証券DXが急速に進む理由とは?業界変革の背景を徹底解説!

近年、証券業界では急速にDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進んでいます。従来の紙ベースの業務から脱却し、AI・ブロックチェーン技術を活用した新しいサービスが次々と登場しています。顧客ニーズの多様化、競争環境の激化、規制対応の複雑化など、業界を取り巻く環境変化がDX推進の必要性を高めているのです。

本記事では、証券DXが急速に進む背景と理由を詳しく解説し、野村證券、SBI証券、みずほ証券の具体的な事例を通じて、業界の変革の実態をお伝えします。

証券DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは

証券DXとは、デジタル技術を活用して証券業界のビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革する取り組みです。これまでの紙ベースの手続きや対面中心の営業体制から、AI・ブロックチェーン・ビッグデータ解析などの最新技術を駆使した効率的で顧客中心のサービス提供へと転換します。

証券DXの基本概念

証券DXの基本概念は、スウェーデンのウメオ大学エリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という理念を証券業界に適用したものです。

経済産業省の定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービスを変革すること」としており、証券業界においても顧客体験の向上と新たな価値創出が重要な要素です。

参考:エリック・ストルターマン – Wikipedia|エリック・ストルターマンによるDXの定義(2004年)

従来の証券業務との違い

従来の証券業務は、対面営業による詳細な商品説明と紙ベースの手続きが中心でした。顧客情報は各営業担当者が個別に管理し、投資判断は主に営業員の経験と勘に依存していました。インターネット普及率が高い現代において、このような従来型のアプローチでは顧客ニーズに対応できなくなっています。

一方、DX化された証券業務では、リアルタイムデータ分析による個別ポートフォリオ提案、モバイルアプリでの24時間取引、AIチャットボットによる迅速な顧客サポートが実現されています。レガシーシステムから脱却し、クラウド基盤での統合データ管理により、顧客一人一人に最適化されたサービス提供が可能です。

証券DXが目指すゴールや展望

証券DXが目指すゴールは、「顧客体験の革新」と「業務効率の最大化」の両立です。具体的には、個人投資家の投資行動をデータ分析し、最適なタイミングでパーソナライズされた投資提案を行うこと、そして業務プロセス全体の自動化により大幅なコスト削減を実現することです。

さらに、セキュリティトークンやブロックチェーン技術を活用した新商品開発、リアルタイムリスク管理システムの構築により、競争優位性を確立し持続的な成長を図ることが最終目標となります。フロントオフィスからバックオフィスまでの全プロセス自動化により、営業員が顧客により多くの時間を割けるような環境整備も重要な目標の1つです。

証券業界を取り巻く環境変化

証券業界は急激な環境変化に直面しています。コロナ禍により非対面取引が急速に普及し、デジタル化の重要性がこれまで以上に高まりました。少子高齢化と人生100年時代への対応、証券離れが進む顧客のリテンション対策、オンライン証券を中心とした委託手数料無料化の流れなど、業界を取り巻く事業環境には多くの難題が存在します。

証券市場のグローバル化

証券市場のグローバル化により、証券業界は国際的な競争環境にさらされています。海外投資家の取引が活発化し、クロスボーダー取引や外国株式への投資需要が急増しています。これに伴い、証券会社は国際的な規制対応や多様な通貨・市場への対応力が求められるようになりました。

また、ESG投資やサステナブルファイナンスなどの国際的な投資トレンドへの対応も必須となっています。時差を考慮した24時間取引体制の構築や、海外規制当局との連携強化も重要な要素です。

投資家層の多様化

近年、投資家層の多様化が顕著に進んでいます。従来の富裕層中心の顧客構成から、若年層や投資初心者層まで幅広い層に拡大しました。全金融機関のNISA口座数は2025年3月末時点で約2,647万口座となり、新NISA開始前の2023年12月末と比較して約522万口座も増加しています。

さらに新規買付額は累計約59.3兆円にのぼり、2025年1〜3月の3カ月間だけでも成長投資枠で約5.0兆円、つみたて投資枠で約1.6兆円の投資が行われました。

参考:日本証券業協会|NISA口座の開設・利用状況

競合他社の台頭

証券業界では従来の対面証券に加えて、ネット証券とフィンテック企業の台頭により競争が激化しています。SBI証券は2024年7月に1,300万口座を突破し、楽天証券とともにネット証券大手として急成長を遂げました。これらのネット証券は手数料の安さと取引の利便性で顧客を獲得し、ロボアドバイザーやAIを活用したアルゴリズム取引サービスを導入しています。

さらに、ブロックチェーン技術を活用したスタートアップ企業も新たな金融サービスを模索し、既存の金融機関に挑戦しています。委託手数料の無料化競争も激しさを増しており、従来の収益モデルが大きく変化しています。

参考:証券会社大手5社とは? 対面証券・ネット証券の特徴&項目別ランキング! | 証券会社カタログ – Yahoo!ファイナンス|SBI証券:口座数・預り資産が最多

証券DXが急速に進む5つの理由

証券DXが急速に進む背景には複数の要因が重なっています。証券業界は伝統的に紙ベースの手続きが多く、業務処理が複雑で手間がかかるため、デジタル化による業務効率の大幅な向上が期待されています。

さらに、AI・ブロックチェーンなどの新たな技術進化、金融規制の緩和やフィンテックの進化で新たな競争相手が増加し、競争圧力に対抗するためDXが必須となっています。

理由①:顧客ニーズの変化への対応

証券業界における顧客ニーズは大きく変化しています。感染症拡大により出社や対面営業が制限される中、オンライン証券各社が口座数を大幅に伸ばし、デジタル化の重要性が従来以上に高まりました。投資シミュレーションや資産管理などの機能がデジタルツールで提供され、顧客が自分自身で投資判断できるような環境整備が進んでいます。

また、時間的余裕の少ない働き盛り世代に対しては、分かりやすくタイムリーな投資情報提供と、非対面と対面を組み合わせた最適なサービス提供が求められているのです。

理由②:業務効率化とコスト削減の必要性

証券業界は長年にわたり古いシステムに依存しており、これらのシステムは最新技術との互換性がなく、システム内データを活用できないため大幅な業務効率化が困難です。しかし現在では、自動化ツールの導入による定型業務の効率化、人工知能を活用したコンプライアンス監視、ペーパーレス化による事務処理の電子化など、デジタル技術を活用した業務プロセス改革が急速に進んでいます。

企業の調査では、DXの最重要目的として既存事業のコスト削減を挙げる企業が多数を占めており、証券業界でも人件費削減や処理時間短縮による大幅なコスト削減効果が期待されています。

理由③:セキュリティ強化の重要性

DX推進に伴い証券業界のセキュリティリスクが急激に高まっています。証券業界では多くの企業が全社戦略に基づいてDXを推進している一方、データ流通量は今後数年で大幅に増加すると予測されています。近年のサイバー犯罪検挙件数は増加傾向にあり連続で増加しており、クラウド利用率の増加とともにデータ漏洩リスクへの備えが必要です。

金融庁は新たなサイバーセキュリティガイドラインを発表し、新しいアーキテクチャに基づく革新的なセキュリティ対策への転換を求めています。証券会社は、顧客の金融資産と機密情報を守る高度なセキュリティ体制の確立が急務となっています。

理由④:規制対応の複雑化

証券業界を取り巻く規制環境は年々複雑化しており、頻繁な規制変更により企業のシステムが分断され、コンプライアンスチームに大きな負担がかかり続けています。デジタル化の進展に伴い個人情報保護に関する法改正、金融商品取引に関する新たな要件、持続可能投資に関する開示規制など、多岐にわたる規制に迅速かつ正確な対応が必要です。

業界調査では、証券業務の各領域でデジタルソリューションが活用され、特にコンプライアンス・リスク管理分野での自動化が進んでいます。デジタル技術により規制対応の効率化と精度向上を同時に実現することが急務となっています。

理由⑤:競争力維持のための差別化

DXは「データとデジタル技術を活用して競争優位性を確立する」全社的な取り組みであり、証券業界では差別化の源泉となるイノベーションを組織的に起こすべく、デジタル組織やイノベーション組織を立ち上げる企業が増加しています。

データ分析による個別最適化されたサービス提供、ブロックチェーン技術を活用したセキュリティトークンの開発、AIロボアドバイザーによる24時間投資支援など、デジタル技術を駆使した独自サービスによる差別化戦略が競争力維持の鍵となっています。

証券DX推進が企業にもたらすメリット

証券DX推進は証券業界に多方面にわたる大きなメリットをもたらします。顧客体験の向上、オペレーション効率化、リスク管理の高度化など新サービス創出においては、デジタル技術を駆使した革新的な金融商品開発が期待されています。

顧客体験の向上やサービス品質の改善

証券DXでは、デジタルツールにより投資シミュレーションや資産管理機能が提供され、顧客が自分自身で投資判断できる環境が整備されています。従来の営業担当者による画一的な商品説明から脱却し、個々の顧客データを活用したパーソナライズされたサービス提供が可能になりました。

ユーザーインターフェースの使いやすさを追求し、モバイルアプリやウェブプラットフォームを通じた利便性向上により、時間や場所を選ばない投資環境を構築できます。また、顧客とのタッチポイントがデジタル化され、リアルタイムでの情報提供や迅速な問い合わせ対応が実現し、顧客満足度の大幅な向上と長期的な顧客関係構築が期待されています。

オペレーション効率の向上や業務最適化

証券業務は従来、紙ベースで複雑な手続きが多い分野でした。現在はデジタル技術を活用した業務プロセスの再設計により、効率化が図られています。自動化ツールの導入による定型業務の処理時間短縮、人工知能を活用したデータ処理の高速化、ペーパーレス化による事務コストの削減など、多岐にわたる改善効果が期待できるのです。

業務の速度と精度が同時に向上し、人的ミスの削減とヒューマンリソースの最適配置が実現されます。これにより従業員はより付加価値の高い業務に集中でき、全体的な生産性向上と組織効率の最大化が達成されています。

リスク管理の強化と安定的な運営の実現

人工知能と機械学習を活用することで、膨大なデータから隠れたリスク要因やパターンを発見し、従来の人手によるモデリングでは捉えきれなかった多様化・高度化する市場リスクを網羅的に分析することが可能です。

リアルタイムでの不正取引検知、インサイダー取引防止のための高度なモニタリング、新たな規制への影響シミュレーションなど、守りの領域における生成AI活用も進んでいます。これにより安全性を確保する守りの経営と、適切なリスクを取りながら収益を追求する攻めの経営をバランスよく進めることが可能になり、精緻なリスクモデル生成により競争優位性の確立が期待されています。

新サービス創出の可能性

証券業界はデジタル技術を駆使した次世代の金融サービス提供により、従来のビジネスモデルを根本から変革する可能性を秘めています。人工知能による自動投資アドバイス、ブロックチェーン技術を活用した革新的な金融商品開発、データ分析に基づくパーソナライズされた投資戦略提案など、これまでにない付加価値の高いサービスが生まれるのです。

投資の小口化や時間分散投資を可能にするデジタルサービス、従来の投資家層では届かなかった顧客セグメントへのアプローチ、新たな収益モデルの構築など、競争優位性を確立し持続的な成長を実現するイノベーション創出が期待されています。

証券DX推進における課題とデメリット

証券DX推進は多くのメリットをもたらす一方で、企業が直面する重要な課題も存在します。高額な初期投資、複雑なシステム移行、専門人材の確保、セキュリティリスクの増大など、慎重な検討と対策が必要な問題が数多くあります。これらの課題を十分に理解し、適切な対応策を講じることがDX成功の鍵です。

初期投資コストの負担

証券DX推進には莫大な初期投資が必要です。レガシーシステムの刷新、クラウドインフラの構築、AI・ブロックチェーン技術の導入には数億円から数十億円規模の費用が発生します。さらに、既存システムとの連携や移行作業、従業員教育にも追加コストがかかります。

中小証券会社にとっては資金調達が重要な課題となり、投資対効果の明確化と段階的な導入計画の策定が不可欠です。短期的な収益圧迫を覚悟した長期的視点での経営判断が求められています。

システム移行時のリスクと業務停止の可能性

レガシーシステムから新システムへの移行は高いリスクを伴います。データ移行時の不具合、システム間の互換性問題、予期しない機能停止により、取引業務が一時的に停止する可能性があります。証券業界では取引の継続性が極めて重要であり、わずかなシステム障害でも顧客の信頼失墜と大きな損失につながりかねません。

段階的な移行計画、十分なテスト期間の確保、バックアップシステムの準備が必須です。移行期間中の業務継続計画とリスク管理体制の構築が成功の鍵となります。

人材不足とスキルギャップの問題

証券DX推進には高度なデジタル技術スキルを持つ人材が不可欠ですが、業界全体で深刻な人材不足が発生しています。AI・データサイエンス・ブロックチェーン技術に精通した専門家の確保は困難を極め、既存従業員のスキル向上にも時間がかかります。金融業界特有の規制知識とデジタル技術の両方を理解できる人材は特に希少です。

外部人材の採用予算の拡大、社内研修の充実、産学連携による人材育成など、多角的なアプローチが必要です。継続的な学習環境の整備と人材定着策の実施が重要課題となっています。

サイバーセキュリティリスクの増大

デジタル化の進展に伴い、証券会社のサイバーセキュリティリスクは急激に増大しています。クラウド利用拡大により攻撃対象が広がり、顧客の金融資産や機密情報が狙われるリスクが高まるのです。ランサムウェア攻撃、データ漏洩、システム侵入などの脅威に対する対策コストも増加し続けています。

一度のセキュリティ事故で企業の信頼は失墜し、巨額の損害が発生する可能性があります。多層防御システムの構築、従業員のセキュリティ教育、24時間監視体制の整備など、継続的な投資と対策強化が不可欠です。

日本企業による証券DXの成功事例

日本の証券業界では、競争激化と顧客ニーズの多様化に対応するため、各社がDXの取り組みを積極的に推進しています。従来の店舗型営業から脱却し、デジタル技術を活用した新しい顧客体験の提供が急務となっているのです。

野村證券、SBI証券、みずほ証券などの大手各社は、それぞれの強みを活かしたDX戦略を展開し、業界全体の変革をリードしています。

野村證券株式会社|AIとブロックチェーンを活用したデジタル変革

野村證券は、全社的なデジタル・トランスフォーメーションを推進し、顧客接点の強化とAI技術の活用に注力しています。同社が開発した「Nomura Navigation」は、AIを活用した資産運用支援ツールとして注目を集めています。このAIを活用した資産運用支援ツールを活用することで、ユーザーの金融資産・ライフプラン・リスク許容度などの情報を基に、最適な資産運用の提案が可能です。

また、ブロックチェーン技術を活用したデジタル証券の発行・売買プラットフォームも開発しており、従来の金融の枠を超えた新しい価値創造を実現しています。さらに、社内業務の自動化・効率化を推進し、より付加価値の高い分析・アドバイザリー業務への注力を図っています。

参考:金融DX最前線:証券業界の最新トレンド | The Finance|野村グループ

参考:ホーム – 野村グループ|特集 | デジタル・トランスフォーメーション

株式会社SBI証券|AIを活用したロボアドバイザーやチャットボットによる顧客サービスを展開

SBI証券は、証券業界におけるDXの先駆者的な存在として、革新的な取り組みを展開しています。オンライン証券として証券取引をいつでもどこでも可能にし、取引の手間を大幅に削減することに成功しました。AI技術の活用においても積極的で、ロボアドバイザーによる資産運用アドバイスやAIチャットボットによる24時間対応の顧客サポートを提供しています。

2023年12月には、AIが相場上昇・下落を予測し、その予測をもとに投資配分をダイナミックに変更する投資一任サービス「ROBOPRO for SBI証券」の提供を開始しました。さらに、ブロックチェーン技術を活用したセキュリティトークンオファリング(STO)などの新たな資金調達手法も提供しており、業界全体のデジタル化を牽引しています。

参考:金融DX最前線:証券業界の最新トレンド | The Finance|SBI証券

参考:SBI証券|AI投資 ROBOPRO |SBI証券

みずほ証券株式会社|AI電話自動応答システムを導入して顧客とのタッチポイント拡大とオペレーター負担軽減を実現

みずほ証券は、証券会社にとどまらずフィナンシャルグループ全体でDXを推進し、顧客体験価値の向上に取り組んでいます。2021年12月に導入されたAI電話自動応答システムにより、顧客とのタッチポイントの拡大とオペレーターの負担軽減を実現しました。その後も継続的にシステムを拡充し、2022年には有人チャットとチャットボットを導入し、顧客と従業員双方の利便性向上を図っています。

2023年8月には、ユーザー行動を元にしたチャットサポートの提供を開始し、よりパーソナライズされたサービスの実現に向けて取り組みを強化しました。このシステムでは、顧客のWebページ内での行動分析を行い、つまずきポイントに合わせて先回りしてFAQや有人チャットサポートの案内を表示します。

参考:金融DX最前線:証券業界の最新トレンド | The Finance|みずほ証券

参考:モビルス株式会社|MOBI AGENTがみずほ証券Webサイトで ユーザー行動を元にしたチャットサポートを提供 | モビルス株式会社

まとめ|証券DXで実現する未来を掴むために、今すぐ実践しよう

証券DXは単なるデジタル化ではなく、業界全体の構造変革を促す重要な取り組みです。AI・ブロックチェーン技術の活用により、顧客体験の向上と業務効率化が同時に実現され、新たなビジネスモデルの創出も可能になります。

前述の事例が示すように、各社の強みを活かしたDX戦略の展開が競争優位性の確立につながっています。今こそ自社の現状を分析し、段階的なDX推進計画を策定して実行に移すべき時です。