不動産DXとブロックチェーン|仕組み・メリット・活用事例を解説

不動産DXに取り組むに当たって、ブロックチェーンの活用は、取引の透明性と安全性を高めるうえで欠かせません。ブロックチェーンを活用する際の課題を把握し、ブロックチェーンの活用を進め、契約の自動化や登記手続きの効率化、コスト削減につなげましょう。この記事では、不動産DXにおけるブロックチェーンの仕組みやメリット、事例を解説しています。

「不動産DXを推進するにあたって、不動産取引や契約にブロックチェーンを活用する具体的な仕組みを知りたい」

「不動産DXにおけるブロックチェーン導入によって何が効率化・改善されるのかを把握したい」

「不動産DXにおける不動産業界でのブロックチェーン活用事例やメリット・導入コストを比較検討したい」

不動産DXの促進を考えている方のなかには、上記のお悩みを抱える方もいるのではないでしょうか。

ブロックチェーンを活用できる業務のなかには、不動産登記と権利情報の管理、スマートコントラクトによる契約・取引の自動化などが挙げられます。この記事では、不動産DXでブロックチェーンを活用できる業務や効果、事例を解説します。

ブロックチェーンとは何か、既にブロックチェーンを活用している業界など、基礎的な部分もご紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンとは、データの改ざんを防ぎ、安全性と信頼性を高める分散型のデータ管理技術です。特定の管理者がいない「分散型台帳」と呼ばれる仕組みで、世界中の参加者が同じ情報を共有・管理する点が最大の特徴です。

もともと仮想通貨ビットコインの中核技術として登場しましたが、近年ではその透明性やセキュリティの高さから、さまざまな業界で注目されています。不動産分野でも契約や登記の信頼性向上を目的に、導入が進みつつある技術です。

ブロックチェーンの技術の仕組み

ブロックチェーンは、取引履歴を記録した「ブロック」を暗号化しながら、時系列順に連結していく技術です。記録したデータは世界中のコンピューターに分散され、関係者全体での検証が常におこなわれているため、改ざんによる不正を防ぐうえで効果的です。

各ブロックには直前のブロックの情報をまとめた値が含まれているため、過去のデータを1カ所でも改ざんすると、すべてのブロックの整合性が崩れ、改ざん箇所を即座に発見可能です。

ブロックチェーンが活用されている業界

ブロックチェーンは、その透明性と改ざん耐性から、さまざまな業界で活用が広まっています。たとえば、金融業界では国際送金の迅速化、農業や食品分野では生産から消費までの履歴を記録するトレーサビリティ、美術品や音楽の分野ではNFTを使った所有権の管理に利用されています。医療分野でもカルテ管理への応用が拡大中です。

不動産業界では、契約書のデジタル化や登記情報の自動管理などにブロックチェーンを活かす動きが強まりつつあり、業務の効率化と信頼性向上を同時に実現する技術として注目されています。

出典参照:クロスボーダー送金・決済の高度化に向けた国際的な潮流|金融庁

出典参照:スマート農業|農林水産省

出典参照:デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について第一次答申|文化庁

出典参照:医療分野の情報化の推進について 電子カルテシステム等の普及状況の推移|厚生労働省

不動産DXでブロックチェーンを活用する際の課題

不動産DXでブロックチェーンを活用する際の課題は、以下の4つです。

  • 法整備が遅れている
  • システムの処理速度に時間がかかる
  • 専門の人材が不足している
  • 不動産市場ではインフラの整備が遅れている

1つずつ見ていきましょう。

法整備が遅れている

ブロックチェーンを不動産取引に本格導入するには、関連する法律の整備が不十分です。ブロックチェーン上で発行されたデジタルの権利証が、正式な登記と同じ法的効力を持つのかといった点に、明確なルールが定まっていません。

また、契約を自動で実行するスマートコントラクトが、現行の宅地建物取引業法と整合するのかといった問題もあります。こうした不透明さが企業の導入をためらわせ、大規模な普及の障壁となっています。

システムの処理速度に時間がかかる

ブロックチェーンは安全性を保つ仕組みに優れている一方で、処理に時間がかかるのが課題です。ネットワーク内の複数のコンピューターが「この取引は正しい」と合意するまでに一定の時間が必要なため、即時処理が求められる場面には向いていません。

少額の権利移転やリアルタイムな取引が増えると、処理の遅さが業務の支障になるリスクがあります。現在はこの課題を克服するために、処理速度を高める新技術の開発が進められており、今後の改善に期待が集まっています。

出典参照:パブリックブロックチェーンの技術動向~企業活用に向けた技術課題と現状~|株式会社日本総合研究所先端技術ラボ

専門の人材が不足している

ブロックチェーンの導入において、専門知識を持った人材が不足しているのが課題です。不動産会社がブロックチェーンを導入しようとしても、適切な人材を確保するのが難しく、社内だけでプロジェクトを進めるのは困難です。

また、システム開発を担うエンジニアだけでなく、技術を活用したサービスを考える企画担当や、法律面の調整を担う専門家も不足しています。ブロックチェーンの専門知識を持った人材の不足は、開発コストや人件費の上昇にもつながり、ブロックチェーンを導入するうえでの壁となっています。

不動産市場ではインフラの整備が遅れている

不動産業界におけるブロックチェーン活用を広げるには、共通インフラの整備が必要ですが、現状ではその準備が十分ではありません。企業ごとに異なる規格でシステムを構築してしまうと、データ連携が困難になり、結果として業界全体の効率化が実現できなくなります。

今は各企業が独自にブロックチェーンの実証実験をおこなっており、業界全体で連携できる統一されたプラットフォームが存在しない状況です。今後は業界を横断する形で、データの標準化やシステム連携のルールを整備するのが重要です。

不動産DXでブロックチェーンを活用するメリット

ブロックチェーンを活用するメリットは、以下の5つです。

  • 取引の透明化で情報共有がスムーズになる
  • 高いセキュリティで不正を防止できる
  • 手続きが自動になりコストが下がる
  • 不動産のデジタル資産化により新しい投資や取引ができる
  • 不動産会社と顧客の情報格差が少なくなり顧客の信用を得やすくなる

それぞれご紹介します。

取引の透明化で情報共有がスムーズになる

ブロックチェーンを使うと、すべての関係者が同じ情報をリアルタイムで閲覧できるようになり、取引の透明性と情報共有がスムーズになります。従来の不動産取引では、売主、買主、仲介業者が別々に情報を管理していたため、認識のズレや伝達ミスが頻発していました。

しかし、ブロックチェーンで常に最新の情報が一元化されると、誰が見ても同じ内容の情報を閲覧できます。たとえば、登記内容や契約の進み具合は常に更新されるため、確認作業にかかる手間や時間を削減するうえで効果的です。

高いセキュリティで不正を防止できる

ブロックチェーンは、改ざんできない構造を持っているため、不動産取引における不正の防止につながります。一度記録された内容は、暗号化されたうえでチェーン状につながり、過去のデータを変えるには全てのブロックを修正する必要があり、事実上不可能です。

また、記録は複数のコンピューターで分散して保存されているため、1台が壊れてもほかのコンピューターがバックアップの役割を果たします。ブロックチェーンは、契約書の改ざんや不正な売買などを未然に防ぎ、取引の安全性を高める有効な仕組みです。

手続きが自動になりコストが下がる

ブロックチェーンに組み込めるスマートコントラクトを使うと、不動産の契約手続きが自動でおこなえるようになり、コスト削減につながります。スマートコントラクトの仕組みは「条件を満たしたら自動で処理する」ルールをプログラムで設定しておくもので、「入金が完了したら所有権を自動で移す」といった処理が人の手を介さずに進められます。

そのため、書類の作成や確認にかかる時間、人件費や仲介手数料などが減り、よりスピーディーで低コストな取引が可能です。

不動産のデジタル資産化により新しい投資や取引ができる

ブロックチェーンを使うことで、不動産を小口のデジタル資産に変えて、新しい形の投資や取引が可能になります。これは、不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)と呼ばれるデジタルの権利証として、不動産を細かく分けて所有できる仕組みです。

ブロックチェーンを活用した場合、高額な商業ビルを数百人で分割所有し、それぞれの権利をネット上で自由に売買が可能です。不動産STOにより、少ない資金でも不動産投資に参加できるようになり、投資のハードルが下がります。

また、24時間いつでも取引が可能となるため、不動産市場の流動性も高まります。

不動産会社と顧客の情報格差が少なくなり顧客の信用を得やすくなる

ブロックチェーンを導入すると、顧客と不動産会社の間にある情報の差が縮まり、顧客からの信頼を得やすいです。従来の不動産業界では、物件の過去の履歴や価格の変動、所有者情報などが不動産会社だけに集まり、顧客には十分な情報が伝わらないケースがありました。この情報の差が、顧客の不安や疑念につながっていました。

しかし、ブロックチェーンを導入した場合、すべての取引履歴や物件情報を改ざんされずに記録し、誰でも同じ内容を確認できます。結果的に、顧客は安心して取引ができるため、企業は顧客からの信用を得やすくなります。

不動産DXでブロックチェーンを活用できる不動産業務

ブロックチェーンを活用できる不動産業務は、以下の4つです。

  • 不動産登記と権利情報を管理する
  • スマートコントラクトで契約・取引を自動化する
  • 不動産の証券化と小口投資が可能になる
  • 物件情報・修繕履歴の管理を追跡できる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

不動産登記と権利情報を管理する

ブロックチェーンは、不動産の登記や所有権などの権利情報をデジタルで正確に管理する技術として活用可能です。この技術は、一度記録されたデータをあとから書き換えるのが困難なため、信頼性が求められる不動産登記におすすめです。

将来的には、登記手続きに司法書士の専門家を介さずとも、買主と売主が直接安全に権利移転をおこなえるようになる場合もあります。また、国境を越える取引においても、同じルールと仕組みで権利情報を共有できるようになった場合、国際的な不動産売買がより円滑に進められます。

スマートコントラクトで契約・取引を自動化する

スマートコントラクトを使うと、不動産契約の締結や取引手続きの自動化が可能です。スマートコントラクトは、「条件が満たされたら、自動で次の処理を実行する」といったルールを契約に組み込んでおく仕組みです。この仕組みを活用すると、買主の入金が確認された時点で、所有権の移転をブロックチェーン上で自動実行するよう設定できます。

スマートコントラクトの活用によって、プログラムが自動で動くことで、作業ミスや手続きの遅れを防げます。また、仲介者や事務作業にかかる費用を減らせるため、全体の取引におけるコスト削減につながる点もメリットです。

不動産の証券化と小口投資が可能になる

ブロックチェーンを使うと、不動産を証券のように細かく分けて、小口の投資商品として提供できます。分割して販売するデジタル証券は、ネット上の専用取引所で自由に売買でき、少金額でも不動産投資に参加が可能です。

たとえば、ビルやマンションの所有権を、デジタルの証券として100分割し、それぞれを投資家に販売できます。資産を持たない人でも気軽に投資ができるため、不動産市場の活性化が期待されます。

物件情報・修繕履歴の管理を追跡できる

ブロックチェーンを活用した場合、物件の建築から修繕・リフォームまでの履歴を、正確かつ改ざんできない形で記録可能です。この履歴は「デジタル物件履歴書」として管理でき、たとえば「いつ」「どこを」「どの業者が」修理したかといった詳細情報がすべて保存できます。そのため、購入者は中古物件を購入する際、その物件の状態や手入れの状況を事前に正しく把握できます。

また、ブロックチェーンの活用によって不都合な情報を隠すのが難しくなるため、情報の透明性が高まり、顧客は安心して物件選びが可能です。また、物件の資産価値を客観的なデータにもとづいて判断できる点もメリットです。

不動産DXでブロックチェーンを活用した事例

不動産DXでブロックチェーンを活用した事例は、以下の3つです。

  • ブロックチェーンの活用で物件情報を共有|株式会社LIFULL
  • 業界初ブロックチェーンで賃貸入居の煩雑なプロセスをワンストップ化|積水ハウス株式会社
  • ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにサポート|株式会社RESA

1つずつ見ていきましょう。

ブロックチェーンの活用で物件情報を共有|株式会社LIFULL

株式会社LIFULL(ライフル)は、ブロックチェーン技術を活用し、不動産情報の共有プラットフォーム開発や、不動産の小口証券化(STO)に取り組んでいます。同社は、物件情報や広告掲載ルールをブロックチェーン上で不動産会社間で共有する仕組みを構築しました。

この仕組みにより、情報の改ざんを防ぎ、おとり物件といった不正確な広告の減少を目指しています。また、国内初となる個人投資家向けの不動産STOも実現し、誰もが少額から不動産に投資できる新しい市場の創出にも挑戦中です。

参考元:ブロックチェーンは不動産業界50兆円市場の切り札となりうるか? | トレードログ株式会社

参考元:国内初の一般個人投資家向け不動産STOを実現、不動産特定共同事業法に準拠したセキュリティトークン発行・譲渡システムを提供 | 株式会社LIFULL(ライフル)

参考元:ブロックチェーン技術で物件情報を共有。不動産業界変革への挑戦 | 住まいの本当と今を伝える情報サイト【LIFULL HOME’S PRESS】|株式会社LIFULL

業界初ブロックチェーンで賃貸入居の煩雑なプロセスをワンストップ化|積水ハウス株式会社

積水ハウス株式会社は、他社と連携し、ブロックチェーン技術を用いて賃貸入居の煩雑な手続きをワンストップで完結させるプラットフォームを構築しています。これまで、入居申込から契約までには不動産会社や保証会社、入居者などの関係者が関わり、情報のやり取りが複雑で手間がかかるのが課題でした。

同社が構築したプラットフォームでは、改ざんが困難なブロックチェーン上で関係者が安全に情報を共有できるため、手続きにかかる手間を削減可能です。業界全体の新たな常識を築き、顧客と事業者の双方にとって利便性の高い賃貸契約の実現を目指している事例です。

参考元:積水ハウス 業界の新たなスタンダード構築へ 業界初 ブロックチェーンで賃貸入居の煩雑なプロセスをワンストップ化|積水ハウス株式会社

ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにサポート|株式会社RESA

株式会社RESA(リサ)は、ブロックチェーンとNFT技術(非代替性トークン)を活用し、お部屋探しから契約までの体験を向上させる不動産賃貸マーケットプレイスを開発しています。同社は、賃貸契約のプロセスを円滑に進めるための独自の仕組みで特許を取得しました。その結果、入居希望者と不動産会社、オーナー間とのやり取りが、より安全でスムーズになることが期待されます。

この取り組みは、従来の不動産取引が持つ煩雑な手続きを解消し、顧客がもっと手軽で安心してお部屋探しができる新しい賃貸契約のプロセスの提供を目指している事例です。

参考元:お部屋探し体験をアップデート!RESAがweb3を活用した不動産賃貸マーケットプレイスの特許を取得 | 株式会社RESAのプレスリリース

不動産DXでブロックチェーンがもたらす不動産の未来

不動産DXでブロックチェーンがもたらす不動産の未来として考えられるのは、以下の3つです。

  • 国境を越えた不動産取引ができる
  • 誰でも情報にアクセスできる
  • メタバースやNFTと連携できる

それぞれ見ていきましょう。

国境を越えた不動産取引ができる

ブロックチェーン活用が促進された場合、国境を越えたグローバルな不動産取引を、より簡単でスピーディーにできる場合があります。ブロックチェーン技術は世界共通の取引台帳として機能するため、海外の投資家が日本の不動産を購入する際の手続きがより簡単になります。

為替や各国の法律の違いといった国際取引の障壁も、スマートコントラクトによって乗り越えられるかもしれません。ブロックチェーンの活用によって、世界中の不動産が、株式のようにインターネット上で自由に売買される未来が期待されます。

誰でも情報にアクセスできる

ブロックチェーンが持つ透明性は、専門家と個人の間の「情報の格差」をなくし、誰もが安心して取引できる環境を作ります。これまで不動産会社の一部しか見られなかった過去の取引履歴や修繕履歴といった情報が、よりオープンになるかもしれません。

情報の格差がなくなった場合、一般の消費者でも十分な情報をもとに判断できるため、納得感のある安全な取引ができます。ブロックチェーンを活用し、不動産市場全体の健全性向上や活性化につなげましょう。

メタバースやNFTと連携できる

ブロックチェーンは、メタバース(仮想空間)やNFT(非代替性トークン)といった新しい技術と相性が良く、不動産の概念が広がります。たとえば、メタバース内の土地や建物の所有権を、デジタルデータの所有証明であるNFTとしてブロックチェーン上に記録し、売買が可能です。

また、現実の不動産の権利をNFT化し、仮想空間で取引するといった、現実と仮想が融合した新しいビジネスが生まれる場合もあります。

【まとめ】ブロックチェーンは不動産取引の未来を創る基盤技術

不動産DX促進において、ブロックチェーンは不動産取引のあり方を変える可能性がある技術です。取引の透明性と安全性を高め、手続きの自動化によるコスト削減やスピードアップを実現するメリットがあります。

ただし、法整備や処理時間の遅さなどの課題は残りますが、ブロックチェーン技術の動向を注視し、将来のビジネスにどう活かすか考え続けるのが重要です。

ブロックチェーンを活用し、今後の不動産ビジネスで成功するための、準備をしていきましょう。