医療現場における長時間労働の現状とDXで効率化する方法

医療現場で深刻化する長時間労働の背景と、電子カルテやAI診断支援など医療DXによる効率化の具体策をわかりやすく解説します。

「毎日の業務に追われて、気づけば今日も残業」そんな状況が当たり前になっている医療従事者の方も多いのではないでしょうか。人手不足や業務の偏り、突発的な対応の連続により、医療現場では長時間労働が慢性化しています。

こうした状況を放置すれば、心身への負担だけでなく、医療の質や安全性にも影響が及びかねません。だからこそ、今こそ必要なのが医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した業務の効率化です。

この記事では、医療現場における長時間労働の背景や要因を整理したうえで、電子カルテやAI問診、RPAなどのデジタル技術によって業務を効率化し、労働負担を軽減する具体的な方法をご紹介します。

「業務改善をしたいが、どこから手を付ければよいかわからない」「現場の声を反映した形で効率化を進めたい」とお悩みの方にとって、今後のヒントとなる内容をまとめています。特に、院内の業務改善を検討している医療機関の管理職や、現場の働き方に課題を感じている方には、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。

医療現場における長時間労働の原因

医療従事者の長時間労働は、単に労働時間の長さという問題だけではなく、その背景にいくつもの要因が重なっています。主な原因としては、次の6つが挙げられます。

・慢性的に人手が不足している

・医師へ業務が集中している

・緊急性の高い業務が発生する

・複雑な勤務形態になっている

・労働時間の管理が徹底されていない

・医師、医療従事者の使命感が強い

これらの要因が複雑に絡み合い、長時間労働の常態化を引き起こしています。以下で、それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

医師の長時間労働

医師の労働時間は依然として過剰な水準にあります。厚生労働省の調査によると、医師の約8割が週40時間以上勤務しており、残業や休日勤務が常態化しています。週60時間を超える労働をしている医師は5人に1人を超え、外科や救急科、脳神経外科などでは約半数が該当すると報告されています。


長時間労働が続くことで、疲労の蓄積による判断力の低下や集中力の欠如が生じ、医療ミスや対応の遅れにつながる可能性があります。実際に、医師の4割近くが健康に不安を感じているとする調査もあります。過重な勤務は、医師本人の健康だけでなく、患者の安全にも影響を与えるリスクをはらんでいます。

看護師の長時間労働

看護師も、医師と同様に過酷な労働環境にさらされています。交代制勤務や夜勤により生活リズムが不規則になるうえ、日勤時にも業務引き継ぎや記録のために、始業前や終業後に無給で働くケースが見られます。このような時間外労働が常態化していることで、実質的な労働時間はさらに長くなっているのが現状です。


長時間労働は、心身の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、投薬ミスや患者の異常の見逃しなど、医療ミスのリスクも高めます。また、過労による離職の増加は現場の人員不足をさらに深刻化させ、悪循環を引き起こしています。

医療現場における長時間労働の原因

医療現場で長時間労働が常態化している背景には、複数の要因が重なっています。現場の構造的な課題や職種ごとの業務特性が影響し、慢性的な長時間労働を生み出しています。以下のような原因が代表的です。

・慢性的に人手が不足している

・医師へ業務が集中している

・緊急性の高い業務が発生する

・複雑な勤務形態になっている

・労働時間の管理が徹底されていない

・医師、医療従事者の使命感が強い

それぞれの項目について、以下で詳しく説明していきます。

慢性的に人手が不足している

人員が足りていないことが、業務の集中や残業の増加を引き起こしています。医師や看護師などの人材不足は長年の課題とされており、特に地方や専門性の高い診療科では採用が難しい傾向があります。

交代要員が確保できないことで、一人の職員が複数の業務を担う必要があり、休憩を取る時間も削られがちです。十分な人員体制がないまま日々の診療を維持しようとすることで、常に過剰な労働が発生しやすくなっています。

医師へ業務が集中している

医師の業務が過度に広範囲にわたっていることが、長時間労働の要因になっています。診療だけでなく、事務処理、患者説明、家族対応、カンファレンス、後輩指導、学会発表準備など、多くの業務が医師個人に集中しています。

それぞれの作業に専門性が求められるうえ、時間のかかる内容も多く、効率的な分担が難しいという側面があります。役割の明確化が不十分な現場では、医師が無意識のうちに業務を抱え込む状況が生じやすくなっています。

緊急性の高い業務が発生する

予測できない緊急対応が、計画的な勤務を困難にしています。救急搬送や術中の急変、夜間の患者急変など、医療現場では突発的な対応が求められる場面が頻発します。

こうした対応は通常業務とは別に発生するため、勤務時間外でも対応を求められることが少なくありません。オンコールや緊急手術が連日続くと、慢性的な時間外労働につながってしまいます。

複雑な勤務形態になっている

勤務形態が多様であるため、労働時間の管理が難しくなっています。24時間体制の医療現場では、日勤・夜勤・当直・宿直などの勤務形態が組み合わさっており、職種や病棟ごとに異なる勤務スケジュールが存在します。

こうした複雑な勤務体制では、実際の拘束時間や労働時間が見えにくくなり、働きすぎを把握しにくくなります。勤務管理が曖昧な状態では、長時間労働が見過ごされやすくなります。

労働時間の管理が徹底されていない

労働時間の記録や把握が適切におこなわれていないことも一因です。かつては医師の働き方に対する法的規制が十分ではなく、勤務時間が自己申告に任されていた場面も多くありました。

現在でも勤怠管理の仕組みが不十分な医療機関も存在し、正確な労働時間を把握できていないケースがあります。管理が曖昧であるほど、時間外労働が常態化しやすくなります。

医師・医療従事者の使命感が強い

使命感が長時間労働を容認する風潮につながっています。医療従事者は「患者のために最善を尽くしたい」という強い思いを持っており、自らの負担を顧みずに働く傾向があります。

このような姿勢は尊重されるべきものですが、結果として労働時間の意識が希薄になりやすく、過労のリスクを高めています。周囲に長時間労働を当然とする空気が漂うことで、休みを取りにくい雰囲気が生まれることもあります。

医療DXによる業務効率化のメリット

医療DXの導入は、医療現場の負担を軽減するだけでなく、医療の質や経営面、地域との連携にも好影響をもたらします。主なメリットは以下の5つです。

・医療従事者の負担が減る

・医療の質が高まる

・患者の満足度が向上する

・経営が効率化される

・地域医療の連携が強化される

以下に、それぞれの内容を詳しくご紹介します。

医療従事者の負担が減る

医療DXは業務量の軽減につながります。電子カルテやAI問診などの導入によって、事務作業や繰り返し発生する入力業務が大幅に減少します。

これまで手作業で対応していた申請処理や情報の確認も、自動化された仕組みにより短時間で対応できるようになります。医療従事者が専門性の高いケアに集中できる環境が整い、長時間労働の縮小にもつながります。

医療の質が高まる

情報の一元化と即時共有が、医療の質を向上させます。検査結果や診療記録がデジタル化され、必要な情報にすぐアクセスできるようになります。

診療科や職種を越えた連携がスムーズになり、判断の精度や処置の迅速さが向上します。ヒューマンエラーの減少にもつながり、安全性の高い診療体制が構築されます。

患者の満足度が向上する

医療DXは患者の利便性と安心感を高めます。オンライン予約や事前問診の導入により、来院時の待ち時間が短縮され、スムーズな診察が可能になります。

また、診療の進行が効率化されることで、説明の時間や対応に余裕が生まれ、患者に対して丁寧なコミュニケーションがとれるようになります。こうした変化が、全体の満足度向上につながります。

経営が効率化される

医療DXは病院経営にも効果をもたらします。紙ベースの運用から脱却することで、物理的な保管スペースや印刷コストが削減されます。

さらに、診療報酬請求や勤怠管理といった管理業務も効率化され、人件費の見直しにもつながります。現場の稼働状況が可視化されることで、適切な人員配置も行いやすくなります。

地域医療の連携が強化される

医療機関同士の情報共有が円滑になります。紹介状や検査データのやり取りがデジタル化されることで、病院間の連携がよりスムーズになります。

患者が複数の医療機関を利用する際にも、情報の受け渡しが早く正確に行われ、診療の継続性が保たれます。地域全体での医療体制の一体化が進み、質の高い地域医療が支えられます。

医療DXによる長時間労働の解消方法

医療DXの導入は、長時間労働を解消するための手段として注目されています。特に、以下のようなデジタル技術やシステムの導入が、業務効率を大きく高める要素となります。

  • 電子カルテを活用する
  • オンライン診療・遠隔医療を活用する
  • AI診断支援を利用する
  • AI問診システムを導入する
  • RPA(RoboticProcessAutomation)を導入する
  • オンライン予約・受付システムを導入する
  • 電子処方箋・電子薬歴を利用する

それぞれの手法について、以下で詳しく解説します。

電子カルテを活用する

電子カルテの導入は業務のスピードと精度を向上させます。患者の基本情報、検査結果、処方歴、診療記録などを一元的に管理することで、必要な情報を即座に確認できます。

紙カルテの管理に伴う物理的作業がなくなることで、検索や記入の時間が削減されます。定型文や音声入力を活用すれば記録作業の負担も軽減され、多職種間の情報共有もスムーズに進みます。

オンライン診療・遠隔医療を活用する

オンライン診療の導入によって、診療の効率が高まります。通院を伴わない診療が可能になり、医師や患者の移動にかかる時間を削減できます。

定期的な服薬指導や経過観察などは、対面にこだわる必要がなくなり、短時間での対応が可能です。限られた人材を効率的に配置できる点も、長時間労働を見直す大きな要因となります。

AI診断支援を利用する

AIによる診断支援は、医師の作業負担を軽減します。CTやMRIの画像をAIが解析し、異常部位を検出することで、医師の読影時間が短くなります。

また、入力された症状や検査結果をもとに、考えられる疾患を提示する機能もあり、診断の助けとなります。判断精度の向上と業務の迅速化が同時に期待できます。

AI問診システムを導入する

AI問診システムの導入は、診療前の準備時間を短縮します。患者が来院前に症状や経過を入力することで、医師は診察前に状況を把握できます。

診察当日に改めて聞き取りを行う手間が減り、限られた時間で効率的な診療が可能となります。また、質問の抜け漏れを防ぎ、診療に必要な情報を一定の水準で確保できます。

RPA(RoboticProcessAutomation)を導入する

RPAの導入により、定型的な事務作業が自動化されます。診療報酬の請求、在庫管理、書類作成、データ集計など、手間のかかる業務を人の手から解放できます。入力ミスの防止にもつながり、精度の高い業務遂行が可能になります。

滋賀医科大学では、RPA導入によって年間9,800時間以上の業務削減が見込まれており、他の医療機関でも類似の成果が報告されています。

オンライン予約・受付システムを導入する

予約や受付をデジタル化することで、対応の手間を大きく減らせます。患者自身がスマートフォンやパソコンから予約を行うことで、窓口対応の回数が減り、事前に問診も済ませられる仕組みが整います。

受付スタッフの作業負担が軽くなるほか、来院時の待ち時間が減ることで、診療全体の流れもスムーズになります。

電子処方箋・電子薬歴を利用する

電子処方箋と電子薬歴の導入で、薬に関する業務が効率化されます。医師がオンラインで処方内容を薬局に送信できるため、紙やFAXでのやり取りが不要になります。薬剤師も、患者の薬歴を電子的に確認しながら調剤や服薬指導を行えるようになり、処理速度と正確性が高まります。病院と薬局の連携もスムーズになります。

【まとめ】医療DXで長時間労働を解消しよう

医療現場では、慢性的な人手不足や業務の集中、突発的な対応などが原因で、長時間労働が常態化しています。このような状況を改善するには、医療DXの活用が重要な手段となります。

電子カルテやAI診断支援、RPAの導入によって業務が効率化され、医療従事者の負担を軽減することが可能です。また、オンライン診療や電子処方箋などによって患者対応もスムーズになり、医療の質や患者満足度の向上にもつながります。

働き方を見直す一歩として、医療DXを現場にどう取り入れるかが今後の大きな課題と言えるでしょう。