目的を明確化して金融DXを効果的に推進|今すぐ取り組める7ステップ

本記事では、金融業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の目的設計と、その具体的な推進方法について、専門的な視点からわかりやすく解説しております。あわせて、経営層の皆様が特に意識すべき重要なポイントについても、紹介します。

「金融DX」という言葉を耳にする機会は増えていますが、どこから手をつければよいかわからず、推進が進まないと感じている方も多いのではないでしょうか。現場での混乱や既存システムとの整合性への不安、顧客への影響を懸念して一歩を踏み出せないケースも少なくありません。しかし、金融業界におけるデジタル化は待ったなしの課題となっています。

そこで必要なのが、「なぜ金融DXに取り組むのか」という目的の明確化です。本記事では、金融DXを導入・推進する上での5つの主な目的を整理し、それぞれがどのようなメリットをもたらすのかを詳しく解説します。漠然としたデジタル化ではなく、具体的なゴールを意識することで、社内の理解と協力を得やすくなり、推進力を高められます。

最後までお読みいただくことで今すぐ着手できる具体的な方向性が見え、実践的なアクションプランを立てられるようになるでしょう。

金融DXとは

金融DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、テクノロジーを活用して金融機関のビジネスモデルや業務プロセス、さらには顧客との接点を変革し、新たな価値を創出する取り組みです。単なるデジタルツールの導入にとどまらず、企業全体のあり方を再構築する大きな改革といえるでしょう。具体的には、オンラインバンキングの強化やAIによるリスク分析、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による事務処理の効率化などが挙げられます。これにより、顧客体験の向上や業務効率化、データ活用によるサービス最適化など、複数の成果が期待できます。

近年では規制緩和やフィンテック企業の台頭によって競争環境が大きく変わりました。既存の金融機関が生き残るためには、DXを戦略的に捉え、スピード感を持って実行していく必要があります。

金融DXを推進する際の5つの主な目的

金融DXの推進を成功させるには、目的を明確にし、それぞれに応じた施策を講じることが不可欠です。ここでは代表的な5つの目的について詳しく見ていきましょう。

目的1:顧客体験を向上させるためのチャネルのデジタル化

金融DXのわかりやすい目的の1つは、顧客との接点をデジタル化して利便性と満足度を高めることです。

例えば、スマートフォンでの残高確認や振込手続き、AIチャットボットによる問い合わせ対応などはすでに多くの金融機関で実現されています。これらの機能は、ユーザーの待ち時間を短縮して24時間対応を可能にするため、顧客にとって魅力的です。

また、若年層を中心に「非対面」でのサービス提供が求められる中、アプリやウェブサイトを通じた快適なユーザー体験は顧客ロイヤルティの向上にもつながります。顧客の声を収集してサービスに反映させる仕組みも含めて、チャネルの最適化が求められています。

目的2:業務効率化による生産性の向上と人件費削減

金融業界は書類作成や承認プロセスなど、煩雑な業務が多い傾向があります。これらの業務をデジタル化して自動化することで、業務のスピードと正確性を向上させられます。

例えばRPAを活用すると、定型的な処理作業をロボットが自動で実行できるようになります。これによってミスを減らすと同時に、社員はより付加価値の高い業務に集中できるようになるのです。

またデジタル化によってペーパーレス化が進むと、物理的な保管コストや郵送費の削減にもつながります。こうした業務の効率化は全体的な人件費の抑制にも寄与するため、経営面でも大きなメリットとなります。

目的3:データ分析を活用したサービスの高度化

金融業界には顧客の属性や行動、取引履歴など膨大なデータが蓄積されています。これらのデータを活用し、顧客ごとに最適なサービスを提供することが競争力を高めるカギとなるでしょう。例えば、AIを用いたパーソナライズド・マーケティングにより、顧客のライフステージや嗜好に応じた商品を提案できるようになります。さらに、信用スコアの自動分析によってローン審査の迅速化や不正取引の早期検出も可能です。このようにデータを戦略的に活用することで、サービスの質を高め、顧客満足度の向上と収益性の両立が図れます。

目的4:他業種との連携を視野に入れた新規ビジネスモデルの創出

金融DXのもう1つの重要な目的は、金融の枠を超えて新たなビジネスチャンスを創出することです。近年では、異業種との連携による「エコシステム型」のビジネスモデルが注目を集めています。

例えば、不動産業界や小売業界と連携して、決済・融資・保険などを一体化したサービスを提供する動きが広がっています。これにより、金融機関は単なる資金の仲介業者ではなく、顧客の生活に密着したサービス提供者へと進化できているのです。

異業種とのコラボレーションを通じて新たな収益源を確保し、競争優位性を高めるためにも、柔軟な発想とデジタル技術の融合が不可欠です。

目的5:既存システムの刷新によるレガシーリスクの軽減

金融機関では、長年使われてきたレガシーシステムが業務の中核を担っているケースが多く見られます。しかしこうした旧式のシステムは保守コストが高く、新しい技術との互換性が低いため、DXの推進を阻む要因となり得ます。

レガシーリスクには、セキュリティの脆弱性、運用担当者の高齢化によるナレッジ継承の困難さ、そしてシステム障害による業務停止リスクなどがあります。これらを解消するには、段階的なシステムの刷新とクラウドベースのインフラへの移行が求められるのです。

そこで最新の技術を取り入れた堅牢なシステムを構築すると、運用の安定性と柔軟性を確保し、将来にわたって持続可能なサービス提供が可能になるでしょう。

5つの主な目的の背景にある課題

金融DXを効果的に推進するためには、まずその目的の裏にある構造的な課題を理解することが重要です。顧客ニーズの変化や業務の非効率性、テクノロジーの進化による競争環境の変化など、多くの企業が直面する課題は複雑化しています。こうした背景を把握することで、DXの導入が単なるシステム刷新にとどまらず、企業全体の変革へとつながる取り組みであることが明確になるでしょう。

ここでは、5つの目的を支える具体的な課題について詳しく解説します。

背景1:対面中心のサービス体制による顧客離れの加速

従来、金融業界では店舗や窓口での対面対応が主流でした。しかし、デジタルネイティブ世代の台頭やスマートフォンの普及により、顧客との接点は大きく変化しています。特に若年層を中心に「いつでも・どこでも」利用できる利便性を重視する声が強まり、従来型の対面サービスでは対応が難しくなってきました。

例えば、営業時間に縛られることなく手続きができるオンラインバンキングを導入している企業では、顧客満足度の向上に加え、継続利用率の高さも確認されています。一方で、デジタル対応が進んでいない金融機関では、利便性を求める顧客が他社へ流出するケースも見られます。

このような背景から、金融DXにおいてはチャネルのデジタル化が不可欠とされているのです。顧客ニーズに応じた柔軟なサービス提供を実現するためにも、アプリやWebプラットフォームを活用した接点の拡充が求められるでしょう。

背景2:アナログな業務フローによる人手不足とコスト増加

金融機関の業務には、紙ベースの手続きや複雑な承認フローが数多く存在します。これらは人的リソースに依存しており、少子高齢化や人材確保の難しさが影響する中で持続可能な運営を妨げる要因となっているのです。

例えばローン審査においても、複数の部署を経由したマニュアル作業が存在し、処理時間の長期化や入力ミスによる再確認が発生しています。こうした非効率な業務は、顧客満足度を損なうばかりか人件費や教育コストの増大にもつながります。

そこで注目されているのが、業務プロセスのデジタル化です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やワークフローシステムを活用すれば、定型作業を自動化して業務負荷を軽減できます。この変革は、生産性向上とコスト削減の両立を実現するカギとなるでしょう。

背景3:分散したデータ管理により分析精度が確保できない現状

現代の金融サービスにおいて、データ活用の重要性は年々高まっています。しかし、実際にはデータが部署ごとに分断されており、顧客情報・取引履歴・問い合わせ履歴などが一元管理されていないケースが多く見られます。

このような状況では、正確な分析や予測が困難です。例えば、ある顧客が過去にローン相談を行っていたとしても、それがマーケティング部門に共有されていなければ最適なタイミングでの提案ができません。こうした機会損失は、収益にも直結します。

データの一元管理と分析基盤の整備は、金融DXにおいて避けては通れないステップです。クラウド基盤の導入やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)による統合は、顧客理解を深めてパーソナライズされたサービス提供につなげる上で有効なのです。

背景4:他業種からの参入により競争力を失うリスクの高まり

金融サービスの提供者は、もはや銀行や証券会社といった伝統的プレイヤーだけではありません。近年では、IT企業やスタートアップが金融業界に進出し、テクノロジーを武器に新しい価値を提供しています。いわゆる「フィンテック企業」の台頭です。

例えば、スマートフォン1つで口座開設から送金、投資まで完結できるアプリを提供する企業が増え、若年層を中心に支持を集めています。こうした柔軟でスピーディなサービスは、従来型の金融機関にはない魅力を持っているのです。

この流れに対応するためには、既存の業務やサービスを再構築する必要があります。API連携やクラウドサービスを活用することで異業種と連携しやすい柔軟なシステム基盤を構築し、新たなビジネスモデルの創出を目指すことが求められています。

背景5:老朽化したシステムによるセキュリティと保守性の不安

多くの金融機関では、長年使用されてきた基幹システムを今も運用しています。しかしそれらの多くは技術的な更新が難しく、最新のセキュリティ対策に対応していないケースもあります。さらに、システムの仕様を熟知したエンジニアが退職や高齢化により減少しており、保守性にも大きな不安が残るのが現状です。

特にサイバー攻撃の高度化が進む中で、セキュリティ対策の脆弱性は深刻なリスクとなります。実際にシステム障害や情報漏えいが発生すれば、顧客の信頼を一気に失い、企業の存続に関わる問題へと発展しかねません。

このような背景から、システムのクラウド化やモダナイゼーション(最新化)への取り組みが加速しています。新しい技術を取り入れることで、セキュリティ強化だけでなく保守コストの削減やサービス提供スピードの向上も期待できるでしょう。

金融DXを推進する際に目的を明確化すべき理由

金融業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、単なる技術導入にとどまらず組織の文化や業務運営の根本的な見直しを伴う重要な変革プロジェクトです。このような大規模な取り組みが成功するためには、明確な目的の設定が欠かせません。目的が曖昧であると、各部署間で認識のズレが生じて成果を上げることが難しくなります。

ここでは、目的を明確化することで得られるメリットと、その重要性について詳しく解説します。

①社内の方向性を統一しプロジェクトの迷走を防ぐ

目的を明確化する最大の理由は、プロジェクトの迷走を防ぐためです。金融DXは複数の部門や担当者が関わるため、全体の方向性が統一されていないと途中で軌道修正が必要になり、時間やコストが無駄になってしまいます。例えば、同じプロジェクト内で異なる部署がそれぞれ異なる目標を持って動き出すと、コミュニケーションの不足や意見の対立が起こり、プロジェクトが進まなくなるでしょう。

目的を明確にして関係者全員が共通のゴールを認識することで、チーム全体の力を1つの方向に集中させられるのです。こうすることで効率的に作業が進み、途中での方向転換が最小限に抑えられます。結果として、プロジェクトの成功確率が高まるのです。

②投資判断を的確に行いリソースを最適配分する

金融DXには多大な投資が必要です。技術導入にかかるコスト、システム開発や更新に伴う経費、人員配置に関する費用などあらゆるリソースが投入されます。このため、目的を明確にすることが投資判断を的確に行うための重要な基盤となります。

例えば顧客の利便性向上を目的にDXを進める場合、どのようなテクノロジーを導入すべきか、どの顧客層に焦点を当てるべきかを明確にしなければなりません。その上で、リソースを最適に配分すると、効率よく目標達成できるでしょう。逆に目的が不明確であれば投資先が分散し、資金や時間が無駄になりがちです。

例えば、クラウド移行やAI活用に対して過剰に予算を投入する一方で重要な顧客体験の向上が後回しになるという事態は避けるべきです。目的が明確であれば、どの施策が重要でありどのリソースを優先すべきかが自然に決まります。

③関係者への説明責任を果たす

金融機関においては、DXを進める際に関係者への説明責任を果たすことが求められます。特に、取締役会や株主、さらには顧客に対してどのような目的でDXを進めているのかを明確に説明する必要があります。目的が不明確なままだと、関係者に納得してもらうのは難しくなるでしょう。

例えば「業務効率化」や「顧客サービスの向上」といった漠然とした目的では、関係者がその意義を理解しづらい場合があります。そのため、目的を具体的に明確化し「顧客の待機時間を30%削減する」や「毎月1000件以上の取引を自動化する」といった具体的な目標を設定することが重要です。これにより、関係者はプロジェクトの成果を測る基準を持てるため、プロジェクトの進行状況についても理解しやすくなるのです。

④成果指標(KPI)を明確にし進捗管理を容易にする

DXを成功させるためには、その成果を測定するための指標(KPI)が不可欠です。目的が明確であれば、それに基づくKPIを設定できます。例えば「業務プロセスの自動化率を80%にする」「顧客満足度を10%向上させる」など、定量的な目標を設定できるでしょう。

こうしたKPIを明確にすると、進捗管理が容易になります。途中で目標に対する達成度合いを評価し、必要に応じて軌道修正を行えるのです。KPIを明確にすることで最終的な成果が予測可能となり、プロジェクトの途中で方向性を見失うリスクを減らせます。

また、KPIは各部門や担当者にも明示的に示されるため、個々の責任が明確になります。それぞれが自分の役割を理解し、目標達成に向けて具体的なアクションを取れるため、全体として効率的に進行できるのです。

⑤DX施策の継続的改善を促進する仕組みを構築する

金融DXは一度導入すれば終わりというものではありません。デジタル化が進む中で、技術や顧客ニーズは常に変化し続けます。そのため、目的を明確化することでDX施策を継続的に改善していくための仕組みを構築できるのです。

明確な目的に基づいた施策は、変更や改善が必要なタイミングでもその方向性が見失われることなく進められます。例えば新しいテクノロジーが登場した際に、それを取り入れるべきかどうかを目的に照らして判断できます。さらに、フィードバックを取り入れて施策を段階的に改善していくと、より高い成果を得られるでしょう。

DXは単なるシステム導入ではなく、企業文化の改革でもあります。目的を明確にし、それに基づいた改善のサイクルを回すことで、組織全体が柔軟に対応できるようになります。このような仕組みがあれば、DXが単発的な取り組みではなく持続的な成長を支える礎となるでしょう。

目的が不明確である際に企業に与える影響

目的が不明確なまま金融DXを進めることは、企業にとって数々の深刻な影響を及ぼす可能性があります。方向性や目的が不明確な場合、成果が上がりにくく、企業全体に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。

ここでは、目的が不明確であることが企業に与える具体的な影響について詳しく解説します。

①DX施策が場当たり的になり成果が出にくくなる

目的が曖昧なままでDXを進めると、施策が場当たり的になりがちです。DXは単発の施策ではなく、継続的な改善と統合的なアプローチが求められます。目的がはっきりしていない場合、どのテクノロジーを選択するべきか、どの業務プロセスを優先するべきかの判断が難しくなります。その結果企業のリソースが無駄に分散され、施策が断片的なものになってしまうのです。

例えば顧客体験の向上を目的にDXを進める場合、どのような技術を導入すれば顧客のニーズに応えられるかが重要です。しかし目的が不明確なままで進めると、適切なツールやシステムの選定ができず、結果として顧客満足度の向上につながりません。このような状況では、DXの効果を実感できず、プロジェクトの成果が出にくくなるのです。

②社内の意思決定が遅れ現場の混乱を招く

目的が不明確であれば、社内での意思決定が遅れやすくなります。DXの推進には迅速な意思決定が求められますが、目的が曖昧だとどの方向に進むべきかを確定するのに時間がかかります。特に、DXに関わるのはIT部門や営業部門、マーケティング部門など多岐にわたる部署です。そのため、目的がはっきりしていないと部署間での調整や意見の食い違いが生じ、意思決定が遅れる原因となるのです。

このような状態が続くと現場では混乱が生じ、業務が滞ったり、社員の士気が低下したりします。結果として、DXの実行が停滞し、組織全体に不安を与えることになるのです。

③投資効果が見えず経営陣や株主の不信感を生む

目的が不明確な場合、投資効果が見えづらくなり、経営陣や株主の不信感を招くことがあります。金融DXには多額の投資が伴いますが、その目的がはっきりしないと投資先の選定や優先順位が不明確になります。その結果、投資の効果が具体的にどのように現れるのかがわからず、関係者からの疑問や不安を引き起こすのです。

例えばプロジェクトの成果が上がらない場合、経営陣や株主は「どの施策が効果的だったのか」「なぜ投資が無駄になったのか」といった疑問を持ちます。このような状況では、企業の信用を損なうだけでなく、次の投資やプロジェクトへの支援を得にくくなるのです。目的を明確にすることで投資の効果を計測し、経営陣や株主に対して納得のいく報告を行いましょう。

④競合との差別化に失敗し顧客離れが進行する

目的が不明確であると競合との差別化に失敗し、顧客離れが進行する恐れがあります。金融業界では、DXを通じて新しい価値を提供することが競争優位性を生む重要な要素となります。しかし、目的がはっきりしない場合、顧客のニーズに的確に応えられません。

例えば、競合他社がAIやビッグデータを活用して顧客体験を向上させている中で自社がDXを進めても、目的が曖昧であれば顧客にとって魅力的なサービスを提供できません。結果として顧客が他の企業に流れてしまい、顧客離れが進行することになります。DXを通じて差別化を図るためには、顧客にとって価値のある具体的な目標を定め、それを実現するための施策を講じる必要があります。

⑤プロジェクトが長期化し予算や工数が超過する

目的が不明確であるとプロジェクトが長期化し、予算や工数が超過する可能性があります。目的がはっきりしないため、進行中に目標の修正や方向転換が行われることが多く、最終的には当初の予算やスケジュールを超えてしまうのです。

例えば、DXプロジェクトが途中で方向を変更するたびに新たなリソースや追加の開発が必要となり、最初に見積もった予算では足りなくなることがあるかもしれません。さらに、期限が延びると他の事業計画に悪影響を及ぼし、企業全体のリソースが分散してしまいます。このように目的が不明確であると、DXプロジェクトが遅延してコストが膨らむという悪循環に陥るのです。

目的を明確化するために今すぐできる7ステップ

これまで、目的を明確化することの重要性について解説してきましたが、多くの企業がこの「目的の明確化」という初期ステップを疎かにし、後々の大きな問題に直面しています。

ここからは、DXの目的を明確化し、全社的な一貫性と実行力を高めるための実践的な7つのステップを紹介します。

ステップ1:現在の経営課題とビジョンを再確認する

最初に取り組むべきは、自社の経営課題と中長期的なビジョンの再確認です。DXは単なる業務効率化の手段ではなく、経営戦略を支える基盤です。そのため、現在直面している課題や将来目指す姿を明確にすることが、DXの目的を定める土台になります。

例えば顧客離れが進行している企業であれば、「顧客エンゲージメントの向上」がDXの主目的となるかもしれません。また収益性が低下している場合には、「業務プロセスの最適化」が求められるでしょう。このように、経営課題を軸にビジョンを再定義することでDXの方向性がぶれにくくなります。

経営陣が率先して企業の現状を見つめ直して社員と共有する姿勢も、DX成功のカギを握る重要なポイントです。

ステップ2:DXによって実現したい成果を具体的に設定する

次に必要なのは、「DXによって何を実現したいのか」を明確にすることです。抽象的な表現ではなく定量的かつ具体的なアウトカムを設定すると、目的意識が強まり、関係者の理解と協力を得やすくなります。

例えば「業務効率を改善する」では曖昧すぎますが、「営業担当者のレポート作成時間を月20時間から5時間に短縮する」といった具体的な成果目標であれば、施策の方向性が明確になります。施策の評価基準が明らかになると、進捗管理もしやすくなるでしょう。

具体的な成果設定は、プロジェクトの成功を数値で証明するためにも欠かせないプロセスです。

ステップ3:利害関係者とのヒアリングを通じて課題を洗い出す

DXは経営層だけで進めるものではありません。現場で実務を担っている社員やシステム部門、営業部門、さらには顧客など、多様な利害関係者の視点を取り入れることが必要です。彼らとの対話を通じて、見落とされがちな現場の課題や潜在的なニーズが浮かび上がります。

ヒアリングでは、「日々の業務で感じている非効率」や「顧客対応での課題点」など具体的なエピソードを引き出しましょう。こうした情報を収集・分析することで、企業全体としてDXの必要性を納得感のある形で共有できます。

関係者の声を反映させるプロセスはプロジェクトへの巻き込み力を高め、組織内での協力体制を築く上でも重要です。

ステップ4:各部門の目標を整理し全社的な方針に統合する

DXは部門単位の施策ではなく、全社的な変革を伴います。そのため、各部門が持つ個別目標を整理してそれを企業全体の方針に統合する作業が欠かせません。部門ごとの施策がバラバラでは組織としての一貫性を失い、効果的な変革にはつながらないのです。

例えば、営業部門では顧客情報の一元管理、経理部門では請求業務の自動化を目指すケースがあるでしょう。これらの施策を「顧客接点の質向上」「業務の省力化」といった共通のゴールに統合することで、全社としての方向性が明確になります。

方針の統合には、部門横断のDX推進チームの設置や定期的な戦略会議の開催が効果的なのです。

ステップ5:KPIやKGIを設定し進捗評価の指標を定める

目的を明確にするためには、それに対する「達成度」を評価する仕組みも必要です。ここで役立つのがKPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)の設定です。これらの指標があることで、プロジェクトの進行状況や達成度を客観的に把握できるようになります。

例えば、KPIとしては「月間Web問い合わせ件数」や「システム導入後の業務時間短縮率」などを設定し、KGIとして「年間売上10%向上」などの最終的な成果目標を掲げるのが一般的です。これらを設定すると、途中経過での成果測定と最終ゴールに向けた軌道修正が容易になります。

数値で進捗を評価する文化を根づかせることが、DXを継続的な改善に導くカギとなります。

ステップ6:DX推進のロードマップを可視化する

目的と指標が定まったら、それを「いつ」「誰が」「どの順番で」実行するのかを明示する必要があります。ここで重要なのが、DX推進のロードマップを作成して全社員に共有することです。

ロードマップとは、DX施策を段階的に整理した実行計画です。例えば「第1フェーズで業務フローの見直し」「第2フェーズで新システムの導入」「第3フェーズでデータ分析環境の構築」など、各ステージでの成果目標や担当部門を明記します。

これにより、関係者全員が「今、自分たちはどのフェーズにいて、何をすべきか」を理解できるようになり、プロジェクトがスムーズに進行します。可視化された計画は、進捗の共有や課題の早期発見にも有効です。

ステップ7:定期的に振り返りと軌道修正を行う体制を整える

DXは一度計画したら終わりではなく、常に変化し続けるプロセスです。そのため、定期的な振り返りと軌道修正を行う体制を整えることが、長期的な成功のカギを握ります。

月次や四半期ごとのレビューを設けてKPIやKGIの進捗を確認するとともに、現場の声を再度吸い上げて柔軟な対応を取る姿勢が求められます。必要に応じて、施策の優先順位や実行計画を見直すことで、常に最適な状態でプロジェクトを維持できるでしょう。

また改善のスピードを上げるには、PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)をベースにした運営が効果的です。チェックやアクションのフェーズを形式的な作業にせず、現実的な課題解決につなげる姿勢が求められます。

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金融DXの取り組みを成功に導くためには、技術だけでなく、ビジネスモデルの再構築や組織改革といった複合的な視点が求められます。

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まとめ|金融DXの目的を明確にして金融業界の変革を成功に導こう

金融DXは、業務効率化やコスト削減にとどまらず、顧客体験の革新や競争優位性の確立といった、企業の未来を左右する重要な取り組みです。

成功のカギは、目的を明確にし、現場との連携を図りながら全社一丸となって変革に取り組むことにあります。経営層のリーダーシップ、現場との対話、そして長期的な視点を持った投資と育成があってこそ真のDXが実現します。

これから金融DXを本格的に始める方も、すでに着手している方も、改めて「なぜDXを行うのか」という原点に立ち返りましょう。