証券DXで戦略は必要？メリットや策定のステップを詳しく解説

証券業界におけるデジタルトランスフォーメーション（DX）は、業務効率化や競争力強化に欠かせない要素です。

しかし、DXの成功には短期的な成果だけでなく、長期的な戦略と着実な実行が不可欠です。

長期的な戦略の策定にあたっては、ビジョンの明確化や社内体制の整備などに取り組みましょう。

本記事では、証券DXを推進するための重要なポイントや、戦略策定における具体的なステップ、戦略策定に活用できるフレームワークなどについて解説します。

証券DX戦略の策定が求められる背景

証券DXは自社の競争力の維持に不可欠な要素です。

特に、顧客の期待の高まりや技術革新、規制の変化により、証券業務のデジタル化は急務となっています。

従来の業務形態では、効率的な運営や迅速なサービス提供が難しく、競争力が低下しかねません。

また、証券市場でのトランザクションや顧客管理、リスク管理の分野では、デジタル技術の活用がスピードと精度の向上をもたらし、業務の効率化が進むと期待されています。

さらに、デジタル技術の進化により、精緻なデータ分析やリアルタイムのモニタリングが可能となり、新たな価値創造のチャンスが生まれるでしょう。

これらの背景を踏まえて、証券会社はどのようにDX戦略を策定し、業務に導入していくかを入念に検討することが大切です。

証券DXで戦略を策定する4つのメリット

証券DXで戦略を策定するメリットは、以下のとおりです。

• 既存業務の効率化による生産性向上
• タッチポイント増加などによる顧客満足度向上
• 既存システムに依存するリスクの回避
• テレワークなどの働き方改革

それぞれのメリットを解説します。

1. 既存業務の効率化による生産性向上

証券DX推進のための戦略策定によって、既存業務の効率化や生産性向上が期待できます。

証券DXの戦略策定でAI（人工知能）などのデジタル技術を用いるという選択をすれば、取引の自動化やデータ分析の迅速化など、業務にかかる時間とコストを削減可能です。

その結果、社員はより付加価値の高い業務に集中でき、業務全体の効率が向上します。

また、効率化が進むことで、リソースの無駄を減らし、コスト削減にもつながります。

業務の効率化は顧客対応のスピード向上にも寄与し、顧客満足度の向上までも期待できるでしょう。

2. タッチポイント増加などによる顧客満足度向上

証券DXにあたっての戦略を策定することで、顧客との接点（タッチポイント）が増え、顧客満足度の向上が期待されます。

例えば、オンラインプラットフォームやアプリケーションの構築を戦略として策定すれば、顧客がいつでもどこでもサービスを利用できる環境が整います。

その結果、顧客は自分のペースで取引を行い、必要な情報を任意のタイミングで把握可能です。

また、AIやデータ分析を活用したパーソナライズされたサービスの提供が可能となり、顧客のニーズに応じた最適な提案を行うことができます。

3. 既存システムに依存するリスクの回避

証券会社によっては長年使用してきた既存のシステムに依存しているケースがあります。

長年使用しているシステムの場合、柔軟性に欠け、更新や拡張が難しい場合があるでしょう。

これらに依存し続けると、新しい技術や市場の変化に対応できなくなるリスクが生じます。

証券DXの戦略としてクラウドベースのシステムや最新のソフトウェア導入を検討することで、市場の変化に柔軟に対応できる体制を構築できます。

その結果、市場変化がもたらすリスク回避につなげられるでしょう。

4. テレワークなどの働き方改革

証券DXの戦略策定がもたらすメリットは、業務効率化や顧客満足度向上のためだけではありません。

従業員への柔軟な働き方の提供も、証券DXにおける戦略策定がもたらすメリットのひとつです。

例えば、従業員のワークライフバランス改善を証券DXの戦略として策定した場合、オンライン会議システムやクラウドサービスを導入することで、テレワーク体制を構築可能です。

さらに、リモートワークが可能になれば、企業は多様な人材を採用できるため、企業の競争力向上も期待できるでしょう。

証券DXによる柔軟な働き方によって従業員のワークライフバランスが改善すれば、モチベーションの維持にもつながります。

証券DX戦略を構築する5ステップ

証券DXの戦略を構築する際は次の5つのステップを踏んでいきましょう。

• ステップ1. ビジョンの明確化
• ステップ2. 取り組む領域の策定
• ステップ3. 社内体制の整備
• ステップ4. 行動計画の策定
• ステップ5. 評価と改善

証券DXの戦略をすぐに立てようとしても、十分な内容にならない可能性があります。

各ステップに沿って戦略を立てていきましょう。

それぞれのステップについて解説します。

ステップ1. ビジョンの明確化

証券DXの戦略を構築するにあたり、最初に行うべきことは、ビジョンの明確化です。

ビジョンとは、企業がDXを導入する目的やゴールを明確に定義することです。

この段階では、業務効率の改善、顧客サービスの向上、コスト削減など、具体的な目標を設定します。

ビジョンが不明確なままDXを進めると、途中で方向性を見失うリスクが高くなりかねません。

ビジョンを明確にするためには、企業の現状を正確に把握し、業界の動向や競争環境を考慮する必要があります。

そのうえで、DXによってどのような成果を上げたいのかを定め、全社員が共有できるようにしましょう。

ステップ2. 取り組む領域の策定

ビジョンが定まった後に、DXを実施する具体的な領域を策定しましょう。

証券業界におけるDXは、さまざまな業務領域にまたがります。

例えば、取引の自動化、顧客管理システムの改善、データ分析基盤の強化などが考えられます。

これらの領域の中から、企業のDX推進のビジョンに近い領域を選定し、優先順位をつけましょう。

また、選定した領域において、どの技術やツールを導入するのかを検討します。

例えば、AIを活用したリスク管理の強化や、ブロックチェーン技術を利用したセキュリティの向上など、技術的な選択肢も検討しておきましょう。

ステップ3. 社内体制の整備

証券DX推進のためには、適切な社内体制の整備が欠かせません。

そのため、DX推進のための組織を構築し、役割分担を明確にしましょう。

例えば、DX推進部門を設置し、責任者やチームメンバーを決定します。

また、DXに関する知識や技術を持った人材の育成や採用も必要です。

さらに、社内のITインフラやシステム環境の整備も大切なポイントです。

既存のシステムがDXに対応できるかどうかを確認し、不足している部分があれば、必要な設備やツールを導入します。

社員全員がDXに理解を示し、積極的に参加できる環境を整えることが、DX戦略の遂行を助けます。

ステップ4. 行動計画の策定

具体的な行動計画も欠かせないステップです。

DX戦略を実行に移すためには、どのような順序で取り組むべきかを明確にし、実行可能なスケジュールを作成します。

行動計画には、プロジェクトの各段階における目標や期限、担当者を設定することが含まれます。

また、計画段階でリスクや障害となりうる要素を洗い出し、それに対する対策を講じることも重要です。

特に、予算や時間の制約がある中でどれだけ効果的に進めるかを考えることが、計画策定の際のポイントです。

この段階で計画をしっかりと作り込むことで、DX戦略をスムーズに実行できます。

ステップ5. 評価と改善

DX戦略の実行後、成果を評価して改善に取り組みましょう。

DXは一度の導入で完了するものではなく、継続的な改善が必要です。

具体的には、KPI（重要業績評価指標）を設定し、進捗を定期的にチェックします。

これにより、戦略が計画通りに進んでいるかの評価が可能です。

また、実行中に見つかった問題点や改善点を反映させることで、より効果的な戦略に進化させることができます。

評価と改善のプロセスを繰り返すことにより、企業は常に変化する市場や技術に適応し、競争力を維持できるでしょう。

証券DXの戦略策定の立案に役立つフレームワーク

証券DXの戦略策定にあたっては以下のようなフレームワーク活用が有効です。

• DXフレームワーク
• SWOT分析
• ビジネスモデルキャンバス
• デザイン思考

フレームワークの活用によって戦略策定が体系的に進み、目標達成のための具体的なアプローチが明確になります。

その結果、リソースや優先順位の最適化が可能となり、

1. DXフレームワーク

証券DXを進めるためには、まず企業の現状と課題を把握し、どの領域でDXを推進するかを明確にする必要があります。

DXフレームワークは、DXを進めるための基本的な方向性を示しており、企業が戦略を策定するうえでの指針として有効です。

具体的には、デジタル技術を活用した業務効率化や、新しいビジネスモデルの構築を目指します。

DXフレームワークを活用することで、証券業界におけるDXの方向性が具体的に見えてくるでしょう。

2. SWOT分析

SWOT分析は、企業が自社の強みや弱みを認識し、外部環境の機会や脅威を把握するための基本的なフレームワークです。

証券DX戦略を策定する際にも、SWOT分析は非常に有効です。

具体的には以下のような構成要素を分析しましょう。

構成要素	具体例
自社の強み （Strengths）	豊富なデータを保有していることや、顧客基盤の強さなど
自社の弱み （Weaknesses）	既存システムの老朽化やDX推進のための社内リソース不足
外部環境における機会 （Opportunities）	客のデジタル化への需要増加や、新しい規制の開始
脅威 （Threats）	競合企業のDX推進や、サイバーセキュリティリスク

SWOT分析を行うことで、証券業界におけるDX推進に対するリスクやチャンスを明確にし、戦略策定に役立てることができます。

3. ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、企業のビジネスモデルを視覚的に表現するフレームワークです。

証券業界におけるDX戦略策定にも役立ちます。

ビジネスモデルキャンバスは、顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、リソース、活動、パートナー、コスト構造といった9つの要素から成り立っています。

DX戦略を策定する際には、これらの要素を改めて見直し、デジタル技術をどのように活用するかを検討しましょう。

例えば、顧客との関係強化にはAIを活用したパーソナライズされた提案、収益の流れにはデジタル証券の提供といったように、DXがどのようにビジネスモデルに組み込まれるかを整理できます。

ビジネスモデルキャンバスを用いることで、DXの方向性が一目で理解でき、スムーズな戦略策定が可能です。

4. デザイン思考

デザイン思考は、顧客視点を重視し、問題解決を行うためのフレームワークです。

デザイン思考も証券業界におけるDX戦略策定に効果が期待できます。

デザイン思考で戦略策定に取り組むのであれば、以下のような5つのステップを踏みましょう。

• 共感
• 問題定義
• アイデア出し
• プロトタイプ作成
• テスト

まず、顧客やユーザーのニーズを深く理解し、そのうえで具体的な問題を定義します。

次に、さまざまなアイデアを出し、最適な解決策をプロトタイプとして作成しましょう。

最後に、プロトタイプを実際にテストし、顧客の反応をもとに改善を行います。

デザイン思考のプロセスを繰り返すことで、顧客満足度の高いDX戦略に近づけるでしょう。

証券DXの戦略策定に取り組んだ事例

証券DXの戦略策定に取り組んだ事例として以下が挙げられます。

• 株式会社岡三証券グループ
• 株式会社大和証券グループ

各社の取り組みを参考に証券DXの戦略策定に取り組みましょう。

それぞれの事例について詳しく解説します。

事例1. 株式会社岡三証券グループ | DXによるグループ全体の業務の見直し

株式会社岡三証券グループは、DXの戦略としてグループ全体の業務の効率化を目指しました。

従来のアナログな業務プロセスをデジタル化し、取引の迅速化やリスク管理の精度向上を実現しています。

例えば、取引データの分析にAIを活用し、市場の動向をリアルタイムで把握することで、投資家への迅速な情報提供が可能となりました。

また、内部業務においては、クラウドベースのツールを導入し、社員がどこからでも業務を行える体制を整えました。

参考：株式会社岡三証券グループ | 統合レポート 2022

事例2. 株式会社大和証券グループ | DX戦略実現に向けた従業員教育の実施

株式会社大和証券グループは、DX戦略の実現に向けて、従業員の教育を重点的に行いました。

DX推進には技術的な知識だけでなく、企業全体の意識改革も必要です。

そのため、株式会社大和証券グループでは、全社員を対象にしたDXに関する研修プログラムを導入し、デジタル技術の基礎から応用までを学ぶ機会を提供しました。

特に、データ解析やAIを活用した投資分析手法を従業員に習得させ、個々の業務効率を向上させることに成功しています。

参考：株式会社アイデミー | 大和証券のDX事例から学ぶ。金融業界のDX推進術と牽引人材の育成法【前編】

証券DX戦略を策定する際の注意点

証券DXの戦略を策定する際は以下の点に注意しましょう。

• 継続して取り組む
• 失敗した事例を活かす
• ビジネスモデルの根本的な見直しを図る
• DX推進のための人材を確保する

証券DXの戦略は一度策定して満足しては、市場の変化に対応しきれない恐れがあります。

そのため、たとえ当初に立てた戦略であっても、柔軟に改善し継続していくことを心がけておきましょう。

証券DXの戦略策定にあたっての注意点を解説します。

1. 継続して取り組む

証券DXは一度のプロジェクトで完了するものではなく、継続的な取り組みが求められます。

証券業界では、技術の進化や市場の変化が非常に速いため、DX戦略は常に見直し、改善し続けていきましょう。

最初の段階では業務効率化や顧客サービスの向上などを目指しますが、進行中に新たな技術や手法を導入し、常に最適化を図ることが重要です。

また、DX推進は企業文化に影響を与えるため、単なる技術導入にとどまらず、全社的な意識改革を伴います。

このプロセスを繰り返し、改善していくことがDX成功につながります。

2. 失敗した事例を活かす

戦略に基づいたDX推進であっても失敗は避けられない場合はありますが、重要なのはその失敗から学ぶことです。

過去の失敗事例を振り返り、どこが問題であったのか、なぜうまくいかなかったのかを分析することが、次の成功へのステップとなります。

例えば証券業界のDXでは、システムの導入や新しい技術の採用に失敗するケースがあるものの、教訓を活かすことで、同じミスを繰り返さないようになるでしょう。

導入した新システムが予想以上に使いにくかったり、データが正確に収集できなかったりする場合、その原因を突き詰めて改善策を考えることが必要です。

失敗を恐れず、改善策を素早く実行する姿勢が、DX戦略を成功に導きます。

3. ビジネスモデルの根本的な見直しを図る

証券業界におけるDXでは、既存の業務プロセスやシステムの改善だけでなく、ビジネスモデルそのものを根本的に見直すことが重要です。

デジタル技術の活用によって、顧客との接点や取引方法が大きく変化します。そのため、ビジネスモデルの再構築を考える必要があります。

例えば、従来の取引手法のオンライン化やロボアドバイザーの導入といった取り組みによって、新しい市場の開拓が可能です。

こうした変革を実現するためには、単に技術の導入にとどまらず、企業全体のビジョンや価値提供方法を根本から見直すことが求められます。

4. DX推進のための人材を確保する

DX推進にあたり立てた戦略を成功させるためには、適切な人材の確保が欠かせません。

デジタル技術を活用できる専門知識を持つ人材を採用するだけでなく、既存の従業員にもデジタルスキルを身につけさせることが重要です。

特に、データ分析やAI技術、クラウドシステムに精通した人材は、証券業界のDXを推進するために重要な存在です。

人材の採用にあたっては、デジタル技術だけでなく証券業界特有の業務への理解を持っていることも欠かせません。

また、DX推進には全社的な協力も欠かせません。

各部署が一丸となって取り組むために、リーダーシップを発揮できる人材の育成や、コミュニケーションの円滑化を図ることも求められます。

組織全体でDXに対する理解を深め、実行に移すための体制を整えることが、証券DXの成果を引き出すポイントです。

まとめ｜中長期的な視点で戦略を立て、証券DXを推進させよう

証券業界におけるDXの推進は、競争力の強化と効率化に欠かせません。

しかし、DXの成功には短期的な成果を追求するだけではなく、戦略に基づいた長期的な視点を持つことも大切です。

業務の効率化や新しいビジネスモデルの構築には、段階的なアプローチを心がけましょう。

まずは本記事を参考にビジョンを明確にし、その後に適切な領域から取り組みを始め、組織文化を変革しながら戦略に基づき証券DXを進めていきましょう。