調達DX化にERPが効果的な理由とは？進め方や企業事例を解説！

企業の競争力強化において、調達業務のデジタル化はもはや欠かせない要素と言っても過言ではありません。従来の手作業中心の調達プロセスでは、コスト管理の複雑化やサプライチェーンの可視化不足といった課題が生じやすく、迅速な意思決定や効率的な業務運営の妨げとなることがあります。こうした状況を改善するため、多くの企業がERP（Enterprise Resource Planning）システムを活用した調達DXに注目しています。

ERPによる調達業務の統合管理は、プロセスの標準化やデータの一元化を促進し、サプライヤーとの連携強化やコンプライアンス遵守にもつながる重要な施策です。

本記事では調達DXにおけるERPの役割と具体的な導入効果、成功事例を通じて効果的な進め方について詳しく解説します。

調達業務のDX化とは？

調達業務のDX化とは、企業の購買・調達プロセスにデジタル技術を導入し、業務の効率化や最適化を図る取り組みを指します。従来の紙ベースや属人的な調達管理から脱却し、データ活用やシステム連携により透明性の高い調達体制を構築することが目的です。

具体的には発注から納品、支払いまでの一連のプロセスをデジタル化し、サプライヤーとの情報共有をリアルタイムで行えるようにします。これによって調達コストの削減や納期短縮、品質向上といった効果が期待されるでしょう。

また調達DXはサプライチェーン全体の可視化を促進し、リスク管理や戦略的な調達計画の策定を支援します。さらにデータ分析により調達パフォーマンスの測定や改善点の特定が容易になるため、継続的な業務改善にもつながるでしょう。

ERPとは？

ERP（Enterprise Resource Planning）とは企業の経営資源を統合的に管理し、業務プロセスの効率化を図るシステムです。財務、人事、製造、販売、調達など企業の基幹業務を一元化し、部門間の情報共有をリアルタイムで実現します。

ERPの特徴は各部署で分散していた業務データを統合データベースに集約し、一貫性のある情報管理を可能にする点です。これによって業務の重複や情報の齟齬を防ぎ、意思決定の迅速化や業務プロセスの標準化が促進されます。

調達業務においてERPは発注管理から在庫管理、支払い処理まで幅広い機能を提供し、サプライヤーとの取引情報を一元管理できます。

​​ERPが調達業務のDX化にもたらす効果

ERPシステムの導入により、調達業務は従来の分散管理から統合管理へと変革され、データの一元化とプロセスの標準化が実現します。これによって調達担当者はリアルタイムで正確な情報を把握でき、迅速かつ的確な判断が可能となるでしょう。

また部門間の連携も強化され、全社的な視点での調達戦略の策定や実行が促進されます。さらに自動化機能により手作業の削減と精度向上が期待され、調達業務全体の生産性向上に寄与します。

ここでは、ERPが調達業務のDX化にもたらす効果を具体的に見ていきましょう。

調達プロセス全体の可視化・標準化

ERPによる調達プロセスの可視化により、発注から納品、検収、支払いまでの全工程をリアルタイムで把握できる環境が実現できます。従来は各段階で異なるシステムや手法が用いられていた場合でも、ERPの統合機能により一貫したプロセス管理が可能になるでしょう。

標準化の効果として、部署や担当者による業務のばらつきが解消され、品質の均一化や効率向上が期待されます。また標準化されたワークフローにより、新規担当者の教育コストの削減や業務の属人化防止にもつながります。

さらにプロセスの可視化により、ボトルネックや改善点の特定が容易になり、継続的な業務改善が促進される点もメリットの一つです。

サプライヤー管理・連携の高度化

​​ERPシステムはサプライヤー情報の一元管理により、取引先の評価や選定プロセスの高度化を支援します。納期遵守率や品質実績、価格競争力などの指標を統合的に管理し、データに基づく客観的なサプライヤー評価が可能となるでしょう。

電子調達機能を活用することで、サプライヤーとの情報共有がリアルタイムで行われ、発注から納品までのコミュニケーションが円滑になります。また、情報の一元化により、事務作業の効率化とミスの削減が期待できるでしょう。

さらにサプライチェーン全体の透明性が向上し、リスク管理の強化にもつながります。供給リスクの早期発見や代替サプライヤーの確保、災害時の事業継続計画の策定など、戦略的なサプライヤー管理が実現できるでしょう。

業務効率化・自動化による生産性の向上

ERPの自動化機能により、従来手作業で行われていた定型的な調達業務の効率化が図られます。発注書の自動生成や承認ワークフローの電子化、請求書処理の自動化などにより、作業時間の短縮と人的ミスの削減が実現するでしょう。

また予算管理や在庫連動による自動発注機能を活用することで、適切なタイミングでの調達が可能となり、過剰在庫や欠品リスクの抑制にもつながります。これらの機能により調達担当者はより戦略的な業務に集中でき、企業価値の向上に寄与する活動に時間を割けるようになるでしょう。

さらにデータ分析機能を活用した調達パフォーマンスの測定や改善提案の自動生成により、継続的な業務改善が促進されます。AIや機械学習技術との連携により、需要予測の精度向上や最適な調達戦略の提案も期待でき、調達業務の高度化が実現するでしょう。

コンプライアンス・内部統制の強化

ERPシステムの導入により、調達業務におけるコンプライアンス遵守と内部統制の強化が実現します。システム上で承認プロセスを明確に定義し、権限設定を適切に行うことで、不正な取引や規程違反を防止できるでしょう。また取引履歴や承認記録が自動的に保存されるため、監査対応や内部チェック機能の向上にもつながります。

契約管理機能により、取引条件や支払い条件の統一化が図られ、法的リスクの軽減も期待されます。さらに予算統制機能を活用することで、承認権限を超えた発注を防ぎ、適切な予算執行が担保されるでしょう。

加えてサプライヤーの資格確認や法令遵守状況の管理も一元化され、リスクの高い取引先との契約を事前に防ぐ仕組みを構築できます。

調達データの統合・分析による意思決定精度の向上

ERPによる調達データの統合管理は、散在していた情報を1箇所に集約し、包括的な分析を可能にします。購買実績や価格推移、サプライヤー評価などのデータがリアルタイムで更新されるため、正確で最新の情報に基づく意思決定が実現するでしょう。

データ分析機能を活用することで、調達コストの削減機会やサプライヤーの最適化ポイントを特定できます。また市場動向や需要予測との連携により、戦略的な調達計画の策定が可能となり、競争優位性の確保にもつながるでしょう。

さらにダッシュボード機能により、調達パフォーマンスの可視化と定量的な評価が容易になります。KPIの設定と継続的なモニタリングにより、目標達成度の把握や改善施策の効果測定が可能となります。

ERP活用による調達DX成功事例3選

多くの企業がERP導入により調達業務のDX化を成功させ、業務効率の向上やコスト削減を実現しています。ここでは、実際の事例を3つ見ていきましょう。これらの事例では統合データベースによる情報の一元管理や自動化による生産性向上、グローバル展開におけるデータ連携の強化などが共通の成果として挙げられます。

各企業の取り組みから、ERP活用の具体的な効果や導入時のポイントを学ぶことで、自社の調達DX推進に役立つ知見が得られるでしょう。

事例①小林化工株式会社｜運用負荷の軽減とインフラコストの最適化を図る

福井県を拠点とする医薬品メーカーの小林化工株式会社は、ジェネリック医薬品事業の急成長に対応するため、SAP ERPの導入による調達業務のDX化を推進しました。

同社はグローバル製薬業界での実績が豊富なSAP ERPを採用し、海外の製薬会社や原材料メーカーとの円滑な取引を目指しました。インフラ基盤にはCUVICmc2クラウドサービスを選定し、製薬業務に必要なCSV対応をインフラレベルで実装することで、運用負荷の軽減とコスト最適化を実現しています。

導入により受注出荷業務の作業負荷が軽減され、1～2人月の工数削減を達成しました。またMESとのデータ連携自動化により多重入力が解消され、業務の無駄が排除されています。さらに部門間連携の強化とコミュニケーション活発化により、継続的な業務改善への自発性も醸成されました。

出典参照：SAP ERPのインフラ基盤にCUVICmc2を採用　医薬品の品質維持と安定供給に向けて業務効率性を強化｜JAPAN SAP USERS’ GROUP

事例②ヤマシンフィルタ株式会社｜世界6拠点のデータを一元管理し、収益管理を強化

建設機械用油圧フィルタで世界シェア70％を誇るヤマシンフィルタ株式会社は、グローバル展開に伴う経営管理の複雑化を解決するため、SAP ERPを導入しています。同社は日本を含む6拠点で事業を展開しており、各拠点の基幹システムが統一されていないことで、正確な収益管理や経営分析に課題を抱えていました。

SAP ERP導入により、世界各地の拠点データを一元管理できる体制を構築し、リアルタイムでの経営状況把握が可能となりました。これまで分散していた財務データや生産情報、販売実績が統合され、グローバルレベルでの収益分析や意思決定の迅速化が実現しています。

導入効果として、収益の見える化が進み、年3～4億円の原価低減効果を想定しています。また各拠点の業務プロセスが標準化され、情報共有の効率化とともに、グローバル経営基盤の強化が図られました。

出典参照：ヤマシンフィルタでは、世界6拠点のデータを一元管理し、収益管理を強化するためSAP ERPを導入しました。｜JFEシステムズ株式会社

事例③株式会社シード｜システム統合による受発注処理の自動化を実現

コンタクトレンズ業界のパイオニアである株式会社シードは、国内一貫生産体制と海外6カ国の現地法人展開に対応するため、SAP ERPを段階的に導入しました。2007年に会計と人事領域を導入後、2017年には販売管理と購買・在庫管理をSAP ERPモジュール（SD/MM）に移行し、業務システム全体の統合を実現しています。

同社の特徴的な取り組みは、コンタクトレンズ特有の度数やサイズといった細かな付加情報の管理にSAPの標準機能を活用した点です。アドオン開発を極力避け、素材業界向け機能「SAP IS-Mill」を採用することで、多言語・多通貨対応と製品特性に適したデータベース構造を構築しました。

システム統合により日々の受発注処理が自動化され、付随業務の省力化と業務効率の向上を実現しています。

出典参照：稼働ははじめの一歩 月1回のワークショップを通じた継続的改善によりSAP ERPの徹底活用を加速｜株式会社ソフテス

​​調達業務のDX化に向けたERP導入の進め方

調達業務は外部サプライヤーとの複雑な取引関係、法的要件やコンプライアンス対応、品質管理基準など多面的な要素が絡み合う高度に専門化された領域です。また、企業の事業継続性に直結する重要な機能であるため、ERP導入時にはリスク管理が欠かせません。各ステップでは関係者との連携を密にし、業務要件とシステム機能の整合性を確保することが求められます。

ここでは調達DXを確実に成功させるためのERP導入における具体的なステップについて詳しく解説します。

ステップ①：現状分析と課題の明確化

​​ERP導入の第一歩は、既存の調達業務プロセスを詳細に分析し、課題を明確化することです。各部門の業務フローや使用システム、データの流れを可視化し、非効率な作業や重複業務、情報の分断状況を特定します。また、調達コストの内訳や承認プロセスの問題点なども洗い出しましょう。

現状分析では定量的なデータ収集と定性的なヒアリングを組み合わせ、客観的な事実と現場の実感の両面から課題を把握します。調達担当者だけでなく、経理や倉庫、品質管理など関連部門からも意見を収集し、全社的な視点で問題点を整理することが求められるでしょう。

これらの分析結果をもとに、改善すべき優先順位を明確にし、DX化の方向性を決定する基盤を構築します。

ステップ②：DX戦略策定と目標設定

現状分析の結果を踏まえ、調達DXの戦略と具体的な目標を策定します。経営戦略との整合性を確保しつつ、調達業務が目指すべき将来像を明確に定義することが重要です。コスト削減や業務効率化、サプライチェーン最適化など、定量的な目標値を設定し、達成時期も明確にしましょう。

戦略策定では短期・中期・長期の視点で段階的な改善計画を立案し、各フェーズでの成果指標を設定します。また投資対効果の試算や予算計画も同時に検討し、経営層の承認を得やすい提案書を作成することが求められるでしょう。

さらにDX推進体制の構築も忘れてはならない要素です。プロジェクトリーダーの選任や専門チームの編成などにより、組織全体でDXを推進する基盤を確立しましょう。

​​ステップ③：ERP製品選定と要件定義

DX戦略に基づき、自社の調達業務に最適なERP製品を選定します。機能要件と非機能要件を詳細に定義し、複数のベンダーから提案を受けて比較検討を行います。調達プロセスの標準化、サプライヤー管理、承認ワークフロー、データ分析機能など、必要な機能を具体的にリストアップし、優先順位を明確にしましょう。

製品選定では機能面だけでなく、導入実績や業界対応、カスタマイズの柔軟性、将来的な拡張性も評価項目に含めます。また導入コストや運用コスト、ベンダーのサポート体制、セキュリティ対応なども総合的に判断し、自社に最適なソリューションを決定します。

この段階で要件の漏れや曖昧さを解消することが、プロジェクト成功の鍵となるでしょう。

ステップ④：システム設計・開発・テスト

要件定義に基づき、ERPシステムの詳細設計と開発を進めます。調達業務の特性に合わせたマスタデータ設計、画面レイアウト、帳票設計を行い、業務フローに沿った操作性を確保します。既存システムとのデータ連携方式や移行計画も具体化し、業務への影響を最小限に抑える設計を心がけましょう。

開発段階では段階的なテストを実施し、システムの品質を確保します。単体テスト、結合テスト、システムテストを経て、業務部門による受入テストを行い、実際の業務での動作を検証します。特に調達業務では承認フローやデータの整合性が重要なため、様々なシナリオでのテストを徹底的に実施しましょう。

テスト結果をもとにシステムを改善し、業務要件との適合性を最終確認します。

ステップ⑤：ユーザー教育・研修

システム導入の成功には、利用者への適切な教育と研修も不可欠です。調達業務の担当者だけでなく、関連部門の利用者も含めた包括的な教育計画を策定しましょう。基本操作から応用機能まで、段階的なカリキュラムを設計し、実際の業務シーンを想定した実践的な研修を実施する必要があります。

研修方法は集合研修、eラーニング、OJTを組み合わせ、受講者のスキルレベルや業務内容に応じてカスタマイズするのが良いでしょう。また研修資料やマニュアルは業務に即した内容とし、導入後も参照しやすい形で整備します。システムの操作方法だけでなく、新しい業務プロセスや品質管理の重要性についても教育し、DX化の意義を理解してもらうようにしましょう。

ステップ⑥：段階的な導入と本格運用を開始

ERPシステムの本格導入は、リスクを最小限に抑えるため段階的なアプローチを採用します。パイロット部門での試験運用から開始し、システムの安定性と業務適合性を確認した後、順次展開範囲を拡大します。

導入初期は既存システムとの並行運用期間を設け、データの整合性確認と業務への影響を最小限に抑える工夫をしましょう。また24時間体制のサポート体制を整備し、トラブル発生時の迅速な対応を可能にします。そして、利用者からのフィードバックを積極的に収集し、システムの改善や運用ルールの見直しを継続的に実施します。

また、新機能の活用や業務プロセスの最適化を継続的に推進し、ERP投資効果の最大化を図りましょう。

まとめ｜ERPを活用し調達DXを効率的に進めよう！

調達業務のDX化においてERPシステムは、プロセスの可視化・標準化からサプライヤー管理の高度化、業務効率化まで幅広い効果をもたらします。統合データベースによるリアルタイム情報共有とコンプライアンス強化により、企業の競争力向上に寄与する基盤が構築されるでしょう。

成功事例からもわかるように、適切な導入プロセスを経ることで工数削減や原価低減効果が期待できます。

記事で紹介した導入ステップと企業事例を参考に、自社の調達業務に最適なERP活用方法を検討し、DX推進による業務変革を実現してください。適切な準備と段階的なアプローチにより、調達業務の効率化と競争力強化が達成できるでしょう。