不動産DXの課題と期待できる効果・事例を解説

不動産DXの推進には、人材・データ・コスト・法的な面で課題があります。この記事では不動産DXを推進するうえでの課題やポイントを、成功事例も併せて解説します。

「不動産DX導入する際、どのような課題があるのか知りたい」「なぜ今、不動産業界でDXが求められているのか知りたい」「不動産業界特有の課題をDX化して解決できるのか知りたい」と感じている方も多いのではないでしょうか。

不動産DXを推進する際の課題には、「DXに精通している人材が不足している」「アナログな方法からの切り替えに時間がかかる」「分散しているデータの統合が難しい」などが挙げられます。

この記事では、不動産DXを推進するうえでの課題やポイントを、成功事例と併せて解説します。不動産DXを推進することで得られる効果や不動産DXの具体的な解決法まで解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。

不動産業界にDX技術を積極的に導入する背景

不動産DXの導入を推奨する背景には、以下の3つが挙げられます。

  • 長時間労働の常態化により人手が不足している
  • 不動産業界特有のアナログな方法が染み付いている
  • 顧客ニーズが変化している

それぞれ解説します。

長時間労働の常態化により人手が不足している

不動産業界では、長時間労働による人手不足が問題になっています。以下は、厚生労働省による令和5年上半期と令和6年上半期の産業別入職率・離職率の調査結果です。

引用元:厚生労働省 令和5年上半期雇用動向調査結果の概要 産業別の入職と離職の状況

引用元:厚生労働省 令和6年上半期雇用動向調査結果の概況

令和5年上半期の結果では、「不動産業,物品賃貸業」における離職率が入職率を上回っています。一方で、令和6年上半期の入職率が7.5%、離職率は7.1%という現状です。令和6年上半期は令和5年上半期と比べて離職率が低下していますが、入職者数そのものが低下しているとも読み取れます。

こうした状況が続き、離職者が増加してしまうと残った社員に負担がかかります。とくに土日勤務や対面営業が多い不動産業界では、柔軟な働き方の実現が急務です。業務を見直し、DX化によって職場環境の改善を図りましょう。

不動産業界特有のアナログな方法が染み付いている

不動産業界では、手書きの書類やファクスを用いたやり取りが今もなお残っています。こうした手法は、情報共有の遅延や作業ミスのリスクを高める要因です。

正確かつ効率的な業務や柔軟な働き方を実現するためには、ペーパーレス化やオンラインでの顧客対応といったDXの導入が必要です。

顧客ニーズが変化している

細分化された顧客の要望に応えるには、従来の画一的な営業方法では限界があります。スマートフォンの普及やライフスタイルの変化にともない、非対面・オンライン型のサービスを求める顧客が増加傾向にあります。

物件選びの基準も新築や広さだけでなく、中古物件を自分好みにリノベーションしたい、趣味のための空間がほしいといった多様なものになりました。今後は、顧客一人ひとりに合わせた柔軟な提案ができる営業体制の構築が重要です。

不動産DXを推進するうえでの課題

不動産DXの推進には、以下の5つの課題があります。

  • DXに精通している人材が不足している
  • アナログな方法からの切り替えに時間がかかる
  • 分散しているデータの統合が難しい
  • 法律や規制の面で適合が難しい
  • 技術導入におけるコストに対して効果が見えにくい

1つずつご紹介します。

DXに精通している人材が不足している

不動産業界のDX推進における課題は、デジタル技術やデータ活用に精通した人材の確保が難しいことです。そのため、ツールを導入しても活用方法がわからず、成果に結びつかない場合もあります。

この課題を解決するには、専門家への外部委託や、社員への教育体制を整える必要があります。OJTや研修制度を通じて、継続的に人材を育てていきましょう。

アナログな方法からの切り替えに時間がかかる

従来の業務フローを変更することに対して、心理的な抵抗が生じる場合があります。現場の社員にとっては、慣れ親しんだ方法が一番効率的だと感じるケースもあるでしょう。

まずは少人数の部署などから試験的に導入し、成果を共有していく方法が有効です。成功体験を広げることで、段階的に全社への定着を図りましょう。

分散しているデータの統合が難しい

不動産DXでデータを活用する際、部署ごとに情報が分断されていると連携が取りにくくなり、データ活用にも支障が出ます。こうした状況は「データのサイロ化」と呼ばれ、DXのメリットを十分に発揮できない要因です。

しかし、クラウド環境の導入により、情報共有と一元管理を実現できます。まずは、全社共通の情報基盤の整備を進めていくのが重要です。

法律や規制の面で適合が難しい

不動産業界は宅地建物取引業法や個人情報保護法などの法律や規制が、デジタル化の障壁となる場合もあります。そのため、便利な新しいサービスを導入したくても、法律が追い付いていない場合もあるのです。

不動産業界では個人情報の取扱いが多く、セキュリティ面の対策も欠かせません。制度への理解を深め、法的リスクを踏まえてDX導入を計画的に進めることが求められます。

引用元:

不動産業:宅地建物取引業法 法令改正・解釈について – 国土交通省

個人情報の保護に関する法律|厚生労働省

技術導入におけるコストに対して効果が見えにくい

不動産DXの推進は、初期コストの高さに対して効果が実感しにくいという課題があります。、DXの成果は中長期的にあらわれることが多く、業務効率化や顧客満足度の向上といった効果が、すぐに数値であらわれにくいです。

定量的な評価だけでは判断が難しい場合もあるため、従業員の負担軽減や働きやすさといった定性的な成果も含めて評価軸を設けることが求められます。

しかし、コストに関しては、補助金を利用するのも1つの手です。中小企業庁の「IT導入補助金」や「小規模事業者持続化補助金」など、自社で申請できるものがないか確認するのもおすすめです。

引用元:

生産性向上を目指す皆様へ 令和5年11月時点版「IT導入補助金」でIT導入・DX (デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上を支援!|中小企業庁

地域を支える小規模事業者等の皆様へ持続化補助金で販路開拓!!「小規模事業者持続化補助金」が拡充されます|中小企業庁

不動産DXを推進することで得られる効果

不動産DXを推進するメリットは、以下の6つです。

  • 仕事のスピードや生産性が上がる
  • 離職率の低下に繋がる
  • 無駄なコストを削減できる
  • 多様化した顧客のニーズに対応できる
  • 新たなビジネスモデルの創出に繋がる
  • 迅速かつ正確な意思決定ができる

それぞれご紹介します。

仕事のスピードや生産性が上がる

不動産DXは、従来のアナログ業務をデジタル化し、仕事全体のスピードと生産性の向上が実現可能です。システム・ツールの導入後は、情報の検索・管理が効率化され、無駄な作業が削減されます。

たとえば、物件情報や顧客情報の管理、書類作成などをデジタルツールで行うと、情報の検索や共有が格段に速くなります。全体として業務の生産性が高まるため、社員の負担軽減にもつながるでしょう。

離職率の低下に繋がる

不動産DXによる業務効率化は、社員の定着率を上げるうえで効果的です。たとえば、チャットボットや電子契約の導入で残業が減少した例もあります。また、リモートワークといった場所に縛られない柔軟な働き方も可能です。

働きやすい環境は、社員の満足度を高められるため、離職率を下げられます。さらに、働きやすい会社として評判が高まれば、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。

無駄なコストを削減できる

業務のデジタル化により、紙代・郵送費・交通費といった物理的なコストを削減できます。たとえば、契約書や物件の資料などを電子化する「ペーパーレス化」を行うと、紙代や印刷代、郵送費、書類を保管しておく場所代が不要です。

また、顧客が現地に行かなくても物件を見学できる「VR内見」の導入によって、営業担当者の移動にかかる交通費や時間を削減できます。DX化で業務が効率化されることで、残業時間の減少にも繋がるため、残業代といった人件費を抑える効果もあります。

多様化した顧客のニーズに対応できる

不動産DXのデジタル技術を活用することで、多様化する顧客の事情や要望に合わせた柔軟な対応が可能です。たとえば、非対面型やオンライン内見といった選択肢が増えた点が挙げられます。

具体的には、遠方に住んでいる方や仕事で忙しい方でも、オンライン内見で自宅から気軽に物件の確認ができます。また、電子契約を導入すると、オンラインでの契約手続きも実現可能です。

オンラインツールを活用することで、企業の競争力や顧客満足度の向上につながります。

新たなビジネスモデルの創出に繋がる

不動産DXの推進により、新しい収益モデルの展開が可能になります。デジタル技術を活用すると、従来の制約を超える柔軟な提案が可能です。

たとえば、家具の配置を仮想空間でシミュレーションできるサービスや、プロのコーディネーターが遠隔でインテリアを提案するサービスが提供できます。不動産DXの導入により、会社の可能性を広げるきっかけがつくれます。

迅速かつ正確な意思決定ができる

データに基づいた判断により、より精度の高い経営判断が迅速にできるようになります。既存のシステム・ツールのDX化は、経験に依存しないため、客観性のある意思決定が可能です。

たとえば、顧客傾向や成約履歴を分析することで、施策の優先順位を明確に設定できます。どの物件を仕入れるべきか、どのような広告を出すべきかといった重要な判断がデータをもとに行えるため、ビジネスの成功率向上にも役立ちます。

不動産DXに有効な解決法6選

不動産DXに有効な解決法は、以下の6つです。

  • 契約をオンラインで完結できる
  • お問い合わせに自動で答える
  • AIが物件の価格を自動で計算してくれる
  • 家にいながら物件を内見できる
  • 鍵の受け渡しをオンラインでできる
  • 入居者がスマホのアプリで手続きできる

それぞれ解説します。

契約をオンラインで完結できる

電子契約システムを導入すると、紙の書類とハンコで行っていた不動産契約の手続きを、オンラインのみで完結できます。

顧客は契約をオンラインで行えるため、会社側も書類の印刷や郵送、印紙代といったコスト削減ができます。

お問い合わせに自動で答える

問い合わせ業務をAIに任せることで、顧客からの質問にいつでも自動で答えてくれます。たとえば、「空室確認」や「内見予約」といった問い合わせに対しては、AIが即座に対応してくれます。

結果的に、社員が電話やメールで対応する手間の削減につながるでしょう。また、営業時間外の問い合わせにも対応できるため、顧客満足度を高めつつ、業務効率化にも役立ちます。

AIが物件の価格を自動で計算してくれる

AIを活用した自動査定を導入すると、査定の精度とスピードを両立できます。AI化は、査定業務にかかる時間も大幅に短縮できるため、生産性向上に繋がる有効な方法です。

たとえば、AIが周辺エリアの売買情報を分析し、適正価格を導き出す仕組みも実用化されています。顧客に対しては、なぜその価格になるのかという根拠をデータで示せるため、提案の説得力も増します。

家にいながら物件を内見できる

VR技術を活用することで、顧客は自宅にいながら物件を内見できます。たとえば、360度の画像や動画によって、現地訪問と同様の体験が得られます。

そのため、遠方在住の顧客がスマートフォンを使って複数の物件の比較が可能です。会社側にとっても営業担当者の移動時間や案内コストを削減できるため、利便性の高い内見体験によって、成約率の向上を目指せます。

鍵の受け渡しをオンラインでできる

スマートロックを活用により、物件の鍵の受け渡しをオンラインで行えます。アプリや遠隔操作によって施錠・解錠ができ、安全に鍵の管理が可能です。

もし入居者がアプリで鍵を操作できれば、現地での待ち合わせが不要になります。スマートロックの導入によって、安全かつ柔軟な受け渡しが実現できます。

入居者がスマートフォンのアプリで手続きできる

入居後の各種手続きをスマートフォンのアプリで完結できると、入居者と管理側双方の手間を省けます。たとえば、家賃の支払いや部屋の設備故障による修理依頼、通知の確認などをスマートフォンで簡単に行えます。

顧客の快適な入居体験と、会社の業務効率化を両立する仕組みの構築が重要です。

不動産DXの成功事例

不動産DXを導入したことで、成功した事例を具体的な企業名とあわせて3つご紹介します。

  • 自動査定システムを導入|三井不動産リアルティ
  • 鍵の受け渡しを非対面でできる|東急住宅リース
  • 顧客ニーズに合った精度の高い提案ができる|LIFULL

それぞれ解説します。

自動査定システムを導入|三井不動産リアルティ

三井不動産リアルティは、AIと大量の物件データを使った自動査定システムを導入し、査定のスピードと正確さを向上させました。

属人的な判断ではなく、価格の根拠をデータで示せるため、査定のばらつきを防ぐとともに、顧客の納得感を高めることに成功しました。

引用元:不動産購入・中古、新築物件探し・不動産仲介は三井のリハウス|三井不動産リアルティ株式会社

鍵の受け渡しを非対面でできる|東急住宅リース

東急住宅リースはスマートロックなどのIoT機器を使い、非対面での鍵の受け渡しを可能にしました。

アプリを通じた遠隔操作で鍵の施錠・解錠が可能となり、入居時や退去時に現地での立ち会いが不要になったことで、業務の柔軟性の向上と、顧客満足度の向上にもつながりました。

引用元:東急住宅リース 想いも、資産も。叶えていく。資産運用のパートナー|東急住宅リース株式会社

顧客ニーズに合った精度の高い提案ができる|LIFULL

LIFULL(ライフル)は、ユーザーの検索履歴や閲覧履歴などの行動データをAIが分析し、1人ひとりに合った物件を自動で提案する機能を導入しました。

AIが顧客自身も気付かないニーズを把握・分析し、希望の条件で物件を提案してくれます。理想の住まいが見つかりやすくなり、顧客満足度の向上につながっています。

引用元:株式会社LIFULL│あらゆるLIFEを、FULLに。

不動産DXを推進する際のポイント

不動産DXを推進する際のポイントは、以下の3つです。

  • DX導入を段階的に導入する
  • DXに精通した外部パートナーと連携する
  • 社内教育と意識改革を推進する

1つずつ解説します。

DX導入を段階的に導入する

DXを一気に進めるのではなく、段階的な導入が効果的です。最初から大きな変化があると、現場の混乱や抵抗を招くリスクもあります。

そのため、契約書類の電子化から始めて成果を確認し、次に他部門に展開していくなどの手法がおすすめです。小さな成功を積み重ねることで、社内に前向きな雰囲気を育てていきましょう。

DXに精通した外部パートナーと連携する

DX化を社内だけで進めるのが難しい場合は、外部パートナーと連携することが有効です。DXに精通した専門家は、さまざまな企業の事例を知っているため、自社の課題に合った最適な解決策を提案してくれます。

また、システムやツールを選択する際は、自社のビジネスを深く理解し、導入後も親身にサポートしてくれるベンダーを選びましょう。

社内教育と意識改革を推進する

DX推進を成功させるためには、社員全体でIT技術を使いこなせるように、ITへの苦手意識の克服が重要です。どんなに優れたツールを導入しても、使う側の社員が操作できなかったり、活用する意欲がなかったりすれば意味がありません。

そのため、新しいツールの使い方に関する研修会や、わかりやすいマニュアルの整備など社内への教育体制を整えることも必要です。

不動産DXによる不動産業界の発展

今後の不動産業界では、IT技術を理解し活用する能力や、新しい変化に柔軟に対応できる姿勢が重要です。DXの導入は、不動産業界全体の競争力を強化する原動力となります。

また、業務効率の向上やサービスの高度化が進むと、必要な人材やリソースをより戦略的に活用できるようになります。DX化は不動産業界全体のサービスレベル向上と健全な発展を促すため、業界全体で持続可能な成長を目指すのが重要です。

まとめ

不動産DXの課題には、人材不足や高額な初期コスト、社内の抵抗などが挙げられます。これらの課題を乗りこえるには、段階的な導入や社員教育、外部との連携など、多面的な取り組みが重要です。

対して、DX化を進めることで、以下のような効果をもたらします。

  • 業務効率の向上
  • コスト削減
  • 顧客満足度の向上
  • 新たなビジネスモデルの創出

DXの推進は、企業文化や業務プロセス全体の変革をともなうため、その推進は容易ではありません。しかし、実際に不動産DX導入による成功事例も増えており、DX化は今後の不動産業界の成長を左右する重要なテーマとなります。

変化の時代に柔軟に対応するためにも、前向きにDXへの取り組みを進めていきましょう。