証券DXで人材育成が必要な理由は?メリットやステップを解説

証券業界のDX推進には、従業員が新たなスキルを習得し、組織全体でデジタル化に対応する人材育成が求められます。経営層の支援と適切な育成プログラムが不可欠です。この記事では、証券DXにおける人材育成の重要性と、そのステップや課題解決方法について解説します。

証券DXに取り組もうとしても、適切に対応できる従業員がいなければ、メリットを享受できません。

DX推進のための人材育成にあたっては、従業員が新たなスキルを学び、組織全体でデジタル化に対応できるようになることが求められます。

同時に経営層の理解と支援が不可欠であり、適切なプログラムや研修を導入することが必要です。

この記事では証券DXにおける人材育成について、ポイントや課題と解決策などを解説します。

証券DX推進で人材育成が求められる理由

証券業界の業務効率化や新たなサービスの提供には証券DXへの取り組みが欠かせません。

しかし、証券DXを成功に導くためには、単に最先端の技術を導入するだけでは不十分であり、さまざまなツールを扱うための人材の育成が重要です。

証券業界は、デジタル技術に精通し、業務改革を推進できる人材が不足している状況にあります。

例えば、AI(人工知能)・ビッグデータ・クラウドコンピューティングなどを活用するには、専門的な技術を実際の証券業務に落とし込む能力が求められるでしょう。

しかし、デジタルスキルだけでなく証券業務の知識を持つ人材は限られており、業界全体での人材不足が課題となっています。

外部から新たに人材を確保する場合、他社との競争になるため、従業員の人材育成に努める選択も検討しましょう。

証券DXの人材育成で得られるメリット

証券DX推進にあたり人材育成に取り組むことで、次のようなメリットが期待できます。

  • システム一貫性の維持
  • DX推進に適した社内体制の構築
  • 自社に則したDX推進

それぞれのメリットを解説します。

1. システム一貫性の維持

証券DXを進めるうえで、使用するシステムの一貫性が必要です。

多くの証券会社では、複数のシステムが並行して稼働しており、それぞれが異なる技術や仕様に基づいています。

システムの複雑さを解消するためには、社内で育成した人材が中心となり、一貫性を保つ仕組みを作り上げる必要があります。

一貫性を保つことでシステム間の整合性が取れ、業務効率向上が期待できるでしょう。

また、システムの一貫性が保たれることで、後々の運用やメンテナンスが容易になり、長期的なコスト削減にもつながります。

2. DX推進に適した社内体制の構築

証券DXの推進には、社内体制を整備することも欠かせません。

適切な体制を整えなければ、いくら優れた技術を導入しても、最大限に活用できないでしょう。

人材育成を通じて、証券DXに対応できる人材を育てることは、社内体制の強化に直結します。具体的には、証券DX推進のリーダーを養成し、プロジェクトを成功に導くためのマネジメントスキルやシステムの知識を身につけさせれば証券DXの効果を引き出す体制を整えられます。

3. 自社に則したDX推進

証券DXは一律のものではなく、企業の特性やニーズに応じて進めるのがポイントです。

自社に合った進め方を理解し、実行するためには、その企業の業務に精通した人材が必要です。

人材育成を通じて、従業員が自社の強みや課題を深く理解することで、最適なデジタル化が実現します。

また、社内で育成した人材は、企業文化を深く理解しているため、外部からの新しい技術やアイデアを自社の業務にうまく融合させられるでしょう。

自社の企業文化と新たな技術やアイデアを融合させることで、より効率的に証券DXを進められます。

証券DXで人材育成を進めるステップ

証券DXで人材育成を進める際は次のようなステップで進めていきましょう。

  • ステップ1. DX推進の目的の明確化
  • ステップ2. 人材の要件を定義
  • ステップ3. 人材のキャリアパスを設計
  • ステップ4. 育成対象者を選出
  • ステップ5. 育成プランを設計
  • ステップ6. 育成後のプランを明確化

それぞれのステップを解説します。

ステップ1. DX推進の目的の明確化

証券DX推進を担う人材を育成するには、なぜ取り組むのか目的を明確にしましょう。

証券DX推進の目的はさまざまですが、証券業界では顧客体験の向上、業務効率の改善、データ活用の最適化、さらにはリスク管理の強化などが一般的です。

DX推進の目的が明確でないと、人材育成の方向性が不明確になり、育成プランが失敗に終わる可能性があります。

目的を明確化するためには、経営陣や担当者と十分に協議し、企業としてのビジョンを共有することが大切です。

DX推進がもたらす変革について全員が理解し、同じ方向に進むための共通認識を作り上げることが、人材育成の第一歩となります。

ステップ2. 人材の要件を定義

目的を明確にしたらDX推進に必要な人材の要件を定義します。

証券DXを推進するためには、どの分野に強みを持った人材が必要かを洗い出しましょう。

例えば、AI、ビッグデータ解析、クラウド技術などのデジタル技術に関する知識が求められます。

また、単に技術力がある人材だけではなく、組織内で証券DXを推進するためには、柔軟な思考やリーダーシップが求められる場合もあります。

要件定義には、専門的なスキルセットを持つ人材だけでなく、問題解決能力やコミュニケーション力が重要な要素となるでしょう。

ステップ3. 人材のキャリアパスを設計

人材育成においては、育成対象者がどのように成長していくかを明確にするために、キャリアパスを設計することが大切です。

証券DXの推進に必要なスキルや経験を積み重ねていく過程を示し、どの段階でどのような役割を果たすのかを示すことが求められます。

例えば、初めて証券DXに取り組む従業員には基礎的なスキルを教えるところからスタートし、次第に実務的な経験を積ませ、最終的にはプロジェクトマネージャーやリーダーとして活躍できるようなキャリアパスを設計しましょう。

キャリアパスの設計によって、従業員は自分の成長を実感でき、モチベーションが向上します。

ステップ4. 育成対象者を選出

従業員のうち、誰を育成するのか育成対象者を選出しましょう。

企業全体で証券DXを進めるためには、全員が対象となるわけではありません。

特定の部門や業務において、DX推進に特に貢献できる人材を選出することが重要です。

選出の基準は、業務での貢献度や、デジタル技術への理解、証券DX推進に対する意欲などです。

また、育成対象者の選出にあたっては、上司や人事部門との協力が欠かせません。

選出された人材には、リーダーシップや専門的なスキルを高めるためのサポートを行い、育成を加速させることが求められます。

ステップ5. 育成プランを設計

育成プランを設計する際には、座学やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などの方法を組み合わせることが有効です。

座学では、証券DXの基本的な概念や最新のテクノロジー、業界のトレンドについて学び、OJTでは実際の業務を通じて技術や知識を実践的に習得します。

また、外部の専門家を招いての研修やセミナー、さらにオンラインコースなどを利用して、従業員が自主的に学び続けることを支援する仕組みを作り出しましょう。

これにより、従業員は最新技術に関する知識をリアルタイムで得ることができ、業務に即したスキルを身につけることができます。

ステップ6. 育成後のプランを明確化

育成プランを設計した後、育成が終了した後のプランも明確にしておきます。

育成した人材がどのように成長し、どの部署でどのような役割を果たすのかを明らかにしておきましょう。

また、育成後には定期的なフィードバックや評価を行い、成果に基づいてキャリアの成長を支援する体制を整えることも大切です。

育成が終わった後も、従業員が自身のキャリアにおいて進むべき方向を見据え、継続的に成長できるような環境を提供することで、DX推進がより加速します。

証券DXにおける人材育成は、技術的なスキルを習得するだけではなく、組織全体での協力や変革を促進するためのステップです。

これらのステップを順に実施し、証券DXを推進するための強力な人材基盤を作り上げましょう。

証券DXの人材育成を成功させる4つのポイント

証券DXの人材育成を成功させるためには、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。

  • 1. DXに適した人材を見極める
  • 2. 継続的な情報のアップデートを促す
  • 3. ビジネス戦略やマインドセットを学習する
  • 4. 外部サービスやパートナーの活用を検討する

それぞれのポイントを解説します。

1. DXに適した人材を見極める

証券DXを進めるには、まず適切な人材の見極めが必要です。

デジタル技術に精通しているだけではなく、金融市場や証券業務に関する知識を持つことが求められます。

AI、ビッグデータ、クラウドコンピューティングといった技術に精通し、それを証券業務に応用できる人材が必要です。

また、単に技術的なスキルを持つだけではなく、デジタル化を推進し、企業の目標に貢献できる戦略的な視点を持つ人材が求められます。

証券業界の知識を持ち、デジタル技術に対応できる人材を育成することが鍵となるでしょう。

2. 継続的な情報のアップデートを促す

DXは急速に進化し、業界の技術や市場環境も日々変化しています。

そのため、証券業界で働く人材には、常に最新の情報を学び続ける姿勢が求められます。

常に新しい情報を学ぶためには、定期的な研修やセミナーの実施が効果的です。

さらに、社内外の勉強会やネットワーキングイベントに参加する機会を提供すれば、情報のアップデートを支援します。

企業がさまざまな学びの場を提供することで、従業員は最新の技術や業界の動向に敏感となり、証券DXを進める力となるでしょう。

3. ビジネス戦略やマインドセットを学習する

証券DXの推進には、デジタル技術だけでなく、ビジネス戦略やマインドセットも理解することが大切です。

デジタル技術の導入には、経営者や戦略担当者との協力が不可欠であり、全員が同じ方向に向かって進むことが必要です。

従業員には、証券DXがどのように業務の効率化や顧客体験の向上につながるのかを理解させることが求められます。

デジタル化がもたらすビジネス面でのメリットについても学ぶことが、より効果的なDX推進につながるでしょう。

4. 外部サービスやパートナーの活用を検討する

証券DXの進展において、社内の育成だけでなく、外部サービスやパートナーの活用も考えるべきです。

外部の専門家やコンサルタント、技術提供企業との連携によって、社内リソースだけでは対応しきれない分野の補完ができます。

例えば、AIやクラウド技術の専門家と提携すれば、より効果的なシステム導入やサービス開発を行うことが可能です。

外部リソースを活用することで、証券DXを効率的に進めることができます。

証券DXにおける人材育成を阻む課題とその解決策

証券DXにおける人材育成に取り組もうとしても、以下のような課題に阻まれかねません。

  • 経営層の理解不足を解消し全社で取り組む
  • リソース不足を解消し戦略的な人員配置を行う
  • 低下する従業員のモチベーションを高める

ここではそれぞれの課題と解決策を解説します。

経営層の理解不足を解消し全社で取り組む

証券DXの推進には、まず経営層の理解が欠かせません。

経営層が証券DXの意義を深く理解し、全社的な取り組みとして位置づけることが大切です。

経営層がDX推進を支援する姿勢を示し、方向性の明確化によって、従業員全体が目的に向かって一丸となりやすくなります。

まずは経営層がDX推進の必要性を従業員に伝え、共通の目標を設定することがスタートとなります。

リソース不足を解消し戦略的な人員配置を行う

証券DX推進には、高度なスキルを持つ人材が不可欠です。

しかし、こうした人材は限られており、リソース不足が深刻な問題となります。

解決策として、既存の従業員に対して適切なデジタルスキルを身につけさせるための研修や教育プログラムの実施が挙げられます。

また、外部からの優れた人材採用も、組織のスキルアップを図り、DX推進の足りない部分を補う手立てになるでしょう。

社内外のリソースを柔軟に活用し、スキルを持った人材を戦略的に配置すれば、効率的に人材不足を解消できます。

低下する従業員のモチベーションを高める

DX導入時には、業務の変化や新しい技術に対する不安やストレスから、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。

問題に対処するためには、経営層からの強いメッセージが必要です。

従業員に対して、証券DXがどのように組織全体の成長に寄与するかを明確に伝え、個々のキャリアに与える影響を理解してもらいましょう。

加えて、従業員がデジタルスキルを習得させて、新たなチャンスが広がることを示し、前向きに取り組む意欲を高める支援が大切です。

証券DXで人材育成する際に活用できる助成金

証券DXを推進する際、企業は厚生労働省による人材開発支援助成金を活用できます。

これらの助成金は、従業員のスキル向上を目的とした研修や教育プログラムの費用を支援し、企業の人材育成を財政的にサポートします。

厚生労働省による人材開発支援助成金は、企業が従業員の能力向上を目的とした研修や教育にかかる費用を支援する助成金です。

自治体独自の助成金もあります。

例えば、公益財団法人東京しごと財団 企業支援部は技能向上支援助成金として業界特有の技術や職業訓練に関連する費用を支援しています。

参考:厚生労働省 | 人材開発支援助成金

参考:公益財団法人東京しごと財団 企業支援部 | 令和7年度 DXリスキリング助成金

証券DX推進にあたり人材育成に取り組んだ事例

証券DX推進のために人材育成に取り組んだ事例は以下のとおりです。

  • 野村証券グループ株式会社 | 社内プラットフォームの導入
  • 大和証券株式会社 | 認定制度の採用
  • 株式会社みずほフィナンシャルグループ | DX人材育成プログラムの構築

それぞれの事例を参考に、自社の人材育成に活かしましょう。

事例1. 野村証券グループ株式会社 | 社内プラットフォームの導入

野村証券グループ株式会社では、社内におけるDX推進に向けた取り組みとして、AIやデータ解析に特化した社内プラットフォームを導入しました。

プラットフォームは、従業員がAIを用いた実務的なスキルを身につけられるよう設計されており、社内での学習と実践を通じて、スピーディにデジタル技術を習得できる環境を提供しています。

プラットフォーム導入により従業員のスキルアップが促進され、効率的な業務運営が実現されています。

参考:野村証券グループ株式会社 | デジタル・トランスフォーメーション

事例2. 大和証券株式会社 | 認定制度の採用

大和証券株式会社では、DX推進において、従業員に対して認定制度を採用しました。

認定制度では、デジタルスキルを証明する資格を取得することが求められ、各自の学習進度に応じたステップアップが可能となっています。

AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、さまざまなデジタル技術に関する研修プログラムを提供し、従業員は実務に即したスキルを習得しやすくなりました。

認定制度により、従業員のデジタルリテラシーが向上し、業務の効率化に貢献しています。

参考:株式会社アイデミー | 大和証券のDX事例から学ぶ。金融業界のDX推進術と牽引人材の育成法【前編】

事例3. 株式会社みずほフィナンシャルグループ | DX人材育成プログラムの構築

株式会社みずほフィナンシャルグループでは、DX人材の育成に特化したプログラムを構築しました。

AIやデータ分析、クラウド技術など、デジタル技術を活用できる人材を育成するために、さまざまな研修プログラムが提供されています。

また、DX推進に必要な人材を社内で育て上げることで、外部からのスキル補充に頼ることなく、自社内でのスキルアップが図れるようになっています。

独自のプログラム構築により、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデル創造につながり、競争力を高めることができました。

参考:株式会社みずほフィナンシャルグループ | デジタルトランスフォーメーション

まとめ|人材育成で証券DXを進めよう

証券業界におけるDX推進において、人材育成は欠かせません。

デジタル技術を効果的に活用するためには、従業員が新しいスキルを習得し、組織全体がデジタル化に対応できるようになる必要があります。

証券DXを進めるためには、まず経営層の理解と支援が重要です。

そのうえで、適切な人材を育成するためのプログラムや研修の導入が必要です。

この記事を参考に、人材育成に活用できる助成金の申請も視野に入れつつ、証券DXを進めましょう。