物流DXで課題解決へ|2024年問題と人手不足に立ち向かうための実践ガイド
物流

物流業界において、コスト削減と効率化は避けて通れない課題となっています。特に近年はECサイトの急激な成長や消費者ニーズの多様化により、物流現場では従来以上に迅速かつ正確な対応が求められています。
しかし、多くの物流企業が直面している現実は厳しいです。人手不足による業務負荷の増加・配送効率の低下・在庫管理の複雑化など、解決すべき課題が山積みになっています。これらの課題を解決するには、従来の手法だけでは限界があります。
そこで注目されているのが、IoT技術を活用した物流DXの推進です。
この記事では、物流DX推進におけるIoT活用の必要性から具体的な導入方法、成功事例まで実践的な内容を詳しく解説します。記事を読み進めることで、自社の物流現場にIoTを導入する際の具体的なステップと導入後に期待できる効果について理解していきましょう。
IoTは「Internet of Things」の略称で、日本語では「モノのインターネット」と呼ばれています。従来インターネットに接続されていなかった機器や設備をネットワークに接続し、相互にデータをやり取りする技術です。
物流現場におけるIoTの基本的な仕組みは、センサーやデバイスがリアルタイムで情報を収集し、情報をクラウドやシステムに送信することから始まります。収集されたデータは分析・処理され、現場の状況把握や業務改善に活用されます。
IoT技術の特徴は、人の手を介さずに自動的にデータを収集・処理できる点です。これにより、従来は人的作業に依存していた業務の効率化や目視では確認できない情報の可視化が実現します。物流業界では、この技術を活用することで業務プロセス全体の最適化を図れます。
物流業界は現在、人手不足・配送遅延・在庫管理の複雑化など複数の構造的な課題を同時に抱えています。従来の方法だけではこれらの問題を解決しきれず、効率低下やコスト増大に直結しています。
こうした背景から、リアルタイムで状況を把握できるIoT技術の活用が急務とされるようになりました。IoTは物理的なモノとインターネットをつなげることで業務の見える化や自動化を可能にし、物流のDX推進に欠かせない技術として注目されています。
物流現場では、配送状況の把握が重要な業務の1つです。しかし、従来の手法では配送車両の位置情報や荷物の状態を正確に把握することが困難でした。顧客からの問い合わせに対して、具体的な配送時間や現在地を即座に回答できない状況が頻繁に発生しています。
IoT技術を活用することで、配送車両の位置情報をリアルタイムで把握し、荷物の状態を常時監視できるようになります。これにより顧客への正確な情報提供が可能になり、サービス品質の向上につながるのがポイントです。また、配送遅延やトラブルが発生した際には即座に対応策を講じられるため、顧客満足度の向上にも寄与します。
物流業界では深刻なトラックドライバー不足が続いており、2030年には約30万人のドライバーが不足すると予測されています。この人材不足を補うためには、限られた人員で最大限の効率を発揮することが大切です。
IoT技術の導入により、ドライバーの運転状況や労働時間を正確に把握して適切な配送計画を立案できます。運転時間の最適化や休憩時間の確保により、ドライバーの労働環境の改善にもつながるでしょう。また、自動運転技術との連携により、将来的にはドライバーの負担軽減や無人配送の実現も期待されています。
従来の在庫管理は人的作業に依存しており、ヒューマンエラーによる在庫数の誤差が発生しやすい状況でした。定期的な棚卸し作業には多大な時間と労力が必要で、業務効率化を遅らせる要因の1つになっています。
IoT技術、特にRFIDやバーコード読み取り技術を活用することで在庫の入出庫を自動的に記録し、リアルタイムで在庫状況を把握できます。これにより、在庫の過不足を防いで適切な在庫レベルを維持することが可能です。
これにより人的リソースをより付加価値の高い業務に集中でき、全体的な生産性の向上につながります。
現代の物流では、製品の製造から最終消費者への配送までサプライチェーン全体の透明性が求められています。食品の安全性確保や製品の品質管理において、トレーサビリティの重要性は年々高まっています。
IoT技術を活用することで、製品の製造段階から配送・保管・販売に至るまでの全工程を追跡可能です。温度管理が必要な商品については輸送・保管中の温度変化をリアルタイムで監視し、品質保持に必要な条件が維持されているかを確認できます。
これによりリコールの範囲を最小限に抑え、消費者の安全確保と企業の信頼性維持を両立できます。
物流業界では、CO₂排出量の削減や環境負荷低減が重要な課題になりました。政府の脱炭素目標や企業の持続可能性への取り組みにより、物流事業者にも環境配慮型の事業運営が求められています。
IoT技術を活用することで、配送ルートの最適化による燃料消費量の削減や車両の運行効率向上によるCO₂排出量の削減が可能です。また、倉庫内の照明や空調システムをIoTで制御することで、エネルギー消費量を最適化できます。
これらの取り組みにより、環境負荷の低減と運営コストの削減を同時に実現できます。
物流の現場では、IoTが多様な場面で活用されています。例えば、倉庫内での在庫の自動検知・温度湿度のモニタリング・配送車両の位置情報追跡などが代表例です。これにより、在庫切れの防止・品質管理の強化・配送遅延の早期発見が可能になります。
さらに、データ収集に基づく分析を通じて業務プロセスの改善が進み、全体の効率化に直結するのがポイントです。これらの活用は、DX推進の基盤として重要な役割を果たしています。
物流現場では従業員の動線・作業時間・機器の稼働状況など多くの情報が日々生成されています。しかし、これらの情報を正確に把握して分析することは、従来の手法では困難でした。
IoTセンサーを活用することで、作業現場のさまざまな情報をリアルタイムで収集・分析できます。例えば、作業者の動線を追跡するセンサーを設置することで、効率的な作業動線の設計や作業時間の最適化を図れます。
これにより、予防保全による設備の長寿命化や突発的な故障による業務停止を防ぐことができるでしょう。作業現場の可視化によりデータに基づいた業務改善が実現し、生産性の向上につながります。
物流現場では複数の業務が同時並行で進行しており、全体の進捗状況を正確に把握することが重要です。従来は管理者が現場を巡回して状況を確認していましたが、この方法では正確性や即時性に限界がありました。
IoTデバイスを各作業拠点に設置することで、業務の進捗状況をリアルタイムで把握できます。例えば荷物の仕分け作業にセンサーを組み込むことで、処理済み荷物の数量や作業効率を自動的に記録できます。
これにより、適切な作業負荷の管理や安全性の確保を図れるのがポイントです。業務状況の正確な把握により、効率的な人員配置や作業計画の最適化が実現します。
配送業務では複数の配送ルートが同時に進行しており、全体の進捗状況を把握することが重要です。従来は配送完了の報告を待つか、ドライバーに連絡して状況を確認する必要がありました。
IoT技術を活用することで、配送車両の位置情報や荷物の状態をリアルタイムで確認できます。GPSデバイスやセンサーにより、配送ルートの進捗状況・予定到着時間・荷物の温度や衝撃などの情報を一元管理できます。
これにより、配送遅延の早期発見や顧客への正確な到着時間の連絡ができるでしょう。リアルタイムでの配送状況把握により、サービス品質の向上と顧客満足度の向上を実現できます。
倉庫内では、入出庫作業・保管・仕分けなど多様な業務が行われています。これらの業務を効率的に管理するためには、設備の稼働率や作業者の生産性を最適化することが必要です。
IoTセンサーを倉庫内に設置することで、フォークリフトやコンベアなどの設備稼働率を監視できます。また、作業エリアごとの温度や湿度を管理することで、商品の品質保持と作業環境の最適化を図れます。
よく動く商品を取り出しやすい場所に配置することで、作業時間の短縮と生産性の向上につながるのもポイントです。IoTによる倉庫内の最適化により、全体的な物流効率の向上が期待できます。
物流現場では複数の業務プロセスが連携して動いており、1つのプロセスの非効率が全体に影響を与える可能性があります。従来は各プロセスを個別に管理していましたが、全体最適の観点から改善を図ることが困難でした。
IoT技術を活用することで、業務プロセス全体のデータを収集・分析しながら無駄や非効率な部分を特定できます。
また、プロセス間の連携を自動化することで、情報の伝達遅延や人的ミスを削減できます。例えば、入庫完了の情報を自動的に次の工程に伝達することで、作業の継続性を確保できるでしょう。業務プロセス全体の最適化により、効率改善とコスト削減を実現できます。
物流業界で注目されているIoTサービスは、以下のとおりです。
これらのサービスは、物流の安全性や配送の正確性を支える重要な役割を担っています。実際に多くの企業がこれらのIoTサービスを導入し、物流業務のDX推進に成功しています。
RFID(Radio Frequency Identification)技術は電波を使用してデータの読み書きする技術で、物流現場の検品作業において重要な役割を果たしています。従来のバーコード読み取りでは商品を1つずつスキャンする必要がありましたが、RFIDを活用することで複数の商品を同時に読み取ることが可能です。
RFIDリーダーを導入することで、検品作業の時間を短縮できます。例えば、段ボール箱にRFIDタグを貼付しておくことで、箱を開封せずに内容物の確認が可能です。また、読み取り精度が高いため、人的ミスによる検品漏れを防げます。
出典参照:RFIDリーダー|株式会社東北システムズ・サポート
倉庫管理システム(WMS: Warehouse Management System)は、倉庫内の在庫管理や作業指示を行うシステムです。LADOCsuite®は、IoT技術と連携した先進的なWMSとして倉庫内の業務を包括的に管理できます。
このシステムでは、センサーやカメラを活用して倉庫内の状況をリアルタイムで監視し、在庫の正確な位置や数量を把握できるのがポイントです。また、作業者の動線や作業時間を分析することで効率的な作業指示や人員配置を実現できます。
出典参照: LADOCsuite®/WMS | 東芝デジタルソリューションズ株式会社
SR-LPWA(Sub-GHz Radio Low Power Wide Area)は、低電力で長距離通信が可能な通信技術です。この技術を活用することで、配送車両の位置情報や運行状況を広範囲にわたって監視できます。
従来の携帯電話通信では電波の届かない山間部や地下でも、SR-LPWAなら安定した通信が可能です。これにより、配送ルート全体を通じて車両の状況を把握できます。また、低電力設計により、車両のバッテリーへの負荷を最小限に抑えられるでしょう。
出典参照:SR-LPWA | ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
Cariotは配送車両に搭載するIoTデバイスで、車両の位置情報や運行データをリアルタイムで収集・分析できます。GPSによる位置情報の取得に加え、車両の運行状況や燃費データなども同時に収集できます。
このデバイスを活用することで、配送ルートの最適化や到着時間の正確な予測が可能です。また、運転者の運転状況を分析することで安全運転の指導や燃費効率の改善を図れます。さらに、車両の故障や異常を早期に発見し、予防保全につなげられるでしょう。
出典参照:Cariot|株式会社キャリオット
SORACOM AirはIoTデバイス向けの通信サービスで、デバイスの通信から管理までを一元化できるプラットフォームです。物流現場では複数のIoTデバイスを管理する必要があり、通信の安定性とセキュリティが重要な課題となっています。
このサービスでは、専用のSIMカードを使用することで、セキュリティの高い通信環境を構築できます。また、デバイスの通信状況や使用量をリアルタイムで監視し、異常があった場合には即座に対応できるのもポイントです。さらに、デバイスの設定変更や更新も遠隔で行えるため、メンテナンスの効率化も図れます。
出典参照:SORACOM Air|株式会社ソラコム
IoT導入の成功には計画的な進め方が不可欠です。まず現場の課題を正確に把握し、目的を明確に設定することが重要です。次に、自社の業務に適したIoT機器やサービスを選定し、小規模な導入から始めて効果を検証します。
また、導入後は収集データを活用して業務改善を継続的に進めることが求められます。さらに、現場従業員との連携や教育も成功の大きな要素となるため、バランスの良い運用体制を構築することがポイントです。
アサヒビール株式会社では、ビール製造に必要な炭酸ガスボンベの在庫管理において、従来の手法では正確な在庫把握が困難でした。炭酸ガスボンベは製造工程で継続的に使用されるため、在庫切れによる製造停止は大きな損失につながります。一方で、過剰在庫は資金効率の悪化やコスト増加の要因となっていました。
同社では、すべての炭酸ガスボンベにRFIDタグを取り付け、入出庫時の自動読み取りシステムを導入しました。このシステムにより、ボンベの使用状況をリアルタイムで把握し、適正在庫レベルを維持できるでしょう。また、ボンベの使用履歴や点検時期の管理も自動化され、安全性の向上にもつながっています。
出典参照:ビール用炭酸ガスボンベの容器管理にRFIDを導入|アサヒビール株式会社
ヤマト運輸株式会社では全国約6万台の集配車両にIoTデバイスを搭載し、運行データの収集・分析を行っています。従来は運転者の経験と勘に頼っていた配送ルートの最適化や燃費管理を、データに基づいた科学的なアプローチで実現しました。
IoTデバイスにより収集されるデータには、車両の位置情報・走行距離・燃費・運転状況、荷物の積載状況などが含まれます。これらのデータを分析することで、最適な配送ルートの提案・燃費効率の改善・運転者の安全運転指導を行っています。
この取り組みにより燃費効率が約10%向上し、CO₂排出量の削減にも貢献しているのがポイントです。また、運転者の労働時間の最適化により、働き方改革の推進にもつながっています。収集されたデータは、将来の自動運転技術の導入に向けた基盤としても活用される予定です。
出典参照:ヤマト運輸が全集配車両に新たな車載端末を搭載|ヤマト運輸株式会社
物流業界でIoT技術を導入する際には、単に機器を設置するだけでは期待される効果を得ることは難しいです。導入の成否を分けるのは、明確な目的設定とデータ活用の設計、そして現場との連携です。特に既存業務との整合性や、システム全体の最適化を見据えた戦略的な進め方が不可欠といえるでしょう。
ここでは、IoT導入を成功に導くために押さえるべき5つのポイントを、具体的かつ実践的な視点から解説します。
IoT導入の成功には、現場の具体的な課題を正確に把握し、それに適した機器を選定することが不可欠です。漠然とした効率化の目標ではなく、解決すべき具体的な問題を明確にする必要があります。
まず、現場での課題抽出を行います。作業者へのヒアリングや現場観察により、業務上の問題点や改善要望を整理しましょう。
次に、課題解決に適したIoT機器を選定します。温度管理が必要な場合は温度センサー・位置情報が必要な場合はGPSデバイス・作業効率化が必要な場合はRFIDリーダーなど、目的に応じた機器選定をするのがポイントです。機器選定の際は、現場環境や既存システムとの親和性も考慮する必要があります。
IoT導入では、初期投資コストと運用効果のバランスを慎重に評価する必要があります。高性能な機器は多機能ですが、現場のニーズに対してオーバースペックになることがあるので注意しましょう。
導入コストの算出では、機器購入費だけでなくシステム構築費・運用費・保守費用も含めた総コストを評価します。一方、運用効果については作業時間の短縮・人件費の削減・品質向上による損失回避などを定量的に評価します。
投資回収期間を明確にし、経営層への説明責任を果たすことも重要です。段階的な導入により、効果を確認しながら投資を拡大していくアプローチも有効です。
物流現場では既存の倉庫管理システムや輸送管理システムが稼働しており、IoT機器との連携性が導入成功のカギとなります。もし連携がうまくいかない場合、データの分断や二重入力といった問題が発生する可能性があるため、事前に連携性を十分に確認しましょう。
既存システムとの連携方法を事前に確認し、必要に応じてシステム改修します。API連携やデータベース連携など、技術的な連携方法を検討してシステムベンダーとの調整も必要です。
連携テストを十分に実施し、システム間でのデータ整合性を確認することも重要です。本格運用前には実際の業務フローでのテストを行い、問題がないことを確認する必要があります。
IoT導入をいきなり全社展開するのではなく、スモールスタートで段階的に進めることが成功の秘訣です。小規模な導入から始めることで、リスクを最小限に抑えながら効果を確認できるでしょう。
まず、特定の部署や業務に限定した試験導入を行いましょう。例えば、1つの倉庫や特定の配送ルートでの限定的な導入から始めることで、現場の反応や効果を確認できます。この段階で問題点を洗い出し、改善策を検討することが重要です。
試験導入で効果が確認できた場合、対象範囲を段階的に拡大していきます。各段階で効果測定し、投資対効果を評価しながら次のステップに進みます。
IoT導入においては、通信の安全性とデータの保護が重要な課題となります。物流現場で収集される位置情報や顧客情報は機密性の高いデータであり、適切なセキュリティ対策が必要です。
通信セキュリティでは、暗号化通信の実装が基本となります。IoTデバイスとクラウドサーバー間の通信は、SSL/TLS暗号化により保護することが欠かせません。また、VPN接続や専用線の利用により、通信経路の安全性を確保することも重要です。
データセキュリティでは、収集したデータの保管と利用について適切な管理を行います。個人情報保護法やGDPRなどの法規制に準拠し、データの利用目的や保管期間を明確にします。
IoT導入の成功には、現場従業員の理解と協力が不可欠です。新しい技術の導入に対して、抵抗感や不安を抱く人もいるため、こうした点にも十分に配慮しましょう。適切な教育と業務標準化により、スムーズな導入を実現できます。
教育プログラムでは、IoT技術の基本的な仕組みから実際の操作方法まで段階的に学習することが大切です。座学だけでなく実機を使った実習も取り入れることで、理解度を深められます。
業務標準化ではIoT導入後の新しい業務フローを明確にし、作業手順書やマニュアルを整備します。従来の業務との違いを明確にし、注意点や留意事項を具体的に示しましょう。
物流業界では、人手不足や顧客ニーズの多様化といった課題に対応するため、IoT技術の活用が不可欠となっています。本記事で解説したとおり、IoT導入により配送現場の可視化、業務効率化、在庫管理の精度向上など、多面的な効果が期待できます。
IoT活用の成功には、現場課題の明確化と適切な機器選定、段階的な導入アプローチが重要です。物流DXの推進においては、IoT技術を単なる効率化ツールとしてではなく、競争優位性を創出する戦略的な投資として位置づけることが重要です。継続的な改善と技術革新により、持続可能な物流システムの構築を目指しましょう。