金融DXでサイロ化の課題を解消できる?5つの対策法を紹介

「部門間で情報が共有されない」
「顧客対応に一貫性がない」
金融機関にお勤めの方なら、こうした“サイロ化”の課題に一度は直面したことがあるのではないでしょうか。

組織が成長するにつれて部門ごとに業務が独立し、全体最適よりも部分最適が優先される状況が生まれやすくなります。しかし、こうした状態を放置すると業務の非効率化や顧客満足度の低下といったリスクが生じかねません。

この記事では、金融DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入によってこうしたサイロ化の問題をどのように解決できるかを解説します。情報共有・システムの統一・データ管理の標準化など、5つの主要な対策を取り上げながらDXの可能性を現実的に捉えていきます。

金融DXとは

金融DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、金融機関がデジタル技術を活用し、業務プロセスやビジネスモデル、さらには顧客体験そのものを革新していく取り組みを指します。単なるIT化とは異なり、組織の在り方や意思決定プロセスから働き方までも見直す包括的な変革である点が特徴です。

近年、金融業界では急速な社会環境の変化やテクノロジーの進化に伴い、柔軟かつスピーディな対応が求められるようになっています。こうしたなかで、DXは業務の効率化にとどまらず、顧客満足度の向上や新たな価値創出のカギとして注目されています。

しかし、DXを進めるうえで障壁となるのが、組織内に根強く残る「サイロ化」の問題です。部門間の連携不足や情報共有の不備がDXの推進を妨げる大きな要因となっているのです。

金融機関におけるサイロ化の課題

DXを成功させるためには、部門間の壁を越えて情報や意識を統一することが欠かせません。しかし、金融機関では従来の縦割り組織が根強く残っており、いくつかの深刻な課題が表面化しています。

ここでは、サイロ化によって生じる6つの課題について解説します。

部門間で情報共有ができていない

金融機関では、営業・マーケティング・リスク管理・IT部門などそれぞれの業務が高い専門性を求められるため、独立して機能しているケースが多く見られます。そのため、各部門が保有している情報が共有されにくく、顧客対応や意思決定にズレが生じるリスクが高まっているのです。

例えば、顧客の与信情報を営業部門が把握できていない状況では、最適な提案ができないばかりか信用リスクを正確に見積もることも困難になります。こうした情報の断絶は、組織全体の判断スピードや精度に影響を与えているのです。

システムやツールが統一されていない

サイロ化が進む背景には、部門ごとに異なる業務システムやツールを採用しているという構造的な問題もあります。例えば顧客管理システムを部門ごとに独自運用している場合、同一顧客に関する情報が複数のデータベースに散在してしまい、正確な分析が難しくなるでしょう。

このようなシステムの分断は、DXに不可欠なデータの一元管理やリアルタイム分析の実現を阻害する要因になります。結果として、業務プロセスの効率化や迅速な意思決定といったDXの恩恵を十分に享受できなくなってしまうのです。

部門ごとにデータ管理方法が異なる

システムだけでなく、データ管理のルールやフォーマットが部門ごとに異なる場合もサイロ化を助長します。例えば、同じ顧客情報であっても、営業部門では紙ベースで管理し、マーケティング部門ではクラウド上に保存しているといった状況が起こり得ます。

このような非統一的な運用はデータの正確性や信頼性を損なうリスクがあり、組織全体としてのデータドリブンな意思決定を阻む要因となります。加えて、データ統合のたびに手作業が発生することから、業務負荷の増加やヒューマンエラーの誘発にもつながるでしょう。

データの活用が限定的になっている

部門間の壁やシステムの分断により、せっかく蓄積されたデータが十分に活用されていないケースも少なくありません。実際、多くの金融機関がデータを「蓄積」しているものの、それを「分析」し「活用」する体制が整っていないという課題を抱えています。

そこで、顧客の取引履歴や行動データを活用すれば、ニーズに即したサービス提案ができるでしょう。情報の連携が取れていなければ、せっかくのデータが単なる記録情報として埋もれてしまいます。データを資産として生かすためには組織全体で活用する仕組みが不可欠なのです。

顧客対応の一貫性が欠けている

サイロ化の影響は顧客体験にも大きな影響を及ぼします。部門ごとに異なる対応方針や情報が存在することで、顧客からの問い合わせに対する回答や提案内容にバラつきが生じる恐れがあるのです。

例えば、カスタマーサポート部門では把握していない最新の商品情報を営業部門がすでに提案しているようなケースでは、問い合わせに対して正確な対応ができず、顧客が混乱する可能性があります。このように、顧客接点で一貫性が保たれていないと信頼関係の構築が難しくなり、顧客満足度の低下にもつながりかねないのです。

組織内のコミュニケーションが円滑ではない

サイロ化が進行すると、部門間の情報共有だけでなく人と人とのコミュニケーションも希薄になりやすくなります。これは、DXの推進においても大きな障害となります。なぜなら、DX推進のためには、部門をまたいだ連携と柔軟なアイデアの交換が不可欠だからです。

例えば、デジタル化の施策を進める際に現場の実情を正確に把握できていなければ、施策が的外れになるリスクがあります。部門間の連携が取れていれば、課題やニーズを正しく共有したうえでより実効性のある改善策を導き出すことができるでしょう。コミュニケーションの活性化は、DXを根付かせるための土台ともいえるのです。

金融機関におけるサイロ化が引き起こす5つの主なミス

金融業界においてDXを推進するうえで、「サイロ化」は深刻な障害となります。単に業務の非効率を生むだけでなく、重大な意思決定ミスや顧客対応の不備、法令違反にまで発展するリスクもあるのです。

ここでは、金融機関においてサイロ化が引き起こしやすい5つの主なミスについて具体的に解説します。

①情報の共有不足で意思決定が遅れてしまう

金融機関では、信用調査や投資判断、リスクマネジメントなど迅速かつ正確な意思決定が求められます。しかし、部門ごとに情報が分断されていると全体像を把握するのに時間がかかり、結果として意思決定が著しく遅れることになります。

例えば、マーケティング部門が得た市場動向のデータが経営層に迅速に届かなければ、適切なタイミングで新サービスを展開することができません。また、リスク管理部門の警告が営業現場に届かなければ、不適切な与信判断が行われる可能性もあります。

情報が適切に共有されなければ意思決定のスピードと精度が低下し、競合に後れを取る要因となってしまうのです。DXが進む現代においてはデータ分析に基づいた経営判断がより一層重要視されているため、その基盤となる情報共有の仕組みを整える必要があります。

②部門間での連携不足が業務の重複を招いてしまう

サイロ化によって各部門が独立して業務を進めると、同じ業務が複数の部署で重複して行われる「冗長なプロセス」が発生しやすくなります。これにより、リソースの無駄遣いや人件費の増加を招くばかりか社内全体の業務効率が著しく低下してしまいます。

例えば、営業部門と顧客管理部門がそれぞれ独自に顧客情報を収集・管理していると、同じ顧客に対して重複したアンケート調査やフォローアップが行われ、顧客側にとっても煩雑で不快な体験となってしまうでしょう。また、類似したレポートや分析資料が部門ごとに作成されている場合も、業務時間のロスとなりかねません。

こうした業務の非効率は、競争が激化する金融市場においては致命的です。部門間の連携を強化し、情報と業務を統合的に管理することで、限られたリソースを最大限に活用する体制を整える必要があります。

③顧客データが一元管理されておらず、サービス提供に支障が出る

現在の金融サービスは、パーソナライズ化やオムニチャネル戦略が主流となりつつあり、顧客データの統合的な活用が成功のカギを握ります。しかし、サイロ化によって顧客情報が各部門に分散していると、必要な情報に即座にアクセスできずサービスの品質に影響を与える可能性があります。

例えば、ある顧客が過去に複数の金融商品を契約していたとしても、情報が別々の部門に散らばっていれば、総合的な資産状況や取引履歴を把握できません。その結果、本来であれば提供できるはずの最適な商品やプランを提案できず、顧客満足度の低下を招いてしまうのです。

また、問い合わせ対応の場面でも、部門間で情報が共有されていない場合、顧客からの質問に対して毎回最初から説明を求められるようなケースが発生し、顧客との信頼関係にも影響が出る可能性があります。一貫した対応を実現するためにはデータの統合と共有体制の確立が不可欠です。

④規制遵守に関する情報が統一されておらず、法令違反が起きやすい

金融業界は、マネーロンダリング防止(AML)や顧客確認(KYC)、内部統制など厳格な法令遵守(コンプライアンス)が求められる業種です。サイロ化された組織ではこうした規制情報の伝達や運用ルールが部門ごとに異なるケースが多く、結果として法令違反のリスクが高まります。

例えば、リスク管理部門が定めた最新のガイドラインが営業部門に正しく共有されていなければ、不適切な商品販売や誤った顧客対応が行われる可能性があります。また、監査対応時に必要なデータが各所に分散している場合、迅速かつ正確な提出が困難となり、監査結果に悪影響を与えることにもつながりかねません。

法規制への対応ミスは単なる内部エラーにとどまらず、金融庁からの行政指導や業務停止命令など経営に甚大な影響を与えるリスクを含んでいます。したがって、コンプライアンスに関する情報を部門横断的に共有し、統一された運用体制を整備することが必要なのです。

⑤無駄な業務プロセスが増え、作業効率が低下してしまう

サイロ化された組織では業務フロー全体が見えにくくなり、結果として重複や非効率な業務プロセスが温存されやすくなります。業務が属人的に管理される傾向も強く、標準化が進まないために業務改善の機会も失われがちです。

例えば、ある業務プロセスに複数の部門が関与しているにもかかわらず、連携が不十分なために確認作業や手戻りが頻発し、結果的に1つの処理に必要以上の時間がかかることもあります。無駄なプロセスは社員のストレスや残業の増加にも直結し、組織全体の生産性を損ないかねません。

また、DXの観点から見ても、業務プロセスが可視化・最適化されていなければ自動化ツールやAIの導入効果も限定的になります。効率的なDXを実現するには、まずは部門間の壁を取り払い、全体最適を意識した業務プロセスの再設計が必要です。

金融DXの推進がサイロ化を解消する5つの理由

サイロ化を根本から見直す取り組みとして注目されているのが、金融DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。では、なぜ金融DXがサイロ化の解消につながるのでしょうか。

ここではその主な5つの理由を解説していきます。

1. 部門間のデータ共有が容易になる

金融DXの基盤となるのが、データのデジタル化とクラウド環境への移行です。クラウド環境の活用により、部署ごとに保有していた情報が全社的に共有しやすくなるのです。また、従来、支店や部署単位で個別に管理されていた顧客情報や取引履歴は、安全なクラウド上で統合され、アクセス権限に応じて必要な情報を迅速に取得できるようになります。

例えば、営業部門が顧客とのやり取りの履歴をリアルタイムでシステムに入力すると、カスタマーサポート部門や融資審査部門もその情報を参照できるようになり業務のスピードと正確性が向上するでしょう。

2. 統合プラットフォームで一元管理ができる

DXの導入によって、金融機関の業務に必要な機能を備えた統合プラットフォームの活用も可能になります。このようなプラットフォームでは、顧客管理(CRM)・営業支援・リスク管理・財務分析などの機能が一体となっており、システムごとにアクセスする必要がなくなるのです。

情報が一元管理されると、各部門が個別にデータを保持する必要がなくなり、情報の整合性が保ちやすくなります。また、情報が1つの画面に統合されることで、現場での確認作業の手間が減り、業務効率も改善されるでしょう。

3. リアルタイムでのデータ分析が可能になる

デジタルツールの活用によって、蓄積された膨大なデータをリアルタイムで分析できるようになります。例えばAIや機械学習を活用した分析ツールを導入することで、顧客の行動パターンや信用リスクの変化を適切に把握することが可能です。

分析ツールの活用で、これまで感覚に頼っていた判断に代わりデータに基づいた客観的な意思決定が実現しやすくなります。結果として、部門間での戦略立案においてもズレが生じにくくなり、統一された方向性での業務推進が可能となるでしょう。

4. 自動化による業務の効率化が進む

金融DXでは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIチャットボットといった自動化技術の導入も進んでいます。これらの技術は、定型的な事務処理や顧客対応を自動化することで人的リソースをより高度な業務に集中できるのです。

例えば、口座開設や住所変更などの手続きがオンラインで完結できれば、顧客にとっての利便性が向上するだけでなくバックオフィスの業務負担も軽減できます。こうした業務フローの効率化が、結果的に部門間の連携強化にもつながるといえるでしょう。

5. デジタルツールを活用したコラボレーションが強化できる

リモートワークやハイブリッド勤務が一般化するなかで、チーム間の連携を支えるためのコラボレーションツールの活用は不可欠です。金融DXにおいてはMicrosoft TeamsやSlack、Notionといったツールを業務に組み込むことで、リアルタイムな情報共有とスムーズなコミュニケーションが実現可能になります。

また、これらのツールと業務システムを連携させることで、データを見ながらのディスカッションや業務進捗の可視化も簡単になります。こうした環境が整うことで部門の垣根を超えた連携が生まれ、自然とサイロ化の解消につながっていくでしょう。

金融DXの推進によってサイロ化を解消する方法

金融業界におけるサイロ化は、単なる情報の分断にとどまらず業務プロセス全体の非効率性や顧客対応の品質低下にも直結する問題です。このような課題に対し、金融DXの導入は有効な手段となります。

ここで紹介する5つの具体的なアプローチを取ることで、サイロ化の解消につながるでしょう。

①部門間のデータ共有を促進するためのクラウド基盤の導入

まず重要となるのは、クラウド環境の整備です。オンプレミス(自社運用型)のシステムでは、データの保存先が部署ごとに分散しやすく情報共有に時間がかかることが少なくありません。これに対して、クラウド基盤を導入することですべてのデータを一元的に保管・管理する体制を構築できます。

クラウド環境ではアクセス制御やログ管理などのセキュリティ対策も進化しており、金融機関特有の厳しい要件にも対応しやすくなっています。さらに、クラウド上でのリアルタイム更新により、部署をまたいだ共同作業がスムーズに行えるようになるでしょう。

②AIを活用して業務プロセスの統合を進める

次に注目すべきは、AIを活用した業務プロセスの最適化です。AIは、顧客の行動パターン分析やリスク予測、チャットボットによる対応自動化などさまざまな場面での業務効率化に寄与します。

これらのAIソリューションを、部署ごとに導入するのではなく全社的な視点で統合することで、共通のロジックに基づいた判断や対応が実現できます。例えば、顧客からの問い合わせ履歴をもとにAIが分類・分析を行い、営業部門や審査部門へ最適な対応を知らせることで各部門の連携が取りやすくなるでしょう。

また、AIを活用したデータ分析によって、部署間でのKPI共有やパフォーマンス比較も可能になります。こうした仕組みは部門間の壁を取り払い、協働の意識を高めるためにも役立ちます。

③ノーコード・ローコードツールで迅速なシステム連携を実現する

システム間の連携を進める際、従来であれば専門的なIT知識を持つエンジニアによる開発が必要でした。しかし近年では、ノーコード・ローコードと呼ばれるツールの普及によって非エンジニアでも簡単に業務システムの構築や連携が行えるようになってきています。

これらのツールを活用することで現場の担当者が自身の業務フローに応じたアプリケーションを構築し、他部門と連携させることが容易になります。例えば、営業チームが日報管理ツールをローコードで作成し、それを管理部門の報告システムと接続すれば、情報共有のスピードが向上するでしょう。

④統合データプラットフォームを構築し、部門横断的な意思決定を支援する

金融機関においては、膨大なデータが日々生成されています。これらのデータを部門ごとに分断して管理するのではなく、統合データプラットフォームを通じた一元化が全社的な意思決定の質を高めるカギとなります。

統合データプラットフォームでは、顧客情報・取引履歴・資産状況・リスク評価などあらゆる情報を共通フォーマットで蓄積することが可能です。これにより、分析ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)を用いたリアルタイムのレポート作成が容易になり、経営層はもちろん、各現場でも状況に応じた柔軟な判断が下しやすくなるでしょう。

⑤組織全体のDXリーダーシップを強化してサイロ化を予防する

技術やツールの導入だけでは、真の意味でのDXは実現しません。組織全体のマインドセットを変え、部門横断的な協力体制を築くためには強力なリーダーシップの存在が不可欠です。

重要なのは、CIO(Chief Information Officer)やCDO(Chief Digital Officer)といったDX推進を担うリーダーの設置と現場と経営層の橋渡しを行う体制づくりです。彼らがビジョンを明確に示し、必要な人材育成や予算配分を主導することで各部門の方向性が一致し、サイロ化が起きにくい文化が形成されていくでしょう。

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まとめ|金融DXを進めてサイロ化を解消し、業務効率を向上させよう

金融業界において、業務のサイロ化は組織全体のパフォーマンスを低下させる要因となっています。特に、部門ごとに独立したシステムやデータベースを運用している状況では情報の共有が難しく、意思決定にも時間がかかりがちです。こうした課題を乗り越えるためには、「金融DX」の推進が重要なカギとなるでしょう。

この記事で紹介したように、クラウド基盤の導入によるデータ共有の促進、AIを活用した業務プロセスの統合、ノーコード・ローコードツールによる迅速な連携、統合データプラットフォームの構築、そして組織横断のDXリーダーシップの育成が金融機関におけるサイロ化の解消に有効です。

業界の変化に柔軟に対応し、競争力を維持するためにも「金融DX」を本格的に始動させ、サイロ化した組織体制からの脱却を目指しましょう。