証券DXがCXに与える影響とは?実現する方法と成功事例を解説

デジタル化の波が押し寄せる証券業界で、DXの推進は企業の生存戦略として不可欠となっています。顧客ニーズの多様化と競争激化の中で、いかに優れたCXを提供できるかが成功の分かれ道です。

本記事では、証券DXがCXに与える具体的な影響から実現方法、先進企業の成功事例まで、包括的に解説していきます。

証券DXとCXの基本概念

証券業界では今、DXが急速に進んでいます。従来の対面営業中心のビジネスモデルから、AI・クラウド技術を活用したサービスへの変革が求められています。他社との差をつけるなら、DXのみならず、CX(顧客体験)の質を高めることが必要です。

実際に、24時間365日のサービス提供、個別化された投資アドバイス、リアルタイムでの取引サポートなど、従来では考えられなかったサービスが次々と実現されています。

証券DXとは何か

証券DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、単なるIT導入にとどまらず、証券会社の経営戦略や組織文化を見直し、競争力を高めるための取り組みです。従来の対面中心の取引から、AI・クラウド・ビッグデータといった先端技術を活用したサービスへの変革を意味しています。

また、取引システムの高度化、顧客データの活用、自動化による業務効率化も含まれています。各社がこぞって導入を進めているAIを活用した顧客サポートシステム・モバイルアプリでの取引環境整備などが代表的です。

証券DXは顧客との接点を根本的に変える取り組みでもあります。従来の営業担当者による電話・対面から、チャットボット・アプリを通じた接客へと進化しています。証券DXは単なるシステム導入ではなく、組織文化と業務プロセス全体の変革です。

CXの定義と重要性

CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が企業との接点で得る全ての体験の総称です。証券業界では、口座開設から取引実行、アフターサービスまでの全過程での顧客の感情と満足度が含まれます。

優れたCXは顧客ロイヤルティ向上、口コミによる新規顧客獲得、収益性向上に直結します。スマホアプリの使いやすさ、問い合わせへの対応スピード、分かりやすく役立つ投資情報の提供などは、顧客満足度を大きく左右するポイントです。

さらに、分かりやすく役立つ投資情報の提供も、顧客の信頼感と満足度を高めます。

競争激化する証券業界では、手数料の価格競争だけではありません。いかに顧客に価値ある体験を提供できるかが差別化の鍵となっています。

証券業界におけるDXとCXの関係性

証券業界では、DXとCXが密接に関連しています。DXの推進により、自動化、個別化、リアルタイム対応などの取り組みが可能となることで、顧客体験の質を大きく高めることが可能です。

AIを活用した24時間対応のカスタマーサポートは、営業時間の制約を解消し、顧客の利便性向上が可能です。モバイルアプリによる快適な取引環境の提供、投資情報の個別配信、データ分析に基づく顧客ニーズの把握も、競争優位性の確立に貢献しています。

DXによって個々の顧客に最適化されたサービス提案は、満足度と信頼の向上につながります。そして、迅速な取引処理・直感的なUIの導入によって、CXがより効率的で快適なものへと進化していくでしょう。

証券業界における現状の課題やCX低下の背景

証券業界は今、従来のビジネスモデルでは対応困難な複数の課題に直面しています。長年使用されてきたレガシーシステムの制約、急速に変化する顧客ニーズへの対応の遅れは、業界にとって大きな課題です。

フィンテック企業との競争激化、複雑化する規制要件への対応コストの増加も、企業の経営を圧迫する要因となっています。これらの課題を解決し、持続的な成長を実現するためには、抜本的な変革が必要です。

レガシーシステムによる業務の非効率性

多くの証券会社が抱える最大の課題は、数十年前に構築されたレガシーシステムの存在です。レガシーシステムは保守コストが高く、新機能追加または他システムとの連携が困難です。それが、変化の激しい市場環境への迅速な対応を阻害してしまっています。

レガシーシステムはセキュリティリスクも高く、コンプライアンス要件への対応が複雑です。古いシステム構造では、最新のセキュリティ脅威に対する防御機能が不十分で、サイバー攻撃に対する脆弱性が高まります。

レガシーシステムはデータサイロ化も引き起こします。部門間の情報共有が制限され、統合的な顧客管理・分析が困難になります。システム刷新には巨額の投資と長期間を要するため、多くの企業が抜本的改革に踏み切れていません。

顧客ニーズの変化と対応の遅れ

現代の投資家は、スマートフォンによる手軽な取り引き、リアルタイムでの情報提供、個別に最適化されたアドバイスを求めています。特に若年層は、SNSを活用した情報収集・少額からの投資を好む傾向があり、従来の対面型営業モデルとは異なる価値観です。

多くの証券会社はこうした変化への対応が遅れており、顧客離れ・新規顧客の獲得難に直面しています。若年層の投資家は、動画コンテンツによる学習、モバイルアプリでの簡便なポートフォリオ管理、少額から始められる投資環境を重視する傾向が顕著です。

デジタルネイティブ世代を取り込むには、従来とは異なるアプローチが求められますが、組織の硬直化が障壁となり、迅速な対応が難しいのが現状です。

デジタル化による競争激化

金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせたフィンテック企業・ネット証券の台頭により、証券業界の競争環境は大きく変化しています。自動運用サービスを提供するフィンテック企業は、少額から始められる手軽さで若年層の支持を集めています。

また、手数料の無料化、使いやすいアプリの提供、革新的なサービスを武器にした新興企業が急速に存在感を強めており、従来型の証券会社は対応に苦慮しているでしょう。

デジタル対応の遅れは市場シェアの低下と収益性の悪化に直結します。持続的な競争力を確保するには、DX・CXの推進が不可欠です。

規制対応とセキュリティ対策によるコストの増加

証券業界は厳格な規制環境のもとで事業を展開しており、コンプライアンス対応には多大なコストと人的リソースを要します。MIFID II、GDPR、金融商品取引法など、複雑で頻繁に改正される規制への対応は、システムの改修と業務プロセスの継続的な見直しが必要です。

これにより、規制対応コストが収益を圧迫し、新たなサービス開発への投資余力を削ぐ要因となっています。個人情報保護に関する規制対応では、顧客データの管理体制の強化、プライバシーポリシーの見直し、従業員向け研修の実施など、幅広い対応が必要です。

規制当局への報告業務も年々複雑化しており、バックオフィスの負担が増すことで、フロント業務に人員を十分に割けない状況が生まれています。限られたリソースの中で効率的に規制対応を行う体制の構築が急務です。

参考:野村證券株式会社|MiFID 2

参考:個人情報保護委員会|EU(外国制度)

GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)

参考:法令検索|金融商品取引法

証券DXがCXに与える具体的な効果

証券業界でのDXは、CXに多面的で大きな影響を及ぼしています。従来の営業時間・物理的な制約にとらわれない顧客接点のデジタル化は、DXがもたらした代表的な変化の1つです。

DX推進によるCXの変化は、単なる利便性の向上にとどまらず、顧客の投資行動・証券会社との接点そのものを大きく変える要因となっています。以下より証券DXによるCXに与える具体的効果を見ていきましょう。

顧客接点のデジタル化による利便性向上

証券DX推進により顧客接点がデジタル化されると、顧客は24時間365日、好きなタイミングでサービスへアクセスが可能です。従来の営業時間・物理的な制約が取り払われたことで、利便性は大きく向上しています。

また、スマートフォン・Webを通じて、取り引きの実行、情報収集、資産状況の確認までを一括で行えるようになります。モバイル環境での投資が一般化すると、時間・場所に縛られない柔軟な投資スタイルが可能です。

チャットボット・ビデオ通話機能を活用して、必要なときにすぐサポートを受けられる体制も整備されつつあります。デジタル接点を通じて得られる顧客の行動データは、サービス改善に向けた重要な基盤です。

顧客データ活用による個別化サービスの実現

DX推進により蓄積される顧客データを活用することで、一人ひとりに最適化されたサービス提供が可能です。投資履歴、リスク許容度、資産状況、行動パターンを分析し、個別の投資提案・情報配信を行うことで、顧客満足度は大幅に向上します。

さらに、AIを活用したポートフォリオ分析・投資アドバイスにより、従来は富裕層限定だった高度なサービスを一般投資家にも提供が可能になりました。顧客の投資目標、年齢層、リスク選好度に応じた資産配分の提案、個人の投資行動パターンに基づく商品推奨などが実現されています。

顧客の投資目標・ライフステージに応じたタイムリーな情報提供によっても、より価値の高い顧客関係を構築できます。パーソナライゼーションは顧客ロイヤルティ向上の強力な武器となるでしょう。

業務効率化による対応スピードと正確性の向上

DXによる業務の自動化と効率化は、顧客サービスの質を高めるうえで大きな効果をもたらします。バックオフィス業務を自動化することで、人的リソースを顧客対応に振り向けられるようになり、より丁寧で専門性の高いサービスの提供が可能です。

処理時間の短縮をすると、口座開設・取引決済のスピードが向上し、顧客の待ち時間を削減することも可能です。自動化技術の導入によって、口座開設の迅速化、注文処理の高速化、定期レポートの自動生成なども実現されています。

エラーの発生率が下がることでトラブルが減り、サービスの信頼性も向上しています。そして、効率化によって削減されたコストを活用し、手数料の引き下げやサービス内容の充実などの形で顧客に還元することが可能です。

証券DXでCX向上を実現するためのアプローチ方法

証券業界で真にCXの向上を図るには、戦略的かつ体系的なアプローチが欠かせません。明確なビジョンに基づいた戦略の策定に加え、柔軟で拡張性のあるシステム基盤の整備、デジタル人材の育成・確保などの取り組みが求められます。

顧客データを効果的に活用するための基盤づくりも重要なテーマとなっています。これらを一体的に推進することで、企業は持続的な競争優位性を築き、顧客満足度の向上を実現することが可能です。

経営戦略に基づいたDXの全社的推進

証券DXを成功に導くには、明確なビジョンと戦略の策定が欠かせません。経営陣が強いコミットメントを示し、全社的にDXを推進する体制を整えることが出発点となります。

現状を分析して課題を洗い出し、優先順位を明確にした上で、段階的な実行計画を立てることが重要です。一般的には、顧客接点のデジタル化から着手し、次に業務プロセスの自動化、最終的には新サービスの開発へと進めるアプローチが有効とされています。

顧客ニーズと市場の変化を的確に捉え、どのような顧客体験を提供するのかを具体的に描くことが不可欠です。そして、ROI(投資対効果)を明示した上で、継続的な投資を可能にする財務計画を構築する必要があります。

システム基盤の整備

DXを実現するためには、柔軟性と拡張性を備えた現代的なITインフラの構築が不可欠です。レガシーシステムを段階的に刷新し、クラウド前提の設計へ移行することで、変化への対応力を高めることが必要です。

はじめから他のサービスとの連携を前提に設計する『APIファースト』を取り入れることで、新機能の追加がしやすくなります。さらに、各機能を小さな単位で独立して開発・運用できる仕組みを採用すれば、全体の可用性と保守性の向上にもつながります。

セキュリティとコンプライアンスを重視しながら、暗号化技術と認証システムを最新のものに更新しましょう。リアルタイムでの意思決定を支えるデータ分析基盤を整えることが重要です。

デジタル人材の採用・育成

DX推進には適切なスキルを持つ人材が不可欠です。まず既存社員のデジタルリテラシー向上のための教育プログラムを実施し、変化に対応できる組織能力を構築することから始めましょう。

データサイエンティスト、AIエンジニア、UX/UIデザイナーなど、専門性の高い人材を積極的に採用することも重要です。DX推進チームは、IT技術者だけでなく、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャー、チェンジマネジメント専門家など多様な人材が必要です。

社内で不足するスキルは、外部パートナーとの協業体制を構築して補完していくことが効果的になります。

継続的な学習文化を醸成し、技術進歩に対応できる組織作りを進めましょう。デジタル人材のモチベーション維持に向けた適切な評価制度と成長機会の提供も欠かせません。

顧客データを活かせる分析基盤の導入

効果的なCX向上には、顧客データの統合的な管理と活用が必要です。まず分散している顧客情報を統合し、360度の顧客ビューを構築することから始めます。

データガバナンスを確立し、品質管理とプライバシー保護を徹底することが重要です。取引履歴、Webサイト閲覧行動、問い合わせ内容、アプリ利用状況などの顧客データを統合することで、顧客の投資傾向と関心領域を詳細に把握できるようになります。

リアルタイムデータ処理能力を構築し、即座に顧客ニーズに対応できる仕組みを作ることも必要です。機械学習プラットフォームを導入して予測分析と個別化サービスの自動化を進めましょう。

データ分析結果を迅速にサービス改善に反映し、継続的なCX向上を実現していきましょう。

CX向上に成功した証券DXの導入事例

証券業界では既に多くの企業がDXを活用した革新的なCX向上施策を実践し、目覚ましい成果を上げています。

大和証券のAIオペレーター、野村證券のOMO戦略、SBI証券の24時間AIサポート、楽天証券の生成AI投資アシスタントなど、各社の取り組みは業界全体のベンチマークとなっています。

他社の成功事例から学ぶことで、効果的なDX戦略の立案と実行が可能になるでしょう。

事例①大和証券株式会社|AIオペレーターによる革新的な顧客接点の自動化

大和証券は生成AIを活用した『AIオペレーター』を導入し、マーケット情報提供と手続き対応を効率化して顧客体験を改革しています。投資家層拡大による問い合わせ増加に対し、複数のAIエージェントがリアルタイムで高速処理する体制を構築しました。

株価照会、口座残高確認、NISA関連手続きなどを24時間365日対応し、モニタリングAIが品質管理を徹底しています。有人オペレーターの負荷軽減と24時間対応を実現し、今後は顧客個別の手続き案内、執行、入出金・受発注対応も目指しています。

参考:大和証券株式会社|AIオペレーターによるお問い合わせサービス提供開始について~最先端テクノロジーを活用した顧客体験(CX)変革~

事例②野村證券株式会社|OMO戦略で実現するシームレスな顧客体験

野村證券は実店舗とネットサービスを融合したOMO戦略によるDXを推進しています。

2022年4月設立のデジタル・カンパニーが中心となり、従来の対面営業から「顧客とのコミュニケーションをデジタル中心に変化させる」ミッションのもと、約530万人の顧客への効率的サービス提供を実現しました。

店舗相談内容のデジタル継続フォロー、オンライン情報収集から店舗詳細相談への誘導仕組みを構築し、投資前・投資時・投資後の全段階で顧客が求める情報を継続提供しています。これにより、人手では不可能だった個別対応を可能にしています。

参考:野村證券 採用情報|デジタル・カンパニー

事例③株式会社SBI証券|AI活用WEB接客で実現する24時間カスタマーサポート

SBI証券は2018年12月にKARAKURI chatbotを導入し、『顧客満足度向上』『営業時間外対応』『有人対応率の低減』を実現しました。24時間体制で即時回答が可能となり、従来メールで翌日回答だった問い合わせに対応できています。

最先端の自然言語処理AIにより、曖昧なキーワード・自然文での問いかけにも精度の高い検索結果を表示できるようになりました。NISA口座開設や投資信託の基本質問など初心者の疑問に適切に回答しています。

電話・メールでは把握できなかった疑問を発見し、顧客の口座開設を後押ししており、AIチャットボットを”同僚”と位置づけ継続改善を図っています。

参考:SBIホールディングス|AI搭載のWEB接客ツール導入による新しいFAQサイト提供開始のお知らせ(SBI証券)- PR情報

事例④楽天証券株式会社|生成AI投資アシスタントによる投資体験の変革

楽天証券は2023年7月19日より、OpenAIの『ChatGPT』を導入した『投資AIアシスタント(β版)』の提供を開始しています。生成AIを活用した顧客向けサービスは業界初となりました。

『投資AIアシスタント(β版)』は、楽天が独自開発し特許を取得したAIモデルとChatGPTを組み合わせたオリジナルAIを搭載しています。人間との会話のように自然にコミュニケーションでき、楽天証券の使い方、投資・お金の質問に回答することが可能です。

投資の基礎知識、レベルに応じた投資方法、おすすめ記事を提供することで、投資のハードルを下げる革新的なサービスを実現しています。

参考:楽天証券|投資AIアシスタント [ベータ版+プラス]

まとめ|証券DXでCXを向上させる時代の到来

証券業界はデジタル変革の転換点に立っており、レガシーシステムと顧客ニーズ対応の課題解決が急務です。

大和証券のAIオペレーター、野村證券のOMO戦略、SBI証券の24時間AIサポート、楽天証券の生成AI投資アシスタントなど先進的取り組みが成果を上げています。

適切なDX戦略によりCX向上と業務効率化を両立することが、証券DXの市場競争での必須要件となっています。本記事を参考にしながら、自社の取り組みを再確認してみてはいかがでしょうか。