不動産DXによるコスト削減がもたらす効果や導入すべきツール

不動産業界の方で、「営業マンの残業が多く、業務フローの改善に頭を抱えている」「広告費や紙資料の印刷代など、目に見えにくいコストが重荷になっている」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。

そこで重要になるのが、不動産DXです。不動産DXの導入は、将来的なコストの削減につながります。この記事では、以下の内容を解説していきます。

• 不動産業界でコスト削減が重要視されている理由
• 不動産DXによるコスト削減がもたらす効果
• コスト削減のために導入すべき不動産DXツール

この記事を読むことで、業務効率の改善がなぜコスト削減につながるのか、どのようなツールを導入すればいいのかを理解できます。不動産業界の方でコスト削減の方法を検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。

不動産業界でコスト削減が重要視されている理由

不動産業界でコスト削減が重要視されている理由は、主に以下の4つです。

• 人件費・紙資料コストなどの「見えない経費」が多いから
• 人手不足が進んでいるから
• 競争激化により利益率が下がっているから
• 不動産業界は外的な要因の影響を受けやすいから

それぞれ解説していきます。

人件費・紙資料コストなどの「見えない経費」が多いから

不動産業界の業務や取引には、以下のような「見えない経費」が多く潜んでいます。

• 紙関連のコスト： 契約書や重要事項説明書などの印刷代、収入印紙代、郵送費
• 保管コスト： 大量の書類を保管するためのキャビネットや倉庫の賃料・管理費
• 人的コスト： 上記の書類作成や管理、顧客対応に費やされる従業員の膨大な労働時間

これらの見えない経費を削減することが、不動産業界では喫緊の課題となっています。

参考元：不動産取引のオンライン化について（IT重要事項説明・書面の電子化） 参考資料｜国土交通省

人手不足が進んでいるから

少子高齢化にともなう深刻な人手不足への対策として、コスト削減と業務効率化が急務となっています。

不動産業界は、個人の経験や勘に頼る部分が多く、若手人材の確保や育成が課題とされています。ベテラン従業員の高齢化が進む一方で、新しい働き手が集まりにくいのが現状です。

限られた人数で成果を出し続けるためには、移動時間や書類作成といった非効率な業務を徹底的に削減し、一人ひとりの生産性を高める必要があります。ITツールを活用したコスト削減は、人手不足の状況でも事業を安定して成長させるための鍵です。

競争激化により利益率が下がっているから

不動産業界は、異業種からの参入や新しいWebサービスの台頭で市場の競争が激化し、各社の利益率が低下傾向にあります。

近年では、従来の不動産会社だけでなく、テクノロジーを駆使したPropTech（プロップテック）企業が次々と新しいサービスを開始しています。（PropTechとは、不動産（Property）とテクノロジー（Technology）を組み合わせた造語）

顧客はWeb上で簡単に情報を比較検討できるため、価格競争やサービス競争がますます激しくなっているのです。そのため、仲介手数料などの伝統的な収益モデルだけでは、十分な利益を確保するのが難しくなっているのが現状です。

厳しい競争を勝ち抜くには、無駄な経費を削減し、顧客満足度の向上など、より価値の高い業務へ投資する必要があります。

参考元：不動産テック カオスマップ｜不動産テック協会 – Real Estate Tech Association for Japan

不動産業界は外的な要因の影響を受けやすいから

不動産業界は、景気変動や金利、法改正や社会情勢といった外部要因の影響を直接受けやすく、経営を安定させるためにはコスト削減が重要です。

たとえば、金融政策による金利の上昇は住宅ローン市場を冷え込ませ、パンデミックのような予期せぬ事態は人々の住まいに対する考え方を一変させます。また、電子契約を解禁する法改正など、常に環境は変化しているのです。

こうした予測しにくい変化に迅速に順応できるよう、普段から無駄な経費を減らし、変化に強い経営体質を築いておく必要があります。

不動産DXによるコスト削減がもたらす効果

不動産DXを進めることで、以下の効果が期待できます。

• 物件管理の自動化によって人件費を削減できる
• 事務用品・郵送費などの経費を削減できる
• 顧客満足度の向上につながる
• 新たな顧客へのアプローチを増やせる

一つずつ解説していきます。

物件管理の自動化によって人件費を削減できる

不動産DXツールを導入すると、これまで人がおこなっていた物件管理や顧客対応の一部を自動化でき、結果として人件費の大幅な削減につながります。

たとえば、顧客からの内見予約や問い合わせに自動で応答するチャットボット、賃料の入金管理や督促を自動でおこなうシステムなどがあります。これらの導入は、従業員が事務作業に費やしていた時間を解放するのです。

そのため、従業員はより専門的な業務に集中できるようになり、会社全体の生産性が向上します。

事務用品・郵送費などの経費を削減できる

日々の業務をデジタル化すると、これまで当たり前だった紙や印刷、郵送にかかる物理的な経費を根本から削減できます。

たとえば、電子契約システムを導入すれば、契約書や重要事項説明書を紙に印刷する必要がなくなり、収入印紙も不要になる場合があります。また、顧客への書類の郵送も不要になるため、郵送費や封筒代といったコストもゼロになるのです。

ペーパーレス化は、書類の保管スペースの削減にもつながり、オフィスコスト全体の圧縮に大きく貢献します。

顧客満足度の向上につながる

DXによる業務効率化は、顧客への対応スピードやサービスの質を向上させ、結果として顧客満足度の向上に直接つながります。

たとえば、顧客は店舗の営業時間外でもWebサイトから24時間いつでも物件の問い合わせや内見予約が可能です。またオンライン内見によって、遠方に住む顧客でも気軽に物件の詳細を知ることができます。

このような顧客の体験は、顧客満足度の向上につながり、企業の競争力を強化するのです。

新たな顧客へのアプローチを増やせる

不動産DXは、コストを抑えながら、これまで出会えなかった新たな顧客層へアプローチするための強力なマーケティングツールとなります。

不動産DXを促進することで、Webサイトの閲覧データなどを分析し、顧客の興味に合わせた物件情報を自動で提案したり、SNS広告で特定のエリアや年齢層にターゲットを絞って情報を届けたりすることが可能になるのです。

また、オンラインセミナーなどを開催し、広範囲から見込み客を集めることもできます。

データにもとづく効率的なマーケティングは、広告宣伝費を最適化し、新たなビジネスチャンスを創出します。

コスト削減以外にも注目したい不動産DXのメリット

不動産DXには、コスト削減以外にも以下のようなメリットがあります。

• 従業員の雇用満足度が向上する
• 属人化を防止できる
• 経営の可視化と迅速な意思決定を実現できる
• セキュリティが強化される
• 企業価値が高まる

それぞれ解説します。

従業員の雇用満足度が向上する

不動産DXの推進によって、単調な事務作業や非効率な業務が必要なくなることで、従業員の働きがいを高め、従業員満足度の向上につながります。

たとえば、時間のかかっていた契約書作成や郵送を自動化することで、従業員はより専門的な顧客提案に注力できます。また、リモートワークなどの柔軟な働き方を実現し、ワークライフバランスの改善も期待できるでしょう。

働きやすい環境作りは、優秀な人材の確保と定着に大きく貢献するのです。

属人化を防止できる

顧客情報や案件の進捗状況をデジタルデータとして一元管理すると、特定の営業担当者しか分からないといった業務の「属人化」を防げます。

DX前の業務では、「あの顧客のことはAさんしか知らない」という状況が起こりがちでした。CRM（顧客関係管理）ツールなどを導入すると、担当者が急に休んだり、退職したりしても、他の従業員がスムーズに情報を引き継いで対応することが可能です。

業務ノウハウを個人ではなく組織全体の資産として蓄積し、安定したサービス提供を実現します。

経営の可視化と迅速な意思決定を実現できる

DXツールは、営業成績や問い合わせ件数、契約率といった経営に関する様々なデータを自動で集計・分析し、経営状況の「可視化」を実現します。これまでは感覚的に判断していた部分を、グラフなどの客観的なデータにもとづいて把握できるようになるのです。

「どの広告からの問い合わせが最も成約につながっているか」などを即座に分析し、効果的なマーケティング戦略を立てることが可能です。データにもとづく迅速かつ的確な意思決定は、企業の競争力を大きく高めます。

セキュリティが強化される

重要な契約書や顧客情報を紙ではなく、セキュリティレベルの高いクラウドサーバーなどで管理すると、情報漏洩や紛失のリスクを大幅に低減できます。

紙の書類は、盗難や火災、水害などで物理的に失われるリスクが常にあります。一方、デジタルデータは、アクセス権限の設定や暗号化、自動バックアップなど、何重ものセキュリティ対策が可能です。

とくに個人情報保護の重要性が高まる現代において、このメリットは非常に大きいのです。顧客からの信頼を獲得し、企業の信用を守るうえでもセキュリティ強化は不可欠です。

企業価値が高まる

不動産DXを推進し、業務効率や生産性、顧客満足度を向上させると、企業の収益性や将来性への評価につながり、総合的な企業価値を高めます。

デジタル化に積極的な企業は、働きやすい環境として求職者からも選ばれやすくなり、優秀な人材が集まります。また、環境に配慮したペーパーレス化や、データにもとづく透明性の高い経営は、金融機関や投資家からの評価も高めるでしょう。

不動産DXへの取り組みは、企業のブランドイメージを向上させ、未来への成長投資となるのです。

コスト削減のために導入すべき不動産DXツール

コスト削減のために導入すべき不動産DXツールは、以下の3つです。

• 営業支援（SFA/CRM）ツール
• 賃貸・売買管理クラウド
• RPAルール

詳しく解説します。

営業支援（SFA/CRM）ツール

営業支援（SFA/CRM）ツールは、顧客情報や商談の進捗状況を一元管理し、営業活動の無駄をなくして、人件費の削減に貢献します。

たとえば、過去の問い合わせ履歴や顧客の希望条件などをデータとして蓄積し、最適な物件を自動で提案したり、見込み客へのメール配信を自動化したりすることが可能です。これにより、営業担当者が顧客一人ひとりに費やす時間を最適化できます。

また、情報がチーム全体で共有されるため、担当者の不在時にもスムーズな顧客対応ができ、機会損失を防ぎます。営業プロセスの効率化と可視化は、人件費あたりの成約率を高める上で不可欠です。

賃貸・売買管理クラウド

賃貸・売買管理クラウドは、物件情報、契約内容、入出金といった煩雑な管理業務をデジタル化し、事務作業の手間とコストを大幅に削減するツールです。

たとえば、賃貸管理では、毎月の家賃の入金状況を自動でチェックし、未入金があれば自動で督促をおこなうことが可能です。また、契約更新の時期が近づいた入居者へのお知らせも自動化できます。

これらの機能は、これまで手作業でおこなっていた膨大な確認作業や連絡業務をなくし、管理部門の人件費を直接的に削減します。正確なデータ管理は、人的ミスを防ぎ、健全なキャッシュフローの維持にもつながります。

RPAツール

RPA（Robotic Process Automation）ツールは、パソコンでおこなう定型的な事務作業を、ソフトウェアのロボットに代行させることで、作業時間を劇的に削減する技術です。

たとえば、SUUMOやホームズといった不動産ポータルサイトから新しい物件情報を自社のシステムに毎日コピー＆ペーストする作業や、日々の営業データを集計して報告書を作成する作業などを、ロボットが24時間365日、ミスなく自動でおこないます。

これにより、従業員は単純な繰り返し作業から解放され、その他の業務に時間を使えるようになり、実質的な人件費の削減が実現します。

実際に不動産DXでコスト削減した事例

実際に、不動産DXでコスト削減した事例を3つご紹介します。

• 東急不動産ホールディングス株式会社
• 株式会社GA technologies
• 三井不動産株式会社

どのような成功例があるのか、ぜひ参考にしてみてください。

東急不動産ホールディングス株式会社

東急不動産ホールディングスは、グループ全体のDX戦略「TFHD-X」を掲げ、クラウド会計システムの導入などによって、業務プロセスの標準化と経費削減を推進しています。

たとえば、これまで各社で異なっていた会計システムを統一し、請求書などの書類をデジタル化しました。これにより、紙の印刷や郵送、保管にかかるコストを削減しただけでなく、入力作業や承認プロセスが効率化され、従業員の作業時間を大幅に短縮したのです。

グループ全体でデータ基盤を整備すると、将来の経営戦略にもデータを活用できるという効果も生まれます。

参考元：「2023 環境経営レポート」「2023 DX レポート」の公表について｜東急不動産ホールディングス株式会社

株式会社GA technologies

PropTech企業であるGA technologiesは、自社開発の不動産取引プラットフォーム「RENOSY」において、AIを活用した業務自動化で、徹底的なコスト削減を実現しています。

AIが膨大な物件情報から顧客の希望に合う物件を自動で提案したり、契約手続きの多くをオンラインで完結させたりします。これにより、営業担当者がおこなっていた作業時間を大幅に削減し、より少ない人数で多くの顧客に対応できるようになりました。

まさに不動産DXによって生産性を高め、コスト競争力を強化している代表的な事例です。

参考元：サービス | 株式会社GA technologies

三井不動産株式会社

三井不動産は、ビル管理や住宅販売の現場にデジタル技術を導入し、省人化とエネルギーコストの削減、そして業務効率化を同時に達成しています。

たとえば、オフィスビルに多数のセンサーを設置し、AIが空調や照明を最適に制御することで、エネルギー使用量を削減します。また、マンションの契約手続きをオンラインでおこなえるサービスを導入し、顧客と従業員双方の移動時間や書類作成の手間を省いているのです。

このような取り組みは、コスト削減だけでなく、環境への配慮や顧客体験の向上にもつながっています。

参考元：DX本部｜三井不動産の組織｜事業紹介｜三井不動産株式会社

不動産DX導入で注意すべきポイント

不動産DX導入を導入するのであれば、以下4つのポイントに注意してください。

• コストに関する自社の課題を明確にする
• 初期費用や運用コストを見極める
• 現場との調整を徹底しておこなう
• 段階的に導入する

それぞれ解説していきます。

コストに関する自社の課題を明確にする

まず最初に、不動産DXによって「何を解決したいのか」「どのコストを削減したいのか」という自社の課題を明確に定義することが重要です。

たとえば、「紙の契約書が多くて保管コストがかさんでいる」「物件の問い合わせ対応に多くの人件費が割かれている」など、具体的な課題を洗い出します。目的が明確であれば、数あるDXツールの中から、自社に本当に必要な機能を備えたものを選定できます。

目的の明確化が、効果的なツール選びと、導入後の成果を測るための大切な第一歩となるのです。

初期費用や運用コストを見極める

DXツールの導入にあたっては、初期費用だけでなく、月々の利用料やメンテナンス費用といった継続的な運用コストまで含めて、費用対効果を慎重に見極める必要があります。

高機能なツールを導入しても、その運用コストが削減効果を上回ってしまっては本末転倒です。無料トライアル期間などを活用し、機能とコストのバランスが自社に見合っているかを確認しましょう。

長期的な視点でトータルコストを把握すると、導入後の「こんなはずではなかった」という事態を防げます。

現場との調整を徹底しておこなう

新しいシステムを導入する際は、実際にそれを使う現場の従業員に対して、目的やメリットを丁寧に説明し、理解を得るための調整を徹底しておこないましょう。

経営層だけで導入を決めても、現場の従業員が「使い方が分からない」「今までのやり方が楽だ」と感じてしまうと、ツールが全く使われず形骸化してしまいます。ツールの導入前に研修会を開いたり、現場の意見を聞いてツール選定に反映させたりする姿勢が大切です。

段階的に導入する

一度に全ての業務をデジタル化しようとせず、特定の部署や業務に絞って小さく始める「スモールスタート」が、失敗のリスクを抑えるうえで非常に有効です。

たとえば、まずは「顧客管理」だけをデジタル化してみる、あるいは特定の店舗だけで新しいシステムを試してみる、といった方法です。小さく始めることで、課題点を早期に発見し、改善しながら全社展開へとつなげられます。

まとめ

不動産業界では、見えない経費が多かったり、人手不足が深刻化したりしている影響で、不動産DXによるコスト削減の必要性が増しています。

不動産DXによるコスト削減によって、以下のような効果が期待できるでしょう。

• 物件管理の自動化によって人件費を削減できる
• 事務用品・郵送費などの経費を削減できる
• 顧客満足度の向上につながる
• 新たな顧客へのアプローチを増やせる

コスト削減のための精査をしている不動産関係者の方は、営業支援ツールやRPAツールなどの導入を検討してみてください。