店舗DXの際は規制対応が大切!遵守すべき法律や対策法を解説

近年、業務効率化や顧客満足度の向上を目的として、店舗DXを推進する企業が増えつつあります。POSシステムや顧客データの活用、業務の自動化など、デジタル技術の活用が日常業務に広がる一方で、見過ごされがちなのが法規制への対応です。デジタル化によって処理される情報の量や種類が増えるほど、法令違反のリスクも高まります。

特に、個人情報保護法や電子帳簿保存法などの規制は、デジタルツールの利用形態に直接関わるため、理解と対応が不可欠です。

さらに、従業員の働き方が変化することで労働関連法への意識も求められ、販促活動においては景品表示法との整合性も問われるようになります。DXの推進は、単なるシステムの刷新にとどまりません。企業活動全体が法的枠組みに適合しているかどうかを見直す好機ともいえるでしょう。

本記事では、店舗DXの推進にあたって注意が必要な法規制について、具体的に解説していきます。

店舗DX推進時に直面する主な規制対応

店舗DXの推進は、業務の効率化や顧客体験の向上を目指す取り組みとして注目されていますが、その一方で法規制への対応が避けて通れない課題となっています。デジタル技術の活用により、これまで紙ベースで管理されていた情報がデータ化され、さまざまなリスクが顕在化しやすくなってきました。

特に、個人情報保護法や電子帳簿保存法といった情報管理に関する法制度は、デジタルツールの利用方法によっては違反のリスクを伴います。店舗DXの推進を成功させるためには、こうした複数の法規制に対する理解と対策が重要になります。

個人情報保護法

店舗DXの推進に伴い、顧客情報の収集・活用は避けて通れない要素となります。購買履歴や来店頻度などのデータをマーケティングやサービス改善に活かす場面が増えていますが、ここで直面するのが個人情報保護法です。

この法律は、個人を特定できる情報を取り扱う際に必要な管理体制や利用目的の明示、第三者提供の制限などを定めています。具体的には、顧客の同意を得ずに情報を活用したり、適切な安全管理措置が取られていなかったりすると、法令違反と判断されるかもしれません。

特に注意が必要なのは、データをクラウドに保存する場合や、複数店舗で顧客情報を共有するようなケースです。情報の取り扱いに対して十分な内部ルールを定め、定期的に運用状況を見直す仕組みが必要です。

出典参照:個人情報の保護に関する法律|e-Gov 法令検索

電子帳簿保存法

電子帳簿保存法は、帳簿類や取引データを電子的に保存することを認めつつ、その保存方法に一定の要件を課す法律です。店舗DXの推進によって、レジデータや会計記録を電子化する動きが進んでいる一方で、この法律への理解が不十分なままシステムを導入すると、思わぬトラブルに発展しかねません。

具体的には、タイムスタンプの付与や検索機能の確保、改ざん防止のための保存形式などが求められています。これらの条件を満たさないまま運用を続けると、税務調査時に保存不備を指摘される恐れもあります。

デジタル化が進む中で、法令を正しく理解し、制度に応じた管理体制を構築していくことが必要です。店舗運営における経理処理の効率化を図る上でも、この法律への対応は避けて通れません。

出典参照:電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁

労働関連法

DXによって業務の自動化や柔軟な働き方が推進される一方で、労働時間の管理や就業規則の見直しといった点で労働関連法の遵守が求められます。例えば、勤務シフトの自動作成ツールを活用する場合、過重労働や残業の過少申告が発生しやすくなるため、適正な労働時間管理が必要です。

特に注意すべきは、労働基準法や労働安全衛生法の定める義務を軽視した運用になっていないかという点です。店舗内での業務がデジタル機器を中心に変化することで、従業員の業務内容や責任範囲が変わることも考えられるため、それに応じた契約内容や労務管理体制の見直しが必要になります。

DXを進める際には、技術だけでなく人材管理の視点からも法律との整合性を確認する姿勢が大切です。

出典参照:労働基準に関する法制度|厚生労働省

景品表示法

店舗DXによって販促活動がオンライン上でも積極的に行われるようになったことで、景品表示法への対応が重要性を増しています。特に、ECサイトやSNSでのキャンペーン、ポイント制度、抽選企画などは、法的なガイドラインに則って運用されているかを確認する必要があります。

この法律は、過大な景品提供や誤解を招く表現による表示を規制し、消費者が公正な判断を行えるようにすることが目的です。例えば、抽選で当たる商品の総額や当選確率を過剰にアピールしたり、比較表示で根拠のないデータを使ったりした場合などは問題となるかもしれません。

DXによってキャンペーン施策を頻繁に展開するようになると、うっかりした表現が法令違反に結びつくこともあるため、企画段階でのチェック体制や専門家の関与が重要になります。

出典参照:景品表示法|消費者庁

店舗DX推進時に規制対応すべき5つの理由

店舗DXを推進するにあたっては、業務効率や顧客利便性の向上に目を向けるだけでなく、法規制への対応も欠かせない要素といえます。デジタル技術の活用によって、これまで人手で対応していた処理がシステム上で完結するようになり、情報の管理範囲や責任の所在が変化していくでしょう。

ここでは、具体的な5つの視点から、なぜ店舗DXにおいて規制対応が重要なのかを詳しく説明していきます。

顧客の個人情報を安全に守る

店舗DXを推進する過程では、顧客情報のデジタル管理が一般的になります。例えば、POSシステムやオンライン会員登録を通じて、氏名や連絡先、購入履歴など多くの個人データを取り扱うようになります。

これらの情報が第三者に漏えいした場合、信用失墜に加えて訴訟リスクも生じるかもしれません。個人情報保護法に基づいて、収集の目的を明確にし、必要最小限の範囲で取得しなければなりません。社内での教育やルール整備も必要です。

誰がどの情報にアクセスできるのか、いつまで保存するのかといった取り扱い方針をあらかじめ決めておくことで、万が一のトラブル時にも速やかに対応しやすくなります。顧客との信頼関係を築くためにも、個人情報保護はDX戦略における基本姿勢として意識すべきポイントといえるでしょう。

法令違反による罰則・行政指導を防ぐ

デジタル技術の活用が進むと、それに関連する法令の遵守状況がより厳しく問われるようになります。例えば、電子帳簿保存法に適合しない方法で取引記録を管理していると、税務調査の際に認められず、追徴課税のリスクが高まります。

こうした行政指導や罰則は、事業活動に直接影響を与えるかもしれません。しかも、違反が表面化した際には、法的な責任だけでなく企業イメージの低下も避けられないでしょう。事前に法令の要点を把握し、業務設計の中に規制への対応策を織り込んでおくことが大切です。

自社で判断が難しい場合は、専門家に相談することでリスクを軽減しやすくなります。規制対応を軽視すると、せっかくのDX施策も停止や見直しを余儀なくされる恐れがあるため、慎重な対応が求められます。

安心・信頼されるブランドを維持する

店舗において顧客がサービスを選ぶ際、信頼性や安心感は重要な判断材料になります。とくにDXを通じて新しいシステムやアプリを導入する場合、セキュリティや透明性に対する不安が生まれやすくなります。

例えば、会員情報がどのように管理されているのか、退会時にデータは適切に削除されるのかといった点が気になる顧客も少なくありません。こうした不安に対して明確な対策を示すことで、店舗としての信頼性を高めることができます。

加えて、景品表示法や特定商取引法などの消費者保護に関わるルールを順守することも、ブランド維持の観点では大切です。誇張表現や誤認を招く表示がSNSなどで拡散されると、企業の評価が一気に下がりかねません。

取引先との適切な契約・責任分担をする

DXを進める中では、自社だけで完結せず、外部ベンダーやクラウドサービス提供事業者との連携が不可欠になる場面が増えてきます。その際には、業務の委託内容や責任範囲を明確にした契約書の整備が必要です。

特に、個人情報を第三者と共有する場面では、共同利用か委託かによって求められる法的対応が異なります。契約書の中に、セキュリティ対策やトラブル発生時の対応フローを記載しておくことで、リスクを事前に分散させる効果も期待できます。

法令の視点からも、適切な責任分担がなされていない場合には、情報漏えいなどの事故発生時に全責任を負う可能性も否定できません。自社の立場を明確にしながら、対等かつ透明性のある取引関係を構築することが、安全なDX推進の土台となります。

持続的にDXを拡大・改善していく土台になる

店舗DXは一度導入して終わるものではなく、業務や顧客ニーズの変化にあわせて継続的に改善していく取り組みです。そのためには、法令に適合した仕組みを最初から整えておくことが、長期的な成長を支える土台となります。

例えば、電子帳簿保存法や個人情報保護法に準拠していれば、新しいシステムやツールを追加する際にもスムーズに対応できます。逆に、規制への配慮が不十分なまま進めたDX施策は、後になって抜本的な見直しを迫られるリスクがあり、運用負担やコストがかさみやすくなるでしょう。

現場における運用上の小さな疑問にも対応できるようなガイドラインや相談体制を整えることで、規制と技術革新を両立させる持続可能な体制が構築されていきます。

店舗DXにおいて規制対応を行うときに生じる5つの課題

店舗DXを推進するときに規制対応を組み込む過程では、さまざまな課題が発生しやすくなります。デジタル化の進展に伴い、法令やガイドラインの内容は複雑化しており、全社的な理解を得ることが難しくなる場合も少なくありません。

ここでは、規制対応を行う際に生じやすい課題を5つに分けて解説します。これらの課題を把握し、事前に対策を検討することが、円滑な店舗DX推進のために重要なポイントとなるでしょう。

法規制の理解不足

店舗DXの現場では、規制対応に必要な法令の理解不足がしばしば課題となります。特に個人情報保護法や電子帳簿保存法など、専門性が高い法律の詳細を全スタッフが把握しているとは限りません。法律の条文を正確に理解し、自社の業務にどう影響を与えるかを解釈するには専門的な知識が求められます。理解不足が原因で、誤った対応や不十分な対策が行われるケースも見受けられます。

こうした状況は、最終的には情報漏えいや法令違反のリスクを高め、組織全体の信用問題に発展しかねません。対応を進める際には、法務部門や外部の専門家のサポートを活用し、社内教育を体系的に実施することが効果的です。

現場と本部の認識ギャップ

店舗DXの規制対応においては、本部と店舗現場の間で規制に対する認識ギャップが生じやすい点も見逃せません。本部では法令や社内規定を踏まえた方針が策定されていても、現場ではその重要性が十分に理解されていなかったり、業務に合わない指示として受け取られたりする場合もあります。

例えば、個人情報の取り扱いに関する細かいルールが複雑すぎて、日々の業務に取り入れにくいと感じられることもあるでしょう。この認識のずれは、現場での規制違反やミスの温床になることがあり、店舗ごとの対応のばらつきを招くリスクがあります。

対策としては、現場担当者の声を吸い上げつつ、本部からの指示が実務に応じた内容となるよう調整するプロセスが求められます。

ベンダー任せによる責任の曖昧化

店舗DXを進める際には、多くの場合、外部ベンダーにシステム開発や運用を委託することになります。しかし、このときに規制対応をベンダー任せにすると、責任の所在が曖昧になるリスクが高まるでしょう。ベンダーは技術的な実装を担当しますが、法令遵守の責任はあくまで店舗や運営側にあります。

そのため、契約時に規制対応の範囲や責任分担を明確に取り決めておく必要があります。契約書にセキュリティ要件やコンプライアンス対応を盛り込み、運用中も定期的に監査やレビューを実施しましょう。

もし契約の内容が曖昧なままだと、問題発生時に迅速な対応が難しくなり、結果的に店舗側のリスクが増大します。ベンダーと連携して適切な管理体制を構築し、双方が規制遵守の重要性を共有することが、円滑なDX推進に繋がります。

同意取得や通知の設計不備

店舗DXにおける規制対応では、顧客や従業員からの同意取得や各種通知の仕組み設計が不十分になるケースも課題として挙げられます。個人情報保護法の規定では、収集・利用の目的を明確に示し、同意を得る必要があり、これが欠けると法令違反の可能性が高まります。

例えば、オンラインでの会員登録時にプライバシーポリシーの提示がなかったり、改定時の通知が適切に行われなかったりすると、利用者の信頼を損ないかねません。さらに、データの取り扱い範囲や保存期間についての説明も、わかりやすく設計する必要があります。

これらを怠ると、クレームや行政からの指導につながりやすいため、慎重な対応が求められます。設計時には、ユーザー目線での利便性と法令遵守を両立させる工夫が重要で、必要に応じて専門家の意見も参考にするとよいでしょう。

継続的な更新・体制整備の欠如

規制対応は一度整えたら終わりではなく、継続的に見直しや更新を行うことが不可欠です。しかし、店舗DXに関わる組織で更新や体制整備が後回しにされることが多く、これが課題となっています。法令やガイドラインは時折改正されるため、対応策も変えていく必要があります。

また、社内の人事異動や業務変化によって担当者が変わる場合も、引き継ぎが十分でないと規制対応が形骸化しかねません。こうした動きを継続的に進めるためには、法務部門や情報システム部門が中心となって、定期的な監査や教育体制を設けることが望ましいです。持続的にコンプライアンスを保ちながらDXを推進するために、体制の強化と情報共有が欠かせない要素となります。

店舗DXにおける規制対応に活用できるツール例

店舗DXを推進するにあたり、規制対応を効率的かつ確実に行うためには、適切なツールの活用が重要になります。特に法令順守や労務管理、会計処理、取引関連の規制対応を支援するクラウドサービスは、店舗運営の負担軽減に寄与することが期待されます。こうしたツールは継続的なコンプライアンス維持をサポートするため、活用の検討は店舗DXの成功に向けた重要な一歩となるでしょう。

ここでは、店舗DXにおいて特に活用されやすい代表的なツールをいくつか紹介します。

SmartHR|労務管理・法令順守をクラウドで一元化

SmartHRは、労務管理に関わる各種手続きをクラウド上で一元管理できるツールです。労働関連法の遵守が求められる店舗DXの現場では、従業員の雇用契約や労働時間管理、社会保険手続きなどが複雑化しやすく、手作業での対応がミスや遅延を招くことも考えられます。

SmartHRはこうした作業を自動化し、最新の法改正に対応したアップデートも随時行われるため、法令違反リスクの低減に役立ちます。また、従業員が自ら情報を入力できるセルフサービス機能を備え、管理側の負担を軽減しつつ、データの正確性を高められるでしょう。

さらに、クラウド型のため、いつでもどこでもアクセスが可能で、多店舗展開する企業にも適している点が特徴です。これにより、規制対応を労務管理面からしっかり支える役割を果たしてくれるでしょう。

出典参照:SmartHR|株式会社SmartHR

Commerce Cloud|商品取引に関する法律への対応を標準搭載

Commerce Cloudは、ECサイトや実店舗向けの販売管理システムとして知られていますが、商品取引に関連する法律に対応する機能を標準で搭載している点が注目されています。景品表示法や特定商取引法に基づく表示義務や返品対応、取引履歴の保存などがシステム上で自動的に管理されるため、複雑な規制対応を効率化できます。

店舗DXでは、オンラインとオフラインの販売チャネルを融合させたオムニチャネル化が進みますが、各種規制の遵守は事業運営の根幹です。Commerce Cloudを活用すれば、規制内容を細かくチェックしつつ、法令違反リスクを減らすことが期待できます。

また、多様な決済手段との連携や、最新の法令に合わせたシステム更新も随時実施されるため、安心して運用できる環境が整います。これにより、規制対応にかかる負担を軽減しながら、店舗DXの拡大を目指せるでしょう。

出典参照:Commerce Cloud|株式会社セールスフォース・ジャパン

freee会計|インボイス制度・電子帳簿保存法に対応したクラウド会計ツール

freee会計は、クラウド会計ソフトの代表的な存在であり、特にインボイス制度や電子帳簿保存法への対応を積極的に進めている点が特徴です。店舗DXにおいては、税務処理や経理作業もデジタル化が進み、これらの法令遵守が求められます。

freee会計は、請求書や領収書の電子化・管理を効率化し、必要な書類を自動的に整理・保存する機能が備わっています。これにより、従来の紙ベース管理の手間やミスが減り、税務調査時の証拠資料提出もスムーズに行えるでしょう。

また、インボイス制度に対応した請求書発行機能もあり、適正な取引記録の管理に役立ちます。さらに、クラウド型の利点としてリアルタイムで複数ユーザーが情報を共有でき、経営判断の迅速化に寄与する点も店舗運営において評価されています。

出典参照:freee会計|フリー株式会社

まとめ|確実な規制対応で安全に店舗DXを推進しよう

店舗DXを推進する際には、規制対応を怠らず確実に進めることが欠かせません。適切な法律遵守があってこそ、顧客や取引先からの信頼を維持し、持続的な成長が見込まれます。規制は複雑で変化も多いため、専門ツールを活用しながら社内体制を整備し、全社的に対応を共有していく姿勢が重要となります。

本記事の内容を参考に、各種規制に対する理解を深めながら、安全かつ効率的な店舗DXの推進に取り組んでみてください。