小売業にCRMが必要な理由|機能・選び方・成功事例まとめ

小売業で顧客情報が分散し、売上向上に悩んでいませんか。この記事では、小売DXの鍵となるCRMの役割や必要性を解説します。顧客情報の一元管理やLTV最大化に繋がる主要機能、失敗しない選び方のポイント、具体的な導入ステップまでを網羅的にご紹介。

実店舗とECサイトを運営する中で、「顧客情報が分散し一貫性のある対応ができない」「リピーターが定着せず売上が安定しない」といった課題を感じる場面は少なくありません。購買チャネルが多様化した現在、小売企業には顧客ごとの行動を把握し、適切なタイミングで最適な提案を行う仕組みが求められています。

その解決策として注目されているのが「CRM(顧客関係管理)」です。CRMは単なる情報管理ツールではなく、顧客との信頼関係を深め、事業成長の土台を築くための戦略的な仕組みです。

この記事では、小売DXの観点からCRMの役割や導入のメリットをわかりやすく解説します。あわせて、主要機能やシステム選定のポイント、実際の成功事例も紹介。データを活用し、顧客との関係性を高めていきたい企業にとって有益な内容となっています。

小売DXにおけるCRMの役割

小売DXにおいては、顧客接点で得た購買履歴や行動データを積極的に活用しビジネスに繋げることが求められます。CRMはこうした分散した顧客情報を統合し、リアルタイムで顧客像を可視化する基盤として機能します。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX実践手引書」では、DXにおけるデータ利活用の重要性がより強調されています 。

CRMを通じたデータの利活用は、顧客理解の深化、個別提案の精緻化、LTV(顧客生涯価値)の最大化に直結します。

CRMは単なる情報整理ツールではなく、DXの要諦である「データドリブンな価値創出」を実現する中核的な仕組みとして、小売業の競争力強化に大きく貢献するのです。

出典参照:DX実践手引書|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

小売業にCRMが必要な3つの理由

なぜ今、多くの小売企業でCRMの導入が重要視されているのでしょうか。その背景には、市場環境の変化とそれに伴う企業側の課題があります。

このセクションでは、小売業にCRMが必要とされる主な理由を3つの側面から掘り下げて解説します。

顧客情報の一元管理と可視化

CRMが求められる最大の理由は、実店舗とECサイトといった異なるチャネルでバラバラに蓄積されている顧客に関する情報を一つにまとめ、統合的に可視化できる点にあります。

多くの企業では、店舗のPOSデータとECサイトの会員情報が別々に管理されています。例えば、ある顧客がECサイトで商品を閲覧し後日店舗で購入した場合でも、企業側からは「ECサイトの訪問者」と「店舗の新規顧客」という別々の人物として認識されてしまうことがあります。

CRMを導入してこれらの情報を統合することで「誰が」「いつ」「どこで」「何を購入したか」という一連の行動を線で結び、顧客の全体像を正確に把握できるようになります。

このデータにもとづいた顧客理解こそ、効果的なマーケティング施策の第一歩といえるでしょう。顧客の解像度が上がれば、これまで見過ごされてきたニーズを発見できる可能性も高まります。

LTV最大化に向けた施策の実行

CRMの導入は、LTV(Life Time Value)の最大化に大きく貢献します。LTVとは、一人の顧客が生涯にわたり自社にもたらす利益の総額です。

新規顧客の獲得コストが高騰する中、既存顧客との関係を深め長くファンでいてもらうこと(リピーター育成)が事業安定の鍵となります。CRMで顧客データを分析すれば、購入頻度や金額に応じて「優良顧客」「休眠顧客」といったグループに分類できます。

そして、それぞれのグループの特性に合わせて「優良顧客には限定クーポンを配布する」「休眠顧客には新商品の情報を届ける」といったきめ細やかな施策を効率的に実行し、顧客一人ひとりのLTV向上を図ることが可能になるのです。

これによりマーケティング予算を最も効果的な顧客層に集中投下できるようになり、費用対効果の改善も期待できるでしょう。

顧客体験(CX)の向上

CRMの活用によって実現されるパーソナライズされたアプローチは、顧客体験(CX:Customer Experience)の質を大きく向上させることに繋がります。顧客体験とは商品の購入だけでなく、認知から購入後のサポートまで顧客が企業と関わるすべての接点における体験価値のことです。

例えば、ECサイトでの閲覧履歴をもとに実店舗のスタッフが「お客様がオンラインでご覧になっていた、こちらの新商品はいかがですか?」と提案できれば、顧客は「自分のことを理解してくれている」と感じ満足度が高まります。

このようにCRMを活用してオンラインとオフラインの垣根を越えた一貫性のあるサービスを提供することが、他社との差別化に繋がり、顧客のロイヤルティ(ブランドへの愛着や信頼)を高めるのです。優れた顧客体験は価格競争から脱却し、選ばれ続けるブランドになるための重要な要素といえます。

小売DX向けCRMの主要機能

小売業向けのCRMシステムには顧客との関係を深化させ、売上向上に結びつけるための多彩な機能が搭載されています。

このセクションでは、特に小売業の現場で役立つ代表的な4つの機能群について、役割と具体的な活用イメージを解説します。

顧客情報の管理・分析機能

顧客情報の管理・分析機能はCRMシステムの根幹をなす機能であり、顧客の基本情報や購買履歴、サイト訪問の頻度といったデータを一元管理します。

氏名や連絡先といった基本情報に加え、店舗とECサイト双方での購入日時、商品、金額などの購買データ、ポイント利用履歴、問い合わせ履歴などを統合的に蓄積します。

これらのデータをもとに「RFM分析(最終購入日・購入頻度・購入金額)」などの手法で顧客をグループ分けし、ターゲットを絞ったアプローチを可能にします。勘や経験だけに頼らない、データにもとづいた客観的な顧客理解が実現できるでしょう。これにより「最近購入のない優良顧客」といった、より具体的なターゲット像を浮かび上がらせることができます。

販促・マーケティング機能

管理・分析した顧客情報をもとに、具体的な販売促進活動を行うための機能です。これにより、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションが実現します。

代表的な機能は、メールやLINEの配信機能です。購入履歴や顧客ランクに応じて、内容を変えたメッセージを自動で配信できます。例えば「特定の商品を購入した顧客に、1ヶ月後に関連商品をおすすめする」といったシナリオを設定できます。また、誕生日クーポンや特定の商品を購入した人限定の割引クーポンなどを発行し、再購入を促すことも可能です。

これらの施策を自動化することでマーケティング担当者の工数を削減し、より戦略的な業務に集中できる環境を整えることにも繋がります。

POSレジ・ECサイト連携機能

実店舗のPOSレジやECサイトのシステムと連携し、オフラインとオンラインの顧客データを自動で統合する非常に重要な機能です。この連携により、店舗での購入者が後日ECサイトを訪問した際の行動を追跡したり、ECサイトでカートに入れた商品を店舗でリマインドしたりといったチャネルを横断したアプローチが可能になります。

このようなオンラインとオフラインの融合は「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれ、現代の小売業における重要な戦略の一つです。顧客はオンラインで購入した商品を店舗で受け取るといった、利便性の高いサービスを享受できます。

このシームレスなデータ連携こそが、一貫した顧客体験を提供する上での基盤となります。

ポイント管理機能

顧客の囲い込みやリピート利用を促進するためのポイントプログラムを管理する機能です。この機能を使えば、店舗とECサイトで共通のポイントを貯めたり使ったりできる利便性の高い仕組みを構築できます。

また購入金額や会員ランクに応じてポイントの付与率を変更したり、期間限定のポイントアップキャンペーンを実施したりと柔軟な設定が可能です。

顧客にとって「貯めやすく、使いやすい」魅力的なポイントプログラムは、継続的な利用を促す強力なフックとなり競合他社との差別化にも繋がるでしょう。ポイントの有効期限が近づいた顧客にリマインド通知を送ることで、再来店を促すといった活用も効果的です。

CRM導入前に知るべき3つの注意点

CRMは強力なツールですが、導入すれば自動的に成果が出るわけではありません。

導入プロジェクトを成功に導くため、事前に理解しておくべき3つの注意点を解説します。

導入・運用コストが発生する

CRMの導入には、初期費用や月額利用料といったコストがかかります。

クラウド型CRMの場合、利用する機能や管理する顧客数によって料金は変動します。また既存のPOSシステムやECサイトとの連携に際して、追加のカスタマイズ費用が必要になる場合もあります。

導入前に自社の要件を満たすための総コストを把握し、費用対効果(ROI)を慎重に見極めることが大切です。CRMは単なる経費ではなく、将来の収益を生み出すための「投資」であるという認識を持ち、経営層の理解を得ながら進めることが重要です。

またCRMはIT導入補助金の対象となる場合があります。導入コストを抑えながら取り組める可能性もあるため、事前に確認しましょう。

出典参照:IT導入補助金2025|サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局

社内への浸透と定着が難しい

CRMを導入しても、現場のスタッフがその価値を理解し日常業務で活用しなければ意味がありません。

「なぜ導入するのか」「導入によって顧客へのサービスがどう向上するのか」といった目的やビジョンを全社で共有し、協力体制を築くことが不可欠です。

特に日々の業務で忙しい店舗スタッフにとっては、新しいツールの操作を覚えることが負担になる場合もあります。トップダウンで進めるだけでなく、現場の意見をヒアリングして使いやすいシステムを選定することが重要です。

あわせて導入後のトレーニングやサポート体制を整え、継続的に利用を促す仕組みを作ることが成功の鍵となります。

効果の実感までに期間がかかる

CRMは、導入後すぐに劇的な効果が現れるものではありません。顧客データが蓄積され、そのデータをもとにした施策が成果に結びつくまでにはある程度の時間が必要です。

例えば、顧客の購買サイクルを正確に分析し、最適なタイミングでアプローチできるようになるまでには数ヶ月から半年以上のデータ蓄積が必要になることもあります。

短期的な成果を求めすぎず、中長期的な視点で効果を検証し改善を繰り返していく姿勢が求められます。まずはデータを蓄積し、顧客を理解するための期間と割り切ることも大切です。

失敗しないCRMシステムの選び方

自社に最適なCRMシステムを選ぶためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下の4つの視点から、慎重に比較検討しましょう。

自社の業態や規模に合っているか

まず、自社のビジネスに合った機能が備わっているかを確認することが重要です。

例えばアパレルであればサイズやカラーといった商品軸での顧客分析機能、食品であれば購入サイクルにもとづいたリマインド機能など、業種特有のニーズに応えられるかがポイントです。

また、企業の規模も考慮すべき点です。中小規模の店舗であれば、多機能で複雑なシステムよりもシンプルで使いやすいツールの方が定着しやすいでしょう。将来的な事業拡大を見据え、必要な機能を追加できるような拡張性があるかどうかもチェックしておくと長期的に安心して利用できます。

既存システムと連携できるか

現在使用しているPOSレジやECカートシステムとスムーズに連携できるかは、最も重要な選定基準の一つです。連携ができない、あるいは連携に高額な開発費用がかかる場合、CRM導入のメリットである「データの一元管理」が実現できません。

多くのCRMツールは主要なPOSシステムやECプラットフォームとの連携機能を標準で提供していたり、API(システム同士を連携させるための仕組み)を公開していたりします。

導入前に自社が利用しているシステムとの連携実績があるか、API連携が可能かなどを必ず確認し、スムーズなデータ統合が実現できるかを確かめましょう。

現場スタッフが使いやすいか

CRMを日常的に操作するのは、本社のマーケティング担当者だけでなく店舗の現場スタッフでもあります。

そのためITの専門知識がない人でも直感的に操作できる、分かりやすいインターフェースかどうかが非常に重要です。「操作が難しくて使われない…」という事態は、CRM導入の典型的な失敗パターンです。

これを避けるためにも無料トライアル期間などを活用し、実際に現場のスタッフに操作性を試してもらうことを強くおすすめします。現場の意見を取り入れ、彼らが納得して使えるツールを選ぶことが導入後の定着率を大きく左右します。

導入・運用コストとサポート体制

料金体系が明確で、自社の予算に見合っているかを確認しましょう。初期費用、月額費用に加えて、管理する顧客数やメール配信数に応じた従量課金がないかなど、トータルでかかるコストを把握することが大切です。

また、導入後のサポート体制も重要な比較ポイントです。操作方法で不明な点があったり、システムにトラブルが発生したりした際に、電話やメール、チャットなどで迅速に対応してくれるサポート体制が整っているかを確認しておくと安心して運用を続けることができます。

導入時の設定を支援してくれるオンボーディングプログラムの有無も確認すると良いでしょう。

小売業向けCRMツール5選

このセクションでは、小売業での導入実績が豊富なCRMツールを5つ紹介します。無料で使えるプランもあるため、お試しで導入してみるのも良いでしょう。

それぞれの特徴を比較し、自社に合ったツール選びの参考にしてください。

STORES

STORESはネットショップ開設やキャッシュレス決済、予約システム、POSレジなど、店舗運営に必要なサービスを提供しているプラットフォームです。

複数のサービスを組み合わせて利用でき、ネットショップと実店舗の販売データや顧客情報の管理が可能です。各サービスは同じアカウントで利用できるため、運営の手間を軽減できる点が特徴です。

ECと実店舗の両方に対応したサービスを手軽に導入したい中小規模の事業者にも利用されています。

出典参照:STORES(ストアーズ)|STORES 株式会社

スマレジ

スマレジは、iPadやiPhone向けのクラウド型POSレジアプリです。商品管理、売上・在庫・顧客管理や売上分析など、店舗運営に必要な機能が一通り使えます。

累計10万店舗以上に導入されており、多様な業種から選ばれています。さらにAPIやアプリマーケットに対応しており、外部システムやクラウド会計ソフトとの連携によって業務に合わせた柔軟な拡張が可能です。

出典参照:スマレジ – iPad/iPhoneアプリを使った、無料で始められるPOSレジ|株式会社スマレジ

Shopify POS

Shopify POSは、世界的に展開されているECプラットフォーム「Shopify」が提供するPOSシステムです。

オンラインストアと実店舗の在庫・売上・顧客情報をリアルタイムで同期できる仕組みを備えており、ECと実店舗の両方を運営する事業者に適しています。オンラインで購入した商品の店舗受け取りや、店頭での販売情報をオンライン管理画面で確認するといったオムニチャネル施策にも活用されています。

またShopifyアプリストアには多数の拡張アプリが揃っており、必要に応じてCRM機能や販促ツールを追加できる柔軟性も魅力です。

出典参照:あらゆる場所での販売を可能にするPOS機能|Shopify Japan 株式会社

anybot

エボラニ株式会社が提供するanybotは、LINE公式アカウントやLINEミニアプリと連携したCRM・接客支援ツールです。

LINE上でデジタル会員証やポイントカードの発行、クーポン配布、予約管理ができる機能を備えており、LINEユーザーとの継続的な接点作りに活用されています。さらに、チャットボットによる自動応対・顧客データ管理・セグメント配信も可能で、CRM機能を持つLINE対応サービスとして多くの企業に導入されています。

anybotは、LINEを通じた顧客コミュニケーションと販促を一元的に管理したい事業者に適したツールです。

出典参照:anybot(エニーボット)|株式会社エボラニ

LTV-Lab

株式会社LTV-Xが提供するLTV-Labは、EC・通販事業者向けのCRMツールです。

主要なECカートや受注管理システムとの標準連携により、複雑な設定なしで導入・運用ができる点が特徴です。さらに累積されたノウハウにもとづくリピート施策用のシナリオテンプレートが用意されており、施策実行までのリードタイムを短縮できます。

メールやLINEの配信通数・シナリオ設定数に上限がなく、固定費用で運用できる価格体系も特徴です。公式サイトでは、多くの企業がLTV-Labを通じてリピーター売上や費用対効果の向上を実現した事例も紹介されています。

出典参照:EC通販のCRMならLTV‑Lab|株式会社E-Grant

CRM導入を成功させる4つのステップ

CRMの導入は、単にシステムを契約すれば終わりではありません。その効果を最大限に引き出すためには、戦略的な計画と段階的なアプローチが不可欠です。

このセクションでは、CRM導入プロジェクトを成功に導くための、実践的な4つのステップを解説します。

ステップ1:導入目的とKGI・KPIの設定

「何のためにCRMを導入するのか?」という目的を明確にすることが、すべての始まりであり最も重要なステップです。

この目的が曖昧なままでは、導入自体が目的化してしまいます。「リピート率を現在の30%から40%に向上させたい」「顧客単価を5,000円から6,000円に引き上げたい」など、具体的で測定可能なゴールを設定しましょう。

そしてそのゴール達成度を測る指標として、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を設定します。KGIが最終ゴールであるのに対し、KPIはその達成に向けた中間指標です。

これらを明確にすることで、プロジェクトの進捗を客観的に評価できます。

ステップ2:ツールの選定と要件定義

ステップ1で設定した目的を達成するために、「自社のCRMにはどのような機能が必要か」を具体的に洗い出す作業が「要件定義」です。

例えば「休眠顧客の掘り起こし」が目的なら、「最終購入日から一定期間が経過した顧客を自動抽出する機能」が必須要件となります。この時、必要な機能を「絶対に譲れないMust要件」と「あると嬉しいWant要件」に切り分けて整理すると、後のツール選定がスムーズに進みます。

この要件定義をもとに、前述の「失敗しないCRMシステムの選び方」を照らし合わせながら複数のツールを比較検討し、自社の要件を最も満たすツールを慎重に選定しましょう。

ステップ3:運用体制の構築と社内教育

CRMをスムーズに運用するための社内体制を整えることも、成功に不可欠な要素です。

誰がプロジェクト全体の責任者となり、誰が日々のデータ分析や施策の実行を担当するのか、役割分担を明確にしましょう。本社のマーケティング部門だけでなく、実際に顧客と接する店舗のスタッフやECサイトの運営担当者など、部門横断的なチームを組成することが望ましいです。

また導入するツールが決まったら、現場スタッフを含めた関係者全員に操作研修を実施します。ツールの使い方だけでなく、導入目的やメリットを共有し全社的な協力体制を築くことが重要です。

ステップ4:スモールスタートと効果検証

最初からすべての機能を使おうとしたり全店舗で一斉に導入したりするのではなく、まずは特定の店舗や機能に絞って小さく始める「スモールスタート」を強く推奨します。

例えば「まずは旗艦店であるA店舗だけでデータ分析から始めてみる」「メール配信機能だけを使って、優良顧客向けのキャンペーンを試してみる」といった形です。スモールスタートは初期の混乱を最小限に抑え、運用上の課題を早期に発見・改善できるというメリットがあります。

そして、定期的にステップ1で設定したKPIの達成度を検証し、施策の効果を評価します。この地道な効果検証の繰り返しこそが、CRM活用を成功へと導く最も確実な道筋といえるでしょう。

CRM活用による小売業の成功事例

実際にCRMを導入しデータ活用を通じて顧客との関係を深め、ビジネスを成長させている企業の事例は、これから導入を検討する企業にとって大きなヒントとなります。

このセクションでは、具体的な企業の取り組みを2つ紹介します。

アガット|会員基盤再構築でCRM戦略の高度化

人気ジュエリーブランド「agete(アガット)」などを展開する株式会社サザビーリーグ エーアンドエスカンパニー(現・株式会社エーアンドエス)は、店舗とECそれぞれで分かれていた会員IDを統合し、OMOを見据えた会員基盤の再構築を実現しました。

導入したアプリプラットフォームを通じて顧客情報の統合とデータ活用を軸としたCRM戦略の高度化を進め、顧客一人ひとりに向けたサービスを強化。店舗近くにいる会員に対してプッシュ通知を活用した情報発信も行っています。

こうした取り組みが、OMO戦略の加速とCX(顧客体験)の向上に繋がっています。

出典参照:【事例インタビュー】会員基盤から体験価値の創造へ。アガットがMGRe導入で実現したデータ活用とCRM革新|株式会社エーアンドエス(旧 サザビーリーグ エーアンドエス カンパニー)

三越伊勢丹ホールディングス|識別顧客を軸にしたCRM戦略と売上拡大

三越伊勢丹ホールディングスは、会員ID統合とデジタル基盤の活用によりCRM戦略を本格的に強化しています。

伊勢丹新宿本店・三越日本橋本店では売上の約70%が識別可能な顧客によるものであり、非識別顧客と比べてデジタルID会員は約2倍の購買金額、さらにエムアイカード会員はその約2倍になる傾向が確認されています。

統合報告書内では外商顧客についても購買金額がさらに高くなる傾向があると語られており、“個客”視点でのCRM施策を軸に収益拡大を目指した取り組みを進めています。

出典参照: 統合報告書 2024(P.12~19)|三越伊勢丹ホールディングス

最適なCRM導入で、顧客と繋がる第一歩へ

この記事では、小売DXにおけるCRMの重要性から具体的な機能、選び方、導入を成功させるためのステップ、そして実際の成功事例までを詳しく解説してきました。

顧客のニーズが多様化し購買行動がオンラインとオフラインを自由に行き来する現代において、データに基づいて顧客一人ひとりを深く理解し、最適なタイミングで最適なコミュニケーションをとることはもはや企業の成長に不可欠な要素といえるでしょう。

CRMはその課題を解決し、顧客との長期的な信頼関係を築くための強力な武器となり得ます。しかし、導入すれば自動的に成果が出るわけではありません。CRM導入は単なるシステム投資ではなく、「顧客と真摯に向き合い、ビジネスのあり方そのものを見直すプロジェクト」であると捉えることが重要です。

まずは自社の課題を整理し、この記事を参考に顧客とより深く繋がるための新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。