医療DXにおけるビッグデータの活用 | 活用のメリットや流れ・課題
医療

医療DXとデジタル格差は、日本の医療課題解決には欠かせません。しかし、DXの推進方法を誤ると、デジタルに不慣れな人々を医療から遠ざけるだけでなく、新たな格差を生む危険性もあります。この記事では、医療DXのデジタル格差を乗り越える方法や業務改善事例までを紹介します。
医療DXとデジタル格差は、日本の医療課題解決には不可欠なテーマです。人材不足や地域格差など、日本の医療が抱える構造的な課題を解決し、持続可能な医療体制を築ける取り組みとなります。
この記事では、医療DXのデジタル格差を乗り越える方法や業務改善事例を解説します。課題別の医療DX推進に役立つシステム・ツールや医療DXを成功に導く導入ステップまで解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。
医療DXは、単なるデジタルツールの導入を意味しません。デジタル技術の活用で医療の質と効率を根本から変革し、患者中心の持続可能な医療体制を構築する全国的な取り組みです。
従来の医療システムが抱える構造的な課題解決と未来の社会変化への対応には、業務プロセス自体の見直しが不可欠です。電子カルテは情報共有を迅速化し、オンライン診療は通院の負担を軽減し、患者一人ひとりに寄り添う医療を実現します。
また、政府は「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、変革を推進中です。医療DXはテクノロジーの力で、質の高い医療をすべての人に提供する未来に向けた重要プロジェクトです。
出典参照:「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム|厚生労働省
医療DXが推進される背景は、以下の3つです。
それぞれ解説します。
医療DX推進が急務な背景は、深刻な人材不足と医療従事者の長時間労働です。少子高齢化で医療の担い手は減少し、高齢者の増加で医療需要は増え続け、現場の負担は限界に近づいています。
厚生労働省の調査では、多くの病院での医師や看護師の不足、長時間労働の常態化が明らかになりました。デジタル技術の業務効率化は、医療現場の崩壊を防ぎ、スタッフが専門業務に集中できる環境を整えるために不可欠です。
居住地で受けられる医療の質に差がある「医療格差」も、医療DXが求められる大きな理由です。地方は医師不足や医療機関の減少が深刻で、専門的な医療へのアクセスが困難な状況です。総務省の調査は、人口あたりの医師数が都市部に著しく偏在し、地域医療の担い手不足を浮き彫りにしました。オンライン診療や遠隔診断等のDX技術は、地理的な制約を克服し、全国へ質の高い医療を届ける大きな可能性を秘めます。
他産業に比べた医療業界のデジタル化の遅れも、DX推進の背景にある課題です。原因は複雑な医療システム間の連携の難しさや、個人情報保護への強い懸念です。医療現場では紙のカルテやFAXでの情報共有が主流の機関も多く、非効率な業務プロセスの原因です。他分野のデジタル化がもたらした恩恵を医療分野で実現するため、国を挙げた基盤整備が急がれています。
医療DXの促進でデジタル格差がもたらす主な課題は、以下の3つです。
ひとつずつ解説します。
デジタル格差がもたらす最も深刻な課題は、医療アクセスでの不平等です。スマートフォンやPC操作に不慣れな高齢者や障害を持つ人々が、オンライン予約やオンライン診療等の新サービスから取り残されるためです。デジタルを使いこなせる人とそうでない人の間で、受けられる医療サービスの質に差が生まれる危険があります。誰もが安心して医療を受けられるよう、デジタルが苦手な人への丁寧な配慮が不可欠です。
Webサイトや健康管理アプリ等で提供される健康情報や予防医療の機会にアクセスできない点も、デジタル格差の大きな問題です。有益な情報を得られない人々は、生活習慣病の予防や早期発見の機会を逃し、健康状態が悪化する可能性があります。個人の健康問題にとどまらず、将来的な医療費増大に繋がる社会的な課題です。情報へのアクセス機会の平等な確保が、国民全体の健康水準維持に求められます。
デジタル化の推進は、対面でのコミュニケーション機会の減少を招き、人々の社会的孤立を深める可能性があります。日頃から人との交流が少ない高齢者にとって、通院は地域社会との数少ない接点でした。オンライン化が機会を奪い、孤独感や不安が増大し、心身の健康に悪影響を及ぼす懸念があります。医療の効率化と人と人との温かい繋がりの両立が、人に優しいDXに欠かせません。
医療DX促進でデジタル格差を乗り越える方法を紹介していきます。
それぞれ解説します。
患者側のデジタル格差を乗り越える方法は、以下の3つです。
ひとつずつ解説します。
患者のデジタル格差克服には、院内への専用相談窓口設置が極めて有効です。操作方法が分からない時、すぐに質問できるスタッフの存在が、患者の心理的なハードルを大きく下げます。「スマホ操作相談窓口」を設け、予約システムの入力補助やアプリのインストール支援をすれば、患者は安心して新サービスを試せます。不明点を気軽に聞ける環境整備が、デジタルツール利用への第一歩を力強く後押しします。
専門用語を避け、図や大きな文字を使った直感的に理解できるマニュアルの配布は、患者支援に重要です。患者は帰宅後も自分のペースで操作方法を確認し、自信を持ってデジタルツールを使えるようになります。操作手順を写真やイラストで示し、「ここをタップする」等、具体的な言葉で説明する点がポイントです。医療機関の思いやりが伝わる手作りガイドは、患者の不安を解消する強力なツールです。
患者本人への支援と同時に家族にも協力を依頼し、地域全体で支える体制構築が重要です。多くの高齢者にとって最も身近で信頼できるデジタル機器の先生は、子どもや孫世代の家族です。医療機関から家族へオンライン診療の利点や操作方法を説明する機会を設け、支援をお願いすると、患者は自宅で安心して支援を受けられます。家族を巻き込んだ支援体制の構築は、デジタル格差を埋める現実的で効果的な方法です。
医療従事者側のデジタル格差を乗り越える方法は、以下の3つです。
それぞれ解説します。
医療従事者側のデジタル格差解消には、全スタッフのレベルに合わせた体系的で継続的な研修が不可欠です。新システムの導入前は、全職員対象の集合研修で基本操作を習得させ、導入後は、習熟度に合わせた個別フォローアップが効果的です。ITが得意なスタッフを教育担当に任命し、部署内で気軽に質問できる雰囲気作りも大切です。焦らず着実にスキルアップを図る計画的な教育が、組織全体のDX対応力を高めます。
新ツール導入への職員の抵抗感緩和には、成功体験の共有が最も効果的です。職員は「自分たちも使ってみよう」と前向きになり、組織全体の意欲が向上します。新システムで「残業が減った」「患者と向き合う時間が増えた」等の具体的な利点を、朝礼や院内報で積極的に共有しましょう。DXが負担増ではなく業務改善の味方だと認識してもらう点が、自発的な活用を促すポイントです。
DXプロジェクトの成否は、経営層の強い指導力にかかっています。目的の共有で、職員は日々の業務変革の意味を理解し、主体的に行動できます。なぜDXに取り組むかの目的(理念)と、DXで何を実現したいかのゴール(ビジョン)を、院長や理事長が自らの言葉で繰り返し発信する点が重要です。組織全体の方向性を一つに束ねる行動が、困難な変革を乗り越える原動力です。
医療DX促進がもたらすメリットは、以下の4つです。
ひとつずつ解説します。
医療DXは、患者の医療体験を劇的に向上させます。オンライン予約で24時間いつでも予約が取れ、Web問診で来院前に症状を伝えられるため、院内での待ち時間が大幅に短縮されます。オンライン診療は通院の身体的・時間的負担を軽減し、蓄積された診療データの活用で、一人ひとりの状態に合わせた質の高い医療提供も可能です。変革は患者の利便性と満足度を大きく高めます。
医療従事者にとって、DXは業務負担を軽減する強力な味方です。医療従事者は本来の専門業務である患者ケアに、より多くの時間とエネルギーを注げるようになります。電子カルテやWeb問診システムは手書き書類の作成や転記作業をなくし、予約システムは電話対応時間を削減します。業務効率化は、長時間労働の是正や離職率の低下に貢献し、働きがいのある職場環境を実現します。
医療DXは、病院経営の安定化と改善に大きく貢献します。ペーパーレス化は、紙代・印刷代・保管スペース等の物理的な費用を削減します。業務効率化による人件費の最適化や、データ分析による的確な経営戦略の立案も可能です。予約枠の最適化による収益向上も期待できます。データに基づく客観的な経営判断は、変化の激しい時代を乗り切る羅針盤です。
災害やパンデミック等の不測の事態発生時に、医療提供を継続できる体制を構築できる点も、DXの重要な利点です。カルテ情報が院内サーバーでなく安全なクラウド上に保管されていれば、院内が被災してもデータは失われません。オンライン診療体制が整っていれば、大規模な感染症発生時でも、患者と医療従事者の安全を確保し診療を継続できます。DXは地域の医療インフラを守る生命線です。
医療DX推進に役立つシステム・ツールを、以下4つの課題別に紹介していきます。
それぞれ解説します。
紙媒体の情報管理や院内手続きに起因する業務の煩雑さは、デジタルツールの導入で大幅に改善できます。
システム群はペーパーレス化を促進し、情報の検索性や再利用性を高め、スタッフの事務作業負担を軽減し、スマートな病院運営を可能にします。
患者満足度低下に直結する長い待ち時間やスタッフ業務を圧迫する電話対応は、受付や会計業務を自動化するシステムで解決できます。
医療DXのシステム導入で患者はスムーズに受診でき、スタッフは電話対応から解放され、本来の対面ケアに集中できます。
地理的・身体的制約で必要な医療を受けられない課題は、遠隔医療を実現する技術で乗り越えられます。
システム群は医療へのアクセス性を飛躍的に向上させ、居住地や身体の状態に関わらず、全人類が質の高い医療を受ける機会を得るための強力な手段です。
院内でのチーム医療や、地域の医療・介護施設との連携強化には、迅速で安全な情報共有を可能にする基盤が不可欠です。
ツール活用で、関係者間の意思疎通の齟齬を防ぎ、患者中心の円滑で質の高い医療・介護連携体制を構築できます。
医療DXにおけるデジタル格差を乗り越えた業務改善事例は、以下の3つです。
ひとつずつ紹介します。
高齢者が多い地域で「誰も取り残さないDX」を実現した元山医院の事例です。医院はデジタルに不慣れな高齢患者のため、スタッフが対面で丁寧に操作方法を説明する支援体制を構築しました。
予約から問診までのシステムを連携させ、患者とスタッフ双方に分かりやすく、使いやすい動線を設計しました。結果的に、高齢患者も円滑にデジタルサービスを利用できるようになり、地域のかかりつけ医としての信頼を一層深めることに成功しています。
出典参照:地域のかかりつけ医として高齢患者を取り残さない医療DXの仕組み作り
問診・予約のシステム連携を重視し、患者もスタッフも使いやすい動線へ|株式会社レイヤード
日本の最高学府の附属病院である東京大学医学部附属病院は、オンライン診療を積極的に導入し、医療へのアクセス向上につながっています。同院の専門的な医療を、地理的な制約なく全国の患者が受けられるようになりました。
この取り組みは、希少疾患の患者や専門医が近くにいない地域の患者に、大きな希望を与えています。先進的な医療機関が率先してDXに取り組む姿勢は、日本の医療全体の質の底上げと、医療格差是正につながる好例です。
医療従事者側の負担軽減に成功したHITO病院の事例です。リハビリテーション部門のセラピストは、従来、記録作成に多くの時間を費やしていました。
使い慣れたiPhoneの音声入力機能を活用し、リハビリ中に即時記録を作成する仕組みを導入しました。その結果、記録業務の時間が大幅に削減され、セラピストはより多くの時間を患者ケアに充てられるようになりました。身近な機器の活用は、費用を抑えつつ大きな効果を生む、賢いDXの進め方を示唆しています。
出典参照:iPhoneと⾳声⼊⼒が変えるセラピストの働き方改革|社会医療法⼈⽯川記念会HITO病院
医療DXを成功に導く導入ステップは、以下のとおりです。
それぞれ解説します。
医療DXを成功させるためには、まず自院の現状の正確な把握が大切です。スタッフへの聞き取りや業務フローの観察で、「どこに時間がかかるか」「何が非効率か」などの課題を徹底的に洗い出します。
洗い出した課題のなかから、経営への影響が最も大きく解決しやすいものを見極め、優先順位を決めましょう。最初の段階が、DX計画全体の方向性を決定づけます。
取り組むべき課題が明確になったあと、解決策となるシステムやツールを選定します。たとえば、ひとつの製品で決めず、複数の解決策の比較検討が重要です。
主に、機能や費用、支援体制や自院の規模や特性に合っているかなどの観点で、慎重に評価するのが望ましいです。可能な場合は、試用を依頼したり、導入済みの他院に話を聞いたりして、実際の使用感の確認をおすすめします。
優れたシステムを導入しても、利用者がいなければ意味がありません。医療DXのシステム導入決定後、一部の担当者だけでなく、関わる可能性のある全スタッフへ、導入の目的と利点を丁寧に説明する場を設けるのが望ましいです。
また、システムの本格運用開始前に、十分な訓練期間の確保が不可欠です。全員が安心して新システムを使えるよう、手厚い教育体制の整備が、導入後の混乱を防ぎ円滑な運用を実現します。
DXの導入は、一度に全てを変えず、小規模に始めるのがシステム導入を成功させるコツです。まずは特定の部署や業務に限定して導入し、効果を測定します。
たとえば「使いにくい点はないか」「もっと良い活用法はないか」など、現場の声を収集して改善を加えていくのが望ましいです。小さな成功と改善の循環(PDCA)を繰り返し、失敗の危険性を最小限に抑えることで、着実に組織全体へ変革を広げられます。
医療DXとデジタル格差は、日本の医療課題解決に不可欠なテーマです。医療DXは、人材不足や地域格差など、日本の医療が抱える構造的な課題を解決し、持続可能な医療体制を築ける取り組みとなります。
しかし、推進方法を誤ると、デジタルに不慣れな人々を医療から遠ざけ、新たな格差を生む危険性もあります。真の医療DXは技術導入だけでなく、患者と医療従事者、社会などの視点に立った「人に優しいDX」の実現にあります。将来へ向けて、医療でのデジタル格差が拡大しない、持続可能な体制づくりを進めていきましょう。