証券DXのビジョン設定とは？求められる理由や注意点を解説

証券業界におけるDXは、技術革新にとどまらず、業務や企業文化の変革をもたらします。

しかし、DXに取り組んだにも関わらず、期待した結果が得られなかったというケースもあるでしょう。

DXの成果を引き出すには明確なビジョン設定が不可欠であり、目指すべき方向性やステークホルダーとの情報共有が重要です。

本記事では、証券DXにおけるビジョン設定の重要性とその具体的な方法を解説し、成功に向けたステップを紹介します。

証券DXでビジョン設定が求められる理由

証券DXは、単なる技術的な変革にとどまらず、業務のあり方や企業文化、顧客対応の方法にまで影響を与えます。

そのため、どのようにDXを促進していくのかビジョン設定が欠かせません。

ここでは、証券DXにおいてビジョン設定が求められる理由を解説します。

方向性の明確化

証券DXを推進するにあたり、重要なのはどの方向に進めていくのかを明確にすることです。

DXにはさまざまな側面があり、顧客体験の向上や業務効率化など、目指すべきゴールは多岐にわたります。

企業が進むべき方向性を明確にすれば、リソースの最適配分やプロジェクトの優先順位を決定でき、無駄のない効率的な進行につながるでしょう。

また、ビジョンが明確であれば、従業員やパートナー企業が目指すべき目標を共有しやすくなるでしょう

方向性が定まっていれば、DXの成功に向けて必要なステップを着実に進められます。

社内外のステークホルダーへの情報発信

証券DXを進めるためには、社内外のステークホルダーへの情報発信も求められます。

社内では、DXの目的や進捗状況を共有することで、従業員の理解と協力を得ることが重要です。

外部に対しては、顧客や投資家、規制当局に対して、デジタル化の意図と具体的な成果を適切に伝えましょう。

ビジョンが明確であれば、その内容をわかりやすく伝えることができ、信頼を獲得しやすくなります。

特に規制当局には、DXを進めることでどのように法令遵守が強化されるのか、どのようなリスク管理が行われるのかを示しましょう。

また、顧客に対しては、デジタル化がもたらす利便性やサービス向上の説明によって、企業としての信頼性を高めることができます。

企業文化の変革促進

DXは単なる業務の効率化にとどまらず、企業文化にも大きな影響を与えます。

DXによってデジタル化が進むと、従来のアナログな業務や意思決定の仕方から、より迅速でデータ駆動型の意思決定が求められるようになるのが一般的です。

そのため、企業文化の変革を促進するためにビジョン設定が必要です。

明確なビジョンがあれば、従業員が新しいテクノロジーや業務フローに適応しやすくなり、企業全体がデジタル化に向けて一丸となって取り組めるでしょう。

また、変革を支えるために必要なリーダーシップや教育体制の整備も、ビジョン設定の一部として考慮すべき点です。

証券DXのビジョン設定とは？構成する4つの要素

証券DX促進におけるビジョン設定の構成要素は、以下のとおりです。

• 顧客体験（CX）の変革と向上
• 業務プロセスの効率化と自動化
• テクノロジー基盤の強化とセキュリティ確保
• 組織文化と人材育成

それぞれの構成要素について詳しく解説します。

顧客体験（CX）の変革と向上

証券業界におけるDXの重要な目標のひとつは、顧客体験の向上です。

顧客が求めるのは、迅速で効率的な取引体験や、個々のニーズに合わせた金融サービスの提供です。

顧客の期待に応えるためには、テクノロジーの導入を進め、これまで以上にパーソナライズしたサービス提供が欠かせません。

例えば、AIを活用して顧客の投資傾向を分析し、最適な投資商品や戦略を提案するシステム導入が考えられます。

また、取引の際にリアルタイムでの情報提供や迅速な意思決定を支援するツールを提供することも、顧客体験をより向上させる要素となります。

業務プロセスの効率化と自動化

証券業務には膨大なデータの取り扱いや取引の管理が必要です。

これらの業務を効率化し、自動化することは、コスト削減や業務精度の向上に直結します。

ビジョン設定において、どの業務プロセスを自動化すべきかの明確化が重要です。

例えば、取引後のデータ入力作業や顧客情報の更新など、手作業で行われていた業務をRPA（ロボティック・プロセス・オートメーション）などの自動化ツールを導入して効率化が可能です。

また、バックオフィス業務の自動化により、人的リソースをより価値のある業務に再分配でき、企業全体の生産性が向上します。

テクノロジー基盤の強化とセキュリティ確保

証券DXにおいて、デジタル化を進める際に重視されるのが、システムの安全性と信頼性です。

取引データや顧客情報は極めて機密性が高いため、セキュリティ対策の強化は欠かせません。

ビジョン設定においてもテクノロジー基盤の強化とセキュリティ確保は、取り組むべき課題です。

具体的には、クラウド技術を活用してシステムのスケーラビリティや信頼性を向上させるとともに、データ暗号化や多要素認証などのセキュリティ対策を講じることが求められます。

また、システム障害やセキュリティインシデントが発生した際に迅速に対応できる体制を整えることもポイントです。

組織文化と人材育成

DXを進めるためには、企業文化の変革とともに、人材育成が欠かせません。

デジタル化が進む中で、従業員のスキル向上や新しいテクノロジーへの適応が求められます。

ビジョン設定の一環として、組織文化をデジタル化に適応させる取り組みが必要です。

例えば、従業員に対してデジタルスキルを向上させるための研修プログラムを提供することが重要です。

これにより、従業員が新しいツールやシステムを使いこなせるようになり、DXの成功に近づくでしょう。

また、オープンなコミュニケーションと協力の文化を育てることで、従業員同士がDX推進のために協力し、柔軟に変化に対応できる組織が作られます。

証券DXでビジョン設定する方法

証券DXでビジョン設定する方法は、以下のとおりです。

• 現状分析と課題の洗い出し
• ステークホルダーからの意見分析
• 必要なリソースの確認
• ビジョンを定期的にブラッシュアップさせる
• 社内外の環境変化に柔軟に対応する

それぞれのステップについて詳しく解説します。

1. 現状分析と課題の洗い出し

ビジョンを設定する前に、まずは現状を正確に把握しましょう。

現状分析を通じて、現在の業務プロセスやシステムの弱点、ボトルネック、顧客からのフィードバックなどを洗い出します。

これにより、DXの必要性や具体的な課題が明確になります。

例えば、既存の取引システムが旧式であり、取引のスピードや正確性に問題がある場合、これが課題として挙げられるでしょう。

あるいは、顧客からのフィードバックとして、オンラインでの投資サービスの利便性向上が求められている場合も重要な課題となります。

2. ステークホルダーからの意見分析

社内外のステークホルダーからの意見を集め、分析を進めましょう。

DXの推進には、多くの関係者が関わるため、意見や期待を反映させることが重要です。

ステークホルダーとは、顧客・従業員・経営陣・投資・規制当局など、さまざまな立場の人々を指します。

顧客からのニーズを反映させることはもちろんですが、従業員の意見も大切です。

特に、現場で働く従業員は日々の業務の中で感じている課題を把握しており、意見を反映させることで、より現実的で実行可能なビジョンを構築できます。

3. 必要なリソースの確認

ビジョン設定においては、実現に必要なリソースを把握することも欠かせません。

証券DXを進めるためには、適切なテクノロジー、人的リソース、予算などが必要となります。

これらのリソースが不足している場合、ビジョンを遂行できない可能性があります。

例えば、新しい取引システムを導入するためには、高度な技術を持つエンジニアやITインフラの整備が必要です。

また、AIを活用した資産運用のアドバイス機能を実装する場合、データサイエンティストや金融商品に関する知識を持つ専門家の協力も求められます。

4. ビジョンを定期的にブラッシュアップさせる

証券DXの進展は速く、技術や市場の状況の変化も同様です。

そのため、一度設定したビジョンをそのままにするのではなく、定期的にブラッシュアップさせることが求められます。

特に、顧客ニーズの変化や新しい技術の登場、競合他社の動向などがビジョンに影響を与えることがあるでしょう。

例えば、AI技術の進展により、以前は手動で行っていた業務を自動化することが可能になった場合、ビジョンにその要素を取り入れるのが効果的です。

また、市場の変動により顧客の投資傾向が変わった場合も、ビジョンを再評価し、必要な調整も実行しましょう。

5. 社内外の環境変化に柔軟に対応する

社内外の環境変化に柔軟に対応することが重要です。

証券業界は、技術革新や規制の変更、市場動向の変化など、さまざまな外部要因によって影響を受けます。

これらの変化に適応するために、ビジョンのフレキシビリティを持たせる必要があります。

例えば、新たな規制を導入することで、証券業務の方法が変わる可能性があるでしょう。

このような場合、ビジョンを迅速に修正し、規制に対応できるような体制を整えることが求められます。

また、市場での競争が激化した場合にも、柔軟に対応し、新たな差別化戦略をビジョンに組み込むことが大切です。

証券DXでビジョン設定する際の注意点

証券DX推進において、適切なビジョンがあれば、企業の方向性を明確に示し、リソースを効果的に活用することができます。

しかし、ビジョン設定には慎重なアプローチが求められます。

具体的には次のような注意点を把握しておきましょう。

• 経営陣のリーダーシップを確立する
• 成果を計測する指標を設定する
• 達成が難しい目標は設定しない
• ビジョンの透明性を確保する

ここでは、証券DXでビジョン設定する際の注意点を解説します。

経営陣のリーダーシップを確立する

証券DXを進めるためには、経営陣の強いリーダーシップが必要です。

DXは企業全体に影響を与えるため、経営陣が先頭に立って推進する姿勢が求められます。

ビジョン設定においても、経営陣の意図と方向性が組織全体に伝わりやすくするためには、明確なリーダーシップが欠かせません。

経営陣がビジョンを共有し、実行に向けた具体的な指針を示すことで、全従業員が共通の目標に向かって動きやすくなります。

また、経営陣のリーダーシップによって、ステークホルダーからの信頼を獲得することができ、DXに必要なリソースを集めやすくなります。

成果を計測する指標を設定する

ビジョン設定において、成果を計測するための指標設定が重要です。

DXの進捗や成果を可視化することで、目標が達成できているかどうかを確認しやすくなり、必要に応じて軌道修正を行うことができます。

指標がないと、ビジョンの実現度合いが不明確となり、効率的に進めることが難しくなるでしょう。

具体的には、顧客満足度、業務の効率化、コスト削減など、達成すべき目標に応じたKPI（重要業績評価指標）を設定します。

指標を設定すれば、企業は進捗を追跡でき、必要な調整を行いやすくなります。

達成が難しい目標は設定しない

ビジョンを設定する際には、達成可能な目標設定が重要です。

過度に高い目標を設定してしまうと、従業員のモチベーションが低下したり、リソースが分散したりして、結果的にプロジェクトが失敗するリスクが高まります。

ビジョンはチャレンジングでありながら、現実的な目標に基づいて設定しましょう。

例えば、短期間で全ての業務を完全に自動化するという目標を設定することは現実的ではありません。

その代わり、段階的に業務プロセスの自動化を進める計画を立てることで、達成可能な目標に向かって着実に進むことができます。

ビジョンの透明性を確保する

ビジョンを設定したら、その内容は全ての従業員やステークホルダーに透明性を持って共有しましょう。

ビジョンの透明性を確保することで、関係者全員がその方向性に共感し、協力して進めやすくなります。

また、透明性を保つことで、社内外からのフィードバックを受け入れやすくなり、ビジョンの実現に向けた改善につながりやすくなるでしょう。

ビジョンの共有は単にトップダウンで伝えるだけではなく、従業員からの意見を取り入れることもポイントです。

ビジョンに対して疑問を持っている従業員がいれば、その意見をしっかりと聞き、必要な修正を加えることで、全社的な理解と共感を得ることができます。

証券DXのビジョン設定で用いられるフレームワーク

証券DXのビジョン設定に取り組む際は、以下のようなフレームワークを活用してみましょう。

• MVV
• 3C分析
• PEST分析
• SWOT分析

それぞれのフレームワークを解説します。

MVV

MVVは企業の目的や方向性を明確にするフレームワークで、以下のような内容で構成されています。

構成内容	詳細
Mission（使命）	企業が存在する目的や、社会に対して果たすべき責任を定義
Vision（ビジョン）	企業が将来的に目指すべき姿や達成したい目標を描く
Value（価値観）	企業が大切にする価値観の明確化

MVVを活用することで、証券DXの目標を具体化し、全従業員へビジョンの共有が可能です。

3C分析

3C分析は競争環境や顧客のニーズを明確にし、自社が目指すべき方向性を定めるフレームワークで、以下のように構成されています。

構成内容	詳細
Customer（顧客）	投資家が求める情報のリアルタイム提供など、顧客のニーズや期待の理解
Competitor（競合）	競合他社がどのような技術やサービスを提供しているかを分析
Company（自社）	既存の技術基盤や人材のリソースなど、自社の強みや弱みを把握

3C分析を用いることで、証券DXのビジョンを実現するために必要な戦略を明確化できるでしょう。

PEST分析

PEST分析は、外部環境の要因を分析するためのフレームワークです。

証券DXでPEST分析を活用する際は、以下を参考にしましょう。

構成内容	詳細
Politics（政治）	政治的な要因、例えば規制の変化や金融政策の影響を分析
Economics（経済）	経済状況の変化、例えば金利や為替の動向が証券業務に与える影響を分析
Social（社会）	社会的なトレンドや価値観の変化、例えば投資家の倫理的投資への関心の高まりなどを分析
Technology（技術）	テクノロジーの進展、特にフィンテックやAI技術が証券業界に与える影響を分析

証券DXにおいては、これらの要因を考慮してビジョン設定を行うことが重要です。

PEST分析を行うことで、証券DXが外部環境に適応し、競争優位性を保つための方向性を見出せるでしょう。

SWOT分析

SWOT分析は自社の強みと弱み、機会など自社の内部環境と外部環境を総合的に把握するためのフレームワークです。

SWOT分析で証券DXのビジョン設定に取り組む際は、以下を参考にしましょう。

構成内容	詳細
Strengths（強み）	優れた技術力や豊富な顧客データなど自社の強みの特定や強化
Weaknesses（弱み）	既存システムの老朽化や人材不足など自社の弱みの特定と改善策立案
Opportunities（機会）	市場や技術の進展により、DXによる新たなビジネスチャンスが得られる可能性を分析
Threats（脅威）	競合の増加や規制の強化など、外部の脅威を分析

SWOT分析を通じて、証券DXのビジョンに必要な戦略を具体的に策定可能です。

証券DXにおけるビジョン設定の取り組み事例

証券DXにおけるビジョン設定の取り組み事例として、以下が挙げられます。

• 株式会社みずほフィナンシャルグループ
• 野村ホールディングス株式会社

それぞれの取り組みについて解説します。

事例1. 株式会社みずほフィナンシャルグループ | 外部企業と提携して自社のカルチャー変革

株式会社みずほフィナンシャルグループは、外部企業と提携し、デジタル化を進めるとともに、自社のカルチャー変革をビジョンとしている企業です。

テクノロジーを駆使して顧客との接点を増やし、業務の効率化と革新を進めています。

特に、フィンテック企業との提携を通じて、より迅速で効率的な金融サービスを提供することを目指しています。

参考：株式会社みずほフィナンシャルグループ | みずほフィナンシャルグループとGoogleのデジタルトランスフォーメーション分野における戦略的提携について

事例2. 野村ホールディングス株式会社 | 専門人材の育成をビジョンとして設定

野村ホールディングス株式会社はDXの専門人材育成をビジョンとして設定している企業です。

同社はテクノロジーを活用した投資顧問サービスや、AIを活用した取引システムを導入するために、高度な専門知識を持つ人材を育成しています。

また、従業員が新しい技術を習得し、効率的に業務を遂行できる環境整備によって企業全体の成長を目指しています。

参考：野村ホールディングス株式会社 | デジタル人材育成プログラムをグローバルに開始

まとめ｜明確なビジョン設定を行い、証券DXを有利に進めよう

証券DXの成功には、明確なビジョン設定が不可欠です。

ビジョンを設定することで、企業全体が共通の目標に向かって一丸となり、効率的にデジタル化を進められるでしょう。

適切なビジョン設定には、現状分析、ステークホルダーの意見収集、必要なリソースの確保が大切です。

また、進捗状況を定期的に評価し、柔軟に戦略を調整することも求められます。

本記事を参考に明確なビジョン設定によって競争力を高め、証券DXを有利に進めましょう。