証券DXでコスト削減をする方法は?対象となる費用や注意点を解説

証券会社は手数料自由化や競争激化により収益率が低下しています。規制対応やシステム維持費が増加し、既存の手続きフローではコストが膨らむ恐れがあります。証券DXに取り組み、デジタル技術を活用してコスト削減に取り組みましょう。

証券ビジネスは手数料自由化やネット証券の台頭により収益率が低下傾向にあります。

また、規制対応やシステム維持費の増加、紙中心の手続きによる固定費の増大が懸念されています。

このような状況に直面する中で、証券会社としての収益性を維持しつつ、コスト削減する方法を模索している人もいるでしょう。

コスト削減を目指すためには、デジタル技術を活用し業務プロセスを刷新することが大切です。

この記事では証券DXにおけるコスト削減方法について解説します。

証券DXでコスト削減が求められる理由

証券ビジネスでは手数料自由化とネット証券の台頭で収益率が低下傾向にあります。

さらに規制対応やシステム維持費が膨らみ、既存の店舗網や紙中心の手続きフローでは固定費がかさんでしまう恐れもあるでしょう。

そのため、デジタル技術を活用して業務プロセスを刷新し、コストを抜本的に削減する動きが加速しています。

加えて、投資家の取引スタイルがスマホ中心へ移り、スピードと低コストを両立できるサービスが顧客から選ばれているため、証券DXによるコスト削減が求められている状況です。

市場競争の激化

国内証券市場ではネット証券による手数料無料化やスマホ特化型サービスの台頭が続くことで、価格競争とUX(ユーザーエクスペリエンス)競争が進行しています。

証券会社によっては、収益源多様化のため外部サービス連携やポイントプログラムを導入していますが、それに伴うシステム運営コストが負担となり利益率に影響を与えています。

加えて、暗号資産取引所や金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせたサービスを提供するフィンテック企業が市場に参入したことで、証券会社は従来型ビジネスモデルからの変革が求められているでしょう。

このような競争環境に適応するには、DXを通じたコスト構造の改革が不可欠になります。

顧客のニーズの変化

投資家は取引スピードや手数料の低さだけでなく、モバイル完結、マルチアセット対応、そして個々の投資目的に合わせたパーソナライズドな提案を証券会社に求めています。

また、SNS経由で投資情報を取得する比率が高まり、リアルタイムでの通知やコミュニティ機能も顧客のニーズです。

結果として、紙ベースの資料送付や対面中心のサポートは敬遠され、デジタルチャネルへのシフトチェンジが加速傾向にあるでしょう。

証券DXを促進して顧客ニーズの変化に柔軟に対応できる体制を整えることで、顧客離れの防止につながります。

証券DXで削減が期待できる代表的なコスト4項目

証券業務には以下のようなコストが発生します。

  • 人件費
  • 賃料や設備費
  • 広告宣伝費や販促費
  • 採用や人材教育費

これらのコストに対して、単純な経費削減は期待する効果を得られない可能性があるでしょう。

そこで、デジタル技術を活用して業務プロセスを再設計し、コスト構造自体を可変化する取り組みが注目されています。

特にバックオフィス領域は証券DXによって自動化できる余地があるため、コスト削減が期待できます。

人件費

証券業務における人件費は、業務の効率化を進めることで削減が可能です。

特に、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI-OCRの導入により、ルーチン業務の自動化が進みます。

これにより、従業員が手動で行っていた作業を自動化でき、人件費の削減と人的ミスの軽減が実現します。

また、業務プロセスが効率化されることにより、スタッフはより付加価値の高い業務に集中できるため、業務全体の効率性の向上も期待できるでしょう。

このように、デジタル技術の導入によって人件費の削減が可能になるのです。

賃料や設備費

証券DXを進めることで、オフィスの設備費や賃料を削減できます。

例えば、クラウドサービスやリモートワークの導入が効果的です。

コロナ禍を経て、リモートワークが定着したことで、物理的なオフィススペースを縮小し、賃料や光熱費を削減することが可能になりました。

さらに、ペーパーレス化により、オフィスの書類やファイルを保管するスペースが不要となり、物理的なスペースの削減が進みます。

これにより、オフィス関連の固定費を圧縮できます。

広告宣伝費や販促費

広告宣伝費や販促費はデジタル化によって削減できるコストです。

特に、デジタルマーケティング(SNS広告やSEO対策など)の強化により、従来の紙媒体の広告にかかるコストを削減しながら、ターゲット層に効率的にアプローチすることができます。

SNSやWeb広告は、従来のマス広告よりも低コストで、より多くの潜在顧客にリーチできるため、広告費の削減効果が期待できるでしょう。

また、データ分析を活用して、広告効果をより引き出すことも可能となり、さらなる費用対効果の向上が図れます。

採用や人材教育費

証券DXでは、採用活動や人材教育の効率化もコスト削減に貢献します。

Web面接を活用すれば、面接会場の費用や応募者の移動費を削減でき、全国どこからでも優秀な人材を採用しやすくなるでしょう。

さらに、eラーニングを導入することで、従業員の教育を効率的に行い、集合研修にかかる会場費や講師費用を削減可能です。

このように、人材の採用から教育までのプロセスをデジタル化すれば、コストを削減し、より効率的な人材育成が可能となります。

証券DXでコスト削減する方法

証券業界では、証券DXによるデジタル化の進展によりコスト削減の新たなアプローチが求められています。

具体的には次のような方法でコスト削減が可能です。

  • AI活用による業務自動化で人件費を圧縮する
  • クラウドを活用してペーパーレスやテレワークにつなげる
  • データレイクなどを活用したデータ分析で広告費を削減する
  • eラーニングで教育コストを抑える
  • ATS(採用管理システム)で採用コストを低減する

先述の代表的なコストで触れた削減方法を、より詳しく解説します。

AI活用による業務自動化で人件費を圧縮する

AI技術とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用すれば、証券業務におけるルーチンワークを効率化し、業務負担を軽減できます。

例えば、顧客対応の一部や口座開設手続き、書類の処理などを自動化すれば、人件費を削減できるでしょう。

RPAを導入することで、定型的な業務を迅速に処理できるため、従業員は付加価値の高い業務に専念でき、ミスを減らせるというのもメリットです。

さらに、AIによる分析機能を活用し、顧客の取引履歴や市場データを基に、適切な投資提案を行うことも可能です。

これにより、業務の効率化とともに顧客満足度の向上も期待できます。

クラウドを活用してペーパーレスやテレワークにつなげる

クラウドサービスを導入することで、証券業務におけるコスト削減が実現します。

具体的にはクラウド化により、物理的なサーバーやストレージの管理が不要となり、ITインフラのコストを削減可能です。

クラウドやWeb会議システムを活用してリモートワークを推進すれば、オフィススペースの縮小や賃料、光熱費の削減が期待できるでしょう。

さらに、ペーパーレス化を進めることにより、紙の資料印刷や郵送の費用、郵送業務の負担を軽減できます。

データレイクなどを活用したデータ分析で広告費を削減する

データレイクは多様な形式のデータを元の形で保存し、必要に応じて取り出して分析用に加工できる仕組みです。

この仕組みを活用することで、証券業務における広告費の削減や、効率的な顧客行動の分析が可能になります。

重要なのは、単にデータを収集するだけでなく、適切なプロセスを経て有効に活用することです。

具体的には、以下のようなステップで顧客の行動データを分析しましょう。

  1. データレイクへの生データ蓄積
  2. ETLプロセスでデータを抽出・変換・加工
  3. 分析用データベース(データウェアハウス等)に格納
  4. BIツールで可視化・分析

このようにデータレイクに集約された膨大な取引データや顧客情報をAIモデルと組み合わせて活用すれば広告効果を最大化できるでしょう。

また、不要な広告チャネルを即時に停止できるため、投資対効果を高められます。

eラーニングで教育コストを抑える

証券業務における従業員教育を効率化するために、eラーニングの導入が有効です。

従来のような従業員を集めて実施する研修に比べて、eラーニングは会場費や講師費用、移動費を削減できます。

また、eラーニングはオンラインで学習が進められるため、全国どこからでもアクセス可能で、従業員のスケジュールに合わせて学習ができます。

進捗状況をLMS(学習管理システム)で可視化すれば、個々の学習状況を管理し、タイミングに応じて必要なサポートを提供可能です。

このように、eラーニングを活用することで、教育コストを抑えつつ、効率的な人材育成を実現できます。

ATS(採用管理システム)で採用コストを低減する

ATS(採用管理システム)を導入すれば、手作業で行っていた以下のような業務を自動化できます。

  • 応募者情報の一元管理と抽出
  • 面接日程調整の自動化
  • 合否通知や各種連絡の自動化
  • 進捗管理とデータ分析

これにより、負担が軽減された採用担当者は、候補者とのコミュニケーションや人柄の見極めといった、より戦略的かつ付加価値の高い業務に注力可能です。

また、Web面接やAIを活用したスクリーニングなど、オンライン採用ツールの活用もコスト削減に貢献します。

証券DXでコスト削減する手順

証券DX促進によるコスト削減に取り組む際は、次のような手順で進めていきましょう。

  • 1.優先的に取り組む箇所を洗い出す
  • 2.目標を定める
  • 3.ツールを選定する
  • 4.実行後に効果測定・改善サイクルを回す

まず、大きなコスト削減効果を見込める業務から優先して改善を始め、目標達成に向けて計画的に進めるのが大切です。

適切なツールを選定し、定期的な効果測定とフィードバックを基に改善を繰り返すことで、持続可能なコスト削減が可能になります。

それぞれの手順を詳しく解説するので、コスト削減に取り組む際の参考にしてください。

1. 優先的に取り組む箇所を洗い出す

まずはコスト削減の対象となる業務を明確にしていきましょう。

証券業務には多くの業務プロセスがあり、その中でもひと際コストがかかっている部分や効率化が進んでいない部分を特定する必要があります。

例えば、定型的な業務やバックオフィス業務などは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用することで効率化できます。

また、顧客対応や口座開設など、時間がかかる業務にも注目し、改善の余地を探し出すのも大切です。

優先順位をつけ、インパクトのある業務から改善を始めると、短期間でコスト削減の効果を得られます。

2. 目標を定める

コスト削減の目標を明確に設定することが、成功のポイントです

単にコストを削減するだけでなく、具体的な目標を掲げ、その達成に向けて取り組みましょう。

例えば、人件費を10%削減する、ITインフラコストを20%削減する、などの定量的な目標の設定が効果的です。

目標を設定する際には、削減したコストをどのように再投資するか、削減後の業務品質や生産性に対する影響も考慮する必要があります。

目標設定は、リーダーシップを強化し、各チームが協力し合い、目指す方向へ導く役割を果たします。

目標をしっかりと定めることで、チーム全体が同じ方向に向かって取り組みやすくなるでしょう。

3. ツールを選定する

コスト削減を実現するためには、適切なツールの導入が欠かせません。

証券DXを推進においては、業務プロセスを自動化するためのツールや、データ分析を支援するツールが必要です。

例えば、RPAやAI-OCRを導入すれば、手作業で行っていた業務を自動化し、効率化につながります。

また、クラウドサービスを導入することで、ITインフラコストを削減し、柔軟な働き方を実現できます。

ツールを選定する際には、コスト削減効果だけでなく、業務に与える影響やシステムとの親和性も考慮しましょう。

4. 実行後に効果測定・改善サイクルを回す

コスト削減施策を実行した後は、その効果を定期的に測定し、改善サイクルを回しましょう。

具体的にはKPI(主要業績評価指標)を設定し、コスト削減の進捗状況を定期的にチェックします。

もし目標に達していない場合は、原因を分析し、改善策を講じましょう。

また、DX施策の導入が進む中で、常に業務の見直しを行い、さらなる効率化が求められます。

改善策を早期に導入することで、より迅速に目標達成へ近づけるため、持続的な効果を実現できるでしょう。

効果測定と改善サイクルを繰り返すことで、持続的なコスト削減と業務効率化につながります。

証券DXでコスト削減する際の注意点

証券DXを進めることにより、従来発生していたコストを削減可能です。

しかし、DX推進によってコスト削減に取り組む際は、次のような点に注意しましょう。

  • 従業員の理解と協力を得て社内浸透を図る
  • 生産性低下を防ぐための業務設計が必要
  • システム導入や運用コストも含めて検討する

DXの導入は、コスト削減だけでなく業務全体の質向上も目指すのが大切です。

また、従業員の理解と協力を得ておくことで導入したシステムの形骸化を防げます。

それぞれの注意点を詳しく解説します。

従業員の理解と協力を得て社内浸透を図る

証券DXを進めてコスト削減するうえで重要なのは、従業員の理解と協力が欠かせません。

新しい技術の導入や業務プロセスの変更は、従業員にとって負担に感じる要素のひとつです。

そのため、まずはDXの目的やメリットをしっかりと説明し、従業員の不安解消を目指すのがポイントです。

また、従業員の意見を取り入れ、改善点を反映すれば、より積極的にDXによるコスト削減の取り組みを受け入れてもらえるでしょう。

社内でのコミュニケーションを強化し、全員が一丸となってDX推進に取り組むことが、成功への第一歩となります。

生産性低下を防ぐための業務設計が必要

DXによるコスト削減を実現するためには、生産性の低下を防ぐための業務設計にも取り組みましょう。

新しいシステムやツールを導入したために、業務が一時的に停滞する可能性もあります。

そのため、業務プロセスを再設計し、スムーズにシステムを移行できる体制の整備がポイントです。

特に、従業員が新しいツールを使いこなせるように、十分な研修とサポートを提供しましょう。

また、システム導入後のフォローアップ体制を整え、問題が発生した際に迅速に対応できる体制の構築も、生産性の低下を防ぐために重要です。

システム導入や運用コストも含めて検討する

証券業務のDX化を進める際には、システム導入時のコストだけでなく、運用コストも考慮する必要があります。

初期費用が安いクラウドサービスやソフトウェアを導入しても、運用にかかるランニングコストやサポート費用が高くなる可能性もあるでしょう。

そのため、ツールやシステムの選定においては、導入後の維持管理費用やアップグレード費用も含めて長期的な視点で検討することが求められます。

運用コストが予算内に収まるように、複数の選択肢を比較し、最適な選定を行うことがコスト削減につながります。

証券DXでコスト削減に取り組んだ事例

証券DXを進めることでコスト削減に取り組んだ事例として挙げられるのが以下のケースです。

  • 株式会社岡三証券グループ | RPAで定型業務を自動化しコスト削減
  • 野村ホールディングス株式会社 | 業務プロセスのデジタル化で部門横断の効率化を実現

それぞれのケースを詳しく解説します。

事例1.株式会社岡三証券グループ | RPAで定型業務を自動化しコスト削減

株式会社岡三証券グループは、RPAを導入して業務の効率化とコスト削減を進めています。特に、事務集中センターを設置することで、事務業務の合理化を実現しました。

これにより、手作業で行っていた各種入力や登録、集計業務を自動化し、業務負担を軽減しました。

RPAを導入する前は、営業成績資料の作成や経費精算業務などが手作業で行われており、これに多くの時間と労力がかかっていました。

しかし、RPAを導入した結果、定型業務が自動化され、業務時間の短縮につながっています。

顧客管理資料や日次の営業成績資料の作成、経理業務に関する作業の自動化により、従業員はより価値の高い業務に集中できるようになり、全体的な生産性向上にも寄与しています。

参考:株式会社岡三証券グループ | 岡三証券グループ 中期経営計画 2020年4⽉〜2023年3⽉

事例2.野村ホールディングス株式会社 | 業務プロセスのデジタル化で部門横断の効率化を実現

野村ホールディングス株式会社は、証券業務における効率化を目的に、業務プロセス全般のデジタル化を進めました。

特に注力したのは、フロントオフィスからバックオフィスに至るまでの全てのプロセスを自動化することです。

これにより、部門間での作業の重複を削減し、部門横断での業務効率化を実現しました。

具体的には、営業活動や顧客管理業務などのフロントオフィス業務に加え、事務作業や経理業務などバックオフィス業務のデジタル化によって、業務全体のスピードと精度が向上しました。

また、顧客データの分析・活用により、顧客のニーズに基づいた提案が可能となり、個別の対応が迅速かつ効率的に行えるようになりました。

参考:野村ホールディングス株式会社 | Presentation at Nomura Investment Forum 2022 戦略アップデート ~これまでの成果と環境変化を見据えた今後の取り組み

まとめ|証券DXに取り組んでコスト削減を進めよう

証券業界では、手数料自由化や競争の激化により、コスト削減が求められています。

その中でDXの推進は、コスト削減だけでなく業務の効率化実現に有効です。

証券DXにおけるコスト削減には、RPAやAI、クラウド、データ分析など、さまざまなデジタル技術を活用しましょう。

証券DXによるコスト削減を進めるにあたっては、従業員の理解と協力が不可欠です。

新しい技術の導入や業務プロセスの変更は、従業員にとって不安要素となるため、しっかりとした説明とサポートが必要です。

また、生産性を損なわないためにも、業務フローの設計を慎重に進めることが重要です。この記事を参考にして、自社に合ったコスト削減のアプローチを見つけ、証券DXを着実に進めていきましょう。