データドリブンで加速する小売DX|活用事例・導入ポイント・注意点を徹底解説
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小売業の会計DXを検討中の方へ。POSの手入力や複数店舗の売上管理といった課題を解決しませんか。この記事ではソフトの選び方から導入ステップ、成功事例までを具体的に解説します。バックオフィスの効率化と経営の可視化を実現する方法を紹介します。
複数店舗の売上管理やPOSデータの手入力に、多くの時間を費やしていませんか。経営状況の把握が遅れがちになったり、インボイス制度などの法改正への対応に悩んだりすることも多いでしょう。
この記事ではそうした小売業特有の課題を解決する「会計DX」について、メリットからシステムの選び方、導入ステップまでを分かりやすく解説します。日々の煩雑な作業から解放され、データに基づいた力強い経営への第一歩を踏み出すためのヒントがここにあります。
多くの小売業では、日々の業務の中で会計に関する様々な課題に直面しています。このセクションでは、小売業に共通してみられる根深い課題について、具体的に見ていきましょう。
多くの店舗ではPOSレジで記録された日々の売上データを、経理担当者が会計ソフトへ手作業で再入力しています。この二重入力の作業は多くの時間を要するだけでなく、入力ミスといったヒューマンエラーが発生する原因にもなりがちです。
特に複数の店舗を運営している場合や、多様な決済手段に対応している場合には、この作業はさらに煩雑になります。本来であればより分析的な業務に使うべき貴重な人材の時間を、単純なデータ入力作業に費やしてしまっていることは、企業にとって大きな機会損失といえるでしょう。
紙の伝票や店舗ごとに作成されたExcelファイルで売上や経費を管理していると、全社的な損益状況をリアルタイムで把握することが難しくなります。月次決算が完了するまで、どの店舗がどれだけの利益を上げているのか、あるいはどの経費が想定以上にかかっているのかといった、経営上重要な情報を即座に掴むことができません。
これにより特定の店舗で問題が発生していても発見が遅れ、迅速な対策を講じることが困難になる場合があります。市場の変化が速い現代において、経営判断の遅れは大きなリスクに繋がりかねません。
小売業の会計において、在庫の管理は利益を正確に計算する上で非常に重要です。しかし、在庫管理システムと会計システムが独立して運用されていると、棚卸しの際に帳簿上の在庫数と実際の在庫数との間に差異が生じやすくなります。
この差異の原因を調査するには多くの時間と労力が必要となり、結果として正確な売上原価の算出が遅れてしまいます。利益額が不正確になることで、適切な販売価格の設定や効果的な発注計画の立案にも影響を及ぼす可能性があるでしょう。特に、過剰在庫は保管コストの増大やキャッシュフローの悪化を招き、逆に欠品は販売機会の損失に直結します。
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)や、段階的に要件が変更されている電子帳簿保存法への対応は、多くの企業にとって避けて通れない課題です。
これらの新しい法制度に、従来の紙を中心とした業務フローで対応していくことには限界があります。例えば、電子取引で受け取った請求書は、原則として電子データのまま保存しなければなりません。
法改正への対応が不十分な場合、税務上の不利益を被るリスクも考えられます。しかし具体的に何から手をつければ良いか分からず、対応が後手に回ってしまっている企業も少なくないのが実情です。
出典参照:電子帳簿保存法が改正されました|国税庁
小売業が抱える会計の課題は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで解決に導ける可能性があります。会計DXは単にITツールを導入するだけでなく、デジタル技術を活用して業務プロセスそのものを見直し、経営全体の質を高める取り組みです。このセクションでは、会計DXがもたらす具体的なメリットを紹介します。
会計DXを導入する大きなメリットの一つは、これまで手作業で行っていた定型業務を自動化し、バックオフィス全体の生産性を向上させられる点です。
例えばPOSレジの売上データを会計システムへ自動で取り込む設定を行えば、日々の売上入力作業そのものが不要になります。また、銀行口座やクレジットカードの取引明細を自動で取得し、AIが勘定科目を推測して仕訳を補助する機能を使えば、記帳業務にかかる時間を大幅に短縮することが可能です。
これにより経理担当者は単純作業から解放され、資金繰りの分析や業績報告資料の作成といった、より戦略的で付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
会計DXによって、これまで店舗ごとやシステムごとに分散していた会計データが一元管理されるようになります。これにより経営状況をリアルタイムで、かつ正確に可視化することが可能になります。
多くの会計システムには、売上や利益の推移、店舗別の損益状況などをグラフで分かりやすく表示するダッシュボード機能が備わっています。資金繰りの状況も自動で集計されるため、将来のキャッシュフローを予測し、先手を打った対策を講じやすくなるでしょう。
経営者は経験や勘に頼るだけでなく、客観的なデータに基づいた迅速な意思決定を行えるようになり、経営の精度を高められます。
手作業によるデータ入力には、どうしても入力間違いや計算ミスといった人的ミスが発生する可能性があります。例えば請求書の金額を1桁間違えて入力する、あるいは勘定科目を誤って選択するといった単純なミスが、会社の損益を歪めて経営判断を誤らせる原因となります。こうした小さなミスが、月次決算の遅延に繋がることも少なくありません。
会計DXを推進し、システム間でデータが自動連携する仕組みを構築することで、人が介在するプロセスを減らし、ヒューマンエラーの発生を大幅に抑制できます。会計情報の信頼性が高まることは月次決算の早期化に繋がるだけでなく、金融機関や取引先からの信用度向上にも貢献するでしょう。
会計DXを成功させるためには、自社の状況に合った会計システムを選ぶことが非常に重要です。特に小売業では一般的な会計機能に加えて、特有の業務フローに対応できるかどうかが選定の鍵となります。このセクションでは、システム選びで後悔しないためのポイントを解説します。
小売業の会計システム選定において、POSレジシステムとの連携機能は最も重視すべきポイントの一つです。日々の売上データがPOSレジから会計システムへ自動で取り込まれる仕組みを構築できれば、経理業務の効率は飛躍的に向上します。
現在お使いのPOSレジ、または導入を検討しているPOSレジのサービスと、候補となる会計システムが連携可能かどうかを事前に必ず確認しましょう。連携の方式もデータを手動で取り込む形式から、API連携によって完全に自動化される形式まで様々です。どこまでの自動化を求めるかに合わせて、最適な連携方式を備えたシステムを選ぶことが大切です。
次に確認したいのが、販売管理システムや在庫管理システムとの連携です。これらのシステムと会計システムを連携させることで、売上の計上から在庫の変動や売掛金の管理まで、一連の業務フローがスムーズに繋がり、バックオフィス全体の効率化が期待できます。
特に実店舗だけでなくECサイトも運営している場合、各販売チャネルの在庫情報を一元的に管理し、会計情報とリアルタイムで同期させることが重要になります。これにより販売機会の損失を防ぎ、より正確な経営管理を実現できるでしょう。どの商品がどのチャネルで売れているかといった販売データを会計情報と結びつけることで、より精度の高い収益分析が可能になります。
現在の会計ソフトの主流は、インターネットを通じて利用するクラウド型です。クラウド会計ソフトは、導入コストを抑えやすく、法改正の際にも自動でシステムがアップデートされるため、IT専門の担当者がいない中小企業でも導入しやすいという利点があります。
選定にあたっては料金プランだけでなく、操作性やサポート体制も重要な比較ポイントです。無料トライアル期間などを活用して、実際に経理を担当する従業員が直感的に使えるかどうかを試してみることをお勧めします。また、導入時や運用中に困った際に、どのようなサポートを受けられるのかも事前に確認しておくと安心です。
このセクションでは数ある会計ソフトの中から、特に小売業での導入に適しており、POSレジなどとの連携機能が充実しているクラウド会計ソフトを3つ紹介します。それぞれの特徴を比較し、自社に合ったソフト選びの参考にしてください。
freee会計は、簿記の知識があまりない方でも直感的に操作できることを目指して設計されているクラウド会計ソフトです。個人事業主から中小企業まで、幅広い層に利用されています。
銀行口座やクレジットカードとの連携はもちろん、多様なPOSレジサービスとの連携に対応している点が大きな特徴です。日々の売上データを自動で取り込み、仕訳作業を効率化することで、経理業務の負担を軽減します。また経営状況を可視化するレポート機能も充実しており、データに基づいた経営判断をサポートします。スマートフォンアプリの操作性も高く、外出先からでも手軽に経費精算や経営状況の確認が可能です。
出典参照:freee会計|フリー株式会社
マネーフォワード クラウド会計は会計機能を中心に、請求書発行、経費精算、給与計算など、バックオフィス業務全般をカバーする多彩なサービスを提供しているプラットフォームです。
最大の強みは、連携できる外部サービスの豊富さです。多くのPOSレジやECサイト、決済サービスと連携し、取引データを自動で取得して仕訳候補を提案します。AIによる学習機能も備わっており、使えば使うほど自社の業務に合わせて最適化され、自動化の精度が高まっていく点も魅力です。企業の成長に合わせて必要なサービスを追加していくことで、バックオフィス全体のDXを段階的に進められます。
出典参照:マネーフォワード クラウド会計|株式会社マネーフォワード
勘定奉行クラウドは、長年にわたり会計ソフトを提供してきた株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)が開発したクラウドサービスです。その実績に裏打ちされた信頼性と、手厚いサポート体制に定評があります。
特に、複数店舗や部門ごとの業績を詳細に管理する機能に優れており、より高度な会計処理や経営分析を行いたい企業に適しています。各種POSシステムや販売管理システムとのAPI連携を通じて、入力業務の自動化と月次決算の早期化を強力に支援します。顧問税理士とデータを共有する機能も充実しており、専門家と連携しながら正確な会計処理を進めたい企業にとっても心強い選択肢となるでしょう。
出典参照:勘定奉行クラウド|株式会社オービックビジネスコンサルタント
自社に合ったシステムを見つけた後、実際に導入を成功させるためには、計画的に進めることが重要です。このセクションでは、会計DXの導入をスムーズに進めるための4つのステップを紹介します。
まず初めに、現在の会計業務において「何に」「どれくらい」時間がかかっているのか、どのようなミスが発生しやすいのかを具体的に洗い出します。例えば、「全店舗の売上集計と入力に毎日3時間かかっている」といった現状を正確に把握することが第一歩です。このとき経理担当者だけでなく、店長など現場のスタッフにもヒアリングを行うと、より実態に即した課題が見えてきます。
次に、その課題を解決するための具体的な目標を設定します。「POS連携で売上入力を自動化し、月次決算を5営業日以内に完了させる」のように、数値で測れる目標を立てることで、導入効果を客観的に評価できるようになります。
設定した目標を達成できるシステムはどれか、という視点で情報収集と比較検討を進めます。各システムの公式サイトで機能を確認するだけでなく、無料トライアルなどを活用して、実際の操作感を試してみることが非常に重要です。複数のシステムの資料を取り寄せ、機能比較表を作成すると、客観的な判断がしやすくなります。
このとき経理担当者など、日常的にシステムを利用する従業員にも試してもらい、意見を聞くことをお勧めします。機能や料金だけでなく、自社の業務の流れにスムーズにフィットするか、直感的に使いやすいかといった現場の視点を取り入れることで、導入後の定着率が高まります。
導入するシステムが決定したら、具体的な導入計画を策定します。いつまでに何を完了させるのか、誰が責任を持って担当するのかを明確にしたスケジュールを作成しましょう。導入プロジェクトの責任者を任命し、定期的な進捗確認の場を設けることが計画倒れを防ぐポイントです。
この際既存データの移行方法や、新しいシステムに合わせた業務フローの見直しも検討します。会計システムの導入は、経理部門だけでなく関連する全部門に影響が及ぶ可能性があります。そのため、全社的なプロジェクトとして位置づけ、経営層が主導して社内への周知と協力体制の構築を進めることが成功の鍵となります。
策定した計画に基づき、既存の会計データを新しいシステムへ移行します。システムの提供元によっては、データ移行をサポートするサービスを用意している場合もあるため、必要に応じて活用を検討しましょう。
同時に、従業員向けのトレーニングを実施します。マニュアルを配布するだけでなく、操作説明会を開催したり、個別の質問に対応したりするなど、全員が安心して新しいシステムを使い始められるようにサポートすることが大切です。導入初期は問い合わせが増えることを見越して、社内のサポート担当者を決めておくと、現場の混乱を最小限に抑えられます。導入後も定期的にフォローアップの機会を設け、従業員の疑問や不安を解消していく姿勢が重要です。
このセクションでは実際に会計DXを推進し、業務効率化などの成果を上げている企業の事例を紹介します。他社の取り組みから、自社のDX推進のヒントを探ってみましょう。
北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)では駅などで発生する備品購入などの経費精算において、小口現金の管理が大きな負担となっていました。紙の伝票による運用は、承認や支払い処理に多くの時間を要していました。
そこで同社は、三井住友カードの法人カード「パーチェシングカード」とクラウド型経費精算システムを導入しました。これにより、キャッシュレス決済が進み小口現金の取り扱いが大幅に削減されただけでなく、経費精算プロセスがデジタル化されたことで、経理部門の業務効率が大きく向上したとのことです。デジタル化された経費データは会計システムとの連携も容易になり、仕訳作業の自動化にも貢献しています。
出典参照:JR北海道が法人カード「UPSIDER」の全社導入で経理DXを推進 – 小口現金の削減に効果|北海道旅客鉄道株式会社
兵庫県多可町では取引事業者から受け取る請求書が紙媒体であったため、役場内での回覧、支払い処理、そして保管に至るまで、多くの人的・時間的コストがかかっていました。
この課題に対し、同町は株式会社インフォマートが提供する「BtoBプラットフォーム 請求書」を導入しました。これにより事業者は請求書を電子的に発行できるようになり、役場側は受け取った請求データを会計システムへ直接取り込むことが可能になりました。請求書業務のDX化は、職員の作業負担軽減とペーパーレス化に繋がっています。この取り組みは、役場だけでなく取引を行う町内の事業者の利便性向上にも寄与し、地域全体の生産性向上に貢献しています。
出典参照:兵庫県多可町が「BtoBプラットフォーム 請求書」を導入 財務会計システムとの連携で会計事務のDXを実現|兵庫県多可町
本記事では、小売業における会計DXの進め方を解説しました。会計DXは日々の経理業務を効率化するだけでなく、企業の成長を加速させる経営基盤を築くための重要な取り組みです。
POSデータや会計データを一元化し、リアルタイムで分析できる体制は、データに基づいた経営判断、いわゆる「データドリブン経営」を実現します。どの商品がどの店舗で売れているのかを正確に把握することで、需要予測やマーケティング施策の精度を高めることが可能です。会計DXを通じてバックオフィスの生産性を向上させ、データ活用で変化の時代を勝ち抜く体制を構築しましょう。