度を踏まえ、復旧時間や復旧可能範囲を明確にした計画を立てる必要があります。

単なるコピー保存ではなく、1次・2次・3次の多層構造を検討し、クラウドとオンプレミスの特性を比較した上で、データ保管場所や管理期間の設計が必要です。

これにより障害や災害、内部不正に対して、業務継続性と安全性を両立できるバックアップ体制を構築できます。

1次・2次・3次(D to D to T)構成

ERPバックアップの基本として、1次(オンサイト)、2次(オフサイト)、3次(テープやクラウドなど別拠点)の3層構成、いわゆるD to D to Tが推奨されます。

1次バックアップでは即時復旧用に高速でアクセス可能な環境にデータを保存し、障害発生時の初期対応を支えます。

2次バックアップは災害時のデータ保護を目的に異なる物理拠点に保存され、オンサイトだけでは回避できないリスクを軽減しやすいでしょう。さらに3次バックアップとして長期保管や法規制対応用にテープやクラウドに保管し、長期的なデータ保護と復旧手段を確保します。こうした多層構成により、単一障害に依存しない復旧体制が整います。

クラウドERPとオンプレミスERPの違い

クラウドERPとオンプレミスERPでは、バックアップ戦略に大きな違いがあります。オンプレミスでは自社内でハードウェアやソフトウェアを管理するため、バックアップ計画や保管場所の選定、定期的なテストや復旧手順の確立が社内の責任となるでしょう。

一方クラウドERPでは、ベンダー側で一部バックアップが管理されるものの、契約条件や復旧範囲の確認が不可欠です。

またクラウド特有のリージョン分散やデータ暗号化機能の活用で、障害や災害に対して高い可用性を確保しつつ、法令遵守や内部統制の観点から自社での運用管理も併せて検討する必要があります。

バックアップされたデータの管理と保管期間の設計

バックアップされたERPデータは、単に保存するだけでなく、保管期間やアクセス管理、復旧手順まで含めた運用設計が必要です。保存期間は、法令や業界ガイドラインに沿った最適な期間を設定し、古いデータの自動削除やアーカイブも計画に組み込みます。

またデータの整合性や暗号化、アクセス権限の管理により、不正利用や改ざんリスクを低減できるでしょう。さらに災害時や障害時に迅速に復旧可能な手順を確立できると、業務停止の影響を低くし、企業全体の業務継続性と信頼性を支える体制を整えやすくなります。

加えて、定期的なバックアップテストや復旧訓練を実施することで、手順の有効性を確認でき、万一のトラブル発生時にもスムーズに対応できる準備が整います。

RTO・RPOの明確化

ERPバックアップ設計において、RTO(復旧目標時間)とRPO(復旧目標地点)の明確化は不可欠です。RTOはシステム停止後、業務が再開できるまでの目標時間を示し、業務への影響を最小化する復旧手順を設計する基準になります。

RPOは障害発生時に許容されるデータの損失量を定義し、どの時点までのデータを復旧すべきか判断するための指標です。両者を明確化すると、バックアップの頻度、保存場所、復旧手順の優先度を具体的に設計でき、障害や災害に対するリスク管理と業務継続性の両立に寄与するでしょう。

ERP導入時に整えるデータバックアップ体制の例

ERPを導入する際には、単にシステムを稼働させるだけではなく、データの安全性や業務継続性を確保するバックアップ体制をあらかじめ設計しておくことが大切です。

特に、既存システムからのデータ移行やクラウド利用の拡大に伴い、障害や誤操作、外部攻撃によるデータ損失リスクが増加しました。そのため、導入時点から多層的なバックアップ戦略を構築することで、業務停止や信頼低下の影響を抑えられるでしょう。

段階的なデータ移行と移行前後のバックアップの徹底

ERPを新規導入または刷新する場合、既存システムからのデータ移行は一度に全量を移すのではなく、段階的に移行する方法が推奨されます。移行前には現行データのバックアップを確実に取得し、移行中のトラブルやデータ欠損のリスクに備えられるでしょう。

さらに、移行後にもバックアップを取得しておけば、移行過程で発生した不整合や誤操作によるデータ損失に迅速に対応でき、必要に応じて元の状態に復旧も可能といえます。段階的な移行と前後のバックアップを組み合わせることで、ERP導入に伴うリスクを抑え、業務継続性を確保しながら安全に移行を進められるでしょう。

クラウドストレージとの併用によるバックアップ体制の構築

クラウドERPの利用が進む中では、オンプレミスでのバックアップに加えて、クラウドストレージを併用した多層的なバックアップ体制が推奨されます。クラウドストレージは物理的に分散されたデータセンターにデータを保存するため、災害やシステム障害が発生しても迅速な復旧が見込まれます。

また、バックアップデータを複数の保管場所に分散させることで、単一拠点障害による業務停止リスクを低減しやすいでしょう。クラウドとオンプレミスの両方を活用し、リスク分散と復旧可能性の向上を両立させ、安定的なERP運用を支える基盤を構築しやすいです。

バックアップの自動化と定期検証の実施

ERPバックアップは手動で行う場合、作業漏れやヒューマンエラーのリスクが生じるため、自動化されたバックアッププロセスの構築が望まれます。自動化により、定期的に全データや重要データを確実に保存でき、業務負荷を軽減しながらリスクを低減できます。また、取得したバックアップデータに対して定期的な復旧テストや整合性チェックの実施も必要といえるでしょう。

これにより、障害発生時に想定どおりにデータを復旧できるかを確認でき、データ破損や欠損を未然に検知して対策を講じられます。自動化と検証を組み合わせることで、信頼性の高いバックアップ体制を維持し、業務継続性を確保するための現実的な運用フローの整備ができるでしょう。

ERPのバックアップ強化に取り組んだ企業

ERPの安定稼働を確保するには、単なるシステム運用だけでなく、障害や災害、サイバー攻撃に備えたバックアップ体制の整備が欠かせません。国内外の企業では、クラウドやDR構成を活用した多層的なバックアップ戦略を採用し、業務継続性の確保とリスク低減を両立させています。

ここでは、実際にERPのバックアップ強化に取り組み、システム可用性やデータ保護を実現した企業の事例を紹介します。

事例①日本発条株式会社|SAP ERPをAzureへ移行しDR構成で可用性確保

日本発条株式会社は、SAP ERPをMicrosoft Azure上に移行し、DR(ディザスタリカバリ)構成を構築することでシステムの可用性を強化しました。オンプレミス中心だった従来環境からクラウドへの移行により、災害発生時でも別リージョンへの迅速な切り替えが可能となり、基幹業務の停止リスクを低減しています。

また、日常運用の負荷を軽減しつつ、定期的なバックアップ検証やデータ保全のルールを明確化することで、内部統制やコンプライアンスへの対応も強化されています。これにより、企業の事業継続性と信頼性を維持しながら、柔軟な運用体制を実現しています。

出典参照:SAP ERPのフルモジュールをMicrosoft Azureへスムーズに移行 TCOの30%削減、DR構成により事業継続を実現|富士通株式会社

事例②日機装株式会社|SAP ERPのAWSへ移行

日機装株式会社では、SAP ERPをAWSクラウド上に移行し、システム可用性とバックアップ体制を強化しました。クラウド環境への移行により、物理的な災害やハードウェア障害への影響を抑えつつ、冗長化されたストレージを利用してデータ保護を徹底しています。

また、バックアップの自動化や定期的な復旧テストを実施することで、障害発生時の復旧時間を抑え、業務継続性を確保しています。さらに、クラウドベンダーとの契約条件を明確化することで、災害時の責任範囲や復旧手順も整理され、信頼性の高い運用が実現されています。

出典参照:オンプレミス環境のSAP ERPをAWS環境に移行しインフラ活用の柔軟性を大きく向上|株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ

事例③学校法人早稲田大学|SAP ERPをAzureに移行し複数リージョンをバックアップ

学校法人早稲田大学は、教育・研究活動を支えるSAP ERPをMicrosoft Azure上に移行し、複数リージョンでバックアップを構築しています。災害や障害発生時に、別リージョンへの迅速な切り替えが可能となるため、学内の会計処理や学生情報管理、財務管理など基幹業務の継続性が確保されています。

また、バックアップデータの暗号化やアクセス制御を組み合わせ、情報漏えいリスクの低減も図られています。定期的な復旧テストや運用ルールの整備を通じて、教育機関としての信頼性を維持しながら、安全かつ効率的なERP運用を進めています。

出典参照:早稲田大学が SAP on Azure を実現! 移行によって得られた 3 つの効果と今後の展望とは|日本マイクロソフト株式会社

事例④株式会社ニチレイ|SAP S/4HANA刷新で柔軟性と災害対策を強化

株式会社ニチレイは、SAP S/4HANAへの刷新に合わせてERPのバックアップ体制を見直し、災害対策と業務運用の柔軟性を強化しました。クラウドとオンプレミスを組み合わせた二重化構成により、障害や災害時でも迅速に業務を復旧できる体制を整備しています。

さらに、定期的なバックアップ自動化と復旧テストを実施し、万一のデータ損失に備えています。この取り組みにより、物流や販売管理、会計業務などの基幹業務を安定稼働させつつ、企業全体のリスク管理と事業継続性を高める環境が整備されています。

出典参照:SAP S/4HANAのリビルドでアドオンを半分以下に削減 経営の進化に追随できるシステム環境を実現|株式会社日立製作所

まとめ|ERPのバックアップ体制を構築して、信頼性と事業継続性を確保しよう

ERPの安定運用には、障害や災害、内部不正や外部攻撃に備えた多層的なバックアップ体制が不可欠です。段階的なデータ移行、クラウドとの併用、バックアップ自動化、復旧テスト、RTO・RPOの明確化などを組み合わせることで、業務停止リスクを軽減できるでしょう。

国内外の企業や教育機関の事例からも、クラウド活用やDR構成を通じて可用性とデータ保護を強化する効果が確認されています。ERP運用の信頼性を高めながら事業継続性を確保する手法として有効といえるでしょう。

これらのポイントを押さえて自社のERP運用に応用し、予期せぬ障害時にも迅速に復旧対応できる体制を整えられます。